事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「起き姫 口入れ屋のおんな」杉本章子著 文藝春秋 

2017-11-29 | 本と雑誌


信太郎人情始末帖シリーズ」には泣かされた。許婚がありながら、子持ちの年上の女と恋仲になり、勘当された大店の息子。

この信太郎が捕物帖のように謎を解いていくミステリ風味の時代小説、のはずだった。ところが途中から家族小説の色彩が濃くなりはじめ、女房や連れ子との情愛に何度も何度も泣かされたのでした。

作者の杉本章子が乳がんで亡くなったのは2015年。事実上の絶筆となったのがこの「起き姫」だ。彼女は後半をホスピスのなかで執筆したという。

夫の裏切りで婚家を出たおこう。実家にも居場所はなく、お嬢様育ちなのに口入れ屋稼業を継ぐことになる……

江戸という時代が庶民にとって決してパラダイスではなく、簡単に奈落に落ちる可能性を常に秘めていたのは、ほぼ同じ時期に亡くなった宇江佐真理の作品でも理解できる。でも、だからこそ互いを思いやる気持ちがなければ生きていけないのも確かだ。

おこうは客を、時に冷たくあしらい、時に自分を犠牲にしても守る。そしてそんなおこう自身にも人生の転機が訪れるという、おそろしくポジティブなハッピーエンドを、杉本が死の床で描いたのだということに、少し勇気づけられる。

享年62才。これからも円熟の技を見せてくれるはずだったのに。

コメント   この記事についてブログを書く
« 「どこかでベートーヴェン」... | トップ | トラックバック。 »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

本と雑誌」カテゴリの最新記事