あまりに佐藤純彌監督の評伝が面白いので、「敦煌」につづいて「おろしや国酔夢譚」も見てしまいました。こちらは初見。
原作井上靖、監督佐藤純彌、製作総指揮が徳間康快という布陣は「敦煌」といっしょ。その「敦煌」が商売として成功だったかは微妙なところ。徳間は、もう少し低予算で作品を仕上げればどうかと提案。
でも、前回は砂と暑さに苦しめられたのに、今度は極寒のシベリアが舞台なのである。佐藤監督も続投の西田敏行もよくこの話を受けたよな。
主人公は伊勢の船頭、大黒屋光太夫(緒形拳)。彼の船は17名を乗せて江戸へ向かったが嵐のために漂流。たどり着いたのはアムチトカ島。それどこなんだ……アリューシャン列島で、現在のアラスカ!
当時はロシア領で、先住民族と、アザラシなどを求めてロシアの商人が住んでいた。まず、光太夫たちに立ちはだかったのは言葉の壁。そして、肉食の習慣がなかったこと。
彼らは光太夫のリーダーシップのもとに、流木などを使って船をつくり、イルクーツクに渡る。そして、はるばるサンクトペテルブルクに赴き、女帝エカテリーナの許可をえて帰国する。しかし、帰国できたのは3名だけだった……。
世界地図で確認してもらえばわかりやすい。ものすごい距離を彼らは漂流し、踏破している。大冒険である。しかも寒い。実際に、撮影中に西田敏行は死を覚悟したという。
この物語がしかし興味深いのは、大黒屋を演じた緒形拳の静かさだ。冷静に状況を見極め、静かに対処する。真の意味でのリーダーとは、彼のような人物なのだろう。熱さを前面に押し出すだけでは、人はついてこないのだろうなと納得。
ただし、緒形拳には最後に大芝居が用意してある。エカテリーナの前で浄瑠璃の「俊寛」をうなるのだ。流刑の俊寛を使うのはうまい。
しかし緒形は最初、それすらも拒否したのだという。彼なりの演技プランと、この大芝居は相容れなかったのか。しかしこの激発は、静かな男だったからこそ胸をうつ。名演でした。