PART1はこちら。
この小説は恐怖譚、怪異譚でもあり、どこかから聞こえる鈴の音からすべてがスタートするあたり、こんなに素直な日本的怪談でいいのか、とは思う。後半にはなんと三途の川(的なもの。産道をイメージしているのかもしれない)まで登場する。
②セックス描写
まったく能動的ではない主人公だけれど、妻の不貞(のちによりを戻すことが予言されている)が前提にあるからか、セックスだけはさまざまな女性とこなしていきます(笑)。
長大なポルノではないか、といういつもの批判も聞こえてきそうだ。でも、ある女性が自分の胸の大きさ(小ささ)にこだわるように(1Q84の青豆が左右の胸の違いにこだわったように)、パーソナリティをあらわすのにセックスは確かに有効だし、その効果を誰よりも知悉している作家が村上春樹なのだと思う。
同様のことがクルマの選択にも言えて、登場人物たちは、プジョー、プリウス、ジャガー、ボルボ(先週発表された、全車ハイブリッド化、EV化には驚いた)、そして……とキャラにぴったりのクルマに乗っている。
③ユーモア
今回、ひときわ“読ませる”のは、いつもより強調されたユーモアのおかげだと思う。邪悪さのかけらもないリトルピープルとも言える騎士団長と主人公が、クリトリスについて話し合うシーンにはまじで芋焼酎を噴き出した。
もちろんこのユーモアは、陰惨な事件をむしろ際立たせるためでもあるだろう。しかし村上春樹の本質に、乾いた笑いやユーモアがあることはこれまでの著作(特に、川本三郎との共著「映画をめぐる冒険」は必読ですよ。誰も持っていないと内心でにやついていたら、うちの校長も同じことを思ってにんまりしていました。ち。)でも証明されている。今回は、その決定版かも。
PART3につづく。