北関東新聞の記者・悠木は、同僚の安西と谷川岳衝立岩に登る予定だったが、御巣鷹山の日航機墜落事故発生で約束を果たせなくなる。
一方、一人で山に向かったはずの安西は、なぜか歓楽街でクモ膜下出血で倒れ、病院でも意識は戻らぬままであった。地方新聞を直撃した未曾有の大事故の中、全権デスクとなった悠木は上司と後輩記者の間で翻弄されながら、安西が何をしていたのかを知る――。
実際に事故を取材した記者時代の体験を生かし、濃密な数日間を描き切った、著者の新境地とも言うべき力作。
地方新聞、という存在がよくわからない。特に若い頃がそうだった。山形県では三大紙を圧倒して山形新聞の購読者が多く、母親の葬儀の際に載せ(させられ)た死亡告知の関係で聞いた話では、庄内地方では【山形新聞7:3その他】なのではないかということだった。しかしそれだけのシェアの差があるにしては、あまりにもしょぼい。共同通信におんぶにだっこな紙面で、記者のプライドはどこにあるんだろう。
ところが、ひとたび選挙だの汚職だのになるとがぜん他紙をひきはなすディープな取材ぶり。そんな話どこで集めてきた?!というネタが一気に放出される。地方新聞記者の、陰鬱な日常がうかがい知れようというものではないか。
ご存知のように、作者の横山は群馬県の地方紙である上毛新聞の記者だった。彼の作品の多くを通底しているのが、男のプライド=身もふたもない言い方をすれば嫉妬、ヤキモチ。その甘さ苦さを、おそらく記者時代に辟易するほど味わってきたのだろう。
福田赳夫、中曽根康弘、小渕恵三の地元であるがゆえに、会社の派閥がそのまま政治に直結するあたり、どこの地方でもありうる話だ。有能な記者が三大紙に引き抜かれていく状況も渋い。しかしこの作品ではその他に家族のサイド・ストーリーが効いていて、「半落ち」ほど露骨ではないものの、最後にグッとくる仕掛けがある。うまいなあ。
ところが、文藝春秋では、例の林真理子発言のせいでこの作品を直木賞候補にもあげることができず、おわびに週刊文春ミステリーベストワンを進呈したというわけだ。こちらの業界も、きわめて政治的である。やれやれ。
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