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事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「村上ソングズ」村上春樹著 和田誠イラスト Born To Be Blue

2008-07-06 | 音楽

414hrv0l6nl  ノーベル文学賞をいつとるか、とまで評価される村上春樹だけれど、そのユーモアのセンスがきちんと認められているのだろうか。かつて映画評論家の川本三郎と「映画をめぐる冒険」というビデオガイドを著したことがあり、読者を抱腹絶倒させる手腕におそれいったことがある。ちなみに、村上春樹の著作をコンプリートしたいマニアたちは、どうしてもあの本だけが手に入らなくて切歯扼腕しているのだとか。ウチに来ればいいのに。土蔵(笑)のどこかにありますよ。

「村上ソングズ」は、和田誠のイラストとともに、村上のお気に入りの曲を自ら訳した歌詞集。レコードのライナーノートは誤訳が多いし、古い曲は訳詞も入っていないことが多いので(REMのように歌詞を絶対に同封しないバンドもいる)、ちょっとやってみる気になったのだそうだ。できあがったのは素晴らしい一冊の本。一流のユーモアは健在。図書館で借りて後悔する珍しい例になった。買えばよかったー。
 ジャスラックには内緒で、ちょっと原詩と村上訳を紹介しましょう。

Born To Be Blue

When I met you the world was bright and sunny
When you left the curtain fell
I'd like to laugh but nothing strikes me funny
Now my world's a faded pastel

Well,I guess I'm luckier than some folks
I've known the thrill of loving you
And that alone is more than I was crested for
'Cause I was born to be blue
"Helen Merrill With Clifford Brown"

「ブルーに生まれついて」

あなたに出会ったとき 世界は輝いていた
あなたが去ったとき 帳(とばり)が降りてしまった
笑いたいと思うのだけれど
おかしいことなんて何ひとつない
今では世界は色あせたパステル

それでも、私はまだ幸運な方なのだろうか
あなたを愛する喜びを味わえたのだから
たとえそれだけでも、私には
身にあまることなのかもしれない
だって私はブルーに生まれついたのだから

4183t3txrjl 英詩において、韻とは何なのかも含めて、味わい深い。ヘレン・メリルの名盤で聴きなおそう。土蔵のどこかに、しまってあるはずなんだけど(^_^;)。

次回はシェリル・クロウ

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「グレート・ギャツビー」The Great Gatsby スコット・フィッツジェラルド著 村上春樹訳 中央公論新社

2008-07-06 | 本と雑誌

12003782 「ほりセンセー、フィッツジェラルドの『華麗なるギャツビー』持ってる?」はるか昔、同僚からの質問。
「うん。角川文庫のなら」映画化されたときのロバート・レッドフォードとミア・ファローが表紙になってるヤツ。
「貸して!ってゆーか、ちょうだい!」
今も昔もフィッツジェラルドは女性に圧倒的に人気があるわけだ。この同僚からはいっしょに「夜はやさし」Tender Is The Nightまで持って行かれた。

 英文出身のくせに、フィッツジェラルドをさして面白いと思ったことがわたしはないが、この村上春樹の新訳で、ギャツビーの悲哀と、なぜ彼が“偉大な”と皮肉ぬきに語られるかを感じとることができた。どの一文を切り取っても詩になりそうなほど華麗な文体、冷静な観察者ニックを語り手にする手管。ため息がでる。

ドンキホーテのように富と洗練の象徴であるデイジーを追い求めるギャツビーが、西部からニューヨークに移り住み、享楽的な妻ゼルダに翻弄されるフィッツジェラルドの写し絵であることが今は読みとれる。その意味で、村上はすばらしい仕事をしたといえるのかも。その村上の次の翻訳作品は、レイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ(長いお別れ)」とか。うゎあミステリおたくたちに総スカンをくいそうだなあ。ちょっと心配。

※事実上、総スカンでした

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「理由」(’04 WOWOW)

2008-07-06 | 邦画

0fff779a  ミステリの映画化がむずかしい作業なのは理解できる。原作と比較すると、まずたいがいの映画化は失敗に終わっているので。それは、文章ならではの“ごまかし”が映画では機能しないことと、キャスティングで犯人がバレバレな例が多いからだろうか(まあ、それを逆手にとることもできるんだろうけどね)。原作を明らかに超えたのは松本清張の「張り込み」(松竹)。後妻の地味な生活を刑事たちがひたすら見つめ続ける緊迫感は映画ならではだった。

 この「理由」の場合、そうかミステリの映画化ってこんな手があったのかあ!と驚嘆。ものすごいカット数をぶちこんで、宮部みゆき原作をほぼまるごとぶちこんであるのだ。いやーびっくり。大林宣彦が完全に映画を“コントロール”している。役者陣も大林ファミリー総出演でみなすばらしい。特に赤座美代子をものすごくいやらしく撮っていたのは監督の好み?

でも久本雅美だけは妙に浮いていた。バラエティ演技が染みついてしまったのかなぁ☆☆☆☆

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「中原の虹」浅田次郎著 講談社刊

2008-07-06 | 本と雑誌

51mc2bbfkvhl  極道小説プロパーと思われていた浅田次郎は、「地下鉄(メトロ)に乗って」で新境地を開くがまったく売れず、それでは、と乾坤一擲の勢いで1800枚もの小説を書き上げ、高さ60㎝にもおよぶ原稿を台車で講談社に持ち込み大騒ぎとなる……浅田本人が言っていることなのでお得意の大ぼらに決まっていますが(笑)、しかしその小説「蒼穹の昴」はまちがいなく傑作だった。

清の時代、みずから宦官となって西太后に仕える春児(チュンル)と、科挙において筆頭の成績をおさめ、光緒帝を支える春児の義兄弟、梁文秀を中心とした物語。いやー泣いたな。この作品が落選して直木賞をゲットしたのが乃南アサの「凍える牙」。わけわからん。今は浅田自身が選考委員となっていて、あの賞の選考委員にしてはめずらしく候補作をキチンと読み込み(渡辺淳一は明らかに読んでないし、辞めちゃったけど津本陽のコメントはたわごとばかり)、ひとり新人に温かいエールを送っているのはこのときの経験があったからかも(→大森望+豊崎由美「文学賞メッタ斬り!」参照)。

 ミステリ的な「珍妃の井戸」をはさみ、ついに続篇の「中原の虹」が完結。やっとわたしも読み通した。

うわー。世の中にこれほど面白い小説も少なかろうと思う。

200pxqingnurhaci なにしろ時代設定がすごい。清朝の勃興期と滅亡のときを交互に描き、それぞれ「わが勲(いさおし)は民の平安」と唱え、行動する英雄たち。もしもわたしが歴史上のどこかをお勉強するとしたら、文句なく清を選ぶ。近代にして現代、ヌルハチ(「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」のオープニングで、インディとギャングの争奪戦は彼の骨がきっかけ)からラストエンペラー溥儀までの皇帝はもちろん、ドルゴン、袁世凱、孫文(おそらく浅田は彼のことが嫌い)など魅力的で退廃したオールスターキャスト。そして何よりも日本と複雑にからみあっている。

西太后を「民のために自分を悪役に仕立て、清朝の幕引きを図る偉大な政治家」、張作霖を「天下を約束する龍玉(ドラゴンボール!)を手にしつつ、長城を越える魅力的な馬賊」として描く大嘘は、これはやはり浅田次郎の得意技だ。しかも章ごとに語り手を変え、時制も前後させるなど、小説作法上のケレンをこれでもかと仕込んである。

今回の主人公はその張作霖。日本人によって爆殺される最期を読者は当然知っているわけなので、どんな結末にするのかと思ったら……こうきたか(笑)。こりゃ続篇必至。愛新覚羅家をめぐる波瀾万丈の物語は、どうやらまだまだ終わらないようだ。

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「レディ・ジョーカー」(’04 東映)

2008-07-06 | 邦画

Lady_joker これはわたしも映画化不可能だと思っていた。髙村薫の原作が長大(でも一気読みパターンだけどね)であることと、なにしろ動機が差別ですから。しかし「月はどっちに出ている」「血と骨」などの名脚本家、鄭義信がみごとに刈り込み、平山秀幸の演出もタイトに決まっている。

ただ、当初から懸念していたんだけど、合田刑事役に21世紀の石原裕次郎(だっけか)の徳重聡を起用したのはどんなもんだか。石原プロとのからみもあるだろうけどさあ……

でもその分吉川晃司が最高☆☆☆☆

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