幽鬼兵(鹿児島歩兵第45連隊)エスペランサの奇跡 人物表

2018-07-26 | 脚 本

     幽鬼兵(鹿児島歩兵第45連隊)
       エスペランサの奇跡

         登場人物表

西田勇作(徳重中隊 陸軍准尉・戦死・幽鬼兵) 
太  歩(徳重中隊 陸軍軍曹・戦死・幽鬼兵)
 
 第2師団鹿児島第45連隊徳重中隊(九人)
  徳重嵩雄(陸軍中尉・戦死 幽鬼兵)
  高橋竜吉(陸軍軍曹・戦死 幽鬼兵)
  野村伸二(陸軍伍長・戦死 幽鬼兵)
  宮園信次郎(陸軍上等兵・戦死 幽鬼兵)
  迫田 勇(陸軍上等兵・戦死 幽鬼兵)
 ○河野源太郎(陸軍上等兵)
  西 卓巳(陸軍一等兵・戦死 幽鬼兵)
 ○森 秀雄(陸軍二等兵)
  日高 悟(陸軍二等兵・戦死 幽鬼兵)

 児玉中隊(九人)
  鮫島 誠(陸軍准尉・戦死 幽鬼兵)
 ○関元雄三(陸軍曹長)
 ○福原源次(陸軍軍曹)
  小里順次郎(陸軍上等兵・戦死 幽鬼兵)
 ○崎田春雄(陸軍上等兵)
  浜田健作(陸軍上等兵・戦死 幽鬼兵)
  浅田菊雄(陸軍一等兵・戦死 幽鬼兵)
  徳永平蔵(陸軍一等兵・戦死 幽鬼兵)
  井上博道(陸軍二等兵・戦死 幽鬼兵)

 西村中隊(八人)
 ○木原猛夫(陸軍少尉)
  西山 徹(陸軍軍曹・戦死 幽鬼兵)
  市村健二(陸軍上等兵・戦死 幽鬼兵)
  山本権助(陸軍上等兵・戦死 幽鬼兵)
  市村金太(陸軍一等兵・戦死 幽鬼兵)
  野々宮 博(陸軍一等兵)戦死 幽鬼兵)
 ○隈元武治(陸軍一等兵)
  別府 等(陸軍二等兵)戦死 幽鬼兵)

 最後の徳重中隊残存兵(七人)
○木原猛夫(陸軍少尉・昭和二一年生還)
 関元雄三(陸軍曹長・ニューギニアにて戦死)
 福原源次(陸軍軍曹・ニューギニアにて戦死)
 河野源太郎(陸軍上等兵・ニューギニアにて戦死)
 崎田春雄(陸軍上等兵・ニューギニアにて戦死)
 隈元武治(陸軍一等兵・ニューギニアにて戦死)
 森 秀雄(陸軍二等兵・ニューギニアにて戦死)

 佐々木順一(一木支隊 陸軍上等兵・ニューギニアにて戦死)
 
 菊池源一郎(川口支隊隊長・陸軍中佐・ニューギニアにて戦死)

 沢田神治(川口支隊・陸軍大尉・ニューギニアにて戦死)

 藤田元一(川口支隊・陸軍中尉・ニューギニアにて戦死)

 野村信吉(川口支隊・陸軍二等兵・ニューギニアにて戦死)
 矢野周作(矢野奇襲部隊隊長・陸軍少佐・ニューギニアにて戦死)

  木原佳子(誠の妻)

  木原憲雄(誠の長男)

  木原淳子(憲雄の妻)


  敗残兵A
  敗残兵B
  敗残兵C
  敗残兵D
  敗残兵E
  敗残兵F

  水 兵A
  水 兵B
  水 兵C
  水 兵D
  水 兵E
  水 兵F

   参考 イメージキャスト(仮)

   徳重嵩雄(中尉42) 遠藤憲一
   鮫島 誠(准尉27) 内野聖陽
   野村作治(伍長25) 小倉一郎
   木原猛夫(少尉)   香川照之
   関元宗雄(軍曹)   石倉三郎
   佐々木順一(上等兵) 大地康雄
   菊池源一郎(中佐)  岸部一徳
   沢田神治(大尉)
   藤田元一(中尉)
   矢野周作(少佐)

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幽鬼兵(鹿児島歩兵第45連隊)エスペランサの奇跡 ①

2018-07-26 | 脚 本

    幽鬼兵(鹿児島歩兵第45連隊)
       エスペランサの奇跡

        原作 土屋寛文

○タイトル 「幽鬼兵(エスペランサの奇跡)」

○腕の無い負傷兵(昼・片腕・胴体)
   石川幽鬼兵が隊を離れる。
   片腕を飛ばされて、もがいている日本兵が居る。(UP)
   傍に立つ石川幽鬼兵。(UP)
兵隊「助けてくれ・・・。痛い、痛~い。母さ~ん。誰か助けてくれ・・・」
   石川幽鬼兵は、しゃがんで腕を飛ばされた負傷兵の「肩」に手を触れる。
西田魂兵「・・・?」
   兵隊の腕はいつの間にか戻っている。
   突然、負傷兵は立ち上がり、何も無かったかの様に銃を構え走り去る。
西田幽鬼兵・太幽鬼兵「?・・・」
   二人、顔を見合わせる。
   腕に触れた石川幽鬼兵は、負傷した兵隊の腕に「変化」したのか、既に
   そこには居ない。
西田幽鬼兵(M)「そうか・・・。俺達は自分には戻れない。しかし負傷兵には
           俺達の魂が入る事が出来るんだ・・・」
   太幽鬼兵は驚いて身振り手振りで、
太幽鬼兵「西田さん、俺達はまだ戦えます。入れ変われば良いんですよ」
   西田幽鬼兵は手で拳を作り、嬉しさを伝える。
西田幽鬼兵「・・・」(ガッツポーズ)
   笑う幽鬼兵達。

○集まる九つの幽鬼兵
   西田幽鬼兵達に気付き、ヤシの木陰からか九つの幽鬼兵達が集まって来
   る。
   西田幽鬼兵達が笑って出迎える。
   集まって来る幽鬼兵達も既に怒りは消えて、笑っている。
   西田幽鬼兵が、身振り手振りでこれからの戦法を伝える。
   九つの幽鬼兵達は、西田幽鬼兵の話を見て戸惑いを隠せない。

○再び砂浜へ引き返す(西田・太、十五の幽鬼兵達))
   西田幽鬼兵達十五の幽鬼兵のは負傷兵を求めて、上陸した砂浜を歩く。
   上陸はすべて終わっている。
   波の音。(SE)
   風の音。(SE)
   ブルトーザーのエンジン音が聞こえる。
音 「ブルルル~~」(SE)

○生き埋めの負傷兵(ブルトーザー2)
   米軍が日本兵の骸(ムクロ)を処理している。
   そこに、故西田勇作の骸が有った。
   暫くすると、ブルドーザーが故西田准尉の骸をバケットに押し込んで穴
   の中に放り込む。
西田幽鬼兵(M)「・・・ゴミだ・・・。二二年生きて輸送船で九死に一生を得、
          ようやく目的の島に辿りついてゴミになる。・・・何て事だ」
   穴の中に、まだ息のある負傷兵が居る。
   動めく息の有る日本兵。
西田幽鬼兵(M)「・・・生き埋めか。もう少し早くこの事に気付いていれば、
           俺の魂が命に変わってやれたのに・・・」

○地獄のジャングル(銃声と怒号・悲鳴・合言葉)
   西田幽鬼兵達は、ジャングルに入って行く。
   日本兵の合言葉が飛び交う。
   迫撃砲の砲弾が、異様な音を引いて数メートル範囲に着弾する。(SE)
   折れる樹木。(SE)
   飛び散る肉片。(UP)
声 「ヤマッ・・・ カワッ! オイ、左の樹ッ! 敵三、右二、 援護~
   ッ、行けッ! 撃て、援護ッ、援護ッ、一人ヤラレタ行けッ、行け~ッ!」
   数百メートルの攻防。
   幽鬼兵と変わった故日本兵達が西田幽鬼兵達の周りに、磁石の様に集ま
   って来る。
声 「ヤラレタ~ッ! ヤマーッ! 山田上等兵負傷~ッ! 衛生兵~ッ!」
   断末魔の声。
   一人の幽鬼兵が、その負傷兵の前に立って居る。(UP)
   幽鬼兵は負傷兵の血だらけの胸の傷に手を当てる。(UP)
   その負傷兵は急に立ち上がり、鬼のような形相で突進して行く。(UP)
   いたるところに日本兵が、コト切れている。(UP)
   幽鬼兵達は、負傷兵が居ないかと周囲を見回わす。(UP)
   一つの幽鬼兵の近くに、日本兵の「頭部」が飛んで来る。(UP)

○頭部だけの兵隊(切れた首・マバタきをしてい眼)
   幽鬼兵が胴体を捜す。(UP)
幽鬼兵(M)「・・・無い」
   ふと上を見あげる幽鬼兵。(UP)
   胴体が内臓を出して、樹に引っ掛かっている。(UP)
   いつの間にか、頭部は眼を見開いて、骸(ムクロ)に変っている。(UP)

○ジャングルのスコール(午後・突然の豪雨・死んでも戦う兵隊)
   雨は直ぐに滝に変り、道は川に変わる。
   米兵の骸がうつ伏せに成り、川の流れに乗って来る。(UP)
   その骸が日本兵の骸にぶつかる。(UP)

   「死んでも、戦っている骸兵」

○川を下る米兵達(6・負傷者1・担架1)

○米軍戦闘機(F4Uコルセア)
   迫撃砲の砲弾が不気味な音を引いて飛んで来る。
音 「ヒユ~~~~・・・ド~ン・・・」(SE)
西田幽鬼兵(M)「一キロ先に飛行場が在るはずだ。飛行場に着くまでに、何人
           の兵隊が骸と成るのか・・・」
   米軍の戦闘機(F4Uコルセア)が空中を一周して、爆弾を落として行
   く。
音 「ドドドド~~~~ン」(SE)
   地響き。

○スコールの後(鳥の声・数発の銃声)
   静まり返ったジャングル。
鳥の声「ギャーギャーギャー・・・」(SE)
   西田幽鬼兵達が周囲を見る。
   負傷兵達は、すべて死んでいる。
   強烈な日差しがジャングルを包む。
   三八銃の銃声音が聞こえる。
銃声「ターン・・・、タン、ターン・・・」(SE)
   数発の不連続な発砲音。
   一斉に戦闘が再開される。
声 「トツゲキーッ!」
   将校の悲鳴の様な号令。(UP)
   木陰に隠れていた六人の日本兵達が鬼の様な形相で走る。
   暫く走ると、葡匐前進で敵に近付いて行く。
   米軍の機銃が唸る。
音 「ドドドドドド」(SE)

○倒れる日本兵(散開する幽鬼兵達)
声 「ヤラレターッ! 肩ッ、カターッ」
   一人の兵隊が転がりながら負傷兵の傍に寄る。(UP)
兵隊「大丈夫か・・・」(UP) 
   いつの間にか幽鬼兵が負傷兵の肩元にしゃがみ、傷に触れる。(UP)
   負傷兵は何も無かったかのように、銃を取り一目散に木陰に隠れる。
   傍に居た兵隊は不思議そうに、その負傷兵を眺めている。(UP)
   西田幽鬼兵が、後ろを見る。(UP)
   幽鬼兵が無数に散開している。

○九人の徳重中隊(徳重崇雄中尉)
   徳重中隊の集団が先鋒隊で進んでいる。
   徳重中隊長の周囲に、九人の兵隊達がヤシの木陰に隠れて居る。
   徳重中隊長は無傷である。
徳重「おい、無駄撃ちするな。敵に位置を知らせるぞ!」(小声で)
高橋(高橋竜吉軍曹)「ヤマッ! 」
森 (森 秀雄二等兵)「ヤマッ!」
   木陰から高橋軍曹が徳重中隊長の傍に転がって来る。
高橋「中隊長、この方向を進んで良いのでしょうか・・・」
徳重「この方向? ・・・野村ッ! 来い」
野村(野村伸二伍長)「はッ!」
   野村伍長が、木陰から葡匐で徳重中隊長の傍に来る。
徳重「おい、今の位置は?」
野村「はいッ!」
   図嚢カバンを開け地図を取り出し、徳重中隊長に見せる。(UP)
野村「今、・・・多分・・・この辺に居るはずです」
徳重「・・・飛行場までもう直ぐだな。斥候を二人出せッ!」
野村「はいッ!」
   野村伍長は急いで木陰に戻る。
   木陰に迫田上等兵(迫田 勇)と宮園上等兵(宮園信次郎)が伏せてい
   る。
野村「迫田、宮園、斥候に行け。 先を見て来い!」(小声で)
迫田「ハイ!」
園田「ハッ!」
   二人、ジャングルの奥へ葡匐で前進して行く。

○岩 陰(夕方・徳重中隊長・日高二等兵)
   徳重中隊長の前に隠れている日高二等兵(日高 悟)。
徳重「おい。あれから二日目だな」(小声で)
日高「いえ、三日目です」(銃を構えながら小声で)
徳重「三日?」 
   徳重中隊長は日高二等兵をチラッと見て、
徳重「・・・腹が減ったのう」
日高「・・・いえ」
   徳重中隊長が前に伏せる日高二等兵を蹴る。
   日高二等兵は驚いて、
日高「あッ、はいッ! 減りました」
徳重「キサマ、糧秣は有るのか」
日高「いえッ、失くしましたッ!」
徳重「バカ者ッ!」(小声で厳しく)
日高「はいッ!」
徳重「弾とメシとどちらがダイジかッ!」(小声で)
日高「はいッ、メシでありますッ!」(銃を構えて)
   徳重中隊長がヤシの樹の陰から顔をだし、きつい目で日高二等兵を睨む。

○斥候兵(二人)
   暫くして、斥候兵の迫田上等兵と宮園上等兵が戻って来る。
   二人が徳重中隊長の傍に葡匐で近寄って来る。
迫田「報告します!」
徳重「うん」 
迫田「此処から一キロ先に飛行場は見えません」
徳重「何ッ!? 」
徳重「・・・野村、来い」
   野村伍長が徳重中隊長の傍に転がって来る。
徳重「もう一度、地図を見せろ」
野村「はッ!」
   徳重中隊長は方位計を胸ポケットから取り出し、地図の上にあてる。
徳重「・・・おい」
野村「はッ!」
   徳重中隊長は地図を見ながら、
徳重「この方位計は合ってるのか?・・・」
   野村伍長は自分の方位計を取り出し地図の上に載せる。
野村「・・・間違いないと思います」
徳重「? 地図が間違っているのか・・・」
野村「・・・」
徳重「いったい俺達は何処に居るんだ」
   ジャングルに鳥の声が木霊する。
鳥の声「ギャー・・・ギャー・・・」SE
徳重「おい、キサマ等」
迫田・宮園「はいッ!」
徳重「敵と会わなかったか」
宮園「会いませんッ!」
徳重「・・・孤立したか・・・」(ボソッと一言)
野村「戻りましょうか」
徳重「戻る? 何処へ」
野村「もと来た場所へ」
   徳重中隊長は少し考えて、
徳重「・・・斥候ッ! オマエ等もう一度戻って友軍を捜して来い」
迫田・宮園「はいッ!」
   二人が散開して行く。

○夜 営(残兵達七名)
徳重「全員集まれッ!」
   残兵達が徳重中隊長の周りに転がって来る。
徳重「孤立したようだ。斥候が友軍を捜しに行っている。今夜は此処で夜営す
   る。全員糧秣を出せ」
残兵達「はいッ!」
   岩陰で背嚢をといで糧秣を取り出す残兵達。
   徳重中隊長が周りの残兵達の顔を見回し、溜息まじりで、
徳重「・・・これで何日持つかッ!・・・」
残兵達「・・・」
   俯く残兵達。

○迫田斥候兵(ジャングルを急ぐ・後姿)
   西田幽鬼兵が迫田上等兵を見守る。(二人・後姿)
   ジャングルのケモノ道を一目散に西に下る迫田上等兵。
   人の声が聞こえる。
   迫田上等兵は急いで茂みに隠れる。
声 「・・Rock 7,Rock 7・・・ , I'm going to east.There isn't a Japsoldier・・・」
   米兵が三人、迫田上等兵の傍を通り過ぎる。
   三八銃を構え、息を殺す迫田上等兵。
迫田「・・・」
   先頭の一人は自動小銃を、間の一人は無線機を背負い、シンガリの米兵
   は軽機銃を構えながら、通り過ぎて行く。
迫田(M)「・・・近くに敵の部隊が居るな・・・」

○宮園斥候兵(藪をかきながら進む宮園上等兵)
   太魂兵は宮園上等兵を追いかけ、見守る。
   宮園上等兵はジャングルのケモノ道を南へ下って行く。
   空き地に、日本兵の死体が四体、転がっている。
   死体の腹部の銃創から蛆が湧いている。
   地雷に触れたのか、一体は下肢は無い。
   骸には蠅(ハエ)が小豆(アズキ)を撒いた様にたかっている。
   宮園上等兵は死体に合掌して、また藪の中を走って行く。

○夜 営(日が暮れる・徳重中隊残兵七人)
   徳重中隊が夜営の支度をしている。
徳重「おい、斥候が戻るまで米は三十粒迄だぞ。梅干しはシャモジ、一切れに
   しておけ」
残兵達「はいッ!」
   徳重中隊長は森二等兵の飯盒炊飯を見て、
徳重「おい、飯盒にはもっと水を入れろ、バカ者」
森 「あッ、はい!」 
河野(河野源太郎上等兵)「中隊長殿ッ!」
徳重「うん?」
河野「先ほど、バナナの実が菜って居りました」
徳重「おお、そうか! 採って来い」
河野「はッ!」(UP)
徳重「気を付けろよ。敵が居るかも知れんからな」
河野「大丈夫です。アメ功は五時で仕事は終わりです」
   残兵達が大笑い。
   徳重中隊長は河野上等兵を睨んで、
徳重「・・・良いから早く採って来い」(苦笑)
   ジャングルに地獄鳥の啼く声が木霊(コダマ)する。
鳥の声「ギヤーッ、ギヤー、ギャーッ・・・」(SE)

○迫田斥候兵(夜・月夜・小川沿いの木陰)
   月明かりの下で、腰袋から「煎り米」を摘み口に食(ハ)む。
   迫田上等兵は眼を凝らして川辺りを見る。
   「米兵の骸」と「日本兵の骸」が転がっている。
   米兵の骸は拳銃を握って、日本兵の骸は銃剣を握っている。
迫田(M)「・・・相討ちか・・・」
   迫田上等兵は米兵の装備を見詰める。
   米兵のショルダーバックの中から「缶詰め」が覗いている。
迫田「!・・・」
   迫田上等兵はそっと米兵の骸に近付き、「腰袋」を開く。
   中からは缶詰め、パン、チョコレート、ガムが出て来る。
   夢中で缶詰めを取り、銃剣の先で蓋を開ける。
   ショルダーバックの中を漁って、ナイフ付きホークを探り当てる。
   ホークで缶詰めの中身にむさぼる迫田上等兵。
   ふと米兵の肩に掛った薄い「図嚢カバン」を見る。
迫田「?・・・」
   迫田上等兵は米兵の肩から「図嚢カバン」を外す。
   蓋を開けると、中から地図と方位計(コンパス)が出て来る。
   月明かりに照らして地図を広げる。
迫田「? ・・・」
   地図上に飛行場らしきモノが描かれている。
   迫田上等兵は驚いて、
迫田「あッ! これは飛行場だ。・・・? この印は・・・敵の配置?」
迫田「・・・此処が俺の居る川。俺は・・・ああ、東から来たんだ。今は・・・
   此処に居るのか・・・。俺達の部隊は? あれッ!?・・・これは、ま
   ったく逆だ。反対側を進んでるじゃないか。俺達は何処へ上陸したん
   だ? ・・・ええッ! 上陸地が反対側だ。こッ、これはッ! 早く部
   隊に知らせなければ」
   迫田上等兵は缶詰めをほおり投げて、月夜のジャングルの中に走って消
   えて行く。

○宮園斥候兵(岩陰・月夜・虫の声)
   宮園上等兵も岩陰で「煎り米」を食(ハン)んでいる。
   水筒の水を一口飲み、月を見て、
宮園(M)「・・・月が綺麗だなあ・・・。戦争か・・・。内地じゃ皆んなどう
      してるんだろう。・・・もう田植えは終った頃だろうなあ・・・」
   突然、枝が折れる音がする。
音 「ポキッ・・・」SE
   宮園上等兵は急いで三八銃を取り、音の方向に構える。
   人影が見えて来る。
宮園「ヤ・・・マッ!」(小声で)
人影「・・・タカ」(小声で)
宮園「? ヤマ」(小声で)
人影「タカッ!」(小声で)
宮園「タカ? ・・・おおッ! 児玉中隊か」(小声で)
人影「徳重か?」(小声で)
   二人は立ち上がる。
   近寄って、月明かりの下で互いを確認する。
宮園「・・・キサマ、一人か?」
兵隊「ああ、部隊がはぐれてのう。俺は斥候だ」
宮園「斥候? 何んだ、俺もだ。・・・児玉は何名残って居る」
兵隊「九人だ。ほとんどやられちまった。児玉中尉もやられた」
宮園「中尉も?!・・・」
兵隊「・・・徳重は?」
宮園「俺を入れて九人だ。オマエ等の部隊と同じだ。皆んなバラバラだ。徳重
   中隊長は生きているぞ」
兵隊「えッ? 中隊長が生きてるッ? よしッ! 俺達は徳重中隊に合流しよ
   う。此処に居てくれ。皆んなを呼んで来る」
宮園「そうか。戻る道は分かるか」
兵隊「枝に手拭いを裂いて目印を付けて来た」
宮園「ハハハ。同じだ。気を付けて戻れよ」
兵隊「分った。キサマの名前は?」
宮園「宮園だ。オマエは?」
兵隊「崎田(崎田 滋上等兵)だ」
   児玉中隊の崎田が、月明かりのジャングルに消えて行く。

                            つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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幽鬼兵(鹿児島歩兵第45連隊)エスペランサの奇跡 梗概 

2018-07-23 | 脚 本

    幽鬼兵(鹿児島歩兵第45連隊)
       エスペランサの奇跡

        原作 土屋寛文
       
       プロローグ(梗概)

「西田勇作」は九州帝国大学在学中、不本意ながら「学徒出陣」の命を受け、出身地の「鹿児島歩兵第45連隊」にて編制された。階級は「陸軍准尉」であった。
枕崎からの乗船時、「目的地」は知らされていなかった。

数日の航海の後、船は急に蛇行運航に入った。
そして、拡声器から

 「この船は、これからソロモン諸島ガダルカナル島に向かう」

の発令があった。

第一次総攻撃に於ける川口支隊の壊滅を経(ヘ)、「ガ島奪還」の第二陣である。西田は入隊当初から当然「死」は覚悟していた。

駆逐艦「夕霧」の艦内で何日、揺られた事か・・・。目の前に島々が広がって来た。
拡声器から「総員、甲板に集合~ッ!」の号礼が掛る。
兵装を整え急いで甲板に集合す兵隊達。全兵の意気は上がっていた。
そして、第2師団長「丸山政男中将」の力強い訓示が始まる。

 丸山中将「これより、ガダルカナルの奪還作戦を開始する。七生まれ変
      わって朝敵を滅ぼす。死しても百鬼となり目的を敢行すべしッ!」

佐伯陸軍少佐の悲鳴の様な号礼が響く。

 佐伯少佐「全兵、皇居に向かってー、奉げ~銃(ツツ)ッ!」

西田は、いよいよ此処を死に場所に決めざるを得なくなった。

揚陸後、突撃開始。
数十分? いや数分? 
猛突進後、胸と頭に貫通銃創を受けたらしく「西田勇作」は死んでいた 。
物語は、此処から始まる。

 この作品は戦後七三年、未だ還れぬ数万柱の「英霊」達が、この小さな島で如何に戦い、撤収を支えたか「鹿児島歩兵第45連隊学徒兵西田勇作准尉(二二歳)の御魂(ミタマ)」を通して描く、「世にも悲惨でフアンタジーな不戦のドラマ」である。

なお、このドラマは「フィクション」であります。

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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幽鬼兵(鹿児島歩兵第45連隊)エスペランサの奇跡 序章

2018-07-22 | 脚 本

      幽鬼兵(鹿児島45連隊)
        エスペランサの奇跡

         原作 土屋寛文

          序 章

*(テロップ)「1942年10月(ガダルカナル島)」

○ガダルカナル西海岸(砂浜・早朝)
   帝国海軍の駆逐艦が西海岸を囲む。
   空には米軍の航空機が、編隊で攻撃をかけてる。
   数十隻の日本海軍大発(上陸用舟艇)が砂浜を強襲する。

○第二師団丸山政男中将(鹿児島歩兵第45連隊徳重中隊の突撃・早朝・砂浜)
   砂浜に無数の米軍の砲弾が着弾する。
音 「ドドド・・・ン・・・」(SE)
   徳重崇雄(中尉)中隊長が立ち上がり、抜刀する。
徳重「・・・トツゲ~キ~」(悲鳴の様に)
   猛突進して行く徳重中隊四十人。
   徳重中隊長の血走った目。(UP)
   発狂の声、声・・・声。(SE)
   米軍の砲弾と銃弾の嵐。
   連隊旗の先端に、銃弾が当たる。(UP)
音 「ピシー・・・」(SE)
   バラバラに粉砕された「菊の御紋」が飛んで行く。
   兵隊達が見る見る内に、倒れて行る。

○徳重中隊西田勇作准尉以下十二人の突進
   西田達(十二人)が猛然と砂浜を走る。
   周囲から上がる悲鳴の声。(SE)
   西田の足元に銃弾が刺さる。
音 「パシュッ、パシュッ」(SE)
   肩を掠める銃弾。
   西田が砂の窪みに身を伏せる。
   銃弾が鉄帽の隅に当たる。(UP)
音 「ピシッ!」(SE)
   同時にその弾が背嚢に刺さる。(UP)
音 「ピスンッ」(SE)

○砂の窪み(太 歩軍曹)  
   男(太 歩・フト アユム軍曹)が窪みに飛び込んで来る。
太 「准尉ッ! 大丈夫ですか」
西田「おお。太ッ! オマエは」
太 「私は大丈夫です。(笑いながら) これを持ってますから」
   太軍曹は胸ポケットから「小さな人形」を取り出す。(UP)
西田「? お守りか」
太 「女房が作ってくれたんです」
   西田准尉は太軍曹を見て、
西田「・・・大切にしろ(笑う)。先に行くぞッ!」
   ふたたび体勢を整え、突進して行く西田准尉。(後姿)

○倒れる西田准尉
   西田准尉が突然、砂浜に昏倒する。(UP)

○西田准尉の傍に走り寄る太軍曹。
太の声「准尉ッ! 西田准尉」
   気が付く西田准尉。
太 「大丈夫ですかッ!」
西田「!? どうした」
   西田准尉の上半身が紅の液体に滴(シタ)って行く。(UP)
西田「(血を見て)クソ~ッ、やられたか・・・」
太 「衛生兵ッ! 西田准尉負傷! 衛生兵~ッ!」(叫ぶ)

○地獄の砂浜(彼方まで広がる無数の日本兵の骸)
   周囲から、絶叫の声。
声一「やられた~ッ! お~い、助けてくれー。衛生兵ッ! 石田上等兵負傷!」
声二「脚ッ、脚をヤラレタ。早く来い。チクショウッ!・・・チクショウ・・・
   ダメだ・・・ねえーッ! 脚がねえ・・・おい、脚、アシ・・・」(片足
   を捜す負傷兵)

○転がる片腕(西田准尉の足元)
   片腕が、倒れた西田准尉の傍に飛んで来る。(UP)
   西田准尉が片腕を見詰める。(UP)
西田「・・・俺に構うな、早く行けッ!」
太 「准尉! そこの岩陰に隠れましょう」
   腕を強く引く太軍曹。(UP)
西田「・・・俺はどこをやられた」
太 「肩あたりです。掠(カス)り傷です。大丈夫ッ!」
西田「行けッ。構うなッ!」
太 「此処を動かないで下さい。(薄笑いを浮かべる) 必ず後で迎えに来ます」
   太軍曹が砲弾と銃弾の猛嵐の中に消えて行く。(後姿)

○惨状
   砂浜を振り返る西田准尉。
   銃弾の飛ぶ音・砲弾の炸裂音・直撃弾に当たり瞬時に消える兵隊。

○西田准尉のモノローグ
西田(M)「此処まで来る間に潜水艦にヤラれ、ようやく島に辿り着いて、数百
      歩走ってヤラれる。敵なんぞ一人も見てない。弾も撃ってない。
      久しぶりに大地を、脚を使って走っただけだ」
   西田准尉の頭の中を、丸山師団長の言葉が過る。

○イメージ
   駆逐艦「夕霧」。甲板上に完全装備の全兵隊が集まる。
   丸山政男(師団長)の訓示。
丸山「これよりルンガ飛行場奪還作戦を開始する。死しても百鬼となり目的を
   敢行すべしッ!」

○西田准尉の傷
   胸元から紅の液体が噴き出す。
音 「ドボッ・・・」(SE)
西田(M)「くそ~ッ! 弾の野郎。こんなチッポケな野郎に俺の命をやれるか」
西田「クソ~ッ!」(絶叫)
西田(M)「・・・このままでは俺も骸になる。何んとか敵を一人でも仕留めな
      くては・・・」

○頭部が飛ばされても走る兵隊
   
第二陣の部隊が西田准尉の傍を猛然と走り去る。
   西田准尉の目の前で三人の兵隊が倒れる。(UP)
   一人は一瞬で頭部が無くなる。(UP)
   その兵隊は頭部が無くなっても、暫く手足は走っている。(UP)

○西田准尉の死の概念(血だらけの姿)
西田(M)「クソ~、死んでたまるかッ!」
   胸元から紅の液体が「排気ガス」のように噴き出して来る。(UP) 
   立ち上がる西田准尉。(UP)
   鉄帽にまた何かが当る。(UP)
西田「あッ?」
西田(M)「・・・死・・・ぬ・・・の・・・か・・・」
   西田准尉の気が徐々に遠のいて行く。

○イメージ(西田准尉の過去の思い出)
「頭の中を奇妙な思い出が錯綜して行く」
*故郷・子供の頃・両親の顔・山・川・・・。

○テロップ
「西田勇作陸軍准尉(ガダルカナル島西海岸四百メートル先にて戦死・二二
  歳)」


○二人の西田(西田勇作の骸)
   数分経つ。
   故西田勇作准尉の骸の傍に、もう一人の西田(魂)が立っている。
   西田(魂)が自分の骸を見て居る。
西田(M)「・・・俺が・・・二人居る・・・」

○西田勇作幽鬼兵の誕生
   西田(魂)が周囲を見る。
   銃弾や砲弾が異常に遅く飛んで行く。
   米兵が、前方のトーチカから西田の骸に向かって機銃を掃射している。
   弾が数発、故西田准尉の骸に命中する。
   西田(魂)は自分の骸の軍装を解いで身に纏う。(CG)

   「西田勇作幽鬼兵の誕生」である。

   不思議と軍装は「新品」に変わっている。(UP)
   周りを見回す西田幽鬼兵。
   骸がそこら中に転がっている。
   数人の西田の様な「魂」が茫然と自分の骸を見詰めている。
   暫くすると「魂」達は自分の骸から軍装を剥いで、身に纏う。
   「幽鬼兵」に変わったのである。
   幽鬼兵達はまた、陽炎(カゲロウ)の様に突進して行く。
西田幽鬼兵(M)「死して百鬼となり目的を敢行すべし・・・。西田勇作准尉は
           死んだ。・・・俺(幽鬼兵)は死なない。二度と死なない。
           いや、生き返らない・・・」
   西田幽鬼兵は自分の骸(ムクロ)に合掌する。
西田幽鬼兵(M)「オマエはよく戦った。後は俺が永遠に戦ってやる。百鬼とな
           って・・・」
   砲弾や銃弾が西田幽鬼兵の中を通り過ぎて行く。

○トーチカ(米兵2・機銃掃射)
   西田幽鬼兵は米兵の居るトーチカに入る。
   米兵(2)が必死に機銃を撃っている。(銃口UP)
   西田幽鬼兵が米兵の傍により、トーチカの窓穴を覗く。
   米兵達は太軍曹を狙っている。
西田幽鬼兵(M)「・・・こいつ等を殺(ヤ)らねば、太が殺(ヤ)られる」
   西田幽鬼兵は、米兵のホルスターから拳銃を引き抜く。
西田幽鬼兵(M)「? 抜けない。・・・そうか、俺は死んでいるんだ。どうす
           れば良い・・・」
   西田幽鬼兵は、大声で太軍曹を呼ぶ。
西田幽鬼兵(M)「フト~ッ! ・・・」(声が無い)
   太軍曹に銃弾が当る。
   血が空中高く、ほとばしる。
   太軍曹が、宙を手で掴みながら何かを叫んでいる。

○西田幽鬼兵と太(魂)
   西田幽鬼兵がいつの間にか、太軍曹の傍に立っている。
   太軍曹は暫く手足をバタつかせている。
   暫くすると・・・動かなくなる。
   故太 歩軍曹の骸から白い透明な液体が出て来る。
   液体が地上に立ち上がる。
西田幽鬼兵(M)「・・・魂だ。太軍曹の魂だ・・・」
   太(魂)は茫然と自分(故太 歩軍曹)の骸を見ている。

○太(フト)幽鬼兵の誕生
   暫くして、骸(ムクロ)に変わった自分の身体から軍装を解いて、自分
   (魂)に纏う。
   「 歩幽鬼兵の誕生」である。
   西田幽鬼兵は、太幽鬼兵に話しかける。
西田幽鬼兵「太、俺だ」
   太は偶然、振り返る。
西田幽鬼兵「・・・やられたな」
   太幽鬼兵が西田幽鬼兵に気付き、何かを喋る。
西田幽鬼兵「・・・聴こえない」
太幽鬼兵「・・・」(必死に何かを訴える)
西田幽鬼兵(M)「そうか、この世界には音が無いんだ。と云う事は太には俺の
           声は聴こえて無い。でも、俺は太の姿が見える。太も俺の事
           は見えている筈だ」
   西田幽鬼兵は太幽鬼兵に、林の方をゆび指す。
   太幽鬼兵が頷く。

○米兵と格闘
   西田幽鬼兵と太幽鬼兵は弾の中を走る。(UP)
   二~三歩走っただけで数百メートル先の林に着く。
   二つの幽鬼兵は樹の陰に隠れる。
   眼の前に米兵(3)が銃を構えて通り過ぎて行く。
   一人の米兵が振り返り、西田幽鬼兵を見る。
   太幽鬼兵は猛然と飛び掛かる。
   太幽鬼兵、必死に米兵の首を絞める。
太幽鬼兵「・・・?」
   米兵は、何も無かったかの様にその場を立ち去る。UP
   西田幽鬼兵は、太幽鬼兵に近付き手で「無駄だ」と云う仕草をする。
   太幽鬼兵も今の自分が解ったらしく、西田幽鬼兵を見て笑う。
   二つの幽鬼兵は川の傍に来る。
   西田幽鬼兵達よりも先に突進して行った兵の骸が、草むらに散らばって
   いる。

○作戦会議(七つの幽鬼兵)
   川岸に五つの幽鬼兵が集まっている。
   西田幽鬼兵が太幽鬼兵に、向こう岸を指さす。
   太幽鬼兵が頷く。
   一瞬にして二つの幽鬼兵は、川を渡っている。
   集まっている五つの幽鬼兵達。
   五つの幽鬼兵達は、西田幽鬼兵達を見て「挙手の敬礼」をする。
   西田達七つの幽鬼兵は草むらに腰を下ろしてこれからの作戦を練る。
   西田幽鬼兵以外の幽鬼兵達は西田幽鬼兵と太幽鬼兵の軍服の階級章を見
   て、従順に説明を聞いて居る。
   身振り手振りで案を探る西田幽鬼兵。
西田幽鬼兵「とにかく、銃が使えない。しかし、弾が当たっても俺達は死なな
        い。人間には自分達が見えない。俺達には力が無い・・・。如何
        に敵を粉砕するか・・・」
   幽鬼兵Aが起立して、手振りで話し始める。
   幽鬼兵Aは襟の階級章と軍隊手帳を開いて、部隊と名前を見せる。
幽鬼兵A「加治木中隊石川誠一と申します」
西田幽鬼兵「・・・」
石川幽鬼兵「林に火を点けたら如何ですか」
太幽鬼兵「火をどやって点(ツ)ける。もし点いても友軍も焼け死ぬぞ」
石川幽鬼兵「・・・はいッ!」
   西田幽鬼兵は周囲に散らばった友軍の骸を見て、
西田幽鬼兵「此処に集まった七人は朽ち果てない荒武者の仏の姿だ。怒りや悲
        しみ、恨みはもはや無い。軍服を纏った幽鬼兵である。どうすれ
        ば、米兵達をこの島から退去させる事が出来るか。俺達は敵兵を
        殺す事は出来ない。勿論、友軍を守る事も出来ない。そして、・・・
        もう、二度と生きた自分に戻る事は出来ないのだ」

                                       つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第35話

2017-11-06 | レーゼ小説

         第35話 

   橋本弘樹くん、最後のご挨拶の場合

外が大分暗く成ってくる。
散らかった店内に、突然ドアーチャイムが鳴る。

 音  「ピンポ~ン」

素足に運動靴を履いた「みすぼらしい男」が、店の出入り口に立っている。
静子が売り場の床に這いつくばり、カウンターの下に「落し物」が無いか覗いている。

 静子「・・・あッ、すいません。今日はお店、お休みなんです」

静子が顔を上げる。

 静子「? あッ、橋本くん! 橋本くんじゃないの」
 橋本「店長、ご無沙汰しています」
 静子「そうよ、本当に、ご無沙汰よ。あッ、ちょっと待って。今、オーナー呼んで来るから」

事務所では石田が、辞めて行ったアルバイト達の「ネームプレート」を、懐かしそうに輪ゴムでまとめている。
静子が事務所を覗く。

 静子「あら? オーナーは」
 石田「トイレじゃないッすか」
 静子「そう。あッ、橋本くんが来てるわよ」
 石田「えッ! マジッすか?」

石田は急いで売り場に出て行く。
静子がトイレの中の修造に、

 静子「アンタ! 橋本くんが来てるわよ」

トイレの中から水を流す音。

 音 「ジャー~~~」

修造が急いで出て来る。

 修造「ええ、橋本が?」
 静子「そう」

修造がハンカチで手を拭きながら、売り場に出て来る。

 修造「よ~お、橋本!」
 橋本「オーナー、お久しぶりです」
 修造「久しぶりじゃないよ~。皆ンな心配していたんだぞ」
 静子「そうよ、まったく~。突然居なくなっちゃうんだもの~。元気でやってるの?」
 橋本「大丈夫です。このと~りッ! 元気です」

石田は「冴えない姿」の橋本を見て、

 石田「・・・橋本さん、今、何やってンすか?」
 橋本「池袋のパチンコ屋で働いて居るんだ」

修造はアルバイト達の噂で、何んとなく橋本の居場所は知っていた。

 修造「やっぱりパチンコ屋か。おフクロさん心配してたぞ」
 橋本「えッ!?」

静子も心配そうに、

 静子「そうよ、まったく・・・」
 橋本「おフクロには時々電話してますから」
 静子「本当?」

修造は橋本の身体を見て、

 修造「・・・オマエ、痩せたなあ」
 橋本「そうですか? そう言えば四キロ位痩せたかな?」

石田は、昔、橋本の「パチンコ友達」だった吉村の事を思い出し、

 石田「あッ、吉村さんが会いたがってたッすよ」
 橋本「吉村か~・・・。懐かしいな。でも、もう居ないんでしょう。就職したって、聞きましたよ」
 静子「そうよ。吉村くん、地下鉄の運転手に成ったの。あの頃の人達みんな立派に成っちゃったわ」

橋本は淋しげに、

 橋本「だろうなあ・・・」
 修造「あッ、そうだ。オマエの給料ッ! まだ預かってるぞ」

橋本の顔色が変わる。

 橋本「ですよね。実は、それを貰いに来たんです」
 修造「何んだ、そうだったのか。連絡くれれば俺が持ってってやったのに。ちょっと待ってな。今持って来るから」

修造は事務所に行く。

 静子「で、橋本くんは今、どこに住んでるの?」
 橋本「パチンコ屋の寮です」
 静子「パチンコ屋の寮? アンタずっとそんな生活するつもり?」
 橋本「そんな~。もうそろそろ辞めます。就職も決まった事だし」

橋本は強がっている。
静子は橋本の性格を知り尽くしている。

修造が事務所から給料袋を持って出て来る。

 修造「お待たせ。3日分と残業代、2万9650円。はい!」

修造が橋本に袋を渡す。

 修造「開けて確かめてみな」
 橋本「あッ、はい。じゃッ、失礼して」

橋本が渡された袋を開け明細を見る。
そして中身を出して、札と小銭を確かめる。

 橋本「・・・はい。確かに」

袋を2つ折りにし、汚れたズボンの尻ポケットに入れる。
橋本は修造を見て、

 橋本「オーナー、何か手伝う事は有りませんか?」
 修造「残念だけど、もう無いな。この店は明日(アシタ)で閉店なんだ」
 橋本「みたいですね。入り口のドアーの紙を見ました」

修造は橋本の顔を見て、

 修造「・・・オマエ頑張れよ。良い男なんだから」

橋本はその一言を聞いて、急に俯いて唇を噛みしめる。

 橋本「・・・すいません」
 修造「いいよ。もう昔の事だ。オマエが辞めてからいろんなヤツが入って来た」
 橋本「でしょうね」
 静子「本当に良い思い出だったわ。橋本くんもこの店の思い出、大切にしてね。もう無くなっちゃうんだから」
 橋本「えッ! 無くなっちゃうって?」
 静子「そう。壊して、マンションに成っちゃうの」
 橋本「・・・そうなんですか。・・・はい。大切にします。有り難う御座いました。ジャ・・・」

橋本が店を出ようとすると、

 修造「橋本ッ!」
 橋本「はい」
 修造「これ少ないけれど、餞別だ。靴でも買いな」

橋本は修造の気持ちに驚いて、

 橋本「オーナー、それは貰えませんよ」
 修造「良いから持って行け。この店で会ったのも何かの縁だ。パチンコなんかで使っちゃうんじゃないぞ」

修造はティシュに包んだ「餞別」を無理やり橋本の手に握らせる。
橋本は、修造と初めて握手したあの時の「あの暖かい手の温もり」を思い出す。

 橋本「オーナー!・・・」

手を握り返し、修造を見詰める橋本。

 橋本「有り難う御座います」

修造も橋本を見詰め、

 修造「良いんだよ」

橋本が俯きながら店を出て行く。
修造と静子、石田の3人が表に出て橋本を見送る。
修造は橋本の痩せた背中に、

  修造「橋本ッ!」

橋本が振り向く。

 橋本「ハイ!」
 修造「またお越しくださいませ~ッ!」

橋本は堪えていた涙が溢れ出す。

 橋本「・・・有り難うございました」

橋本は修造と静子、石田に深々と一礼して去って行く。
石田は大粒の涙が止めどなく溢れ、店の中を走って、事務所に行ってしまう。

事務所で荷物を整理して居る石田。
修造が事務所に戻り、机の引き出しを開け、淋しそうに古い書類をシュレッターにかけ始める。
石田は修造を見て、

 石田「・・・オーナーってヤッパ良い男ッすね」 
 修造「何んだ、突然」
 石田「すッごく感動しました。最初に会った時から、どっか違うなと思ってたンすけど。・・・うん。ヤッパ、尊敬しす。・・・オーナー、またこの近くで店やりましょうよ。アタシ、オーナーとならず~と付いて行けます」
 修造「そうか? でも俺は商売なんか向いてないよ」

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第34話

2017-11-02 | レーゼ小説

         第34話

戸村貞二さんと古賀良子さん(32歳位)の場合

 修造が、店の出入り口のガラスドアーに、「お知らせ」の貼紙を貼っている。

 「平素は格別なるご愛顧を賜り厚くお礼申し上げます。さて、この度ローソン三ノ輪店は、都合により12月1日午前7時をもちまして閉店させて頂きます。長い間ご利用頂きまして、まことに有り難う御座いました。当店閉店後はお近くのローソンをご利用頂きますよう宜しくお願い申し上げます」

貼り終えて、感慨無量の表情の修造。

 修造「・・・、よしッ! 終わった」

修造が、店に入ろうとする。

 戸村「オーナーッ!」

驚いて振り向く修造。
と、そこに痩せ細ったパジャマ姿の戸村が、「微糖の缶コーヒー」を片手に立っている。

 修造「おう、久しぶり」
 戸村「オエ(俺)、もう此処にコエ(来れ)ない」
 修造「何?」
 戸村「アヒタ(明日)、アヒ(足)をチョン切る」

修造は戸村の突然の「その言葉」が理解出来ない。

 修造「足を切る?」
 戸村「そう。だから、もう会えない」

戸村の足を見る修造。
指先に包帯が何重にも巻いてある。
修造は心配そうに、

 修造「・・・どうした」
 戸村「腐った」
 修造「腐った~?」
 戸村「・・・味噌、付けていウ(いる)」
 修造「ミソ!?」
 戸村「そう。モカシ(昔)、*ヒロポン打ち過ぎた」

夢遊病者の様な戸村。

 修造「ああ、ヒロポンな」
 戸村「そう」

戸村は少し淋しそうに、

 戸村「糖尿! だからアヒタ(明日)、足をチョン切る。アカラ(だから)、もう、此処にコレナイ・・・アバヨ」

戸村はそう言い残し、缶コーヒーを片手に去って行く。
修造は呆気に取られて戸村の後ろ姿を見ている。

 修造「・・・」

戸村は缶コーヒーを飲みほし、路上に空き缶を投げ捨てる。 

 音  「カラン、カラン、カラン」

乾いた音が街に響く。

修造が事務所に戻って来る。
石田が自分のロッカーの中を片付けている。

 石田「今、戸村が来てたでしょう」
 修造「うん? ああ」
 石田「店に入らなかったッすね」
 修造「・・・うん」
 石田「最後の挨拶ッすか?」
 修造「うん」
 石田「本当ッすか?」
 修造「戸村はもう来れない」
 石田「来れない? 何ンすかそれ」
 修造「・・・明日、足を切るンだ」
 石田「えッ!? ??」

修造は寝床代わりに使っていたダンボールを、たたみ始める。
石田は静かにロッカーの扉を閉めながら、

 石田「・・・オーナー、この店本当に無くなっちゃうンすか?」
 修造「うん」
 石田「オーナーと店長、この後どうするンすか?」
 修造「そうだなあ。・・・農業でもやるか」
 石田「ノウギョウ? 百姓ッすかッ!」
 修造「うん」
 石田「シブイッすね」
 修造「この店で随分沢山弁当やムスビを捨てて来たからなあ~。罪滅ぼしでもしないと・・・」
 石田「どこでやるンすか?」
 修造「・・・どっか遠い島でも行くか」
 石田「シマ?」

修造が机の上の「書類ケース」の引き出しを開ける。
と、ケースの中から白い封筒を見つける。

 修造「うん? 何んだこれ。 ・・・古賀良子? あッ、これはッ!」
 石田「誰ッすか? 古賀良子って」

そこに静子が、オデン鍋を持って事務所に入って来る。

 静子「このオデン鍋って何かに使えそうねえ・・・」

修造は封筒を見せて、

 修造「店長! これッ」
 静子「あッ! 忘れた」

修造は静子を見て、

 修造「何んだよ~、可哀想に~・・・」
 石田「何ンすか、その手紙?」

修造は机の上に封筒を置く。

 修造「古賀くんの姉さんだ」
 石田「コガの姉さんて? あッ! あの蒸発した古賀の?」
 修造「そう」
 石田「ヤバイ手紙じゃないッすか?」
 修造「そうか?」
 石田「開けてみましょうか」
 静子「だめよ。そう云う事は犯罪よ」

石田は机の上の封筒を取る。

 石田「あれ? これ口が開いてるジャン」
 修造「えッ! 誰が開けたんだ?」
 石田「夜勤ッすよ、きっと」
 修造「ダメだな~、ッたく」
 石田「誰か先に読ンでるんだから、犯罪じゃないッすよ」

石田は封筒から便箋を取り出す。
修造は驚いて、

 修造「あッ!」

石田は便箋を広げ、読み始める。

 石田「ゼンリャク! ヒロシへ」

 古賀良子の手紙
(12日にも来たんけど、おらんかったね。足の怪我は順調に治っとん。風呂はどうしとる。父ちゃんから博にって、内緒で5万円送って来たけん、渡そう思って。父ちゃん、ああ見えて、お前んこつ、いっちょん心配しとるんよ。たまには、電話くらいしとらにゃいけん。 姉ちゃんは来月嫁に行くけん。姉ちゃん、お前んこつが心配でならんたい。今度、出て来たら絶対にクスリなんか手を出したらいけんよ。もし、そげな事ばしたら、姉ちゃんはアンタに代わって死ぬけん。皆は博んこつ親不孝もんち言うちょるが、姉ちゃんだけはアンタの見方じゃよ。牢屋に入っても、姉ちゃんや父ちゃんに手紙ば書くんよ。姉ちゃんいつでも会いに行ってやるけんね。父ちゃんは、あげなカラダに成ってしもうたけど、アタマだけはしっかりしとる。二度と父ちゃんに心配掛けるような事をしたらいかんばい。この手紙ば読んだら必ず姉ちゃんに電話くれるように。身体に充分気をつけて、風邪をひかないようにね。じゃ、  良子)

 石田「あ~あ、やっと読めた。どこの言葉ッすか?これは」

修造は目に涙を溜めながら、

 修造「博多弁たい」
 石田「?、何、泣いてンすか」
 修造「いや・・・」
 石田「随分、ンて言葉が入ってますね。で、何んスか、このクスリっちゅうのは?」
 修造「クスリ? あッ、それは・・・」

すると石田が最後の一枚の便箋を見て、

 石田「あれ? ここにも何ンか書いてある。読みますッ! 追伸 郵便局の口座に12日付けで、5万円入れた。大切に使いなさい」

石田は修造を見て、

 石田「何だ、これだけ? 以上ッ!」

修造は俯いて一言も喋れない。
静子は涙を拭きながら、

 石田「イッちゃん、読むのが上手ね」

修造はあの時の事を思い出し、コブシを握りしめる。

 修造「博もバカなヤツだ。もう少し早くこの店で会えていたら、俺がアイツの人生を変えてやったのに」

石田は2人の感激度に、

 石田「そお~すか? アタシってそんなに読むのが上手いッすか? で、このクスリって?」

静子は取り繕って、

 静子「あッ、クスリね! それは古賀くん、風邪薬飲み過ぎて肝臓を壊したらしいの」
 石田「ええッ! それで突然店に来なくなったンすか? 林から聞いたンすけど、古賀さん、女にフラレて蒸発したって言ってましたよ。それが何で牢屋なンすか?」

修造は石田から便箋を取り上げ、

 修造「ああ、此処の行(クダリ)? これは前後の文章から察するに・・・、牢屋じゃなくって病院だな。間違えたんだろう、多分」
 石田「タブン? そお~すか。しかしヤバイ間違えッすね。・・・風邪薬って怖いッすね」
 静子「怖いわよ~。イッちゃんも飲み過ぎには充分、気を付けてね」
 石田「ハイ」

静子は修造を見て、

 静子「その手紙どうしましょう」
 修造「ええ? どうしょうたって、アイツ、もう入ちゃってるし~・・・」
 石田「ハイる?」

石田は合点の行かない顔で二人を見る。

 *ヒロポン(メタンフェタミンと云い、覚せい剤である)

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第33話

2017-10-31 | レーゼ小説

          第33話

     中井伸二くん(28歳)の場合

 事務所で、いつもの様に静子が修造に気合を入れている。

 静子「アンタ! しっかりしなさいよ。アンタがしっかりしないから、この店もだらしなくなっちゃうんだから。分かるでしょう!」

静子は修造に「ヤツアタリ」しているのである。

 修造「分かってるよ~・・・」
 静子「ッたく、腹が立つ・・・」

怒りながら事務所を出て行く静子。

一人になった修造。

 修造「あ~あッ・・・。嫌だ嫌だ。こんな商売、本当に嫌だ」

修造は独り言を言いながらストコンで商品を発注している。
と、また疲労と心労で睡魔が襲って来る。
暫くすると、静子が発注台帳を取りに事務所に戻って来る。

 静子「? あッ! また寝てる。アンタ、アンタッ!」
 修造「うん? あッ、つい考え事をしてしまった。ゴメン」
 静子「何言ってんの。この間みたいなミスしないでよ」
 修造「この間?」
 静子「鮭オニッ!」
 修造「サケオニ? ああ、あれはビックリしたな。鮭が七、昆布六って入力したつもりが、鮭七六って打ち込んじまった。ハハハ、あんな事も有るんだなあ」
 静子「笑ってる場合ですか。ッとに~・・・」
 修造「スイマセンッ! しかしあんなにオニギリが来るなんて。俺、オニギリに追いかけられる夢、見たよ」
 静子「アンタ、本当に極楽トンボだわね~。あの後、アタシがどれだけ苦労した事か」
 修造「いや~、俺はシーさんが居なくてはダメだね」
 静子「何言ってんの! しっかり個数確認してよ」

修造は静子のその一言で、今迄溜まった「緊張と理性のバランス」が音を立てて崩れて行く。 

 修造「ウルサイ! 俺はもう限界だ。ロボットじゃないんだぞッ! こんな訳の分からない商売なんてやってられるか。ハエだの、万引きだの、ボケた年寄りに、人質強盗、*(お目見え強盗)、挙句の果てには覚せい剤男。この次はいったい何んだッ! 自分の時間も作れないし、ゆっくり考えようと思っても疲れが先っ立って寝てしまう。懲役食らった方がよっぽどマシだ。俺は明日から店に出ないからな。オマエ一人でヤレッ!」

静子も思い詰めたものを此処ぞとばかりに、吐きだす。

 静子「? 何言ってんの突然。 ・・・アンタは一つの仕事をやり遂げた事あるの? ちょっと落ち着いたかなと思ったら直ぐ辞めちゃう。自分がいつも正しいと思って居る。此処に来るお客さん達をよ~く見なさい。皆んなそれなりに精一杯生きてるのよ。そう云う人達が、・・・こんな店だけど、この店を頼りにして来てるんじゃない。アンタだって少しは頼りにされているのよ。アルバイトの子達だって、ああ見えてもアンタの事が好きで、アンタを信じて付いて来てるんじゃない。情け無い。ッたく!」

静子はこらえていた涙が、目から溢れ出て来る。

 修造「うるさい! 俺はこの店に居ると気が変になる。俺はオレの道を行く」
 静子「そう。行ってらっしゃい」
 修造「? 良いんだな。こんな仕事もオマエも大嫌いだッ!」
 静子「じゃ、別れましょう」
 修造「何ッ!」

そこに、そっと事務所を覗く石田。

 石田「あの~・・・」

静子は、石田をきつい目で睨み、

 静子「何ッ!」
 石田「あッ、いや。今、咲子の妹が荷物を取りに来てるンですけど」
 静子「咲子の妹ッ? うちは洗濯物の一時預かり所じゃないッ! って言っときなさい」
 石田「ハイ・・・」

静子は「咲子の忘れ物」と書いてあるダンボール箱をロッカーの上から引き下ろす。

 音 「バンッ!」

怒りながら、

 静子「何でアタシがこんな事しなくっちゃいけないの。どうしてこの店は変な客しか来ないんでしょうね。もうッ!」

修造は、静子が咲子の洗濯物をたたんでいる姿を見て、

 修造「ああ、嫌だイヤだ。もう俺はダメだッ! ちょっと外に出て来る」

修造は事務所を飛び出て行く。
静子はそれを見て、

 静子「公園に行くの?」
 修造(声)「うるさいッ!」
 静子「明日は新商品の展示会ですよッ!」
 修造(声)「わかってる。バカッ!」

*「公園」で少年達(悪ガキ)が集まってサッカーをしている。

吉松の「ブルーテント」の中が賑やかである。
テントの中では修造と吉松、それともう一人の「仲間」が楽しそうに缶詰めを突き合っている。

 修造「ヨッさん達は良いよな~」
 吉松「ハハハハ、そうかなあ。でもよ、見た目にはそう見えるが、こう云う生活はこれで中々大変なんだぜ」
 修造「そ~お?」
 吉松「そうだよ。ワシ等は明日なんて無いんだ。今日一日、精一杯生きるだけさ」

吉松はテントの中に作った「床の間」を指差す。

 吉松「・・・あれが、ワシ等の座右の銘さ」

修造は、吉松の指差した方を見る。
良く整理された「床の間」である。
そこに、このテント小屋には不似合いな「掛け軸」が掛っている。

 修造「え? 一球入魂! ・・・ほ~う」
 吉松「あれは今年の正月、皆んなで相談して気合入れて書いたんだ。なあ、中井くん」

すると、段ボールに寄り掛かり、片膝(カタヒザ)を立てて座っていた中井が、

 中井「です~」

中井の言葉は「茨城訛り」で尻上がりである。

 修造「書初め(カキゾメ)ですね」
 吉松「そう。 ・・・おッ、そうだ! 今度この中井くんが念願叶って待望のサラリーマンに成るんだ。アンタも祝ってくれないか」
 修造「ええッ! 就職が決まった? そりゃあ目出度い。で、中井さんも例の派遣切りの残党ですか?」
 中井「あッ、まあ・・・、です~」
 修造「酷いねえ。で、どんな仕事やってました?」
 中井「築地で・・・、魚屋です」
 修造「サカナ屋・・・」

中井は俯いてしまう。

 吉松「もう聞かんといてやれや。なあ、中井くん。中井くんは精一杯やったんだ。ハローワークにだって一〇八回も通って、この幸運を勝ち取ったんだ」

吉松は掛け軸の隣の「カレンダー」を見る。
修造もつられて、カレンダーを見る。
中井がボソッと一言。

 中井「・・・母親が病気なもんで」

修造は思わず中井を見て、

 修造「ビョウキ・・・」

カレンダーには、「ハロ」「面」「×」・ 「ハロ」「面」「×」・「ハロ」「面」「×」と無数に書いてある。

 吉松「見ろあれ。一〇八回だぞ。除夜の鐘じゃあるまいし、なあ。思い出すな~、あの時の事を・・・」

中井は思わず、目に涙を浮かべる。

 吉松「あれは此処の公園だった。そこの教会主催の三百回目の炊き出しパーティーの時だったな」
 中井「・・・です~」
 吉松「君は、確か一番最後に並んでた」
 中井「です、です」
 吉松「そしてあの日は、君の所まで炊き出しが回らなかったんだっけ?」
 中井「ああ・・・。です・・・です」
 吉松「ワシはそれを見て、あんまり可哀想なんでこのハウスに呼んだ。なッ?」

中井は俯いて聞いている。

 中井「・・・」
 吉松「で、サバの缶詰めと焼酎、メシをご馳走して・・・、だっけ?」

中井の俯いた目に涙が。

 中井「・・・、です」
 吉松「いろんな事、遭(ア)ったな」
 中井「はい。です・・・」
 吉松「それが、来週から花のサラリーマンだ。七倍だぞ! 七倍もの難関を通り抜ける強運が、中井くんにはまだ残ってたんだ。あん時は君の前で炊き出しが切れてしまった。が、神は捨てたもんじゃない。姿、形じゃないって言ってんだ。なあ、ナカイッ!」

中井が急に元気を取り戻し、吉松を見る。

 中井「ですッ!」

吉松は酔っている。

 吉松「飲めッ、社長ッ!」
 修造「いや、今日は。・・・この後私、夜勤なんですよ~」
 吉松「夜勤? あんな恐ろしい仕事をまだ続けて行くつもりか、君は」
 修造「いや~、まあ、それは・・・」

修造は中井を見て、

 中井「そうですか。それは目出度い。で、今度はどんな仕事を・・・」

中井は、ハニカミながら

 中井「清掃業務です」
 修造「清掃?・・・」
 中井「はい。寺や神社の草取りとゴミ収集です」
 修造「寺や神社の草取りッ!?」

修造は缶詰めの鮭を喉に詰まらせる。

 修造「ゴホッ! ・・・え、ええッ?」

修造は、五年前の失業時代(プー太郎)の、アルバイトの仕事が急に頭を過ぎる。

 吉松「ところでヨ、アンタんとこの店の近くにマンションが建つって、本当かい?」

吉松の突然の一言に驚く修造。

 修造「マッ、マンション!?」
 吉松「何んだい、聞いてないのか。町内の人は皆知っているぞ。米屋も立ち退きだってよ」
 修造「えッ!」

 *お目見え強盗(警察用語)
「内側から正式に採用され、店員や社員、アルバイトに成りすまし、職場の人間を信用させ、金庫やレジ、ロッカー等から金品を盗み取って行く詐欺強盗の事を云う」

   実 話
 ローソン亀戸店や港区のセブンイレブ、名古屋のファミリーマート等から「八百万」もの金を盗んだ「指名手配犯(高輪署より)が「この三ノ輪店」で逮捕される。
修造は高輪警察署から表彰状を受取って欲しいとの連絡が入るが、店が忙しく出席出来ず。
やむを得ず、署の捜査課長が三ノ輪店ま「表彰状」を持参。
修造は片手で受け取って、カウンターの隅に丸めて置く。

 *公園(東盛公園である)

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第32話

2017-10-30 | レーゼ小説

         第32話

     石田の母(48歳位)の場合

静子が売上書類をまとめ、銀行に出かける準備をしている。
修造は商品ファイルをテーブルに広げ、・・・見ている。

 静子「じゃ、ちょっと行って来ますから」
 修造「うん? あッ、気を付けてね。忘れ物は無い・・・な」
 静子「アンタとは違うわよ」
 修造「? そうだね」

静子が事務所を出て行く。

修造は防犯ビデオのモニターを見ている。
すると、「中年の女の客?」が店に入って来る。
店内には他に客は誰も居ない。
暫くして、石田がバックルームからカウンターに現れる。
石田が女と何かを話してる。

店内では・・・。

 石田「来るなって言っただろう。帰れよ! オマエの顔見るとむかつくンだよ。ッたく」

モニターの中で、女は石田に何かを渡そうとしている。
石田は受け取らない。
女がカウンターの上に、渡そうとした物を置く。
石田は置かれた物をフロアーに投げつける。

店内では、

 石田「オマエなんか親でもないくせに母親ズラすんな。早くウセロ! クソババー」

モニターの中で、女は黙って俯いている。
暫くすると女は、フロアーに投げ付けられたモノを拾い、淋しそうに店を出て行く。

事務所の修造は、モニターに映った光景を見て、「石田の母」だと直感する。

修造が売り場に出て行く。
さりげなく雑誌の整理を始める修造。

石田がカウンターの中からフロアーの一点を見詰めている。
修造は週刊誌を立ち読みしながら、

 修造「どうした・・・? 今の人は母さんだろう」

石田は表情を変えて明るく、

 石田「えッ! 違いますよ~」
 修造「そうか。 ・・・でも石田は嘘が下手だね。顔に書いてあるぞ」
 石田「え~、違いますッ! オーナーには関係ない事ッす」
 修造「あの人、時々店に来てるだろう。俺、見た事あるよ」

石田は黙り込んでしまう。

 修造「優しそうな、人じゃないか」
 石田「・・・」
 修造「あの人、オマエの事を心配しているんじゃないか?」
 石田「心配? 大きなお世話です。アンナヤツ」
 修造「あんなヤツ? やっぱり母さんか」

石田はきっぱりと、

 石田「違いますッ! アタシには母親なんて居ませんッ。高校ン時、オトコ作っ家を出て行きました。だからあの女は母親なンかじゃありませんッ!」
 修造「そうじゃない。俺が石田と面接した時、言ったろう。覚えてるかなあ」
 石田「え?」
 修造「母さんは母さんだ、許せるものなら許してやれって」

石田は顔を赤くして怒り始める。

 石田「だって、アタシ達家族を捨てたンですよ。そんなヤツ、母親なんかじゃ無いッすよ」
 修造「そうかな。俺はそうは思わないぞ。きっとオマエの母さんは、家族を捨てて始めて本当の母さんに目覚めたんじゃないかな? オマエだって高校を中退して、この店でいろんな事を経験し来たじゃないか。それだけ大人に成ったんだよ。人間は子供を生んで、直ぐに母親に成れる人と成れない人が居るんだ。親だって、すべて完璧で完全な親なんて居ないよ。母さんだって自分の人生を歩いているんだ。いろんな事が有るさ。いろんな事を経験して、本当の親に成って行くんじゃないのか。父さんじゃない人を好きに成る事もあるさ。それは母さんの人生だ。でも、それでようやく自分の置かれた立場が判ったんじゃないかな? だからオマエの母さんは許される人だよ。オマエの方こそ、もっとオトナに成らなくちゃな。石田もその内に結婚して子供が生まれ、母親に成ったら分かるよ」

石田は黙って聞いている。

 石田「・・・。 オーナー・・・。オーナー達って子供、居るンですか?」
 修造「子供? 俺は子供・・・居たのかな」
 石田「えッ!? ナニ、それ~」
 修造「あッ、今言った事は絶対に、店長には内緒だぞ」
 石田「何だか分かンないけど、言いませんよ・・・」

石田は修造を見て、

 石田「オーナーって凄く頭が良さそうだけど、やっぱり普通の人と違いますね。アタシ、オーナーみたいな人、初めて見ました。でも、ソンケイして良いのかなあ~・・・」
 修造「尊敬? ソンケイなんかするなよ。石田にはもっと尊敬出来る人が必ず現れる。だから、今度あの人が店に来たら、母さんと呼びながら喧嘩してあげな。あの人きっと泣いて喜ぶぞ。それがあの人に対して、石田の本当の親孝だ。・・・なッ」
 石田「・・・」

石田は俯いてカウンターを見ている。

 音  「ピンポーン」

ドアーチャイムが鳴り、店にお客が入って来る。

 修造「いらっしゃいませー」
 石田「しらっゃいませ~」

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第31話

2017-10-28 | レーゼ小説

         第31話

    坂口勘蔵さん(62歳位)の場合

2月。
外は今日も冷たい雨が降っている。
店内は客足も途絶え、静子が品出しをして、石田が濡れた床をモップで拭いている。
すると、ドアーチャイムが鳴り、スーツにネクタイの「背の高い男」が店に入って来る。

 静子「いらっしゃいませ~」
 石田「いらっしゃいませ~」

男は静子の傍に来て、背広の内ポケットから手帳を取り出し中から「名刺」を出す。
静子は驚き、

 静子「あッ! 御苦労さまです」
 男  「忙しい所すいません。ちょっと、店長さんお願い出来ますか」

静子は名刺を受取り、

 静子「オーナーですね。少しお待ち下さい」

静子は石田を見て、

 静子「石田さ~ん。ちょっと」

石田が静子の傍に来る。
石田は2人を見て、

 石田「何ンすか?」
 静子「この名刺、オーナーに」

石田は渡された名刺を見る。
男を見て、

 石田「あッ、御苦労さンす」

名刺を見ながら事務所に走って行く石田。
 
修造はいつもの様にストコンに向かい「新商品」の発注をしている。

 石田「あの~、すいません」
 修造「うん? あッ! ちょうど良い所に来た。石田さん、この商品どう思う?」

修造は商品ファイルを石田に見せる。

 石田「え? いや、今、店に刑事が来てるンすけど」
 修造「ケイジ?」
 石田「この人ッす」

石田が修造に名刺を渡す。
修造は名刺を見て、

 修造「向島警察署広域捜査課鮫島隆志。向島・・・?」

と、そこに突然、背広の男が事務所に入って来る。

 鮫島「オーナーさんでか?」
 修造「あッ、はい」
 鮫島「忙しいとこ、ちょっと良いでか?」
 修造「えッ、は、はい。何か」
 鮫島「実はですねえ、先週の金曜日そこの公園で女の子の誘拐未遂事件が有りましてね。男は捕まえたんですけど、その男、事を起こす前にこの店でT型の安全カミソリを買ってヒゲを剃ったって言ってるんですよ」
 修造「ヒゲ? ・・・金曜日の何時頃ですか」
 鮫島「本人は、昼の3時から4時の間って言ってるんですけどね」

修造は石田を見て、

 修造「石田さん、そんな客、覚えがある?」
 石田「アタシ、先週の金曜日は休みッす」
 修造「あッ、そうか。誰が出てたんだけ?」
 石田「三原ッす」
 修造「三原? あの娘、覚えているかなあ。何しろ変ったお客さんが沢山来るから。髭剃りぐらいじゃ・・・」
 鮫島「いや、それは別に良いんですけど。店長、防犯ビデオは回っていますよね」
 修造「あッ、そうか。回ってますッ! そうだ、それを見れば分かるッ!」
 鮫島「で、保管期間は?」
 修造「1週間です」
 鮫島「と言う事は、事件がちょうど1週間前だから・・・」
 修造「あッ! 有ります」

修造は頭上のビデオケースから1本を取り出し、テーブルの上に置く。

 鮫島「すいません、できたら1週間分全部お借り出来ますか?」
 修造「えッ、全部ですか?」
 鮫島「申し訳無いですけど。その代わりと言っちゃナンでが、私の方で新しい物を6本、買わせてもらいます」
 修造「え? いや、良いですよ」
 鮫島「いやいや、大切なビデオですから」
 修造「そうですか? じゃ、すいませんね~。石田さん、カウンターからレジ袋を1枚持って来てくれる」
 石田「はい!」

石田が売り場に走って行く。

 鮫島「忙しいのにすいませんねえ」
 修造「いや~、役に立てば良いですけどねえ。・・・この辺て事件が多いんじゃないですか?」
 鮫島「そうですねえ。でも昔よりは随分減りましたよ」
 修造「僕は、ここのお客さんが全部犯罪者に見える時があるんですよ」
 鮫島「ハハハハ。まあ、土地柄そう見えても仕方がないかもしれませんね」

石田がレジ袋を持って事務所に来る。

 石田「はい、オーナー」
 修造「おお、ありがとう」

修造はカセットテープを袋に入れ鮫島に渡す。

 鮫島「あ、恐縮です。 ・・・ここはオーナー店だったんですね」
 修造「えッ? あ、まあ」
 鮫島「ハハハ、じゃ、これお預かりします」
 修造「あッ、ご苦労さまです」

鮫島が事務所を出て行く。

モニターを見ている修造。
鮫島が売り場からビデオを数本まとめて、レジに持って行くのが見える。
静子が丁寧に応対している。
ドアーチャイムが鳴り、鮫島が傘を差して出て行く。

静かに成った店内。
すると、1台の古ぼけた「自転車」が店の前に止る。
自転車のスタンドを立てて、道路の人通りを確認し、男が店に入って来る。
その男は「紺の作業着の上下に、野球帽」を被っている。
身体は「小柄で痩せた労働者風」である。
雨にびっしょりと濡れている男。
石田は床の雨水をモップで拭きながら、

 石田「いらっしゃいませ~」

男は濡れた野球帽を深く被り直し、店内を一周。
さりげなく天井の防犯ビデオの位置を確認する。

静子が商品の入った箱を抱え、バックルームから出て来る。

 静子「いらっしゃいませ~」

箱から商品を出して棚に並べ始める。
と、突然ッ!
男は静子の背後に回り、羽交い絞めにする。
静子は驚いて、

 静子「ナッ、何するんですかッ!」
 男  「静かにスろッ!」

石田は何も気付かず床を拭いている。

 石田「店長~、咲子さんの洗濯物だけど、早く片付けないと・・・、また増えて・・」

石田が顔を上げる。
と、目の前に静子が立っている。

 石田「! びっくりしたなあ~。店長、驚かさないでくださないよ~」
 静子「イ、イッちゃん。ごッ、強盗!」
 石田「ゴトウ? ・・・あッ!」

静子の背後に包丁をタオルで巻いた、あの男が立っている。
すると修造が新商品のファイルを広げて、事務所から出て来る。

 修造「店長、この商品・・・?」

修造はカウンター近くの3人を見て、

 修造「あッ、ご苦労様です。あれッ、今度は防犯訓練ですか? ・・・リアルですねえ。すいません、僕、事務所に居ますから何か有ったら呼んで下さい」

修造は事務所に消えて行く。

 静子「バカッ! これが分らないの? 役立たずッ!」

男は小声で、

 男  「ウルセーッ! カネ、出せ!」
 石田「どうしますか?」
 静子「どうしますかって、・・・グリコの看板じゃない」
 石田「グリコの看板て?」
 静子「バンザイって事ッ!」
 男  「ヤカマシイーッ! バカな事言ってンじゃねー。早くレジ開けてここにカネ入れろッ!」

男はポケットから「トート(買い物袋)」を出し、石田に渡す。

 静子「石田さん、言われた通りにしなさい」

男のナイフの先が不気味に光る。

 石田「でも~・・・」
 静子「バカッ! 強盗よ。早くしないと刺されちゃうでしょ」
 石田「ア、はい」

石田はカウンターに入る。
レジを開けて、札を袋に入れ始める石田。
石田は静子を見て、

 石田「コマカイのも入れますか?」

静子は怒って、

 静子「アタシに聞いても分からないわよ」
 男  「ゴチャゴチャぬかスてねえで早くみんな入れろ。刺すぞ!」

石田はキレそうに、

 石田「ワカリマシタッ!」

仕方なくレジの小銭を袋に入れて行く石田。

 男  「早くスろ、早くッ! 見えねえのかッ! これが」

石田はキツイ眼で男を睨み、

 石田「今、入れてンじゃないッすか」
 男  「ウルセー、口答えすンなッ!」
 静子「痛いッ! 刺した。この人、本当に刺した! またやったら警察に言うわよ」
 男  「バカ野郎。俺は真剣だッ!」
 静子「?」
 石田「ハイッ、イ・レ・マ・シ・タッ!」
 男  「そっちもッ!」
 石田「え~えッ?」
 男  「え~じゃね~ッ! 早くスろッ!」

石田は舌打ちをして、

 石田「チッ、は~い」

と、修造がまた売り場に顔を出す。

 修造「あれ? まだやってるんですか」

男が修造の言葉に振り返った瞬間、石田がカウンターの下の「非常ベルボタン」を押す。
町内に、けたたましく鳴り響くベルの音。

 音  「ビリリリリリリ・・・・・・・」
 修造「ほう。防犯ベルの確認ですね。初めて聞きました。そこまでやりますか」

たじろぐ男。
男は急いで静子の腕を掴み、引き寄せる。

 男  「早くベルを止めろッ!」

男の小声が上ずっている。
修造はまだ空気が読めない

 石田「オーナー! 強盗です。警察ッ!」
 修造「やっぱりそう来ますか。分かりました。で、私が急いで事務所に戻り、警察に連絡する。そう云う行(クダ)りですね。ご苦労様です」

修造は、いそいそと事務所に戻って行く。

 静子「あッ、バカッ!」
 男  「動くなッ! 殺すぞ」

ベルの音を聞いて、店の外に人が集まって来る。
暫くすると、誰が知らせたか「パトカー」が1台、店の前に停まる。
ドアーが開いて、警官達が店に入って来る。
と、カウンター越しに男が、

 男  「来るな、殺すぞッ!」

一瞬、たじろぐ警官達。

 警官A「! ・・・分かった。出る。何人居る?」

石田が大声で、

 石田「人質が3人!」
 男  「ウルセ~ッ! 喋るな。1人1人ぶっ殺スてやる」

また1台、パトカーが停まる。
暫くするとまた1台(覆面パトカー)。
そして、「救急車」もやって来る。
警官Aが最初のパトカーのトランクを開けて、ポールを数本取り出す。
周囲に立ち入り規制のテープを張り巡らす警官A。
覆面パトカーから「刑事が2人」、通りに出て来る。
店の周りには、「野次馬」達が増えて来る。
すると、野次馬の中から1人、規制テープをくぐって店を覗く男。
吉松である。
吉松は声を殺して、

 吉松「お~い、大丈夫か~?」

すると店の中から甲高い声。

 男  「ウルセ~、ぶっ殺すッ!」

警官Aは驚いて吉松を店から遠ざける。

 警官A「ダメダメッ! 今、店に入れません!」
 吉松「いや、友達なんだよ。これが最後の見納めかも知れねえしよ~」
 警官A「ええッ!? 犯人の友達ですか」

吉松は警官Aを睨んで、

 吉松「バカ言ってんじゃねえ。俺がそんな男に見えるかッ! この店の社長とだよ」
 警官A「社長? ああ、そうですか。とにかく店に近寄らないで下さい。犯人を刺激しますから」
 吉松「刺激? 随分と高待遇だな」

吉松が何気なく店の前に置いてある「自転車」を見る。

 吉松「・・・」

どこか見覚えのある自転車である。
前輪の泥除けに「坂口勘蔵・血液型O」と書いてある。

 吉松「・・・! あれッ? この自転車」

警官Aが割って入る。

 警官A「はい、どいてどいて。立ち入り禁止! 早くどいて」

刑事達(2人)が傘を開いて打ち合わせをしている。

警官Bが2台目のパトカーのトランクを開けて「挿す又」を組み立てている。
すると刑事の1人(老齢の刑事A)が店の方に歩み寄る。
刑事Aは傘をたたんで店の中に入って行く。
店の中から怒鳴り声が。

 男  「来るな~ッ! オンナをブッ殺すぞ」

暫く騒いでいたが、急に店内が静かになる。

 店内「・・・・・・」 

男は刑事Aと、何かを話している。
暫くすると、刑事Aが店から出て来る。
刑事Aは携帯電話を開き、誰かと話しをしている。

吉松が少し離れた所で、自転車をジッと見詰めてる。
そこに店の常連、戸村が吉松の傍に来る。

 戸村「撮影?」

吉松はいぶった化に、

 吉松「強盗~ッ!」

戸村は驚きもせず無表情に、

 戸村「そう」

気にせず、店の中に入って行く戸村。
警官Aはそれを見て、驚いて、

 警官A「あッ、ダメッ! お客さん、立ち入り禁止ッ! 入っちゃダメッ!」

戸村は怒って、

 戸村「ウンパン(アンパン)を買いに来たんだッ!」

吉松が焦って戸村の傍に来て、袖を引く。

 吉松「オイ、我慢しろよ」

戸村は大声で、

 戸村「ンパ~ンッ!」
 吉松「分かった分かった。俺のハウスに行こう。甘いパンが有るからよ」

戸村が店の前でジタンダ踏みながら、ロレツの回らない言葉で、

 戸村「ウルへ~! ブカヤロー。ウンパンだーッ!」

暫くして、戸村は吉松に諭(サト)されるようにして店を離れて行く。

中々進展しないこの事態。
そこに、ローソンのマネージャー「綿引」が藤井と一緒に駆けつける。
綿引が強引に刑事達に詰め寄る。

 綿引「どない成ってるンですか。お客さんは中に居てはるンでしよ。ケガ人はおまへンやろうな」
 刑事A「大丈夫です。落ち着いて我々に任せて下さい」

刑事Aが店に入って行く。
静かな店内。
暫くして、刑事Aが店から出て来て、若手の刑事Bに、

 刑事A「タクシーを呼んでくれないか」
 刑事B「タクシー? それ、条件ですか?」
 刑事A「条件? ・・・うん。まあ、そうとも取れるな。何にか、秋田に帰りたいらしいんだ」

刑事Bは刑事Aを見て。

 刑事B「アキタッ?! 東北の? ・・・随分遠いですね」
 刑事A「いや、これは俺の勘(カン)だが、実家が秋田に在るんじゃないかあ・・・」

吉松は刑事達の傍で聞き耳を立てて居る。
と、突然大声で、

 吉松「ああッ、カンゾウだッ! やっぱり坂口勘蔵だ」

刑事達が驚いて振り向く。

 吉松「あの野郎、こんな所でヤリやがった」

刑事Aが吉松に近づき、

 刑事A「お客サン、犯人をご存知ですか?」
 吉松「おお、知ってる! 知ってるとも。坂口勘蔵、横手(ヨコテ)の親友だ」

「挿す又」を持った警官Bが、

 警官B「親友ッ!?」
 警官A「やっぱりそうでしたか」

吉松は警官Aを見て、

 吉松「ウルセーッ! この野郎。冗談言ってる場合じゃねえッ!」

警官Aが急に丁寧な言葉に変わる。

 警官A「あッ、失礼しました」

刑事Aが、吉松に近づき諭す様に、

 刑事A「すいません。彼はまだ若いんで、ついあんな事を言ってしまって。そうですか~、坂口と云う方ですか~・・・。で、どんなもんでしょう、お客さん。・・・ここは1つ坂口さんを説得してもらえませんでしょうかねえ~」
 吉松「うん? ・・・うん。あッ、いやダメだ! ワシには親友を売るような事は出来ん」

刑事Aが更に諭す。

 刑事A「お客サンの気持ちも良く分かります。でも、坂口さんもあの歳だ。これ以上の罪を重ねたらもう二度と世間には出て来られないでしょう。何んとかアンタの力で説得してもらえんでしょうか」

吉松が一点を睨んでいる。

 刑事A「・・・お客さんッ! 親友でしょう」

吉松はその一言に、天を仰いで目を硬く瞑る。
吉松の瞼に一筋の涙が。

 吉松「・・・よし! やってみょう。ちょっと待ってろ」

吉松が唇をきつく噛み、店の出入り口に向かう。

 吉松「クソ~、あのバカ野郎が・・・」

吉松がドアーをそっと開ける。
ドアーチャイムが店内に響く。
すると、カウンターの隅から絶叫に似た声が、

 坂口「来るなーッ! 1歩でも近づいたらこのオンナを殺す。俺は本気だからなッ!」

吉松は手を後ろに組み、外で見守る刑事達に「Vサイン」を送る。

店内。
落ち着いた表情の吉松。

 吉松「よ~。カンゾウ・・・」
 坂口「?・・・!? おまえ、ヨシマツか?」

刑事達が、店の中の2人を見詰めている。
吉松はカウンター越しに、坂口に親しげに話を始める。

 刑事A「・・・、上手く行った様だな」
 刑事B「ですね。乗り込みますか」
 刑事A「いや、その内に出て来るだろう」

野次馬がざわめき始める。
酔っ払いの男が、

 男  「ガンバレーッ! 負けンな~」

警官Bが「挿す又」を持って男を睨む。
男は、よどんな眼で警官Bを睨み、

 男  「?、何ンだ、文句あっか。ポリ功が怖くて酒飲めッか・・・バカたれが・・・」

刑事Bが鋭い目で男を睨む。

 男  「?・・・。あッ、スンマセ~ン。静かにしまーす」

報道関係のクルマが、店の前に停まる。
車を降り、男達が急いでトランクを開け、ビデオカメラを肩に、店の入り口に向かう。
それに続く、カメラを首に掛けた男。

 警官A「あッ、だめッ! もう少し待って下さい」

これで、すべてのお膳立てが整った。

と、坂口が静子の腕を放し、カウンターから出て来る。
吉松が優しく坂口の肩を抱いている。
吉松の肩に、もたれ掛かる坂口。
坂口は泣いているようである。

店のドアーが開く。
吉松が最初に出て来る。
少し遅れて小柄で痩せこけた坂口が、両手を腹の前に突き出し、堂々と表に出て来る。
その作法は、まさに「*道」に入った者しか出せない渋い「爽やかさ」さえ感じられる。
刑事Aが坂口の前に進み出る。

 刑事A「坂口勘蔵か・・・」
 坂口「はい。お騒がせしまスた・・・(秋田弁)」

腹の前に合わせた手首に、黒く冷い「手錠」がハメられる。

 音  「チャッ、チャッ・・・」」
 刑事A「コンビニ強盗未遂、監禁の現行犯で15時16分逮捕!」

報道陣のフラッシュが一斉にたかれる。
警官達と救急隊員が一斉に店内に入って行く。

 警官A「皆さん、怪我はないですか?」
 石田「無事ッす」

静子は髪の乱れを整えがら、

 静子「大丈夫です」
 警官A「あれ? ・・・もう1人は」
 石田「奥の事務所で仕事してます」
 警官A「シゴト?」

警官Bが奥の事務所を見に行く。
修造が段ボールを敷いてグッスリ寝て居る。

 警官B「店長さ~ん。店長ーッ! 起きて下ださ~い」

修造がおもむろに目を覚ます。

 修造「あ~、痛てててッ。あッ! オマワリさん。すいません。寝ちゃいました。・・・終わりました?」
 警官B「は~?」

通りでは坂口が、刑事Aと刑事Bに深々とお辞儀をしている。
と、坂口が突然振り向き、集まった「山谷の野次馬達」に向かい、大声で、

 坂口「皆さ~ん! お騒がせしまスた。また~・・・」

野次馬達は、坂口に熱い拍手を送る。

 野次馬達の声「頑張れーッ!」

警官達が野次馬達を退かす。

 警官A「はい、開けてー。ほら、そこッ! ジャマッ!」
 野次馬A「うっせッ! タコ」

坂口は刑事Aに頭を押さえ込まれ、車に押し込まれる。
車内で悪びれず、堂々と座っている坂口。
前席に座った刑事Aに、

 坂口「また、お世話に成ります」

坂口を乗せた覆面パトカーが走り出す。
後に続いて走り出すパトカーや救急車。

吉松が1人、電柱の後ろに隠れて泣いている。

 吉松(M)「バカ野郎・・・、よりによってこんな所で・・・」

静かになった通り。
綿引と藤井が、店内で静子と石田に事件の経緯を聞いている。
そこに、安倍信蔵巡査長が大汗をかきながら自転車で現場にやって来る。
安倍は店の入り口に自転車を停めて、

 安倍「いや~、忙しい。引ったくりだの万引きだのって、体が幾つあって足りやしない。おお、奥さん! ご無事で。ハハハハ、そうですか。良かった~。じゃ、また後でちょっと署の方へ」
 静子「はい。あッあの~、店が忙しく成るんで私だけで宜しいですか」
 安倍「勿論ですよ。それから・・・」

安倍が通りの吉松を指差し、手招きをする。

 安倍「ちょっとアンタ! 大手柄ッ!」

吉松は右手でウチワを扇ぐような仕草をして、公園の自宅(ブルーテント)に戻って行く。

 安倍「あッ、ちょっとアナタ! 鬚のアナタ、今日は離しませんよ」

綿引が、売り場の隅に呆然と立ち尽くす修造を見て、

 綿引「オーナー、大丈夫でっか!」
 修造「あッ、すいません。お騒がせしちゃって。本物だとわ~・・・。しかしこの店いろんなお客さんが来ますねえ。落ち着いて仕事も出来ゃしない」
 綿引「すンまへんな~。でもこの店、切り盛り出来るのはモモチのオーナーさんしかおまへんで~。で、オーナーも危ない目に?」
 修造「いや、私は事務所で商品の発注をしてました」
 綿引「アッラ~! やっぱりオーナー、違いまんナ~。ハハハハ」

*坂口勘蔵 前科四犯(窃盗・無銭飲食・詐欺・強盗)

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第30話

2017-10-27 | レーゼ小説

         第30 

    兵頭平八郎さん(78歳)の場合

人間、あんまり忙しいのも「ナン」である。
24時間365日休み無し。
修造が事務所で発注ファイルを見ている。
ストコンに向って、深いため息を付きながら、

 修造(M)「あ~あ・・・、これじゃ~、懲役の方がマシだな」

それは、ある昼下がり事であった。
静子がカウンターを拭いて居る。
石田はバラバラになった雑誌を整理している。
そこにきまってこの時間帯にやって来る、身なりの整った「老紳士」が・・・。

 静子「いらっしゃいませー」

老紳士はいつものように「紙袋」を手に提げて、奥の「チルドコナー」に行く。
静子は以前から、この老紳士が気に成っている。

 静子「イッちゃん、ちょっと」
 石田「は~い」
 静子「悪いけど、此処を見てて」
 石田「えッ? どうかしたンすか」
 静子「うん? ちょっとね・・・」

静子がバックルームに入って行く。

マジックミラーに貼り付いて、老紳士を見ている静子。
老紳士は紙袋を床に置き、いつもの様に漬物を1つ右手に取る。
そしてもう1つを左手に取り、暫らく見比べ・・・、1つを元の場所に戻す。
老紳士は漬物を持ってカウンターに。
静子は勘違いかと思い、売り場に出てもう一度その老紳士が戻した漬物を見る。

 静子「あら? ・・・無い」

確かに老紳士が戻した漬物が「無い」のである。

 静子「あッ、あの袋! アレだッ」

静子が急いで先回りをし、何気ない素振りで出入り口の雑誌コーナーで、雑誌を整理するフリをしている。
それとは知らず老紳士はレジを済ませ、そそくさと店を出て行く。
と、すかさず静子が、

 静子「お客様ッ!」

老紳士は驚いてその場に立ち尽くす。

 静子「お客様、今、お買い求めになった品物ですけど」
 老紳士「えッ? ああ、この漬物ですか?」
 静子「そうです」
 老紳士「此処の漬物は美味しいですねえ~」
 静子「有難う御座います。で、もう一つその袋に入っていませんか?」

老紳士は顔が蒼ざめる。

 老紳士「えッ? いや・・・」
 静子「ちょっとすいません。袋の中を見せてくれます?」
 老紳士「ど、どうぞ」

すると袋の一番上から、パックに包まれた漬物が顔を出す。

 静子「・・・この漬物は?」
 老紳士「あッ、それは他の店で買ったモノです。何か?」
 静子「いえ、ちょっと気に成ったものですから」
 老紳士「アナタ、変な言い掛かりを付けないで下さいよ。訴えますからね」
 静子「いや、それは別に良いんですけれども・・・。確か、うちの商品は容器の後ろにマジックで印が・・・。あら? これ・・・付いてますよ。ほら」

老紳士は何も言えなくなり、倒れ込むように傍の電柱に身体を崩す。

 静子「あッ、どうしました。しっかりして下さい!石田さ~んッ、石田さ~ん! オーナー呼んでちょうだ~い!」

石田が静子の声を聞き、店から飛び出て来る。
2人を見て、

 石田「あッ、ヤッベ~!」
 静子「イッちゃん、急いでオーナー呼んで!」
 石田「はいッ!」

修造が寝ぼけた顔をで、店から出て来る。

 修造「何だよ~、疲れてンだから~」

修造は電柱の傍にうずくまる老人を見て、

 修造「あッ、どうした! お爺さん! しっかりしろッ! おいッ、とにかく事務所へ。オジイサン、歩けるか? 石田さん、救急車ッ!」
 石田「はいッ!」

事務所で、静子が椅子に座り、修造が立って腕を組み、老紳士を見ている。
老紳士は椅子に座って俯いている。

 静子「お爺さん、何んであんな事したの? 今回だけじゃないでしょう」

老紳士は黙って、床の一点を見詰めている。

 静子「名前は?」

老紳士は急に観念したかのように、姿勢を正し、

 老紳士「兵頭平八郎、七八歳、独身!」
 静子「独身は良いんですけど、随分立派なお名前ですねえ。で、何か身分を証明する物はお持ち?」
 兵頭「はいッ! 有りませんッ! ? あッ、有ります」
 静子「どっちですか?」
 兵頭「有ります。年金手帳がッ!」
 静子「年金手帳? ・・・ああ、確かに証明は出来ますね」
 兵頭「すいません。もうやめますから許して下さい」
 静子「ヤメル?」
 兵頭「アタシ、・・・病気なんです」
 静子「病気? どこか悪いんですか?」
 兵頭「すぐ手が出ちゃうんです。この手が、この手が本当に悪いんです」

兵頭は自分の手を力いっぱい叩きながら、泣き始める。

 兵頭「私はもうダメだ・・・。 あの世で妻に顔向け出来ない。本当にダメな男なんです。死んだ方がましだ」
 修造「まあ、そこまで自分を責めなくても」
 兵頭「いや、許される事では有りません。何処へでも突き出して下さい。如何なる仕打ち、罰も受ける覚悟です」

暫らくして、店の前に救急車が静かに停まる。
後部ドアーが開き、救急隊員Bが中からストレッチャーを引き出し、店の中へ。
後から、もう1人の隊員Aが「赤と白のハードケース」を持って店に入って来る。
店の周りにはチラホラと次馬が。
隊員Bはカウンターの石田を見て、

 隊員B「奥ですか?」

石田がニッコリ笑い、

 石田「そうッす」
 隊員B「じゃッ、失礼します」

隊員達が事務所に入って行く。
狭い事務所にストレッチャーが運び込まれる。
隊員達は静かな事務所内に一瞬戸惑う。
修造を見て、

 隊員B「あれ? こちらで良いんですよね」
 修造「あッ、すいません。忙しいとこ」
 隊員A「で、救急の方は?」

静子が兵頭を指さし、

 静子「それが・・・。この方なんですけど」

修造は兵頭の顔を見て、

 修造「元気に成ったみたいです」
 隊員A「あッ、そうですか」

隊員Aが兵頭の傍に膝まずいて、箱から血圧計を取り出す。

 隊員A「念のため、血圧を測らせてもらいます。腕をまくってくれますか?」

兵頭は腕をまくる。
隊員Aが血圧帯を巻き、兵頭の顔を見て、

 隊員A「大丈夫ですか? 頭が痛いとか吐き気がするとか?」

兵頭は何も喋らない。
隊員は静子に、

 隊員A「どういう状況でした?」
 静子「それが、あまりの動揺で目眩がしたらしいんです」
 隊員A「動揺?」

静子は兵頭を見て、

 静子「万引きがバレテしまって」

隊員達は、得も言われぬ顔をして兵頭を見る。

 隊員A「え~ッ!?」

兵頭は突然、隊員Aにすがり付く。

 兵頭「いや、私は病気です。とても悪い病気なんです。連れて行って下さい」

呆れた顔の隊員達。

 隊員A「お客さん、困るんですよ。最近こういうケースが多くて。歩けるんでしょう?」

兵頭は突然、号泣する。

 兵頭「歩けます。大丈夫です。あ~また大勢の方に迷惑を掛けてしまった。私はもうダメです。すいません。本当~にすいません」

うなだれる兵頭。
隊員Aがテーブルの上に書類を広げる。

 隊員A「あの~、一応現場に来たと云う事で、この店の住所とオタクの名前、それと立会人の名前をここに書いてくれますか」
 兵頭「分かりました。兵頭平八郎、七八歳! 独身です」
 隊員A「いや、兵頭さん! 名前と住所を自分でココに書くんです」
 兵頭「あッ、すいません。本当にご迷惑ばっかりかけて」
 隊員A「それと、こちらに店長さんの名前。店の住所はココに書いて下さい」
 静子「あッ、はい。ここですね」

静子が書類に名前を書き始める。

 隊員A「兵頭さん、もうお歳なんですからあまり無理しない方が良いですよ」

兵頭は急に椅子を立ち、

  兵頭「すいません。本当に面目ない」

隊員Aが書類をケースに入れる。

 隊員A「じゃッ、これで失礼します」
 修造と静子が椅子を立って、
 静子「お騒がせして本当に申し訳ありませんでした」

修造は恐縮しながら隊員達に、

 修造「あッ、そこまで送ります」

修造は隊員達と事務所を出て行く。
修造の声。

 修造「まったくやんなっちゃいますよ。あんなのバッカリ・・・」

静かになった事務所。すると兵頭がまた突然、大泣きを始める。

 兵頭「ワー、私はどうしたら良いんだ」

静子は困り果てて、

 静子「・・・分かりました。じゃ、この紙に(もう万引きはやりません)と書いて下さい。それから住所と氏名、年齢も一緒に。そこに貼っときますから」

兵頭が静子の指差した壁を見て驚く。

 兵頭「えッ! こんなに私と同じ病気の方が」
 静子「困ったもんですよ」

すると、兵頭は背広の内ポケットから大きなワニ革の財布を取り出す。
そして、おもむろに5千円札を1枚取り出し、

 兵頭「あの~・・・、少ないですけどこれで」
 静子「何ですか? これは」
 兵頭「いや、ほんの罪滅ぼしです」  
 静子「あの~、木村さん。私、お爺さんを見てるとオカシイと思うんです」
 兵頭「何かお気に障りましたか?」
 静子「何んで260円のモノを盗って5千円も出すんですか?」
 兵頭「いや、ほんの気持ちですから」
 静子「気持ち? ・・・。はっきり言って気持ち悪いんですけど。帰って下さい。で、うちの店には出来るだけ来ないで下さい」

そこに、修造が戻って来る。

 修造「どうしました?」
 兵頭「いや~、ご主人! 大変、タイヘン、お騒がせしました。このと~り、このト~リです」

兵頭が修造に頭を深々と下げ、5千円札を両手で高々と献上する。

 修造「何ですか? これは」
 静子「兵頭さん! いい加減にして下さい。今度は警察を呼びますよ。早く帰って下さい」

兵頭は突然気合の入った旧軍隊式敬礼をして、

 兵頭「はい、失礼しました。兵頭平八郎、帰りますッ!」

修造は兵頭を見て優しく微笑み、

 修造「兵頭さん。・・・また来なよ」
 兵頭「えッ? よろしいんですか?」
 修造「手が悪いんでしょう」

兵頭はまた大粒の涙を流し、修造に握手を求める。

 修造「あッ、シェイクッすか?」
 兵頭「はッ?」
 修造「兵頭さん。長生きしましょうよ」
 兵頭「はいッ! 面目無い」

兵頭平八郎(78歳)が元気良く帰って行く。

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第29話

2017-10-26 | レーゼ小説

         第29話

     沢田政男くん(23歳)の場合
 
 (イメージ)
土屋が死んだ後、集会場に立て続けに「風呂屋の若主人」、「隣の酒屋の若旦那」の花輪が揚がった。
やはり、「あの世行きのエアバス」は満員になってから飛び立つものなのか。

そして年も押し迫った頃、夕勤の女子アルバイトが突然、店に来なくなった。 
修造は、急いで金正男(キムジョンナム)似の「沢田政男」と云う男を夕勤のアルバイトに入れた。

  「履歴書」から
 住所 「春日部」
 現在 「ビジネス専門学校に通学」
 希望要項 「車のローン返済のため」
 趣味 「バイクとクルマいじり」
 その他 「賞罰等 なし」

  「修造の所見」
 印象 「身長180、体重80キロの堂々たる茶髪男」
 性格 「先輩を立て、声も大きく、豪快に笑う、明るい男」
 合否 「採用!」

沢田が仕事を始めてから一週間ほど経ったある日の夕方。
いつものように、店の前に少年達(悪ガキ)がたむろしている。
すると、数台の改造バイクと、車体が地面に着きそうな白いセダンが、静かに店の前に停まる。
バイカー達は皆同じ「独特なユニホーム」を着用している。
少年達はそれを見て、そそくさと自転車に乗って去って行く。

ドアーチャイムが鳴る。
身体の大きいバイカーの男が礼儀正しく店に入って来る。

 男  「失礼します!」
 石田「いらっしゃいませ~・・・」

男はサングラスを外し、店の中を見回す。
そして石田をジッと見て、

 男  「・・・沢田先輩居(オ)りますか」
 石田「サワダ?・・・ああ、ジョンナムッすか」

男は先輩を「ジョンナム」と呼ばれ、腹が立ったのか目の色が変わる。
石田は男のその「鋭い目」を見てたじろぐ。
石田は急に「言葉使い」を改め、

 石田「あッ、沢田さんは、今休憩中です」
 男  「・・・ちょっと、良いッすか」
 石田「イ、良いッすよ。ちょっと待って下さい」
 男  「ウッス!」

石田はカウンターの後ろの受話器を取り「内線ボタン」を押す。

事務所でストコンに向かい、商品の発注をしている修造。
静子と沢田は、缶コーヒーを飲みながら楽しそうに話をしている。
静子はテーブルの上の置かれた写真を見て、

 静子「ええッ! これが沢田くんの彼女? 信じられない」

修造が思わず発注の手を止めて、机の上の写真を覗く。

 修造「オイオイオイ、良い女じゃなか。小西何とかって云うのに似てないか?」
 静子「小西真奈美? そう言えば似てるかな~・・・」
 沢田「そおッすか? ・・・う~ん。まあ、オレにはもった無いッすよ~」
 修造「どこで知り合ったんだ?」
 沢田「ダチの紹介ッすよ」
 静子「歳は?」
 沢田「オレより2つ上ッす」
 修造「2つ上 良いじゃないか」
 静子「仕事は何してるの?」
 沢田「デルモッす」

修造は写真を手に取り、

 修造「ほう、デルモか~ ・・・新宿?」
 沢田「あッ、いや、モデルッすよ」

修造と静子は驚いて、

 二人「モデルッ!」

と、内線コールが鳴る。

修造が受話器を取る。

 修造「何?」
 石田「沢田さんに面会ッす」
 修造「面会?」

修造と静子、沢田がモニターを見る。

 修造「・・・あれ? あれって、暴走族じゃないか?」
 石田「あッ! 何んだよ~、来るなって言ったのに・・・。すいません、ちょっと・・・」

沢田が急いで事務所を出て行く。

修造がモニターを見ていると、身体の大きいバイカー男がペコペコと沢田に頭を下げている。
すると、「背の高い女」が店に入って来る。
女は沢田と何か話している。
修造は静子に、

 修造「行ってみようか」
 静子「・・・そうね」

2人が売り場に出て行く。

沢田と話をしている女は「写真の女」であった。
この店には合わない、まさに「掃き溜めに鶴」の様な良い女である。
沢田は2人に気が付き、

 沢田「あッ! オーナー、俺の彼女ッす」
 修造「えッ? あッ! 百地です。これが店長の静子です。お世話に成ってます」

修造はワケの分からない会話をする。

 女  「すいません。マサオの働いている所を見たくて・・・」

バイカーの男達が数人、店に入って来る。
腕を後ろに組み、直立不動の姿勢で、

 男達「失礼しますッ!」
 沢田「なんだよオマエ等~。来るなって言ったろう~」
 男達「すいませんッ! ネエさんが・・・」

沢田はリーダーらしき男を見て、

 沢田「オマエ等、何で止めなかったんだよ」
 男達「いや・・・、まあ」

沢田がドスの利いた低い声で、

 沢田「バカ野郎・・・」

男達は声を合わせ、

 男達「ウッス!」
 沢田「神聖な職場を汚すんじゃないよ。オマエ等も早く仕事見つけろ」
 男達「ウッス!」

石田が沢田の隣で、口を開けてこの「場面」を観ている。
数人の客が店に入って来る。
が、「場違い」の雰囲気に、直ぐ出て行ってしまう。
沢田が女に向かって、

 沢田「おい。営業妨害に成るから帰ってくれよ。俺、仕事してんだからさあ」
 女  「あッ! ごめんなさい。じゃッ、皆んな帰ろう」
 男達「ウッス!」
 女  「オーナーさん、店長さん! マサオを宜しくお願いします」

修造は何故か恐縮しながら、

 修造「あッ、はい。こちらこそ、宜しくお願いします」

女は店を出て行く。
男達がそれに続く。
石田が元気よく、丁寧に、

 石田「またおこしく下さいませッ!」

入れ違いに、常連の「戸村」が店に入って来る。
戸村は痩せた肩を怒らせ、派手な女性用サンダルを引っかけ、ポケットに手を入れている。
そして、ロレツの回らない言葉で、

 戸村「オーナー、トーフ!」

修造はそっけなく、

 修造「奥ッ!」

戸村は売り場の奥に入って行く。
すると今、店を出て行った「沢田の彼女」が戻って来る。

 女  「ねえ、マサオ~。今夜は唐揚げで良い?」
 沢田「ええッ? うん。良いよ」
 女  「そう、じゃッ! ガンバッテ」
 沢田「うん」

静かに成った店内。
戸村が豆腐を持ってカウンターに来る。

 戸村「・・・良い女だ」

石田がきつい目で戸村を睨み、

 石田「129円ッ!」

戸村は130円をカウンターに置き、

 戸村「ツリはそこ」

戸村は指で募金箱を指す。
修造は、唐揚げを揚げながら沢田を見て、

 修造「オマエ、暴走族だったのか」
 沢田「えッ!? いや~、元(モト)ですよ」

戸村が2人の会話が聞こえたのか振り返り、沢田を見て、

 戸村「俺、元ヤクザ」

修造は素っ気無く、

 修造「ああ、そうですね。戸村さんは、昔ヤクザ屋さんでしたね」

戸村は痩せた肩を怒らせて、

 戸村「そう。*金町一家。親分に可愛がられたンだ」
 修造「ほう。昔はハバを効かせてたんでしょうねえ~」
 戸村「そう、昔、高橋貞二に似てるって言われた」
 修造「タカハシテイジ?」
 戸村「ショウチク(松竹)! ・・・今はジャイアンツ(巨人)」

戸村は相変わらず、話が支離滅裂である。
戸村は派手なシャツをたくし上げベルトのバックルを修造に見せる。
ジャイアンツの「シンボルマーク」の入ったバックルが光る。
沢田はそれを見て、

 沢田「?・・・」

呆れた顔の修造。

 修造「そうですか。さすが戸村さんだ。ありがとう御座います。またお越しくださいませ」

戸村は昔を思い出したように、更に肩を怒らせて、女性用サンダルを高らかに鳴らしながら店を出て行く。

 石田「ありがとう御座いま~す」 

石田は沢田を見て、

 石田「へえ、ジョンナムって、アッいや、沢田さんてゾクだったンすか」
 静子「暴走族でもあの雰囲気は相当上の格じゃない?」
 沢田「いや、ただのパシリッすよ」
 石田「サワダさん、あのゾクの服、どっかで見た事がある」
 沢田「ああ、撮影された事ありますよ。DVD、出てンじゃないッすか」
 石田「あ~? ヤッパシ! あの?」
 沢田「違う違う。俺は只のOBッすよ」

修造は沢田を見て、

 修造「オマエ、たいした男だな~・・・」
 沢田「そんな事ないッすよ。オーナー、仕事しましょう」
 修造「うん? うん」

暴走族が去って、また少年達(悪ガキ)の自転車が店の前に並ぶ。
1人の少年が店に入って来て、修造を見る。

 少年「オーナーさん!」

修造は少年を見て、急いで事務所に入って行く。

 少年「あッ、オーナー! バイト~ッ!」

店の奥から修造の声、

 修造「ウルセー。子供はダメ~ッ!」

 *「金町一家」
(山谷地区一帯を縄張りにしている手配師集団(暴力団)である。その他、この地区には住吉会(博徒集団・暴力団)浅草地区には松葉会(テキヤ集団・暴力団)が混在して居る。
当店にも、不似合いな「白いベンツ」が毎週停まり、「ジャンプ、マガジン、チャンピオン・・・」等、すべての漫画を各一冊ずつ買って行く「若い衆」が居た。勿論、通りの向こうのマンションでは「発砲事件」も発生している。当の修造も商品を入れ間違え「組」に呼び出され、説く説くと「説教」されたらしい。

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第28話

2017-10-25 | レーゼ小説

         第29話

  松前漬けの土屋さん(59歳位)の場合

通りを少し行った銭湯の隣に、三ノ輪の「集会場」が在る。
晩秋の朝、「花輪」が3つ揚がった。
修造が店の周りを掃除している。
葬儀屋の男が集会場の周りを掃除している。
修造は目を上げる。
と、葬儀屋の男と視線がぶつかる。
修造は軽く会釈する。
男も軽く会釈する。
修造は急いで売り場に戻る。

 修造「店長~、不祝儀あるよなあ」

静子が売り場の奥から、

 静子「有りますよ。・・・また?」
 修造「うん。マタだ」
 静子「今度は誰が亡くなったんでしょう」
 修造「花輪が3つだから、老人の孤独死じゃないか」
 静子「花輪の名前、見た?」
 修造「見ないよ。その内分かるんじゃない」

ドアーチャイムが鳴る。
「飯田さん」がいつもの様に、前髪にカールを巻いて店に入って来る。

 修造「いらっしゃいませ~」

飯田さんは修造を見て、

 飯田「いや~ねえ、またお葬式。ご祝儀を出すためにパートに行ってるんじゃないんだけど」
 修造「そうですねえ。うちも祝儀袋が無くなる無くなる。・・・誰が亡くなったんですか?」
 飯田「そこの橋本マンションの土屋って人(シト)」
 修造「ツチヤ?」
 飯田「そう。いつも松葉杖を突いて。あッ、この店にも何回か来てたでしょう」

修造が驚き、

 修造「ええッ! あの土屋ッ!」
 飯田「そう。アタシは関係ないんだけど今年は班長でしょう。班長なんてやりたくないわよ~。立替ばっかりよ。集金するのが大変!」
 修造「班長さんですか・・・。それはそれは。で、土屋って方は何んで亡くなったんですか?」
 飯田「病気ですって」
 修造「ああ、ビョウキね・・・」

修造は、「あの時の事」を思い出す。

  (イメージ)
修造が土屋のポケットを触っている。

 修造「・・・これは?」
 土屋「それは違うよ~」
 修造「じゃッ、この缶詰めは」
 土屋「缶詰め? そんなの知らねえ」
 修造「このソーセージは・・・」
 土屋「それは、此処じゃねえ」

修造は土屋を睨み、

 修造「・・・ウソ付くな。みんなカメラに映ってるんだからな」
 土屋「カンベンしてくれよ。俺は足が悪(ワリー)し、病気だからよ~」
 修造「だから何んだッ! 1回や2回じゃねえだろう。足が悪(ワリ)~? 手は元気じゃねえか。ナメんじゃね~ぞ」
 土屋「分ったよ~。もう2度とこの店には入らねえ」
 修造「何ッ・・・。フザケやがって・・・」

 修造(M)「・・・病気ねえ~・・・」

静子がカウンターに戻って来る。
飯田を見て、

 静子「いらっしゃいませー」
 飯田「あら店長、お疲れ様。アンタ達いつも2人で、良いわね~」
 静子「そんな事ないですよ。いつも喧嘩ばっかり」

修造は静子を見て、

 修造「土屋が死んだってよ」
 静子「ツチヤ? ツチヤってあの松前漬けの?」

石田が休憩を終えてカウンターに出て来る。
石田は飯田を見て、

 石田「いらっしゃいませ~」
 静子「イッちゃん、土屋が亡くなったんですって」
 石田「ツチヤ?」

石田は驚いて、

 石田「ええッ! あの松前漬け? 信じられない。ああ云うのは死なないと思ってた」
 静子「今夜、お通夜ですって」
 石田「通夜? 本当に死んだンすか? ちょっとアタシ見て来ますよ」
 静子「よしなさいよ」
 石田「いや、うちの店もあれだけヤラレたンだから。ちょっと・・・」

石田がユニホームを脱ぎ棄て、走って店を出て行く。

 静子「あッ! イッちゃん」

飯田さんが静子を見て、

 飯田「ヤラレた?」
 静子「あッ、いや、こっちの話しです」
 飯田「いや~ねえ・・・」

飯田は不祝儀袋を選びに、店の奥に行く。
暫くして石田が、走って戻って来る。

 石田「アイツです。棺桶の上に松葉杖が載(ノ)ってましたから」
 静子「そう。可哀想に・・・。喪主は誰なんでしょう」

飯田が不祝儀袋を持って、カウンターに来る。

 飯田「それがね、喪主さんは居ないみたい」
 修造「居ない? 居なくても葬儀は出来るんですか?」
 飯田「出来るのよ~。町会費払ってるから」 
 修造「ああ、そう云う事ね。町葬ですな」
 飯田「オーナーさんも送ってやれば」
 修造「えッ? あッ、そうですね・・・。129円です」
 飯田「はい。130円!」
 修造「有難うございます。1円お返しです。またお越し下さい」

飯田さんは3人を見て、

 飯田「じゃあ~ね」

店を出て行く。
静子はカウンターを見詰めて、淋しそうに、

 静子「あの土屋が居なく成っちゃったの~・・・」

修造は静子を見て、

 修造「送ってやればって言われても・・・。ね~」

静子は土屋が最後に店に来た時の事を思い出す。

 (イメージ)
土屋が入り口のドアーを松葉杖で叩く。

 音  「ゴン、ゴン、ゴン!」
 土屋「お~い! この間は悪かった」

静子と石田が、カウンターから土屋を睨(ニラ)む。

 土屋「松前漬け取ってくれよ。俺は、店に入れねえからよ~」

静子は売り場の奥に「松前漬け」を取りに行く。
と、松前漬けが「欠品」している。
静子は出入口の土屋を見て、

 静子「ごめんなさい。松前漬け、無いですねえ~」
 土屋「無い? 何んでねえンだよ。俺は足がワリーんだ。*いろは(マーケット)迄は遠くて買いに行けねえよ。誰か買って来てくれよ。金はやるからよ~」
 静子「・・・困りましたわねえ」

石田が小声で、

 石田「ほっとけば良いッすよ」
 静子「でも~」

土屋は入口で、

 土屋「頼むよ~」

静子は何んとなく土屋が哀れになり、

 静子「・・・アタシ、ちょっと行って来るわ」
 石田「良いッすよ~」
 静子「でも~・・・」

石田はシブい顔で舌打ちをして、

 石田「チッ、分かりましたッ。買ってくれば良いンでしょ」

ユニホームを脱いで店を出て行く石田。
土屋が入口ですれ違う。

 土屋「ネエチャン、ワリーなあ」

石田は土屋を睨み、自転車のスタンドを上げ、急いで「松前漬」を買いに行く。
土屋はカウンターの静子に、

 土屋「俺は、北海道の生まれでよ~、ガキの頃からいつも松前漬け喰ってたんだ。温かい銀シャリにかけてよ。毎日な」
 静子「・・・」
 土屋「この間は悪かったなあ~。俺はこの店には敷居が高くて入れねえんだよ」
 静子「・・・」
 土屋「中気(チュウキ)で足が悪り~しよー」

静子は土屋を睨み、

 静子「・・・足と万引きは関係ないです」
 土屋「だから、手が悪りーいんだよ~」
 静子「? 手もチュウキですか?」
 土屋「ンな事言うなよ。勘弁してくれよ~、ネエさん」
 静子「ネエさん? お客さん、あっちこっちでヤッてるんでしょう」
 土屋「この店だけだよ」
 静子「何、それッ! この間と話が違うじゃない」
 土屋「あん時は捕まったからだよ~。誰だって捕まったら嘘付くだろう」
 静子「そんなの理由にならないでしょう」
 土屋「だから、勘弁してくれって言ってんじゃねえか。金は払うから。この財布から好きなだけ取ってれよ」

土屋は首から提げた財布を見せる。
静子は冷たく、

 静子「いらないわよ」
 土屋「そう言うなよ、ネエさん」

静子はだんだんムカついて来る。

 静子「アタシはアンタの姉(ネエ)さんじゃありませんッ!」 

石田が白い袋を自転車のハンドルに提げて戻って来る。
土屋は腐った様な笑顔を浮かべて石田を見る。

 土屋「・・・悪り~な」

石田は土屋の言葉を無視してカウンターの静子に袋を渡す。

 静子「ご苦労さま。いくらだった?」
 石田「230円と交通費500円!」
 静子「交通費?」

土屋が聞こえたらしく、

 土屋「良いよ、いくらでもこの財布から取ってくれ」

静子は石田を見て、

 静子「・・・交通費はアタシが出すわ。230円ね」
 石田「店長、それはないッすよ。店長から交通費は貰えないッす」
 土屋「おい、早くしてくれよ。俺はもう金なんていられね~えんだ。いくらだってかまね~えよ」
 静子「はいはい。230円ですって」
 土屋「この財布から取ってくれ」

静子は土屋の傍に来て、松前漬けの入ったレジ袋を松葉杖に縛りつける。
そして、首から提げた財布を開ける。
中に病院の診察券と、バラ札で6500円が入っている。

 静子「じゃ、500円お預かりしますね。今、オツリを渡しますから」
 土屋「ツリなんていらねえよ。1000円取ってくれ。迷惑かけているんだから」
 静子「うちは、そんな商売はやっていません。お金は大切にしなさい」

土屋は静子を見て、

 土屋「・・・ネエさん、良い女だねえ。気に入ったよ」
 静子「バカ言ってんじゃないです」

静子は自分のポケットから財布を取り出し、オツリを見せて土屋の財布に入れる。

 静子「はい! 270円入れたわよ」
 土屋「悪り~なあ。ついでに、あっちのネエチャンにそっから1000円抜いて渡してくれ」
 静子「ええ?」

静子は石田を見る。

 石田「・・・良いッすよ。足や手の悪(ワリー)い男から金は貰えないッす」

静子は土屋を見て、

 静子「ッて言う事です。もう無理して万引きはやらないで下さいね。体に良くないですから」
 土屋「分かったよ。・・・松前漬けはいつも入れといてくれよな。俺は足が悪り~んだから」
 静子「分かりました。いつもアタシが注文しときます」

土屋は石田を見て、

 土屋「ネエちゃん、世話掛けたな。オメーも良い女だ」

石田は土屋を見て、呆れた顔でため息を付く。

 石田「・・・気を付けて帰んな」
 土屋「おう!」

土屋は袋のぶら下がった松葉杖を突きながら、帰って行く。
静かに成った店内。

 石田「店長って、優しいッすね」
 静子「何言ってんの。お得意さんじゃない」
 石田「はあ~?」

 「翌日から静子は毎日松前漬けを入れて置く」

が、土屋は来なかった。

数日経った北風が吹く昼下がり。
静子は何気なくカウンターから外を見ている。
と、久しぶりに土屋が松葉杖を突いて店の前を通り過ぎる。

 静子「あら? あの人、松前漬けいらないのかしら」

石田が静子のその言葉を聞いて外を見る。

 石田「ああ、飽きたンじゃないッすか」

静子は妙な予感がして表に出て来る。
土屋は「クスリ袋」を松葉杖にくくり付け、淋しそうに歩いて行く。

土屋に声を掛ける静子。

 静子「あの~・・・」

土屋は振り向きもせず、痩せた脇の下に松葉杖を挟(ハサ)んでマンションの中に消えて行く。

 静子が土屋を見たのは「その日が最後」だった。

静子はカウンターで、

 静子「アンタ、・・・行ってやんなさいよ。可哀そうじゃない」
 修造「うん?」

修造は溜息を付いて、

 修造「喪服は?」
 静子「その格好で良いじゃない。松前漬けを祭壇に挙げてやってね。あの人、大好きだったんだから」

と、石田が突然、

 石田「アタシも一緒に行きます」
 静子「えッ?」

静子は石田を見て、

 静子「・・・そう。じゃッ」

静子が売り場から香典袋を持って来て、

 静子「イッちゃん、これ打っといて」
 石田「はい」

静子はポケットから財布を取り出し、中から5000円を出す。

 静子「アンタ、これを入れてローソン三ノ輪店一同で挙(ア)げてらっしゃい」

石田はそれを見て、

 石田「店長、・・・格好良いッすね」

 *「いろは商店街」
(山谷地区では有名なマーケット。当時、沢山のホームレスが路上生活してを居ました)

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第27話

2017-10-24 | レーゼ小説

          第27話

     ヨーグルトの男(65歳位)の場合

夏の終わり。
3日前から、妙な男の客が店に来る。
男は店が暇に成った「午前10時」と「午後3時」に必ず現れる。
初老で身なりもキチッとして、金銭もある程度所持している「様」である。
今日もドアチャイムが鳴り、その男が店に現れた。
石田がバラバラになった雑誌を整理している。

 石田「いらっしゃいませ~」

男は周りの商品には目も呉れず、ゆっくりと売り場の奥へ消えて行く。
チルドコーナーまで来ると「ヨーグルト」を手に取り、パンコーナーで、「食パン」を手に取る。
そして、・・・カウンターに持って来る。

 静子「いらっしゃいませ~」

静子は商品をスキャン。

 静子「2点で296円になります」

男はポケットの中から「十数枚」の折り畳んだ「裸の一万円札」を取り出す。

 男  「・・・1万円で良いですか?」

静子は笑顔で、

 静子「どうぞ」

男は小声で入り口のコピー機を指差し、

 男  「あの~・・・、そこで食べさせてもらっても良いですか」
 静子「えッ? あッ、どうぞ。お客さんも居ないし、どうぞ」

1万円を渡す男。

 静子「9704円のお返しです。ありがとう御座います」

男はコピー機の上にヨーグルトと食パンを置き、表通りを眺めながらシミジミと食べ始める。
暫くして食べ終わると、塵をカウンターに戻し、

 男  「御馳走様でした」

静子は笑顔で、

 静子「あッ、ありがとうございます。またお越し下さいませ~」

男は、公園の方に消えて行く。
この3日間、男はいつもこの形である。

静子と石田がカウンターで話している。

 石田「ああ、あの男ッすか? 昨日公園のベンチで傘を差して寝てましたよ」
 静子「ええッ! お金は随分持ってるみたいだけど・・・」
 石田「ヤバイ事でもやって来たンじゃないッすか」
 静子「え~? そんな人には見えないけど・・・」

こんな事が続いた数日後。
いつもの様に、静子と石田がカウンターで話しをている。

 石田「店長、朝、戸村が公園でヨーグルト男にタカってましたよ」
 静子「タカってた? 困った人ね~」
 石田「コマッたって、アイツあれが本業ッすよ。ケッコウ、気入れて仕事してましたよ」
 静子「キイレテ?」

静子は舌打ちをして、

 静子「チッ ・・・可哀想に」
 石田「どっちもどっちッすよ。あの男だって叩けば埃が出るンだから」

静子は石田を見る。

 静子「・・・」
 石田「? 何か」
 静子「えッ? いや、イッちゃんて随分、難しい言葉知ってるのね」
 石田「刑事物、好きッすから」
 静子「へ~え。・・・でもあの人、最近痩せたわね」
 石田「そりゃ、公園で生活してたらどんな金持ちだって一週間で痩せちまいますよ~。それを超えて行ければ、イッパシのプー太郎に成れるンすよ」
 静子「へ~・・・。ヨッさんて云う人も、そうだったのかしら」
 石田「ヨッさん? ブルーテント? ああ、アレも最初は苦労したンじゃないッすか? でも家を作ったンだから大したもンすよ」
 静子「イエ? ああ、家ね・・・」

それから2ヶ月程(ホド)経ち、季節は「秋霖」に変る。
ドアーの向こうは雨・雨・雨。
静子が雑誌を整理している。
ふと、外を見ると傘を折りたたんで、あの男が久しぶりに店にやって来る。
ドアーチャイムが鳴る。
上着はいつの間にか、汚れた「ウインドブレーカー」に変わっている。 
革靴は履いているが、靴下は履いてない。 
長く風呂に入っていないせいか、独特な「臭い」が漂っている。

 静子「いらっしゃいませ~」

男は以前のようにチルドコナーに行き「ヨーグルト」を見ている。
「が」、今日のあの男の様子は少し違っていた。
男はヨーグルトを見ながら震えているのである。
静子はさり気無く男の背後を通り過ぎ、バックルームに入る。
暫くヨーグルトを見詰め、決心したのか様に、それを手に取り、パンコーナーに向う。
そして、食パンをジッと見ながら、やはり震えている。
暫くして、静子がカウンターに戻る。
男は「ヨーグルト」と「食パン」を手にカウンターに来る。

 静子「いらっしゃいませ~」

男は商品をカウンターに置き静子を見て、

 男 「あの~・・・」
 静子「はい! 何か?」
 男 「すいません・・・。お金が無いんです」

静子は驚いて、

 静子「えッ? あら、どうしましょう」
 男 「・・・食べさせて下さい」
 静子「食べ? ・・・困ったわ~。ウチは商売しているんですけど」

そこに、修造が事務所から出て来る。

静子と男を見て、

 修造「どうした?」
 静子「あッ、このお客さん、お金持って無いんですって」
 修造「お金が無い?」

修造は男の風体を見て、

 修造「・・・じゃ買えないだろう」
 静子「お客さん、可哀想ですけど売る事は出来ないです」
 男 「・・・警察を呼んで下さい。お腹が空いて・・・」
 静子「そう言われても~・・・。困ったわねえ」

静子は修造を見る。

 修造「そうだな~。警察ねえ・・・。万引か? 泥棒か? 無銭飲食・・・」

修造はまた、あの時の「代議士(オヤジ)の言葉」が頭を過ぎる。

 (イメージ)
  代議士「ここに居るのは君と私だけじゃないか。なら、法律は・・・」

 修造「・・・お客さん、いつも食べてるそこのコピー機の上で食べなさい。俺が立て替えておくるから」
 静子「ええッ!?」
 修造「いいよ。・・・いい。さあ、早く食べなさい。店員が出て来ない内に」

静子は修造を見詰める。
男は目に涙を浮かべながら、

 男 「ありがとうございます。ありがとうございます」

「ヨーグルト」と「食パン」を持って、コピー機の上で震えながら食べ始める男。
静子が黙って男を見ている。
修造は何も無かったかの様に、事務所に戻って行く。
石田が商品を抱えてバックルームから出て来る。

 石田「店長、バカウケが欠品ンすよ。夜勤がチョンボしたンじゃないッすか」
 静子「あら、一番売れているのに。林君だな・・・」
 石田「アイツも時々跳(ト)ばしますからね。店長、確認した方がいいッすよ」
 静子「そうねえ」

石田が棚に、商品を埋めて行く。
何気なく、入り口のコピー機の男を見る石田。
石田は空箱を潰(ツブ)してバックルームに持って行く。
暫くして、カウンターに戻って来る石田。
小声で石田が、

 石田「店長、あの男、久しぶりッすね」
 静子「えッ? あッ、・・・そうね」
 石田「あの姿じゃ、とうとう金も無くなったンしょ」

静子はきつい眼で石田を睨む。

 静子「・・・」
 石田「あッ、アタシ何か言いました?」
 静子「いえ、何も」

静子は溜息を付き

 静子「・・・そうかもしれないわね」
 石田「もうそろそろ、病院か警察行きッすよ。店長、店に来たらマークして下さいね。何かクレなんて言われても無視した方が良いッすよ」
 静子「あッ? ソッ、そうね」

ドアチャイムと共に、客が店に入って来る。

 静子「いらっしゃいませ~」

客はコピー機を使いたいのか、男の後ろに立つ。

 男  「あッ、すいません」

男は急いでパンとヨーグルトを片付ける。
客は呆れた顔でカウンターの静子を見る。
男は淋しそうに静子に、

 男  「・・・ご馳走さまでした」

丁寧にお辞儀をして店を出て行く。
その日を最後に、男は店に来なく成った。

数日して、救急車が静かに店の前を通り過ぎる。

 静子「あら、何か遭ったのかしら?」
 石田「そおッすね」

外を掃除していた修造が店に入って来る。

 修造「救急車が公園の方に曲がったぞ」
 石田「もしかしたら、あの男ッすよ。今朝(ケサ)、ベンチでビニール傘を開いて裸足で寝てましたから」
 静子「あの男って?」
 石田「ヨーグルトの男ッすよ」
 静子「ええッ!」
 石田「アイツ、ガレガレでしたよ。生きてンのかな」
 静子「そんな~・・・」
 石田「アイツには無理ッす。ここで生きて行くのは。けっこう大変スからね」

それを聞いていた修造が、

 修造「ヨッさんに相談すれば良かったのに~」
 石田「無理、ムリ」

公園に救急車が停まる。
助手席のドアーが開き、救急隊員がベンチの男に向かう。
隊員が男に声を掛ける。

 隊員「もしも~し、ダンナ~ッ! 聞こえますかー」

男は反応がない。
ストレッチャーが降ろされる。
男を載せて救急車が静かに走り出す。

戸村が1人、男を見送っている。

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第25話と第26話

2017-10-23 | レーゼ小説

         第25話 
 
     淋しい男(45歳位)の場合

静子も腹が立っていた。
この男も臭かった。
早朝、ドアーチャイムが鳴り、男は笑顔で店に入って来た。

 静子「いらっしゃいませ~」
 男  「・・・ママッ! おはよう~」

以前、店で一度見た事のある男であった。
今日は妙に親しげに、静子を「ママ」と呼んでいる。
静子はコンビニで「ママ」と呼ばれたのは、生まれて初めてである。
静子は男を睨んで、

 静子「ここは、お酒は置いて有りませんよ」

男は店の入り口に仁王立ちになり、

 男  「ンな事、言うなよ~。・・・オデン買いに来たンだ」

静子はその言葉を無視して、雑巾でカウンターの上を拭き始める。
男は甘ったれた声で、

 男  「マ~マッ! オデン」

静子は冷たく、

 静子「オデンはこちらです」

男は少しヨロケながらカウンターの隅の「オデンコーナー」に行く。
カウンターに両手を突き、鍋の中身を覗く男。
男は「鼻クソ」をほじりながら、

 男  「・・・チクワブ、・・・シラタキ、タマゴ、あと~・・・」

男の身体は酔いのせいで前後に揺れている。
鍋の中の「ツミレ」を指差し、

 男  「これッ!」

すると身体が揺れて、鍋の中に指を入れてしまう。 

 男  「あちッ!」
 静子「あッ! だめじゃないですか~。指を入れたりして~・・・。皆んなが食べる商品ですよ。どうするんですか~」

男の目は据(ス)わっている。

 男  「・・・何ッ!」
 静子「ナニじゃないですよ~。衛生上の問題です。鍋の中に指を入れて品物を選んだ人は、オタクだけですよ! どうするんですかッ! ッたく~」

すると、修造が事務所から出て来る。

 修造「どうした?」
 静子「どうしたじゃないですよ~。この人、オデンの中に指を入れちゃったんですよ~」
 修造「ユビ~ッ!」

修造は酔った男を睨む。

 修造「お客さん、だめじゃないですか。全部買って貰いますよ」
 男  「そんな事言うなよ~、マスター」
 修造「マスター? ここは飲み屋じゃないですッ!」

男は修造を見て、

 男  「・・・」

急にオラシく、

 男 「悪かった、謝る!」

と言いながら、また身体が揺れ、オデン鍋の中に指を入れてしまう。
静子は突然、「伸びたゴムが切れる」ように、オデン鍋の中のトングを掴み、男の指を力強く叩く。

 男  「イテッ!」
 静子「全部買って下さいッ!」
 男  「ンな怒るなよ~、ねえ、マスター。金は有るンだから・・・」

男はポケットの中からクシャクシャな1000円札数枚と小銭を取り出す。
そして鍋越に、修造に小銭を渡そうと手を差し出した途端、

 静子「あッ!」

声と同時に小銭が鍋の中に数枚落ちる。

 修造「あ~あ、もうだめだ。売り物にならない」
 男  「ワリッ! ツリは入らねえ」

男は鍋の中の小銭を指差し、

 男  「それ全部取っといてくれ」

謝りながら揺れている「酔っ払い男」。
静子と修造は、何と答えて良いのか分らない。
2人は渋い顔で男を見詰めている。

 男  「ホント~ウにワリッ! ・・・ワリ~けど、さっき言ったオデンだけ皿に入れてくれ。此処で喰って行く」

静子は男を睨み、

 静子「だめです! 此処は、立ち食いは禁止ッ!」
 男  「ママ~、そんな固いこと言うなよ~」
 静子「アタシはママじゃ有りませんッ!」
 男  「分かった。怒るなッ! なあ、マスター。皆んな仲間じゃねえか」
 修造「ナカマ? アタシはアンタとは関係有りません!」

静子は怒りながら渋々、カウンターの後ろのケースから「トレー」を取り出し、オデンを入れる。

 静子「はいッ!」

男にオデンを突出す静子。

 男  「ワリッ! 迷惑かけた。ママ、箸なかなんか・・・」

静子はカウンターの上に箸を力強く叩き置く。
男は気合が入った声で、

 男  「アリガトウッ! ホントーに、ワリッ!」

そう言いながら、箸を割ってカウンターの前でオデンを旨そうに食べ始める。

 静子「ああ、だめッ!」

と、ドアーチャイムが鳴り、お客が数人、店の中に入って来る。
修造は丁重に、

 修造「お客さん、オデンを持って家に帰りましょう。さあ、さあ」
 男  「ここで食わせてくれよ~、ママ~、俺は淋しいンだよ」
 修造「さあ、お客さん! 行きましょう。オテントウ様がまぶしいよ~。ハハハハ」

男は駄々(ダダ)をこねるようにして、修造に連れられ、店を出て行く。
酒臭さが、鍋の周りに漂っている。
床に食べかけの「チクワブ」が一つ、転がっている。
静子は思わず、カウンターの後ろのダストボックスを力一杯蹴飛ばす。

 音  「ドンッ!」

石田が出勤して来る。

 石田「おはよ~ございまーす」
 静子「ナニッ!?」

石田は静子を見て、

 石田「? 荒れてますね。何ンか遭ったンすか?」
 静子「冗談じゃないわよ。何がママよ。ふざけやがって」
 石田「ママ? ああ、此処の客ッすね。そんなの序の口ッすよ。アタシなんてネエチャン! 氷あるー? ッすよ」
 静子「あ~あ、ヤダヤダ、こんな店!」
 石田「だから言ったッしょ。此処の店はマトモじゃないって」


         第26話

     尻男(40歳位)の場合

この日ぐらい衝撃的な日はなかった。
夏の暑い朝、ドアーチャイムが鳴り、常連の客の「飯田さん」が店に入って来る。
と、カウンターの前に来て小声で、

 飯田「店長、そこの空き地で人が死んでるみたいよイヤ~ね~」

静子は驚いて、

 静子「死んでるッ?」

客の1人が、

 客 「ああ、公園の隣の空き地でしょう。あの人、死んでるの?」
 石田「ヤベッ! またかよ~。アタシ、見て来ます」

急いでユニホームを脱ぎ、走って店を出て行く石田。
静子は呆気に取られて、石田を見ている。

 静子「! ・・・」

修造が発注を終えて事務所から出て来る。

 修造「いらっしゃいませ~」

静子は修造に小声で、

 静子「人が死んでるみたい」

修造は驚いて、

 修造「死んでるッ!?」

石田が息を切らせ店に戻って来る。

 石田「店長! 死んでます。下半身裸で!」   
 静子「下半身ハダカ?」
 石田「暑いからじゃないッすか?」
 静子「そんな・・・。オーナー、警察に連絡した方が良いんじゃない」
 修造「そうだなあ。俺もちょっと見て来るか。何処だ?」
 石田「公園の隣の空き地ッす」
 修造「分かった」

静子は修造を見て、

 静子「直ぐに戻って来てよ。忙しいんだから」
 修造「うん? うん・・・」

店を出て行く修造。
暫くして修造が戻って来る。
修造は石田に、

 修造「公園の隣の空き地だよなあ。誰も居なかったぞ」
 石田「居ない? ・・・どッかに行ったンじゃないッすか」
 修造「死人がか? ンなバカな~、寝てたんじゃないのか」
 石田「あんな草ン中で寝てる人なンていないッすよ」
 修造「じゃ~どうしたンだ?」
 石田「?・・・」

何気なく外を見る修造。
と、店の前をのんびりと白い自転車が通り過ぎる。
下谷警察署の「安倍巡査長」である。
その後を、トボトボと一人の男が付いて行く。
この店の周囲の環境からすると、ごく自然な風景である。
修造は目を逸(ソ)らそうとした途端、視線が固まってしまう。
男の上半身は垢(アカ)で汚れた「肌着1枚」。
しかし、下半身は「無垢(ムク)」で「裸足」である。
修造は得も言われぬ声を出す。

 修造「あ~ッ!」

飯田が修造の傍に来て、

 飯田「あの人じゃない? 空き地で死んでた人って」

静子と石田が修造の視線を辿(タド)る。

 石田「ええ~、マジッ!」

静子は急いで視線を逸(ソ)らす。

 客  「あの人ですよ。やっぱり寝てたんだ」
 静子「でも、良かったじゃない。生きてて」

飯田は通り過ぎる男を見ながら、

 飯田「そうよね~」

すると、いつの間にか通り過ぎた「白い自転車」が店の前に戻って来る。
自転車のスタンドを下げるげる音。

 音  「カタン」

あの安倍が男と何か話をしている。
暫くすると男が店に入って来る。
店の客は、蜘蛛の子を散らしたように、居なくなる。

 安倍「店長ッ! すいませんね~。何か欲しい物が有るらしいんです」

静子もそそくさと事務所へ消えて行く。
そして、石田は売り場の奥へ・・・。
安倍は男に距離を置き、背中に向かって、

 安倍「迷惑は掛けるなよ」

男は無言で売り場の中を徘徊する。
下半身の「ナマ尻」が、ひときわ修造の目の中を過ぎる。
売り場の奥で石田の悲鳴が聞こえる。

 石田「キャ~ッ!」

安倍は諭すように、

 安倍「ほら~ッ、迷惑を掛けるなー」

すると男はドリンクコーナーの前で止まったまま、動かない。
安倍はそれを見て、

 安倍「うん? 欲しいのか。これか?」

「オロナミンC」を取る安倍。
男は無視して、「ウーロン茶」を手に取る。

 安倍「ああ、それか。じゃあ、それを買って帰ろう」

男はウーロン茶を持ってカウンターに来る。

 修造「いらっしゃいませ~」

安倍は男と距離を置き、笑いながら、

 安倍「店長、すいませんね~。それを一つ」

制服のポケットから小さなガマグチを取り出し、小銭をカウンターの上に置く。

 修造「ありがとうござおます。大変ですね~」
 安倍「いや~、仕事ですから・・・。さッ、もう帰ろう」

男はウーロン茶のペットボトルを持って店を出て行く。
安倍が後を追って白い自転車にまたがる。
と、また男と何か話しをている。
暫くすると、男が店の入り口の柱に寄り掛かり、カウンターの修造を見ながら、ウーロン茶を飲み始める。

 安倍「おい、行こう。もう良いだろう。あまり迷惑掛けるな」

すると、男は突然修造の方に「ナマ尻」を向けて、横たわる。
安倍は一瞬焦って、

 安倍「あッ、おい、コラッ! 立てッ、何をしている」

客の一人が店を出ようと試みるが、臭さと気持ち悪さで、男をまたぐ勇気が出ない。
安倍は、堪忍袋の緒が切れたのか、

 安倍「おいッ! 営業妨害だ。立てッ!」

男は安倍の怒鳴り声を無視して、寝たふりをしている。
安倍は汚いものでも触るように警棒で男の尻を突く。
男は抵抗するかのように寝返りを打つ。
安倍は、革靴の先で男の尻をこずく。
男はこれにも抵抗するかのように、寝たまま 汚れた肌着を脱ぎ捨てる。
素っ裸で、母の胎内に居るような形で丸く成る男。

 安倍「コイツ、コラッ! いい加減にせんか。立てッ!」

その男、返事をするかのように「放屁」をする。

 音 「プ~」

安倍の顔色が変わる。

 安倍「あッ! キサマ、本官をバカにしたな。こらッ立て!」 

安倍が警棒で力強く男の尻を叩く。
丸裸の男は諦(アキラ)めたのか、ようやく立ち上がる。
安倍はカウンターの修造と静子に軽く敬礼して、

 安倍「すいません。さあ、行くぞ」

安倍は白い自転車にまたがり、丸裸の男と共に消えて行く。
が、数分してまた、白い自転車と丸裸の男が店の前を行ったり来たり・・・。

 飯田「暑くなると裸が一番かもねえ。イヤーね~」

修造と静子は開いた口が塞がらない。

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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スラム(この人達を見よ)第23話と第24話

2017-10-22 | レーゼ小説

         第23話

   呉服屋の若旦那(43歳位)の場合

春の事であった。
最近、また変んな男が常連に成った。
彼はいつも、「午前中」の一段落した時間にやって来る。

最初の日。
修造はカウンター内で配送物の整理をしていた。
静子と石田は、売り場で品出しをしている。
すると、遠くで怒鳴り声(歌)が聞こえる。
修造は耳を澄ます。
と、誰かがモニカ(歌・吉川晃司)と謂う唱を大声で歌ってる。
「みたいである」。

 男(声)「セッ、セッ、セッ、セックス! モ~二カ~、ソレッ、セッ、セッ、セッ、セックス、モ二~カ~! バカ野郎~! トツゲ~キッ! モ~二カ~! ワッハハハハ・・・」

その声が徐々に店に近付いて来る。
修造は嫌な予感がして来る。
声が止む。

 男(声) 「・・・」

その予感は的中した。
「大きい男」であった。
男はもう少しで、店の入り口に頭がぶつかりそうであった。
修造と静子と石田は目が点になり、その男を見る。
男は首を曲げて、店に入って来る。
革靴を履き、黒縁の眼鏡を掛け、身なりこそコザッパリとした大男である。
石田は急いでバックルームに逃げて行く。
修造は男を見て、

 修造「・・・いらっしゃいませ・・・」

大男は修造の声を無視して、雑誌コーナーで静かに立ち読みを始める。
暫くすると、数冊の週刊誌と漫画、「キティーちゃんの絵柄のお菓子」を2つ手に取り、カウンターに持って来る。
石田はバックルームの奥から男の様子を窺い、そっとカウンターに出て来る。

 石田「・・・いらっしゃいませ・・・」

大男は小さな石田を上から見下ろす。
と、突然、「バス(低音)の利いた声」で歌うように手に持った商品名を読み上げながらカウンターに置いて行く。

 大男「週刊新潮が1~冊、文春が1~冊、現代が1~冊、ビジネスが1~冊、ポストが1~冊、経済と朝日が1~冊、碁が1~冊、チャンピオンとジャンプが1冊ずつ~、それと、お菓子が2つ~。全部で12点~!」

石田は恐ろしさに「たじろぎ」ながら商品をスキャンして行く。
そして、最後に「キィテーちゃんのお菓子」を。

 石田「・・・。11点で3877円になります」
 大男「??・・・?。12点で4020円じゃないの?」
 石田「えッ!? あッ! すいません、もう1つ有りました」

石田は焦って、カウンターの上にもう1つの残った「キティーのお菓子」をスキャンする。
大男は石田をジッと見て、

 大男「ああ~? ・・・間違えた。マチガエタ。マチガエタ。マチエタ、たらマチガエタ!」

スイッチが入ったように、大声で歌い始める大男。
石田はたまらなく恐ろしくなり、後ずさりしてカウンターの後ろに張り付く。
大男は歌い続ける。

 大男「キィテーのお菓子をマチガエタ~、キィテーのお菓子をマチガエタ~~~!」

大声で歌いながら「小さなサイフ」から4100円を取り出す。
石田は震えた両手で、丁寧に代金を受け取る。
そしてオツリを渡すが、焦っているので、オツリが10円足りない。
するとまた大男が、

 大男「・・・?! 80円のお釣じゃないの?」
 石田「あッ! スイマセン」

石田が急いで10円を渡す。
大男はまた発狂したかの様に、

 大男「お釣を間違えたッ! キテーとオツリをマチガエタ! キテーとオツリをマチガエタ。マチガエタたらマチガエタ~~~」

大声で歌いながら店を出て行く大男。
すると、町内が暫く静かになる。
と、また突然、遠くでまたあの強烈な大声が聞こえて来る。

 男(声)「突っ込め~ッ! マチガエタ~、バカヤロ~。セックスだ~! ブチコンデヤレ~ッ! バカヤロ~! ガッハハハ、モ~二カ~!」

ドアーチャイムが鳴り、常連の「飯田さん」が店に入って来る。
飯田さんは静子を見て、

 飯田「いやーね~、あの人」
 静子「あッ、いらっしゃいませ~」
 飯田「あの人、呉服屋さんの若旦那よ。子供の頃は頭が良くて、そこの芸大出たんだけど。この時期になるとオカシクなるみたい。オペラやってたらしいわ。子供も居るのよ」
 静子「そうなんですか?」
 飯田「普段は、とっても静かな人(シト)なの」

修造が、売り場の奥から出て来て、

 修造「ああ、やっぱりねえ。春だから・・・」


         第24話

     組合の男(62歳位)の場合

修造は腹が立っていた。
その男は必ず店の空(ス)いた時間にやって来る。
杖を突いた年配の「小柄な男」であった。
男はいつもの様に「毎日新聞」と「東京スポ」を買って、売り場を一周して出て行く。

だが、その日は少し違っていた。
男は売り場の奥へ行ったまま出て来ない。
修造は不審に思いカウンターから奥の売り場を覗く。
「と」、一筋の線香の煙の様なモノが天井に立ち昇る。
暫くすると「ニコチン」の、あの嫌な臭いが、店内の新鮮な空気を切り裂く。
修造が奥を覗くと・・・。
男は店内でタバコを旨そうに吸って居るではないか。
修造は急いで男の傍に行き、

 修造「お客さん、タバコはよしましょうよ」

男は修造を一瞥。
無視したまま、「また一服」、旨そうに吸う。
修造は、昂(タカ)ぶる気持ちを抑え、

 修造「お客さん! 店内は禁煙です。タバコは外でお願いしますよ~」

すると男は吸いかけのタバコを売り場の床に、

  「ポン」

更にそのタバコを、サンダルで踏み消し、スタスタと店を出て行く。
修造は怒るべきか、一瞬迷う。
が、やはりこの「結論」に達した。
修造は急いで男を追いかけて行く。

 修造「おい、こらッ、待てッ! ここは俺の店だ。あの床の焦げ跡、どうしてくれんだ」
 男  「焦げ跡? オメーが吸うなと言ったから捨てたンじゃね~か。ナンカ文句あンのか」

修造は男を睨んで、

 修造「何だと・・・、変なイチャモン付けんじゃね~か。オマワリ呼んで話を聞いてもらおうか」
 男  「ウルセイ! クソ野郎」

杖の男はそそくさと立ち去る。
修造は完全に切れる。

 修造「コラッ、待てーッ! オマエ、名前、何んてんだ! 今、警察呼ぶから待っとれッ!」

石田が、外が騒がしいので店から出て来る。

 石田「オーナー! なンか遭ったンすか?」
 修造「おう、石田! オマワリ呼べ! ふざけやがってあのオヤジ。待てッ、コラ~!」
 石田「? 万引きッすか?」
 修造「器物破損だッ! 良いから早く呼べッ!」
 石田「キブツ~? ・・・は~い・・・」

石田が売り場に戻り、静子に、

 石田「オーナー、外で喧嘩してますよ」
 静子「ケンカ~ッ!?」
 石田「何ンか、警察呼べッて」

静子は急いで店の外に。

 静子「アンタ、何やってんの!」

修造は静子を見て、

 修造「あのオヤジ、営業妨害と器物破損だ。警察呼んでくれ」

修造は急いで男を追いかけ、腕を掴む。

 修造「おい! 逃げんじゃね~よ。きっちり話をつけようじゃねえか」

男は動ぜず、

 男  「何の話をツケんだ。・・・俺を誰だと思ってる」
 修造「ダレ? だから名前を言えって云ってんだ」

男はドロッとした目で修造を睨み、

 男  「・・・俺の一言でこんな店、ぶっ潰す事なんてワケねえ」
 修造「何だと?」
 男  「・・・山谷の組合を呼ぶぞ」
 修造「サンヤのクミアイ? 何だそれは」

男は渋い声で、

 男  「断酒組合だ」
 修造「ダンシュクミアイ。??」

石田が店から出て来て、

 石田「オーナー、一応、オマワリ呼びました」
 修造「? 何んだそのダンシュクミアイッつうのは!」

男は修造の手を振り切り、酒臭いため息を吹きかける。

 修造「うッ! あッ!」

男は杖を突きながら去って行く。
修造は男の後ろ姿に、

 修造「おい、コラッ! クソオヤジッ! 二度と来るな。ッたく~、腹が立つな~」

                  つづく

この作品は、著作権を放棄したものではありません。

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