先生は,こんな本を読んでいます

読み聞かせを15年間毎日続けているちばちゃん(先生)が
読んできた本の紹介をします

25.飯田朝子『数え方もひとしお』小学館2005年

2006年03月30日 | Weblog
▼ 著者の飯田さんは、『数え方辞典』でスマッシュヒットを出した
 方です。この本は約10万部売れました。辞典の類で、10万部と
 は素晴らしいです。日常的な名詞項目約4600語について、数え
 方やその由来を書き表しています。

▼ さて、この『数え方もひとしお』ですが、数え方の意外なエピソ
 ードについて記述されています。作者自身の体験というか、生い
 立ちが描かれています。
  面白いエピソードをいくつか紹介します。

▼ まず、タイトルにもある「ひとしお」の意味、知っていましたか?
  私は、よく子どもたち(2年生以上)に問題を出しました。
 
  これから、1年生の漢字のテストをするよ。

  「わー簡単だー!」という子どもが殆どですが、「何かあるな?」
 と疑いをもっている子どももいます。
  そして、黒板に漢字を書いていきます。

  1 だし   2 じって   3 ひとしお   4 きんす・・・

  10問書きます。漢字自体は1年生で習っているのですが、
 意味は難しいものばかりです。
  中でも難しいのが、「ひとしお」です。これを漢字で書ける子ど
 もはまずいません。みなさんは、書けますか?
  
  ●雨が一入、激しく降ってきた。

  「ひとしお」は「一入」と書きます。「ますます」「いっそう」
 といった意味です。
  さて、これの由来は、次のように書かれていました。

    「ひとしお」は「一(ひと)」と「しお」から成る
    数え方。調べてみると、これは飛鳥時代以前から日
    本に伝わる、布を藍で染める工程に由来しているの
    だそうです。「しお(しほ)」は漢字で「入」と書
    き、染料に木綿布や麻布を浸し入れる回数を表しま
    す。つまり、藍の染料に布を1回くぐらせることを
    「一入」と言ったのです。染料に入れられた布を空
    気に触れさせると、色がだんだん緑色から青色にな
    っていきます。この作業を「二入」「三入」と何回
    も繰り返していくうちに、やがて布は深く美しい藍
    色へと染め上げられていきます。昔の人は、人が喜
    びや感慨に浸ることを、藍色の美しさがより深くな
    っていく様子になぞらえたのでしょう。

▼ 学校で子どもたちに話すネタが増えました。
  もう一つは、国語の教科書に古くからある作品「一つの花」に
 ついてです。(今西祐行 作)
  現在も4年生の教科書に載っています。私も習った作品ですの
 で、もう30年以上も載っている名作です。

  太平洋戦争が激しくなってきた頃のお話です。ゆみ子が「おじ
 ぎり、一つだけちょうだい」と言って父親を困らせる話です。困
 った父親は、プラットホームの片隅に咲いていたコスモスの花を
 ゆみ子にわたし、去っていきます。

  さて作者は、子どもの頃の授業について記述しています。授業
 の中の先生の説明を次のように書いています。

    先生の説明を聞きながら、私は自分でもびっくり
    するくらいドキドキしていました。大袈裟かもし
    れませんが、ヘレン・ケラーが「ウォーター(水)」
    という言葉の意味を悟ったときにも似た衝撃を感
    じていました。目の前に立ち込めていた雲がパッ   
    と消え去り、視界がスッと明るくなっていったと
    言うべきでしょうか。

  この先生は素晴らしい先生です。少なくとも、指導力のある先
 生でしょう。30年以上の前の授業なのに、未だに授業を覚えて
 いる児童がいるのですから。
   それは、数え方についての問いから始まりました。

    どうしてこの小説の題は『一つの花』というと思
    いますか?

  題名を問うのは、結構難しいレベルです。教師の解釈が大切に
 なってきます。
  その教師は次のように説明したそうです。

    おにぎりは『1個、2個』で数えます。コスモス
    の花は『1輪、2輪」ですね。物によってそれぞ
    れ数え方が違います。でも、このお話はおにぎり
    とコスモスの花を交換したことによって、父親の
    娘に対する愛情が描かれているので、おにぎりも
    コスモスの花もまとめて『一つ』と数えているん
    ですね。だから題名は『一つの花』になっている
    んですよ。
  
▼ 著者が『数え方』に興味をもったのも、おそらくはこの一件
 からでしょう。
  あらためて、教師の影響力を知らされた本でした。