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汝、トレヴァー・ホフマンを責めるなかれ……

2008年04月24日 | Baseball/MLB

(このままでは終われないぞ、ホフマン!)

 

 7回までピッチングのお手本というべき投球内容で、グレッグ・マダックスがリリーフ陣に自らの通算350勝目をを託し、1点リードの9回表、トレヴァー・ホフマンがマウンドに上がった。まだ投球数も少なく、シャットアウトも可能かと思われたが、いかにセーブ失敗が続いていようと、セーブシチュエーションにおけるサンディエゴ・パドレスの「勝利の方程式」 は、やはりホフマンなのである。

 

 しかし、ベンジー・モリーナの同点ソロアーチでその夢が霧散したあとも、私はホフマンの失敗を強く責める気にはなれなかった。誰よりも、彼はマダックスに350勝目のウィニングボールを、一刻、いや一瞬でも早く手渡したかったのである。それゆえにモリーナへの勝負を急ぎ過ぎ、彼が打席でホフマンの低めに落ちる球に狙いを定めていた意図(それはテレビでクローズアップになったその表情からありありと窺うことができた)を見落として、結果として同点弾を浴びてしまったのである。

 

 昨年のロッキーズとのワンゲームプレーオフで、やはり最終回に救援に失敗して逆転サヨナラ負けを喫し、プレーオフ進出を逃したあとのクラブハウスで、心身ともに傷だらけだったはずのホフマンは、それでも試合後の記者会見に応じていた。試合における自分の仕事の成否にかかわらず、取材に応じることもプロとしての職務と考えているのだろう。取材陣との些細ないさかいや行き違いですぐに「取材拒否」の姿勢を見せる何人かの高給取りスター選手とは対照的に、ホフマンはそういう意味でも本当のプロフェショナルである。

 

 だから、正直な気持ちを打ち明けるならば、今日はマダックスの350勝とともに、ホフマン本人のためにも彼の仕事が成功することを放送席で心から祈っていた。だが、その祈りは天に通じなかった。

 

 意外な、といっては失礼だが、日本のMLBファンの間で、パドレスというチームの知名度や露出度を考えると、驚くほどファンが多いのもホフマンという投手である。今日のスカパー!MLBライブのスタッフブログ「MLBマガジン」に寄せられていたコメントは、まさにそんなホフマンファンの悲痛な叫びだったのではないだろうか。



「ファンとしては、もうあんなホフマンの姿を見たくないです・・・。」

 

 確かに、ショッキングな光景である。私は放送のなかで、あくまでもパドレスというチームにおける客観的な今後の展望として、フロントが「ポスト・ホフマン」を真剣に考える時期が来たとコメントした。だが、それは決して彼が「晩節を汚さず」ユニフォームを脱ぐことを勧めているわけではない。たとえば、ヤンキースにおけてジャバ・チェンバレインの出現により、マリアーノ・リベラが(とりあえず)輝きを取り戻した様子を目にして、同じことの再現がパドレスとホフマンにも期待できないかと思ってのコメントでもあったのだ。

 

 今日、放送席で試合中継を担当していたわれわれが、あの瞬間、どれほどのショックを受けたか。実は今日コンビを組んだ節丸裕一アナウンサーは、まさに精根尽き果てて、いつもは呆れるほどの食欲旺盛ぶりを見せているのに、今日は試合終了後、昼食に手をつけずに直接帰宅してしまったのである。私は…まあ、いただいたんですけど(笑)、ただそれでも延長戦でものすごく空腹だったはずなのに、箸を動かしている間も心ここにあらずといった感じで、スタジオを後にした。

 

 帰りの車中で脳裏にあったのは、果たしていま、ホフマンは試合後、どんな思いでいるのだろうということばかりだった。彼のことだ、おそらくクラブハウスで、悔しさとショックを必死にこらえながら、また誠実に記者の質問に答えているのではないだろうか……。


 あの「トレヴァー・タイム」の鐘の音が、決してテンカウントのゴングにならないようにと、今は必死に願うばかりなのである。

 

 Never Give Up, Trevor Hoffman!!

 

Bob Chandler's Tales from the San Diego Padres

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