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「カネに使われた」Aロッドの野球人生

2009年02月10日 | Baseball/MLB

 

「すごい重圧を感じていた。巨額の契約を結んだばかりで、自分を次のレベルに押し上げるものが欲しいと感じた」

 

 スポーツイラストレーテッド誌の報道でレンジャーズ時代の禁止薬物使用が明るみになったアレックス・ロドリゲスが、ESPNに出演して自ら薬物使用を認めたインタビューで語った上記のひと言を聞いて、深い失望のこもった溜め息を吐かずにはいられなかった。

 

 薬物に手を染めたこともさることながら、もっとも落胆させられたのは、自らをFA市場にかけて手にした空前の大型契約のプレッシャーに負けたことを認めた、その精神的な弱さだ。

 

 かつて、当時のフーバー大統領を上回る年俸8万ドルの契約をヤンキースと結び、その感想を尋ねられたベーブ・ルースは、こう答えたものだ。


「それがどうした? 去年のオレの成績は彼(大統領)よりも良かったんだぜ」

 

 遊びの世界でも、飲む、打つ、買うの三拍子が揃ったパーフェクトプレーヤー(?)として有名だったルースだが、野球選手という自分の職業に対するプライドやプロ意識も非常に高く、レッドソックス時代の年俸交渉では、のちに彼をヤンキースに売ることになるオーナーのハリー・フレージーと、こんなやりとりをしている。フレージーの本業はブロードウェイのプロデューサーで、昇給を要求するルースに対し、当時全米屈指の舞台俳優と呼ばれたジョン・バリモア(ドリュー・バリモアの祖父)を引き合いに出して、「あのジョン・バリモアだって、そんな高給は手にしていないぞ」とはねつけると、ルースはこう反論した。


「だったらそのバリモアってやつを、二死満塁の場面で打席に立たせてみたらどうなんだ!」

 

 ルースがなぜ、死後半世紀たった今でも、メジャーリーガーとしてだけでなく、国民的英雄・偶像として愛され続けているのか? その理由のひとつが、この強烈なプロ意識にあると思う。
  

 並はずれた打撃センスの持ち主だったルースは、ホームランを狙わず、コンタクトヒッティングに徹すれば、打率4割も夢ではないといわれたが、それに対してもこう答えている。


「左右に打ち分けてシングルヒットを稼ぐオレの姿なんか、ファンは期待しちゃいないよ。みんなオレのホームランを見るため、入場料を払って球場に足を運んでくれるんだからな」

 

 ルースにあってAロッドに欠けているものをひと言で言い表すならば、それは「使命感」だろう。ルースとは動機や目的が異なるが、アフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガーだったジャッキー・ロビンソンや、人種差別主義者からの妨害を乗り越えてルースの通算本塁打記録を破ったハンク・アーロンも、使命感に燃えてフィールドでの全力プレーを怠らなかった。


 ジョー・ディマジオ「今日ヤンキースタジアムに来ている観衆のなかには、自分のプレーを見るのが最初で最後になる人が必ずいるはずだ」と、ケガを押して出場を続けた。ルースやディマジオの後輩であるデレク・ジーターも強い使命感を持っていつも試合に臨み、デビュー以来、シーズンを棒に振るような長期欠場をしたことがない。松井秀喜も読売ジャイアンツ、ヤンキース時代を通じて、同じようにファンとチームへの強い使命感から連続出場を続けた。

 

 Aロッドが尊敬してやまない「鉄人」カル・リプケンは、オリオールズひと筋ですごした現役時代、年俸が最高で600万ドル台だったが(彼がまだ健在なのに、オリオールズのオーナーがあのアルバート・ベルに1000万ドル以上支払ったときには、全米のMLBファンが激怒したものだ)を、彼にインタビューしたとき、サラリーのことについて直接尋ねはしなかったが、2632試合連続出場を支えたのは、「試合出場への欲求」だと答えてくれた。

 

「初めてオリオールズに昇格したとき、ほとんど試合出場のチャンスがなく、ベンチを温める毎日が続いた。自分が座っているベンチの周りには口にしていたヒマワリの種が山のようになってね……フィールドでパフォーマンスを発揮できないのはプロの野球選手とは言えない。私はただ、試合に出て好きな野球をプレーしたかったんだ」

 

 メジャーリーガーの偉大な能力に対し、巨額の報酬が支払われることを私は決して否定しない。しかし最も大切なのは、高額年俸を得ることではなく、ファンの前で素晴らしいプレーを披露することだ。もちろん、好不調の波はシーズン中でも、野球人生の間にもやってくるだろう。 チャンスで三振に倒れたり、味方のピンチの場面でエラーをすれば、もちろんファンからのブーイングも飛んでくる。だが、それもまた野球なのだ。Aロッドは札束の重みに押しつぶされ、最も大切なことを忘れていた。結局、巨額契約を獲得したあとの彼は「カネに使われる」野球人生を送ってきたことになるのだろう。そのあげく禁止薬物に手を出したとすれば、いったいAロッドにとっての野球とはいったい何だったのかと問いただしたくなる。

 

「カネに使われてしまった人生」といえば、かつての大ヒットメーカーから、詐欺師へと転落したあのアーティストを思い出す。彼もまた「音を楽しむ」というミュージシャンとしての原点を忘れて、最後には自分の生活の砦ともいえる曲の著作権も売り払い、無権利の楽曲をネタに詐欺行為を働き、刑事裁判の被告として法廷に立つ身になった。

 

 Aロッドがそこまで落ちているとは思わないが、彼のやったことはベースボールに大いなる不利益をもたらした。打撃タイトルを総なめにし、天文学的なサラリーを手にしながら、いまだにワールドシリーズの舞台を踏めないのは、そんな野球への背信行為に対する、神からのペナルティーなのだろうか。

 

 

 

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