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野村克也「MLB監督」への道!?

2009年05月09日 | Baseball/MLB

(作詞はあの「奥方様」です) 

 先日、BS日テレで放映されているマーティー・キーナート氏(元太平洋クラブライオンズ子ライオン飼育担当=これは本当です)のトーク番組に、団野村氏(エージェント)が出演していたが、番組の終盤、「今後、メジャーに送り出したい日本人は?」の質問に対するダンさんの答えが興味深かった。

「野村克也、ですかね」

 

 実はMLB中継を担当していて、メジャーリーグの球団で采配を振るうノムさんの姿を見てみたいと思ったことは少なからずあった。

・ブレない野球理論がある。

・選手育成がうまい。

・打撃、投手、守備すべてにおいてオーソリティーである。

・トレードで移籍してきた選手の活用に定評がある(野村再生工場)

 メジャー30球団を見渡しても、これだけの条件を兼ね備えた監督は、ボビー・コックス(ブレーブス)、トニー・ラルーサ(カージナルス)、ジム・リーランド(タイガース)など数えるほどしか見当たらない。ジョー・トーリ(ドジャース)はヤンキース時代から投手起用に問題があるし、昨年フィリーズを率いたチャーリー・マニュエル監督も、自ら「自分は投手育成・起用は苦手」と公言している。ジョー・マドン(レイズ)が、まあ準トップクラスといったところか。

 

 ノムさんの場合、メジャーで監督を務める際にネックになりそうなのは、言うまでもなく言葉の問題、それ以上に、過日の岩隈や田中をめぐる発言など、メディアを通じて自チームの選手やフロントを批判するやり方だろう。ひと昔前はヤクルト、西武監督時代の広岡達朗氏がよくこれで東尾修ら自チームの選手を批判し要らぬ軋轢を生んだものだが、これは周囲とのコミュニケーションがうまく取れない監督としてメジャーでは嫌われる。オフに話題になったトーリの著書「Yankee Years」への批判も、「本来公にすべきでないのが暗黙のルールであるクラブハウス(ロッカールーム)での出来事を公表した」ことに対して主に浴びせられている。

 

 オフレコ話が記事になるのは、取材した記者のモラルに原因がある場合もあるが、ノムさんの場合はテレビカメラが回っているオフィシャルな記者会見で、多分にご本人の“自己PR”も含めて、ボヤキと称した毒舌をまき散らすのが当たり前の光景になっている。

 メジャーで比較的ノムさんに近いキャラクターの監督といえるのはリーランドだろうが、彼がメディアの前で選手を批判する場合にはもう少し遠まわしな表現、たとえば「大量得点差をつけられていつ試合でソロホームランを打っても、喜ぶのは選手とその代理人だけ」といった感じで、ノムさんほどストレートな物言いではない。

 

 岩隈の途中降板や田中将大のリタイアで問題になった「投手の酷使」は、ノムさんがメジャーでやりたくてもやれないだろう。松坂大輔(レッドソックス)の例をあげるまでもなく、あちらは「過保護」と呼べるほど先発投手の球数に制限を加えているから(単に投球数だけを目安にするのはどうかと思うが)、もし監督がいたずらに先発投手の投球回数を引き延ばせば、GMから必ずクレームが入る。

 王貞治さんもジャイアンツ、ホークスでの監督時代を通じて「投手酷使」を批判され続けた。ただ、プロの監督は「勝利」という結果を出すために雇われているわけで(そうとは思えない監督も神奈川方面のチームにいるが=笑)、絶対的なエースが自分のチームにいれば、それについ頼りがちになるのは三原脩、水原茂、鶴岡一人といった歴史的名将の時代から、監督の本能だ。むしろ「ローテーション」「分業制」(当時としては不完全なものではあったが)を推し進めた藤本定義や川上哲治が当時としては「異端」であり、その流れを汲む落合博満も、日本シリーズで山井を交代させたことで批判を受けた。

 

 日本で監督が特定の投手を「酷使」する体質がいまだに残っているのは、やはりフロントの「弱さ」に問題があると思う。選手を起用するのは監督だが、「契約」しているのはフロントだという「線引き」をきちんと経営者が監督との間に行ない、フロントから権限を委託されたトレーナーや専属ドクターなどの「コンディショナー」が、選手の試合出場の可否を進言し、それにフロントも監督も選手も従うシステムを12球団が共通して持たなければ、ノムさんの“ボヤキ”はいつまで経っても収まらないだろう。

 

 正直な感想を言えば、球団設立の際、エクスパンション(拡張)ドラフトによる既存11球団からの選手の供出もなく、オリックスとの分配ドラフトでも、有望な選手はあらかじめ思いきりプロテクトされての出発で、まあよく序盤とはいえ首位に立てるチームが出来上がったものだと思う。結局、岩隈や田中が「酷使」されるのは、他に頼れるピッチャーが見当たらないからだし、その原因はスタート時における上記の「アンフェアさ」がいまだに影響していることを、ファンは決して忘れたり見逃したりしてはならないだろう。

 

 それにしても、ノムさんの場合、アメリカで監督になるよりも、日本で高校野球の監督になるほうがはるかに困難だという事実のほうが問題だろう。なにしろプロ経験者の場合、「最低2年間、高校での教諭勤務」を高野連が条件として定めているので(プロ未経験者の場合、こんな「足かせ」はない)、ノムさんや王さんなど高校卒のプロ経験者は、まず大学に入学し、教職課程を取るところから始めなくてはならないのだ。このハンディは将来絶対撤廃されるべきもので、プロ未経験者を含め、プロ・アマ共通の「指導者ライセンス」制度確立が必要だろう。

 個人的にはメジャーで采配を振るうより、田舎の高校野球部で甲子園を目指すノムさんの余生を見たい気持ちが強いんですけどね。

 

 

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3 コメント

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言葉の問題は (YYT)
2009-05-09 19:58:49
野村さんのメジャー挑戦は面白いですね。(選手としても、王さんに次ぐ本塁打数は、もっと評価されていいと思います) アメリカに、選手と監督の両方で、ここまで実績を上げた人はいません。

で、言葉の問題は団野村さんが専属通訳になればいいんじゃないでしょうか。そして口にチャックも彼がはめればいいのでしょう。(それでも、野村さんが日本人の記者にぼやいてしまったら終わりだけど)
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通訳の心配はないんですが (Ryo)
2009-05-09 21:25:57
通訳については、上記の番組で、ダンさんが「そうなったらボクが通訳でベンチに入りますから大丈夫」と言ってましたけど、まああとはあの「マダム」があちらのメディアにどう受け取られるかでしょうね(笑)。
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強くしたいとか (Kazuhiko Miyano)
2009-05-09 23:45:47
勝ちたい!とか思えば、行動は単純なモノであるはずなのに、間に余計な人たち(そういう人たちほどナゼか潤っている)が入るおかげで、できないコトが不思議に感じます。
(まぁ、ソレはスポ-ツの世界だけではないのですが…)

結局は「好き」とか観ている人たちを「楽しませよう」ではなくて、(一部の人たちが)儲かればそれでいい!なんでしょうかねぇ…ソレがとても残念です。
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