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「野茂の保有権」はオリックスの手前勝手な「妄想」に過ぎない!!!

2006年06月10日 | Baseball/MLB

(ヒロヤマガタ作品の画題にもなったほどの投手を「拝金主義者」たちの犠牲にしてはならない)

野茂英雄がホワイトソックス傘下の3Aシャーロットを解雇された。
一部では「日本球界復帰」を伝える報道もあり、それを受けてオリックス・バファローズの球団関係者が次のようなコメントを発表している。以下、「共同通信」配信記事の引用である。

 
野茂獲得の意思なし 保有権持つオリックス
 
 オリックスの横田昭作球団本部長補佐は9日、米大リーグ、ホワイトソックス傘下の3Aシャーロットから契約を解除された野茂投手について「うちからアプローチすることはない」と、現段階で獲得の意思がないことを明らかにした。

 コミッショナー事務局によると、野茂は米球界入りする際、近鉄を任意引退扱いで移籍したため、日本では近鉄が保有権を所持していた。だがその後、近鉄はオリックスと合併。そのため、保有権はそのままオリックスに移行し、オリックス以外の日本の球団に復帰するには、同球団の了承が必要となる。
 
 
まず、野茂の「保有権」に関するオリックス球団とコミッショナー事務局の見解はおかしい。野茂が1989年秋に入団契約を結んだのは当時の近鉄バファローズ(近鉄野球株式会社)であり、もし近鉄球団が現在も存続しているのであれば野球協約に定められている保留条項の効力も継続するが、オリックスとの合併によって、ニックネームや本拠地球場は受け継いだものの、近鉄球団そのものは「消滅」したと解釈すべきである。現在は近鉄が球団の20%の株式を保有しているが、合併の時点で近鉄本社や当時の球団社長は将来の完全撤退(株式譲渡)を表明しており、また近鉄で永久欠番に指定されていた鈴木啓示投手の背番号「1」を合併球団で継承しなかった「ソフト面」を考えても、実質的にはすでに近鉄はプロ野球経営から完全に手を引いていると解釈して差し支えないだろう。
この時点で、旧・近鉄球団が保有していた野茂の保有権(そもそも、この「保有権」なるものが、憲法や労働基準法などの法的見地から明らかに違法な球界の「内規」であり、もし裁判に訴えられた場合、100%野球機構と経営側は敗訴するだろう)も消滅しているはずだ。現在楽天イーグルスにいる岩隈久志の場合も実際にはこれにあてはまるはずで、会社の合併によって個人事業主である所属選手の優先契約権が合併先に移るなどという考え方じたい、「人身売買」となんら変わらない。
 
社会人野球では高校卒業後入社した選手は3年間、大学卒業後は2年間、プロがドラフト指名できないという申し合わせがあるのだが、所属していた会社の野球部が解散になったり、会社そのものが倒産などで消滅した場合は、そのモラトリウム期間を満たしていなくても、プロがドラフト指名することができる。阪神タイガースがかつてドラフト1位指名した野田浩司は、所属チームの解散で高卒後2年後に阪神に入団している。プロ野球で現在、もしくはかつて所属して「保有権」を握られている球団が近鉄のように消滅した場合も、当然契約を結んでいる選手はその時点で「自由契約」になるというのが、労働法規上の常識だと私は解釈している。そうなれば、そもそも岩隈の楽天への金銭トレードじたいも違法であり、岩隈は本来ならオリックスの保有権無効と地位確認(自由契約)を求めて裁判を起こしても良かったくらいだ。
 
また、野茂の代理人である団野村氏は、そもそもオリックスが主張する「野茂の保有権」なるものが、ポスティングシステムの導入を決めた1999年発効の日米地位協定によって消滅していると自身のコラムで主張している。詳しくは下記のアドレスから野村氏のコラムをご参照願いたい。
http://ballplayers.jp/column/2006/03/post_5.html
 
その後の報道によれば、すでに野村氏と野茂のもとにはメジャー数球団からのオファーがあり、日本球界復帰は視野にないとのこと。実にけっこうなことである。ただ、私が野茂と野村氏におススメしたいのは、この際、メジャー球団との契約交渉と並行して、オリックスの保有権無効の訴訟を日本の裁判所に起こしてもいいのではないかということだ。もちろん勝算は大きいし、また裁判の過程で裁判所の「保有権」「保留条項」に関する法的な解釈が示されるはずだ。その際には欧州裁判所がプロサッカー界での保有権無効を判断した「ボスマン判決」も国際判例として考慮されるはずだから、おそらく日本プロ野球界に蔓延する「タコ部屋的発想」に根本から再考を求められる判決が下されるだろう。
 
それにしても、オリックスというのは球団にしても親会社にしても、そしてその経営陣にしても、何と欲深く、またベースボールという競技やその主役である選手に対するリスペクト(敬意・尊敬)がとことん欠如した球団、企業体質なのだろうか? さすがはイチローをためらいなく10数億円でマリナーズに売り払い、その金を球団の補強費用に充てずに親会社の金庫に納めたり(そのお金がいま話題の「どこか」への出資の一部に充てられたのかもしれませんねえ=笑)、選手の健康(そういや、「医療改革問題」とやらでも、この会社の親玉が病人に「格差」をつける旗振り役を演じたんだっけ。「健康は金で買え」と言わんばかりにね)や観客の観戦環境に配慮せず大阪「欠陥」ドームへの完全移転を独断で決めただけのことはある。法的にはもちろんだが、モラルの上でも人間性や基本的人権と照らし合わせても、オリックスが野茂のような歴史的なプレーヤーの保有権を主張することじたい、神をも恐れぬ所業と言っても過言ではないと私は思う。

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1 コメント

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韓国 or 台湾>日本 (ADELANTE)
2006-06-12 01:23:36
入札でマリナーズに移籍したイチローやFAでMLBに渡った選手の保有権は、日本の元の所属チームにはないのですよね。(チームの情けでMLBに挑戦した中村三塁手は別として)



いずれにしろ、5年以上大リーグに在籍した選手の保有権は自動的になくなるというあたりが普通の考え方にならないとまずいでしょう。



さて、野茂ですが、後ろ足で砂をかけた日本球界なんぞで野球するより、独立リーグやメキシコリーグ、または韓国や台湾で野球をするほうが、彼にとって幸せなような気がします。
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