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「人口減少」報道が伝えないもの

2005年12月22日 | えとせとら
日本の人口が、明治時代に統計を開始して以来、初めて減少に転じたという。統計以前にも、人口が減った時期は、江戸時代に何度か農村を襲った大飢饉、統計開始後は、300万人が戦死・戦災死したと言われながら、1944~46年には統計が残っていない日中戦争・第二次世界大戦(16年戦争とも言われる)などの「異常事態」しかおそらく考えられないので、ほとんど有史以来初めての人口減少と言っていい。
しかし、今回の人口減少は、もちろん出生率の減少という大きな背景があるとはいえ、「異常事態」の要素はないのだろうか? 実はあるのだ。
今回の調査では、出生数106万人あまりに対し、死亡者が107万人あまりで、生まれた人間の数を1万人上回っているというのだが、実はこの107万あまりの死者の中に、3万人以上の「自殺者」がいることを見逃してはならない。今日のテレビニュースなどを見ていても、このことに報道がほとんど触れていないのには驚かされる。また、上記の44~46年にかけての未統計については、多くの新聞やテレビが言及していなかった怠慢にもあきれるばかりだ。

自殺にはもちろん、さまざまな原因があるが、近年、年平均3万人を越える自殺者が出ている日本の場合は、その背景にリストラ、会社や学校でのいじめ、生活苦など「社会的疾病」があることが大きな特徴である。
「リストラクチャリング」を、イコール「人員削減」の意味に解釈して、経営者の失敗を追及するよりも、社員の首切りに血眼になる企業。そのために人生設計を狂わされ、再就職のあてもなく、これまたバブル期のでたらめな融資で巨額の不良債権を作り出し、そのツケを「公的資金」という名の税金で国民に回してきた大銀行が、自らの社会的責任など知ったことかと言わんばかりの態度で、無慈悲に解雇された中年男性に住宅ローンの返済を迫る。そうした苦境につけこんで、年27%という信じがたい高利(年10%超で返済が困難になり、多重債務に陥りやすいと言われている)でチワワや清水章吾、安田美沙子や熊田曜子のCMを隠れミノに、さらに借金を背負わせるサラ金業者。その「シャイロック」どもに預金者からゴミみたいな超低金利で集めたカネを貸し付けて、上前をはねているのも、また大銀行なのである。
学校でのいじめが原因による自殺などが起こっても、学校や教育委員会がまず記者会見で発表するのは、「いじめの事実はなかった」のコメントである。しかし、いじめの多くは、「教師の目に見えるところ」で起こっているのであり、「いじめらる側にも問題がある」と公言する教師も少なくない。いじめにあった子供たちはそうした逃げ場のない状況に追い込まれた末、自殺に追い込まれるのである。
こうした社会的病巣が原因で起こる万単位の自殺が、人口減のペースを速める大きな原因になったのは確かなのである。しかも、こうした多くの自殺者を生み出す社会的閉塞感も、出生率の低下に歯止めをかけられない原因になっているのだとしたら、日本の将来は救いようがないではないか。

そうした状況をきちんと分析せずに、少子化のみをクローズアップし、子供を産まない女性や、子供を作らない夫婦を悪者扱いする風潮は、断固として排撃せねばならないだろう。要は、現在の日本の社会は、「子供を作りたくても作れない」社会なのである。

それでもなお、政治家や財界人が「女が働いて外に出ているのが悪い」と公言するようであれば、もうこの国は救いようがない。おそらく同じ思いを感じて、移民の道を選ぶ人も増えてくるのではないか。いやはや、とどまることを知らない「人口減の恐るべきスパイラル」ではないだろうか。


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