メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ウイリアム・アイリッシュ「幻の女」

2016-09-03 16:28:05 | 本と雑誌
幻の女(Phantom Lady)(1942)
ウィリアム・アイリッシュ(William Irish)黒原敏行 訳 ハヤカワ文庫

あまりにも有名な、そして名作と呼ばれているものである。若いころ、推理小説はあまり継続して読むことがなかった。次第に冒険・サスペンス小説の方に行ったように記憶している。それでも評価の高い作品の名前は覚えていて、いつか読むかもしれないとは思っていた。ようやく「幻の女」である。

夕刻、妻といさかいをした男が街に飛び出し、最初に見つけた女と一杯やり、食事をし、劇場に行って別れる。家に帰ってみると、妻は死んでおり、そこにはすでに刑事がいた。件の女を見つければアリバイになると、探したのだが不思議なことにどこに行って見ていないといわれ、その結果有罪、死刑の判決がくだる。

死刑執行の三週間前になって、この事件に疑問を持った刑事が訪ねてきて、再捜査をしようということになり、男の親友を呼び出して再度アリバイの証拠となるものを探していく。このプロセスで、あと一つというところで何度も残念な結果が待っている。
そして、、、最後は、、、

この作品、確かにこういうプロットの独自性がキーであるし、解説にもあるとおり、フィルム・ノワールの雰囲気に読者は浸っていく。
特に後半は、途中で読むのをやめたくないような感じではあった。

しかしである。実は残りのページをかなり余して、犯人はわかってしまった。この構成、進行だと、消去法でこの人以外にいないだろうということだった。ただ、最後までこれどうやって終わるの?とはらはらはした。

もう一つの不満は、登場人物はうまく描かれているが、魅力的な人がいない、というかそういう表現にまではなっていない。映画化すれば、それは違ってくるかもしれないが、映画はかなり古いものしかないようだ。もっともこういうミステリは、ネタバレで読書を台無しにするリスクを考えれば、あまり映画化に積極的でない方がいいのかもしれない。

なお、上記の訳本は2015年の新訳で、その前の稲葉明雄訳(1976)の有名な出だし「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。」(The night was young,and so was he. But the night was sweet,and he was sour.)は、遺族の了解を得たうえでそのままにしている。この作品の看板みたいなものだから、これはこのやりかたでいいだろう。

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