メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

トルストイ「戦争と平和」

2018-09-08 16:58:06 | 本と雑誌
レフ・トルストイ「戦争と平和」工藤精一郎 訳 (一)~(四)新潮文庫
 
海外の文学とくに小説については、中高校生のころつまり1960年前後に、いくつかの出版社から文学選集が出ていて、学校の図書館にもかなりそろっていたし、またよく売れたようで、本屋でも棚の見やすいところにあった。それで、その中から何を読んでいくかだが、それは個々にまつわる耳に入りやすい評判をはじめ、今から考えるととりたてて根拠のない思いこみによってはじまり、それが次から次へと連鎖していったと考えられる。
 
そして、若いうちにこれくらいは読んでおかないと、という思い込みというか見栄もあっただろう。とにかく本が好きという人たちとちがい、そんなわけで、かなり読んだとはおもうのだが、あとから見るといくつも「穴」があったようだ。
 
中年を過ぎるころから、そういう思い込みはなしに、長く高い評価を得ているものを読んでみようと思った。読んだから人生観がどうなるという感じももうなくなっていたし、暇つぶしも悪くないということだったのだろう。
 
そうして、イギリスの女流小説家の作品あたりから、つまりシャーロットとエミリのブロンテ姉妹、ジェーン・オースティン、バルザック、サマーセット・モーム、ヘミングウェイ(これは読み直し)など、読んでみるとやはり視野は広がったとは思うし、他の新しいものや映画などと結びついている(パロディも含め)ことがわかった。
 
さて、そうなってみると、まだ残っている、それもかなり多くの読者を持っていると思われる大物で、おそらくただ一つ穴になっていたのがトルストイである。ロシアの作家では、ドストエフスキーは若いころ読んでいないと恥ずかしいというか議論にならない、多分生きていけないんじゃないかと思い込み、長編は全部読んだし、チェーホフもある程度読んでいた。しかしトルストイだけは一つも雄読まずに歳を重ねてきた。
 
それはどうしてか。トルストイの長編のイメージがやはり理想主義、純粋、人類愛というあたりを明瞭に放射していて、それにかかわるのは単純であり、そこで終わってしまうのではと考えたか、単に若いうちは悪ぶりたい、その方が真実に近いと思っていたか、そういうところだろう。
 
さてそうはいっても、歳とってなにか読むものは、ということで、ミステリを続けてもなにかあまり、とそれ以上理由付けは出来ないが、読んでみようということになった。
 
しかし文庫で4巻、各約700頁である。もともと読むのがおそいからかなりかかった。昨年あたりだったかNHK Eテレの「100分で名著」で取り上げられたり、連続TVドラマ(英)を見たりしていたから、ある程度は準備ができていた。
 
読んでいくと、これらの話(筋)はこの作品の中でとぎれとぎれに出てくる主要登場人物のドラマであり、それ以外にナポレオンとロシア皇帝の戦争、貴族社会のさまざまないさかい、あてこすりなどが、かなりの頁数でつづられ、その部分は読み進むのに苦痛があった。それに、特にこういうところは多くの登場人物の名前、関係も頭に入らない。
 
それでも、アンドレイとマリヤ、ロストフとナターシャ、ピエールという三組の家族、それら相互のからみあいと結末は、それをうまく拾っていけば読んだかいはあるというものだった。
 
しかし長いエピローグで、作者の社会論、戦争論、歴史論をきかされると、つきあうのは大変だった。全体としをて作者は、世の中を動かしていくのは、特に1812年の戦争などでは、ナポレオンがあるいはロシア皇帝がどう考え、作戦を立て、戦いを進めたかではなくて、民衆(兵士もふくめ)がどう動いたか、その結果としてフランス軍によるモスクワ占領があり、その後のフランス軍敗走があったということを言っている。ただ、だからと言って、民衆の動きに何か大きな理論を立てる、つまりその後現れる社会運動を支える理論、イデオロギーに至るということではない。
 
全体として作者が書いたのは、おそらくきれいに整理され理論づけられたものでなくても、ロシアをある意味で誇りを持って、愛情を持って描ききる叙事詩なのだろう。その中でうまく拾っていくとロマンは確かにあるわけで、後の時代にそこは映画やドラマになった。
登場人物では二人の女性、マリヤとナターシャに魅力があり、それに比べると男たちは皆いま一つというところである。作者の面白いところである。
 
さて、これを読んでみると、作者の死(1910年)後しばらくしてロシア革命が起きるのだが、もしその時代に生きていたと仮定すると、この革命には否定的だったのではないか、と想像する。
 
ところで「アンア・カレーニナ」(三巻)、読むことになるかどうか。


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