「包帯クラブ」(天童荒太)(ちくまプリマー新書)(2006)
どこの地域かは特定されていないが、海岸ではなく、県庁所在地の次くらいの都市の高校生たちグループの話である。
外科的な傷がない少女が包帯を巻かれてから、彼女はそれをきっかけに動きを始める。そしてクラブが出来る。
「結成」という章の一部を引用すれば、「いろんなことに傷ついている人がいる。その傷を受けた場所に行き、包帯を巻く・・・。何になるかはわからないけれど、それでほっとする人が、一人でもいたら充分なんじゃないか」というコンセプトだ。
あまり現実を詳細に書き込まないで、このコンセプトに関係ある人たち、ほとんど同世代、の行動、やりとりで進んでいくから、なにかSFのスタイルに読めてしまうところもある。
途中でカズオ・イシグロの「私を離さないで」を思い浮かべた。
そして、このそんなに長くない、中篇とでもいっていい小説は、凝った構成をもっていて、まず、このクラブの前史として全国の方言をいろいろ取り入れて他の人たちには何を話しているのかわからないようになる「方言クラブ」がある。(何か最近のKYを予言したかのようだ)
そして、作者が(文章は主人公の第一人称だから彼女が)大人になってから、当時の様々な関係者がその後を背景に、この話が集まってくるブログかなにかに投稿してきたものが、随所に差し込まれている。
したがって、三つの時期の話になっているということで、このちょっと変った話に、読むものに安定感とまではいかないけれど多少の落ち着いたイメージを与えている。
ただ、後半はこういうプロットに関係するエピソード、会話がこれでもかこれでもかと出てくるだけで、理解は出来るが、読むほうとしては何も動かされるところがない。
おそらくコンセプトとプロットが出来てしまうと、それに合う細部の書き方で最後までいくだけだからだろう。
本当は作者が書いていくうちに、その細かい具体的な文章が動きを産み、作者も思いがけない展開が出てくるもので、それが読む方にも抵抗感を与え、面白いのだが。
「私を離さないで」にはそういうところがあった。