「ラフマニノフ ある愛の調べ」(Lilacs、2008年、ロシア、96分)
監督:パーヴェル・ルンギン
エフゲニー・ツィガノフ(セルゲイ・ラフマニノフ)、ヴィクトリア・トルストガノヴァ(ナターシャ)、ヴィクトリア・イサコヴァ(アンナ)、ミリアム・セホン(マリアンナ)
ドラマとしてはそれほどではないし、事実をはちがうところもある(クレジットでことわっている)が、ラフマニノフという人と彼の音楽はこういう映画に合うし、楽しめるものであった。もちろん彼の音楽はそれだけのものではない。
ロシアで才能を発揮、恋人アンナとはコンサートの失敗を機に別れるが、従妹ナターシャと一緒になり、その間彼に一方的に惚れていた党員マリアンナに最後は助けてもらいアメリカに亡命する。その後の成功と苦悩の物語。子供のとき、そしていくつかのタイミングで出てくるライラックの花と特にその香りが全体をつなぐライトモチーフになっている(もっともそれが甘酸っぱすぎる印象をこの映画に与えてしまっているけれども)。
そして音楽家ラフマニノフにフォーカスすれば、この映画のキーワードは「作曲」と「スタインウェイ」。
ラフマニノフの最初のイメージはルービンシュタインやホロヴィッツに先立つ絢爛たるテクニックを持つ伝説のピアニストであったが(録音も残っている)、作曲でも有名な2番・3番のピアノ協奏曲以外にもピアノ前奏曲、ピアノソナタ、交響曲など、これは大変な人あることがわかってきた。映画ではピアノの先生から、あるいは興業側からは、作曲をしないように言われ、それがストレスになっていたようだ。
またニューヨークにカーネギー・ホールが出来てから、それまでにない大きな空間でピアノが弾かれるようになり、そこで威力を発揮するピアノとしてスタインウェイが出てくる。亡命したラフマニノフはスタインウェイ専属ピアニストのような形で、アメリカ全土に公演旅行をさせられ、それが彼の名声を高めもしたが、消耗させもした。
ナターシャとマリアンナ役の女優、そしてセルゲイ・ラフマニノフ、この3人は見ていて違和感ない。