「ミレニアム 3 眠れる女と狂卓の騎士」 上下 スティーグ・ラーソン著
ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利 訳 早川書房
これでミレニアムシリーズは一通り完結である。三つとも平均して上下900頁、かなりの分量であったが、細部の描写、文章がいいこともあり、また三つそれぞれが明確な性格をもっていることもあって、飽きずに読むことができた。世界的なベストセラーというのもうなずける。
どちらかというと1はある島のなかで起こった過去の不思議な事件、密室殺人を別の形にし、時代、社会、家族の拡がりの中で、古典的な動機よりはやはり現代の病理がからんだ、しかも面白さをそなえたものになっていた。
2は、1の主人公のジャーナリストにおとらず印象的だった多分不幸な背景を持つかなり変わった若い女性、しかも天才的なハッカー、その全てを語り、そして彼女の復讐譚を描いた。それは現代における女性の問題を、登場人物の行動、やりとりを通じて深く生き生きと語ったものといえる。
そしてこの3は、その続きでこの女性がいままではめられてきた国家レベルの悪、それは秘密であっただけに、今回はほころびが出てきても手ごわいものであったわけだが、それを解決するまで、そして主人公をめぐる何人かの人たちの再出発、一応納得がいくものとなっている。
1や2に比べると、アクションを連想させるシーンやハッキングはそれほどでもないが、裁判およびそれにかかわるいくつかの詳細は、読んでいてわくわくさせるものとなっている。
欲をいえば、国家レベルの悪にかかわっている連中が、少なくとも現在はかなりしょぼい状態で、やることも主人公たちにとっての危険を感じさせはするものの矮小感がぬぐえない。それはどうにかならなかったか。
スティーグ・ラーソンはここまで書いて突然、心筋梗塞で死んでしまって、4の草稿があるという話だが、さてどうだろうか。もしあるとしても、この主人公たちで続編というのは難しいように思う。この話はここまででよかったのではないだろうか。