メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

プルートで朝食を

2007-01-28 18:06:17 | 映画

「プルートで朝食を」(BREAKFAST ON PLUTO、2005年アイルランド・英、127分)
監督: ニール・ジョーダン、原作: パトリック・マッケーブ、音楽: アンナ・ジョーダン
キリアン・マーフィ、リーアム・ニーソン、ルース・ネッガ

同じニール・ジョーダン「モナリザ」、「クライング・ゲーム」などの細かいところは忘れたが、これらでも扱われたと記憶する夜の世界、IRA、ホモセクシュアルなどがここにもあるけれども、それらがもっと自由に軽々と扱われ、母をたずねて三千里の要素も加わり、見終わっていい気持ちになる傑作である。
 
アイルランドの教会入り口に置かれたゆりかごに入っていた男の子、もらわれ育てられるが、自身の意識は女、そして母を捜してロンドンへいくが、IRAとも知り合いになり、その性ゆえにトラブルもある。コミカルな要素も交えながら主人公パトリックが生き抜いていくという形でドラマは進む。
 
IRAが、そして警察が絡むシーンは厳しいが、パトリック個人の一つ一つの出来事が、それ以上の重さで扱われているから、全体として暗くならない。こういう境遇、社会に生きていても、人一人には個人に特有な具体的な問題があり、それを見つめることによって、世界の見え方は異なるのだ。
と、いうのだろう。
 
パトリック役のキリアン・マーフィは見事というにつきる。
神父役のリーアム・ニースンは、最初立派過ぎるかなと思ったし、もう出てこないかと思ったが、どうして、、、ここらは脚本がうまい。
元IRAのチャーリー(ルース・ネッガ)が妊娠中絶に悩むところからの、彼女とパトリックのかかわりは、驚きの連続で、しかもしっとりとした味わいを残すのは、演出のうまさだろうか。
 
面白いのは、いわゆる風俗の覗き部屋が教会の告解室に対置されるていること。
 
音楽は、冒頭「シュガー・ベイビー・ラブ」(ルベッツ)から、「風のささやき」(ダスティ・スプリングフィールド)、「慕情」をはじめ、なんともうまく採用されて快調に続く。それも楽しさの一つ。
これらと物語のトーンから「ガープの世界」を連想したが、「プルートで朝食を」の方が思い切りがいいと言えるだろう。 

昨年5月からはじめたブログ、これでちょうど100本になった。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ネオンと絵具箱(大竹伸朗)

2007-01-28 17:11:26 | 本と雑誌
「ネオンと絵具箱」(大竹伸朗 著、2006年10月、月曜社)
先月、東京都現代美術館で大回顧展「大竹伸朗全景」に驚かされたが、これはその作者が2003年から2006年、展覧会を予定に入れながら、雑誌に連載していたもの。
 
時に子供の頃、北海道でアルバイトをしていた頃、それをもとにロンドンに行っていた頃、それらのことを織り交ぜながら、多くは現在の創作拠点である宇和島での、創作者の生活、あるいは生活者の創作が語られ、興味深い。
 
彼も書いているが、現代アートの、時にあっといわせるものを作ったりしていても、それは白い紙にひらめきで描くというものではなく、小さい思いつきや気になったものを集めて(それが彼のあの膨大なスクラップなんだろうが)、それらのなかから、ある流れが、ある結果が出てくるというものなのだろうか。
 
この回顧展を開くにあたり、過去の作品、スクラップなど、順に並べて、カメラマンとともに延々と記録したようで、計測によればスクラップは1万ページ以上、重量200kg以上だったという。
自身驚いたそうだが、やはり日々の営為が利いてくるということだろうか。何か道徳的な響きになってしまうが。
 
彼はメモをよく取っていて、好きであるらしく、その9割はまだ作品に反映していないと言っている。
 
こういう当人による、生きている内の自分のアーカイブというのは、その当否は決めがたいけれども、一度やってみたくなるという誘惑は理解できる。
 
最後の方の、宇和島に張り付いたようないくつかの話は、話そのものとして面白い。展覧会場でギターを弾いていた作者はきわめてまじめそうな風貌だったけれど。
 
昨年末、朝日新聞の読書欄で、多くの有名人によるその年の3冊というのがあった。その中で角田光代さん(「対岸の彼女」)は、カズオ・イシグロ「私を離さないで」と「ネオンと絵具箱」をあげていた(もう一つは忘れた)。彼女とは波長が合うと思っていたが、2冊までとは。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする