メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

花とアリス

2006-09-27 22:43:14 | 映画
「花とアリス」(2004、135分)
監督・脚本: 岩井俊二、撮影監督: 篠田昇
鈴木杏、蒼井優、郭智博、相田翔子、木村多江、平泉成、大沢たかお
 
最後、蒼井優のダンスとそれを撮った篠田昇のカメラ、それだけで見るに値する。前後の話の脈略と関係なく、この美しい映像を見ただけで出てくる涙、こういうことがあるのだろうか。
 
話は花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)2人の高校生が1年上の郭智博に目をつける。花は彼が転んだのを利用して、記憶喪失になったのではないか、それまでは彼女とつきあっていた、その前はアリスとつきあっていたと吹き込む。
そこから始まる、他愛ない勘違いのコメディの中に、女の子2人の友情と意地悪、裏切りが絡まっていく。
 
花は郭が入っている落語部に入り、アリスはバレエを続ける。
岩井俊二の名前はよく知っているものの、まともに見るのは初めてである。いわれているとおりワンシーン・ワンカットであるが、全体にやはり長すぎ、起承転結というよりはエピソードの連鎖でストーリーを紡ぐというやり方のようだ。
 
最後のシーンは、アリスがオーディションでバレエが出来るならやってごらんといわれ、とっさにトウ・シューズの代わりを考え出し用意して踊るのだが、スローモーションと自然光、当然逆光もうまく使って、それは見事にしあがる。蒼井のというよりは踊りだすと変身するアリスの顔、髪、ポーズ、跳躍のすべてが、これ以外にないという完成した形が、たっぷりと持続していく。
 
その少し前に海岸のシーがあり、ここでも逆光は自然に使われ、アリスの横顔がしばらく完全に影絵のごとくなる。ところが、そのときせりふを言う彼女の口、目など、表情が細部まで見えるのだ。蒼井優(このとき19歳)は必要なときに、顔の細かい表情で豊かな表現が出来る人だが、このシーンにはまったく圧倒されるし、その影の顔に見事に焦点をあてた篠田のカメラは、なんという創作だろうか。
 
もう一つ、アリスの両親(平泉成、相田翔子)は離婚しているが、彼女が久しぶりに父親と会い、食事をしたり、公園を散歩したりする、これはなんか次第にほっとしてくるいい場面だ。色、アングルもいいし、長回しが効いている。
 
篠田昇は「花とアリス」、そして同年の「世界の中心で、愛をさけぶ」を最後に急逝した。
私の友人で篠田を知っている人がいるが、長澤まさみを最も美しく撮ったのが彼のカメラだと言う。そうかもしれない、と同時に彼は蒼井優をこんなに美しく表情豊かに撮った。

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