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状況認識

2021-01-18 | 安全、安心、

状況認識 ———何が起こっているかを知る

●緊急事態の特徴
緊急事態に慣れているのは、消防署員や救急援助隊員や警察官である。普通の人にとっては、緊急事態はほとんどいつもはじめて遭遇することになる。したがって、そこでは普段とはまったく違った状況認識や行動をすることになる。これも緊急事態の特徴の一つであるが、さらに3つの特徴がある。
一つは、時間切迫がある。心臓発作で倒れれば、ただちに蘇生手当が必要になる。
もう一つの特徴は、周囲の状況の中でそこだけが際立っているということがある。火災は、周囲の平静さから顕著に際立っている。
3つ目の特徴は、注目、注視である。ひったくりにあって大声をあげれば、周囲の人々はそちらのほうに目を向ける。
さらに4つ目の特徴を挙げると、平常な状況に早く回復するという目標が明確なことである。火事なら消す、交通事故なら怪我人を助け、車を片づけなければならない。

●はじめて状況に遭遇すると
 我々は、絶えず、今現在の状況がどうなっているかをチェックしながら行動をしている。そして、ほとんどは、その状況は、いつもの慣れ親しんだものである。したがって、無意識のうちに、行動にふさわしい状況認識をしている。
これが、旅行などではじめての場所にいったりすると、情報が一気に増えてくる。旅行なら、それは楽しみの一つであるが、これが緊急事態であったらどうであろうか。
緊急事態には、時間切迫がある。しかも、やらなければならない目標がある。周囲からの注視もある。そうした制約の中で、妥当な状況認識をするのはかなり難しいところがある。

●顕著なものに騙される
緊急事態には顕著性がある。それが、状況認識を誤らせる。手で胸を押さえてうずくまっていたら、すぐに心臓発作と判断してしまう。大声での言い争いは夫婦ゲンカと思いこんでしまう。つまり、注意を引きつける顕著な手がだけに基づいた判断をしてしまいがちなのである。
いつもと違った状況では、判断すべき情報が多く、しかも、あいまいである。たちまち何が何やらわけがわからないという状態になりがちである。しかし、状況は即断を求めている。となると、今眼前で目に付いた手がかりで自分なりの解釈ができるものだけに基づいて状況を認識しようとする気持ちになるのは当然である。
緊急事態の状況認識の方略としては、これはこれで有効である。いつまでもあれこれ迷って優柔不断のままでは、事態はどんどん進んでしまうからである。
問題は、こうした状況認識が妥当でない場合があることである。

●思い込みが怖い
普段の我々の状況認識は、認識の中核になる情報と、それを取り巻く周辺的な情報とが一体になっておこなわれる。いわば、ゲシュタルト的な認識注1***をしている。それが、妥当な認識へと導く。
緊急事態のように、顕著な手がかりだけを周囲から孤立して認識をしてしまうと、その顕著さと孤立ゆえの判断、解釈の思い込みエラーの可能性が高くなってしまう。
かといって、あらゆる情報を吟味してからおもむろに慎重判断をする、というのでは遅すぎる。

●緊急事態での状況認識を妥当なものにするために
ここでは、繰り返すが、緊急事態の仕事をする人々についの話ではなく、普通の人々が突然、緊急事態に遭遇した時の状況認識の話である。こんな心構えが有効である。
1)あわてない
時間切迫は、人をあわてさせる。事態の進行速度のほうが人の行為の速度よりも速すぎてギャップが大きくなると、それを埋めようとしてあわてる。限界を超えて行為のスピードをあげるので、ミスしがちである。あわてないためには、自分の行為を実況中継するような気持ちで言葉にしてみるとよい。言葉が行為を調整してくれるからである。
2)大局的、多角的に考えるようにする
 思い込みによる誤った状況認識を避けるためには、情報的に自閉しないことである。事態を鳥瞰図的に眺めてみる、一歩引いて観察してみる、観点を変えてみる、などなど。
3)思いを口に出して周囲と情報交流を活発にする
 思い込みは頭の中で起こる。それをできるだけ口に出すことによって、周囲からのチェックを受けられるようにする。さらに口に出すことの効果は、自問自答による自己チェックをも期待できる。
3)いろいろの人の意見に耳を傾ける
 「緊急事態で役立つのは普段は役に立たない人」という冗談がある。それは、事態に巻き込まれていないフレッシュ・アイを持った人の意見を聞けという忠告でもある。思い込みエラーを防ぐには、周囲からものを言ってもらえる環境が必要なのだ。(K)



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注1 ゲシュタルト的認識の例としてよく挙げられるのは、図に示す主観的な輪郭がある。全体的に見るからこそ、陽にはない四角が見える。








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