公認会計士日吉雄太の「真実を求めて」

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労働市場の流動化について考える

2013年04月09日 | ブログ
 我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進について調査審議することを目的に、内閣総理大臣を議長とする産業競争力会議が開催されています。本年1月から開始して3月までに5回の会議が行われ、4月2日付で「第4回・第5回産業競争力会議の議論を踏まえた当面の政策対応について」が公表されました。その中に以下の記載があります。

「厚生労働大臣は、雇用制度改革について、以下の政策課題について対応すること。
■成熟産業から成長産業へ「失業なき円滑な労働移動」を図る。このため、雇用支援施策に関して、行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策シフトを具体化すること。
・・・
■多様な働き方を実現するため、正社員と非正規社員といった両極端な働き方のモデルを見直し、職種や労働時間等を限定した「多様な正社員」のモデルを確立するための施策を具体化すること。
・・・」
 
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 これまでの日本の労働者の非正規化は、経済のグローバル化に伴う競争激化のなかで、企業が生き残りをかけてコスト削減をする必要に迫られて推進されてきました。特に中間層を非正規社員にしたことで人件費が減少し、企業利益は回復しました。この結果、正規社員と非正規社員との格差が大きな問題となっています。

 このような環境の中で、今、労働市場の流動化を促進する方向が検討されています。
 労働市場の流動化を支持する人の主張は、主として以下のとおりです。
■終身雇用制度が障壁となって、産業構造の転換が進まず、その結果、国際競争力が落ちてしまった。
■雇用を守るための雇用調整助成金が、労働者の移動機会を奪い、生産性の低い部門(業種)に労働者を縛り付け、経済全体の生産性を低迷させている。
■成熟産業を延命する政策をやめ、成長産業を集中的に支援していく体制へと抜本的に変えていかなければならない。
■流動化により生産性の高い部門(業種)に労働者を移動する。
■正規社員を保護する規制が強いと失業する可能性は低くなるが、一旦職を失うと失業期間が長期化する傾向にある。
■企業は、業績悪化のリスクを踏まえ、解雇が困難な正規社員の採用を絞り、調整が容易な非正規社員を増やしている。
■労働者サイドからも多様な雇用形態が望まれている。
■正規社員も非正規社員も同じ解雇ルールを適用することは、「同一労働同一条件」の原則を徹底することになり、雇用形態間の公平性が保たれる。

 日本維新の会が、平成25年3月30日に公表した「日本維新の会 綱領」では、「・・・その基本となる考え方は以下の通りである。・・・8.既得権益と闘う成長戦略により、産業構造の転換と労働市場の流動化を図る。」とあります。
 また、みんなの党の「みんなの党2012アジェンダ」では、「新卒採用の可否によって人生が決まる雇用慣行を是正。正社員の整理解雇に関する「4要件」を見直し、解雇の際の救済手段として金銭解決を含めた解雇ルールを法律で明確化する。」とあり、解雇規制を緩和する公約を掲げています。
 このような労働市場の流動化に関する政策は、若者から支持される傾向にあるようです。

 労働市場の流動化を支持する人の主張に、成長産業への人材供給があります。そもそも成長産業では、どのような人材を求めているのでしょうか?「成長産業」との響きからすると、ばりばりと活躍する人材が想定されます。一方で、解雇規制の緩和により現在の職場を辞める人はどのよな人材でしょうか?企業が手放してもよいと考える人材です。果たして成長産業が必要とする人材と重なるのでしょうか。成長産業が魅力的であれば、解雇規制を緩和せずとも移動したい人材は成長産業に移動します。成長産業の人材確保の問題は、成長産業の方で対策をとるべきであって、解雇規制の緩和で解決できることではないと思います。

 「同一労働同一条件」は賛成ですが、労働者全体の利益が低下する形での格差の是正であってはなりません。労働市場の流動化により、企業全体の人件費総額が削減されれば、それは労働者全体の獲得賃金が削減されることを意味するわけです。庶民と一部の富裕層という大きな格差を助長してはなりません。

 解雇規制を緩和する場合、適切に運用できるか疑問です。昨今、評価主義が採用されていますが、適切な評価という問題もあります。人材の余剰が、そもそも採用段階での経営判断ミスに由来するかもしれません。
 確かに、いわゆる「フリーライダー」と言われる問題労働者への対応で、企業が苦労している事実はあります。しかし、普通にまじめに働く者を簡単に解雇できるようになってはなりません。解雇が乱用されれば雇用環境は劣悪となり、消費は冷え込み、経済に大きな悪影響を与えます。

 若者は、労働市場の流動化を支持する傾向にありますが、それは、先に生まれた者が正規社員としての既得権を保持していることへの疑問からではないでしょうか。企業が活力を保つためには、人材の新陳代謝を促進すること、つまり定期的に新人が入る一方で退職する者もいるという環境が必要です。しかし、本来、希望する者には終身雇用が確保され、柔軟な雇用形態を望む者にはその配慮があった上での新陳代謝が理想です。多様な雇用形態を労働者が望むとしても、それは正規社員を望む者の希望が叶うことが前提での話です。
 若者は、労働市場の流動化自体を望んでいるのではなく、非正規社員から正規社員になることでの職の安定と待遇の向上を望んでいるのです。問題は、企業が人件費を賄うことができるかということですが、それは景気回復のための様々な施策に依ることになります。ただ、解雇規制の緩和それ自体は、人件費削減による企業利益の増加には貢献しても、景気回復にはつながりません。

 企業は、労働者にとって賃金を稼ぐ場であると同時に、コミュニティを作り様々な経験や修練を積む場でもあります。人生の多くの時間を費やすことになります。本人の意に反した安易な解雇を促進すべきではありません。

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