hiyamizu's blog

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カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」を読む

2009年08月09日 | 読書2


カズオ・イシグロ著、入江真佐子訳「わたしたちが孤児だったころ」2001年4月、早川書房発行を読んだ。

1900年代初め、上海の租界で暮らしていたクリストファー・バンクスは、アヘン取引きに絡んでいた会社に勤務していた父親が上海の自宅から突然姿を消し、次いで潔癖で美しい母親までもが行方不明となる。10歳でイギリスに戻った彼は、2つの世界大戦に挟まれた時代を英国で過ごし、名門大学を出て念願の探偵となり、ロンドンの社交界でも名を知られるようになる。
彼は1930年代末、日中戦争が勃発し混迷をきわめる上海に戻り、事件の解決に乗り出すが、失われた過去と記憶をたどる旅は、現実と幻想との境界線が次第にあいまいになっていく。

話の流れは謎を追っていく展開になっていて、これまでのイシグロ作品にない探偵小説の形になっている。しかし、徐々に主人公自身の語りがあやしげになり、あきらかに事実と異なる話しぶりになったりする点はやはりイシグロ作品だ。



カズオ・イシグロの略歴と既読本リスト



入江 真佐子
国際基督教大学教養学部卒。英米文学翻訳家。訳書多数。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

子供の頃を思い出すシーンは心にしみる。その部分は子供の視点で書かれており、子供からみた大人の様子や、子供同士の遊び、そして、楽しそうに笑うお母さんを見て、うれしくてたまらなくなる場面など「誰の子供時代も同じなんだなあ」と懐かしくなる。

前半はロンドンでの話で、ところどころに子供の頃の上海の思い出がでてくるが、イギリス小説らしい心理描写など静かな展開だ。ちょうど半分くらいのところで上海に渡り、それからはわけのわからない人物が出てきたり、激しく、荒れた展開となり、置いていかれそうになる。

主人公はロンドンで高名な探偵になったとあるが、ときどきたいしたわけもなく激昂したり、とてもありえないことを信じきっていたり、大人になりきれていない行動があり、ちょっと引いてしまう。

話が一段落するところで、「あのような大きな波紋を呼ぶとはまったく予想もしなかった。」「あのようなことになろうとはわたし同様、彼も思ってもみなかったはずだ。」など思わせぶりに終わり、次への期待をあおって話をつなげていく。謎解き小説ではないが、謎で引き込んでいく小説ではある。

後半のダイナミックな展開もあるが、時の流れが折り重なり、心に傷を抱えるなど深みのある人物描写、会話があり、丹念に作られたイシグロらしい小説になっている。


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