本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ著「ユマニチュード入門」(2014年6月15日医学書院発行)を読んだ。
ユマニチュード ( Humanitude ) は、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法で、1995年にイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人によってつくり出された。
見つめ、話しかけ、触れ、立ち・移動をサポートし、強制ケアをゼロにすることを目指し、受ける人の改善を図る。
「見る」
背を丸めて座っている人には下からのぞいて、まっすぐ顔を見る。背後からは一度追い越してから向き直り、時間をかけて近づいて声をかける。食事の介助は、近くまでぐっと寄って視線をつかみ、スプーンをしっかり目の前で見せてからたべてもらう、などなど。
「話す」
どうせ聞こえていないだろうと、相手を無視して話しかけることは、「あなたは存在していない」というメッセージを発することだ。
例えば、反応のない人へのアプローチするテクニックは、
(1) 依頼
「右手を上げてください」と3秒待ち、もう一度「右手を上げてください」再び3秒待ち、「私の顔を触ってください」などと言葉を変える。
(2) 予告
「これから腕を洗いますね」
(3) 実況中継
「腕を上げます。左腕です。とってもよく腕が伸びていますね!」「肩から洗いますね。次は手のひらです。あったかくなりましたね。気持ちいいですね」
「触れる」
触れるときは飛行機が着陸するイメージで。手を放すときは離陸のイメージで、皮膚の緊張を解く。ケアの最中は、どちらかの手が常に相手に触れていることが理想。
立ち上がりの介助は、腕をつかむのではなく、下から両腕を使い、優しくささえる。5歳の子の力以上に使わない。
「立つ」
着替え、歯磨き、洗面などリハビリテーションとして独立した時間をとらなくても一日に20分間程度、立位を含めた時間を確保する。
「ベッド上安静は1週間で20%の筋力低下を来たし、5週間では筋力の50%を奪ってしまいます。」「一日のうち20分間立っていられれば、寝たきり状態になることはありません。」「よりよい健康状態を保つためには、転倒もそのなかで起こりうることの一つである」
以下、「はじめに」より
さまざまな機能が低下して他者に依存しなければならない状況になったとしても、最後の日まで尊厳をもって暮らし、その生涯を通じて“人間らしい”存在であり続けることを支えるために、ケアを行う人々がケアの対象者に「あなたのことを、わたしは大切に思っています」というメッセージを常に発信する―― つまりその人の“人間らしさ”を尊重し続ける状況こそがユマニチュードの状態である。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
眼を見て話す、引っ張り上げるのでなく支えるなど、介護について良く言われることが並んでいると言えば言える。しかし、考え方(哲学)を明快に述べるとともに、その考え方から導かれた形で具体的所作を示している。大雑把に言えば、単にテクニックの話ではなく、介護する人の優しい気持ちを相手に伝えるにはどうしたらよいかを具体的に示していると言える。
厳しい職場環境で、あるいは家庭で介護する方は、なかなか時間的にも気持ち的にも余裕がない状態だと思うが、このような介護方法を試みて、介護される人が改善したり、嬉しい反応があれば、報われることもあるだろうと思う。
イヴ・ジネスト
ジネスト・マレスコッティ研究所長、トゥールーズ大学卒
ロゼット・マレスコッティ
ジネスト・マレスコッティ研究副所長、SASユマニチュード代表、リモージュ大学卒
本田美和子
国立病院機構東京医療センター・総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室長
1993年筑波大学医学専門学群卒。内科医。