氏家幹人著『古文書に見る江戸犯罪考』(祥伝社新書2016年10月10日祥伝社発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
■江戸の暗黒ワールドへ、ようこそ!
信憑(しんぴょう)性の高い史料を基(もと)に、江戸時代の犯罪と刑罰について、わかりやすく紹介したのが本書である。
児童虐待、介護の悲劇、夫婦間トラブル、通り魔殺人、多彩な詐欺・・。現代に横行する犯罪のほとんどは江戸時代にもあった。 もちろん、江戸時代ならではの犯罪も味深い。貧しい少女による放火、巾着切(きんちゃくきり) (スリ)や盗(ぬすっと)人たちの独特な作法と生態、同心や岡っ引きによる特異な捜査など、現代との隔絶ぶりに驚かされるのだ。
これらの犯罪の諸相はまた、時代小説を読む目を肥やしてくれるのではないだろうか。犯罪を通して覗き見る、 江戸の本音と真実がここに!
第一夜 千人切り通り魔殺人事件
浪人・真柄新五郎が愛宕神社から「今夜より千人切りを行うべし」とお告げを受け、20~30人を切ったという。
第二夜 夫婦という危険な関係
旗本の出世頭・大井新右衛門は美男の養子・吉五郎を迎えたが、不義を働いた妻と養子を打ち捨てて自宅に引きこもった。幕府の指示は「吉五郎の死骸は実家に引き取らせ、妻の死骸は取り捨てにして埋葬を許すな」だった。後に世に悪評が立ち、新右衛門は自殺した。
第三夜 巾着切と町奉行
大阪町奉行・曲淵甲斐守は、大坂の巾着切り一同に浅黄色(水色)の木綿の頭巾をかぶってスリを行うよう申し渡した。地元の人はすぐスリだとわかるので、他所から来た人が集中的に狙われる結果となり、スリは地域社会と共存した。江戸でも1万人以上の巾着切りが、表が青梅縞で裏が秩父絹の布子(木綿の綿入れ)を着ていた。
また、スリは組織化されていて、床屋を通じて話を通すと、親分が現金以外のものは、取り戻るように話をつけてくれたという。
第九夜 盗みと刑罰、そして敲
敲の刑具には藁製の「敲藁」と竹製の「箒尻」の2種があった。敲が自力で帰宅できる程度に打てと指示されていたことから、罪人の厚生を促す刑だったとうかがえる。
第十一夜 田舎小僧参上
田舎小僧は大名屋敷に20回ほど忍び込み、家財道具や比較的小額の現金を盗んでせいぜい141両ほど。34歳で処刑された。
第十二夜 鼠小僧は劇場型犯罪
120回ほど大名屋敷などに盗みに入り、総額は3000両以上盗んだ(101件のリストが載っている)。盗んだ金を貧乏人に恵んだとか、捕まった時も、金銀が紛失して疑われた人もいるだろうからすべて白状したという。
第十四夜 土壇場の作法
磔、火罪の極刑から、庶民に対する死罪、武士などに対する斬罪、庶民に対する一番軽い下手人という死刑があった。死罪の場合は打ち首になった後の死体が刀剣の試し切りに利用された。
本書は書下ろし。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
さまざまな例示がされていて、それなりに面白いが、全体のまとめがない。実例は豊富で実感がわくのだが、犯罪取り締まり体制の説明や、刑罰全体構成などの概要をまず説明して欲しかった。
氏家幹人(うじいえ・みきと)
1954年福島県生まれ。歴史学者(日本近世史)。国立公文書館勤務。
東京教育大学文学部卒業、筑波大学大学院博士課程中退。
著書に「江戸時代の罪と罰」「江戸の少年」「サムライとヤクザ」など。
江戸時代の裁判は予想に反して、できる限り証拠調べをして、各々の事情も聞き取り、意外と公平なお裁きをしていたという感じが読んでいてした。しかし、武士は逃げてはならぬ、女性は従うべき、孝優先などの基本の考えは貫いていたので、当然現代の視点で見ると恐ろしい結果になっている場合も多い。
例えば、二人も子をもうけて女房同様だったのに里に返された女中は、主人の武士の手首を切り、家の者に刺殺された。さらに、罰として死骸をさらに磔にされた。一方、武士も旗本を改易となり武士の身分を剥奪された。しかし、その罪は、武士なのにその場から逃げたからという理由だった。
厳しい折檻で子供を死なせた親の罪は軽く、火事の際に親を救出できなかった子は遠島の重罪になった。