古儀君男著『核のゴミ 「地層処分」は10万年の安全を保証できるか?!』(2021年6月15日合同出版発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
「地層処分」は、核のゴミからの安全を保証するか?
2020年10月、北海道神恵内村と寿都町が核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)の最終処分場の文献調査に応募した。
原子力発電環境整備機構(NUMO)は「地層処分」を目指すが、複雑な断層や地質構造、地震、火山の多い日本列島で安全な処分が担保できるのか?!
原子力発電所からは、必ず放射性廃棄物が出る。今のところ、この処分は、ガラスで固めて、鉄容器に入れて、厚さ70㎝の緩衝材で覆い、地下300mより深い穴を掘って埋める地層処分しかない。安全レベルまで下がるのには10万年かかる。
この処分場をどこにするのか、まったく決まっていない。原発は「トイレなきマンション」と呼ばれている。
製造直後のガラス固化体の放射能は激烈で20秒で人を死に至らしめる。自然のウラン鉱石と同じレベルに下がるまでに10万年かかる。
処分方法は諸外国でもいろいろ検討されてきたが、地下数百メートルより深い場所に埋める地層処分しかないとの結論だ。例えば、ロケットで宇宙に放出しても打ち上げに失敗したら大災害となる。
電力会社が出資する認可法人NUMO(ニューモ)とは、日本核廃棄物管理機構の略称だが、国内では「原子力発電環境整備機構」というごまかしの名前になっている。
「地層処分とはどのような方法なのかは、NUMOのホームページのPDFが詳しい。
日本では処分場の候補地すら決まっていない。受入れ自治体が現れても判定には20年程度必要。火山噴火、地震、地下水、活断層、地殻変動など検討すベき項目は多いし、調査困難な点もある。
10万年単位の保管に耐えられるのか。世界の実績、日本列島の地層研究データを基礎に「地層処分」の是非を考える最新刊!
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
正直言って、飛ばし読みした。わかりやすく書けているのだが、冗長だ。細かい点に興味がある人以外には飛ばしながら読むのをお勧めする。
各種報告書を簡単に解説することで論を進めているので、著者のストレートな主張になっていない。結局安全な処分場所が探し出せていないし、どこが安全か、調査項目も不明な点が多い。
確かに、必ず出てくる放射性廃棄物の処分方法も決まらないで原発を稼働し続けているのは誤っている。破棄も含めれば経済効率も原発は他に比べて悪いのではないだろうか。
古儀君男(こぎ・きみお)
ジオサイエンス・ライター、日本地質学会/日本火山学会会員
1951年生まれ、金沢大学大学院理学研究科修士課程修了、地質学や火山学を専攻。
著書に、『地球ウオッチング2〜世界自然遺産見て歩き』(本の泉社、2020)や、『火山と原発』(岩波ブックレット、2015)など。
伊豆半島、富士山を除けば、日本列島の太平洋岸には火山はない。
参考:日本地質学会リーフレット「日本列島と地質環境の長期安定性」(¥600)
もくじ
第1章 地層処分とは
(1)核のゴミと最終処分
(2)地層処分とは
第2章 日本と海外の取り組み
(1)日本の取り組み
(2)海外の取り組み
第3章 地層処分についての日本学術会議の回答と提言
(1)経過
(2)日本学術会議の「回答」(2012)年
(3)日本学術会議の「提言」(2015年)~暫定保管について
(4)日本学術会議の「回答」に対する日本地質学会のコメント
(5)地層処分と貯蔵を巡る世代間倫理の問題
第4章 10万年の安全?!
(1)過去10万年間に人間社会で何が起きたか
(2)未来の10万年間で何が起きるか
第5章 日本の地質の特異性
(1)複雑な日本の地質構造と成り立ち
(2)4つのプレートが衝突する世界でも希有な場所
第6章 「科学的特性マップ」を考える
(1)「科学的特性マップ」とは
(2)地層処分で考慮すべき要件と基準
(3)地層処分に好ましい要件
(4)科学的特性マップで考慮されなかった要件
第7章 日本で地層処分は可能か