hiyamizu's blog

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今村夏子『父と私の桜尾通り商店街』を読む

2021年08月15日 | 読書2

 

今村夏子著『父と私の桜尾通り商店街』(2019年2月22日KADOKAWA発行)を読んだ。

 

KADOKAWAの紹介文(電子版)

違和感を抱えて生きるすべての人へ。不器用な「私たち」の物語。

桜尾通り商店街の外れでパン屋を営む父と、娘の「私」。うまく立ち回ることができず、商店街の人々からつまはじきにされていた二人だが、「私」がコッペパンをサンドイッチにして並べはじめたことで予想外の評判を呼んでしまい……。(「父と私の桜尾通り商店街」)
全国大会を目指すチアリーディングチームのなかで、誰よりも高く飛んだなるみ先輩。かつてのトップで、いまは見る影もないなるみ先輩にはある秘密があった。(「ひょうたんの精」)
平凡な日常は二転三転して驚きの結末へ。
『こちらあみ子』『あひる』『星の子』と、作品を発表するたびに読む者の心をざわめかせ続ける著者の、最新作品集!

 

「白いセーター」(『文学ムック たべるのがおそい vol.3』の再掲)

ゆみ子は、婚約者の伸樹さんから去年のクリスマスにプレゼントされた白いセーターを着て「大好きな伸樹さんと、大好きなお好み焼きを食べにいく」クリスマスイブを楽しみにしていた。
伸樹の姉・ともかから電話があり、その日の昼間に4人の子どもを預かってくれと頼まれた。教会に行く途中で、彼らは「臭いホームレスが来たら叫んで追いだそう」と相談する。そして教会の中で、4歳の陸は誰かに向かって「でていけーっ!」と絶叫する。とっさにゆみ子は陸の口を手で塞ぎ、暴れるので鼻をつまむ。陸は渾身の力を込めてゆみ子の両胸をパンチする。長男の大雅は、ゆみ子が陸を殺そうとしたと、伸樹の姉に訴え、彼女は伸樹にそう告げる。
伸樹は機嫌が悪く、心がざわついたゆみ子は家を出る。結局、「ますだ」で伸樹と一緒になり、帰り道、ゆみ子が「離婚しますか」と聞くと、伸樹さんは「結婚しないと離婚できないよ」といった。

 

「ルルちゃん」

ヤマネは、人材派遣会社からのクッキー工場で働いていてベトナム人のレティと友達になった。人形のルルを見て誰のと聞く。ルルちゃんはルルちゃんだ。誰のものでもない。
10年前、図書館のラウンジで出会った安田さんの家に居たのだ。

 

「ひょうたんの精」

なるみ先輩は中学三年のとき、神社の住職(?)に言われてひょうたんの中を覗き込んでみると七福神がいた。私は、ひょうたんのたたりから逃れる手段をネットで探して、ひょうたんの弱点はウリキンウワバという蛾の幼虫とわかった。

 

「せとのママの誕生日」

「スナックせと」の元手伝いの3人はママの誕生日のお祝いに集まり、昔話に花が咲く。ママは、アリサの悩みの種の巨大な出べそを集客に売り物にしてみせる。

 

「モグラハウスの扉」

工事現場の作業員に、子ども達からモグラと呼ばれる筋肉モリモリの人がいた。もうすぐ完成するモグラハウスは地下20階でさまざまな娯楽施設もそろっているという。学童の先生のマッチョ好きの松永みっこ先生はマンホールから中に入り込んでしまう。

 

「父と私の桜尾通り商店街」

父は商店街でパン屋をやっていたが、仕入れた材料がなくなったら店をたたんで老いた祖母の家に帰るつもりだった。私は、店に来たが財布をわすれた女性にコッペパンをあげた。お金を持ってきた女性に、私は味がないからとコッペパンの中にイチゴジャムとマーガリンを挟んで差し出し、半分ずつ食べた。そして、‥‥。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

私の好きな今村夏子さんなので、ちょっと甘めの四つ星。
平凡な日常の中から気がつかないうちに何か落ち着かない、違和感のある世界へ入り込んでしまうのが今村ワールド。しかし、この本の中のいくつかの作品では、最初からそれはないんじゃないかと思ってしまうものもある。

 

もうひとつ、今村さんの作品で魅力を感じるのは、主人公が今村さんを思わせるような(存じ上げてはいないのだが)純粋な人柄で、いかにもこれではこの世界で過ごすのは大変だろうなと思わせる“ずれ”ぶりであることだ。そして、純粋であることがいけない、駄目なこととなるのは、私が属している世間の方が間違っているのではと思ってしまうことだ。

 

本書に関するインタビュー(カドブン(元は「本の旅人」2019年3月号))で今村さんは「白いセーターについて」こう語っている。

男のほうは、優しいのか冷たいのかよくわからない性格をしています。女に理解を示しているように見えて、本音や決定的なことは何も言わない、という男の性格が表れる場面にしたくて、最後の二人の会話を考えました。

今村さんは、純粋なだけでなく、小説に仕上げるための冷静な、分析的な目も持っているのだ。当たり前ながら。

 

 

今村夏子の略歴と既読本リスト

 

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