hiyamizu's blog

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川上未映子訊く、村上春樹語る『みみずくは黄昏に飛びたつ』を読む

2017年06月29日 | 読書2

 

 川上未映子訊く、村上春樹語る『みみずくは黄昏に飛びたつ』(2017年4月25日新潮社発行)を読んだ。

 

 村上春樹を完読している川上未映子が鋭く、無遠慮とも思えるほど執拗に質問し、村上春樹もオープンに、丁寧に答えている。結果として、川上未映子の村上春樹論となり、村上主義のかなり深いところまで掘り下げられている。

 村上の小説の書き方は、これまでもいくつか本人自身により明らかにされているが、今回は同業の作家である川上の執拗な質問により、はるかに具体的に小説作法が提示されている。

 

第1章は、『職業としての小説家』刊行記念で2015年に文芸誌“MONKEY”に掲載されたもの。

第2章~4章は、2016年秋『騎士団長殺し』を中心にして、2日に渡るインタビューをまとめたもの。

 

村上の小説の書き方

 小説を書かない期間を取る。自発的にじわっと熱が出てくるのを待つ。締切りのある仕事はだめ。何も湧き上がるものがないのに捻り出すようになってしまう。したがって、書下ろししかない。

 

 さまざまことを記憶のキャビネット(抽斗)に詰め込んでおく。小説を書いていると、必要な時に必要な抽斗がぽっと勝手に開いてくれる。経験を積むと、どこに何が入っているかわかり素早く引き出せる。

 

 比喩も自然に出てくる。必要に応じて向こうからやってくる。比喩に関してはチャンドラーに学んだ。比喩は意味性を浮き彫りにするための落差だから、あるべき落差の幅を自分で設定すれば、読者ははっとして目をさます。

 

 書く前に人物スケッチは作らない。どんな人かなと想像しながら書いているうちに、自然に肉付けができる。

 

 第一稿を書くときは、多少荒っぽくても、とにかくどんどん前に進んでいく。例えばここは工程上二枚半と頭の中に入っていれば、何でもいいから二枚半書いてしまう。細かい描写や難しい記述は適当に書き飛ばす。矛盾はあとで調整する。全面書き直しは10稿以上。文体こそが小説の命と考えている。

 

 何はともあれ、ともかく一日10枚は書く。朝一番、十五分か二十分、前日の十枚分を読み直して、荒っぽいところを少し均す。

 

 小説を書くことを一軒の家に喩える。一階はみんながいる団らんの場所で、楽しくて社会的で共通の言葉でしゃべっている。二階はプライベートなスペース。地下一階は暗いのだが、わりに誰でも降りて行ける。近代的自我、日本の私小説が扱っている。地下二階が、村上が小説の中で行こうとしているところ。

 

 できるだけわかりやすい言葉で、できるだけわかりにくいことを話そうする。スルメみたいに何度も何度も噛みしめるような物語を。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 内容的には五つ星だが、私が『騎士団長殺し』を読んでいないため、話についていけない箇所が多かったので四つ星にした。私は、『騎士団長殺し』の詳細に係わる部分は読み飛ばした。

 

 それにしても、川上未映子が村上作品を完全に読み切って、細部まで覚えているのに驚く。それに比べて村上は自分の作品を覚えていないことが多い。いくら出版済の自分の作品は読まないといっても。記憶力の差?

 川上さんは、詳細なノートを付けて、まったく役に立たなかったとぼやいているが、準備して、さらに恐れることなく鋭い質問を真正面から連発した。見事だ。

 

 

目次

はじめに 川上未映子

第一章 優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない
第二章 地下二階で起きていること
第三章 眠れない夜は、太った郵便配達人と同じくらい珍しい
第四章 たとえ紙がなくなっても、人は語り継ぐ

インタビューを終えて 村上春樹

 

 

以下、メモ

p245

川上:では、村上さんの小説における「女性」についてお聞きしたいんですけれど、村上さんの小説の話をするときに、けっこう話題になるのが、女の人の書かれ方、女の人が帯びている役割についてなんですね。
 例えば女友だちには、「あなたは村上春樹作品をすごく好きだけど、そこんとこ、どういうふうに折り合いをつけているの?」と聞かれることがよくあります。村上さんの小説に出てくる女性について、足がちょっと止まってしまうところがあると。それは男女関係なく、抵抗感を感じる人がいるんです。

・・・

川上:・・・いつも女性は、そういう形で「女性であることの性的な役割を担わされ過ぎている」と感じる読者もけっこういるんです。

・・・

村上:でも、こう言ってしまったらなんだけど、僕は登場人物のことも、そんなに深くは書き込んでいないようなきがするんです。男性であれ女性であれ、その人物がどのように世界と関わっているかということ、つまりそのインターフェイス(接面)みたいなものが主に問題になってくるのであった、その存在自体の意味とか、重みとか、方向性とか、そういうことはみしろ描き過ぎないように意識しています、前にも言ったけど、自我的なものとはできるだけ関わらないようにしている。男性であれ女性であれ。

 

川上未映子の略歴と既読本リスト 

 

 

 

村上春樹の略歴と既読本リスト

 

 

コメント
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