hiyamizu's blog

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西村賢太『暗渠の宿』を読む

2011年05月29日 | 読書2
西村賢太著『暗渠の宿』2006年12月新潮社発行、を読んだ。

2編の短編よりなる。

暗渠の宿
貧困の中、酒に溺れ、やっと得た恋人に嫉妬のあまり暴力をふるう。一方では、大正期の破滅型作家藤澤清造に傾倒し、全集を出すための金を本屋に預け、清造の祥月命日に七尾市まで駆けつける。

けがれなき酒のへど
ありきたりの恋人を切望しながら、風俗に入り浸り、トラブルを起こし、いいように扱われて金を巻き上げられる。

著者の小説はいまや死語の私小説なので、主人公はいつも同じだ。そして、自分のことをこんな風に語っている。
「根が小心者にできているだけ」
「根が下卑てる私は」
「根が忘恩の徒にできてる私は」
「しかし当然、まだこの段階では彼女に私の激しやすい本性を知られるわけにはゆかないので、その衝動をじっとこらえて何とかねじ伏せたが、・・・」
「先天的にも後天的にもほとりの女を得るに足る、人格、容姿、財力、学歴、趣味教養が、いずれも無惨なまでに不備・・・」

恋人を求める心は必死で、耐えに耐えるのだが、いったん自分の女にした後は、本性を抑えきれない。嫉妬や劣等感から大したことをしていない彼女に、瞬間的に怒りを爆発させ、暴言を吐き、暴力を振る。一方では、昔の小説を良く読み、藤澤清造の墓碑に高額なケースを作るなどの面もある。こんな小説家は今時珍しい。



西村賢太
1967年7月、東京都江戸川区生まれ。町田市立中学卒。
2006年『どうせ死ぬ身の一踊り』で芥川賞候補、三島由紀夫書候補、『一夜』で川端康成文学賞候補
2007年『暗渠の宿』で野間文芸新人賞
2008年『小銭をかぞえる』で芥川賞候補
2011年『苦役列車』で芥川賞受賞
その他、『二度はゆけぬ町の地図』、『瘡瘢旅行

著者の父親が強盗強姦事件を起こしたことも事実だし、自堕落な生活ぶりや、逮捕歴も本当だ。一方では、藤澤清造の没後弟子を自称し、全集を個人で出してもいるし、七尾市の清造の菩提寺に祥月命日に墓参を欠かさない。このあたりも作品にそのまま登場する。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

近年では珍しい破滅型の私小説で、私小説なのでしかたない面もあるが、すでに読んだ『瘡瘢旅行』と同じ話がそこかしこに出てくる。これほどのダメ男とは付き合いがないので、その心の動きには興味があるが、同じテーマでは2冊読めば充分だ。しかし、本当に事実を書いているとすると、こんな荒れた心で、自己を冷静に見つめる小説が書けるのが不思議だ。



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