hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

ベリンダ・バウアー『ブラックランズ』を読む

2011年05月24日 | 読書2
ベリンダ・バウアー著、杉本葉子訳『ブラックランズ』小学館文庫、2010年10月小学館発行、を読んだ。

12歳の少年スティーヴンは、今日も子供の時に死んだ叔父ビリーの遺体を捜して、広大なヒースの茂る荒野(ブラックランズ)をあてもなく掘る。19年前に起きた連続児童殺人事件以来、ビリーの母である祖母は窓から息子の帰りを待ち続けるばかりだ。母の愛を失ったスティーヴンの母も、弟ビリーの年代となったスティーヴンにつらく当たっては罪悪感に苛まれる。
スティーヴンは家族をもとに戻すためには、ビリーの遺体を発見し、祖母が息子の死を受け入れ、事件を完全に終わらせるしかないと、あてもなく荒野を掘り続ける。やがて事件の犯人である獄中のエイヴリーと手紙のやりとりを始め、・・・。
ベリンダ・バウアー(女性)は、この処女作でゴールドダガー賞を受賞。

刑務所の殺人犯からの暗号のような手紙を母に見つかって追求された少年は、女の子からのものだとごまかして、「もてる男はつらいよね」と言う。
母の怒りを買いかねない一か八かの軽口が珍しく受けて、母は彼の腰に腕を回し頬へキスをする。彼は嫌がるふりをして体をよじる。後ろを向いた祖母の頬も緩んでいた。彼はつかの間の幸せに浸りながら、自分が何のために穴を掘り続けてきたかを思い出した。
このためだ。こういう瞬間のためなんだ。

本書は2010年1月に英国で刊行された“BLACKLANDS” を本邦初訳したもの。



ベリンダ・バウアー Belinda Bauer
英国生まれ、南アフリカ共和国育ち。女性。現在、英国ウェールズ在住。
ジャーナリスト、脚本家としてキャリアを積み、本書で作家デビューし、英国推理作家協会賞の2010年度ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)を受賞。

杉本葉子
大阪府生まれ。国際基督教大学教養学部語学科卒。訳書に『うまくいく子の考え方』
松本果蓮の名でハーレクイン社からも翻訳書を出している。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

本来はやさしい祖母と母の心を癒し、温かい家庭を取り戻そうと、家族に明かすことなくビリーの死体を掘り出そうとする。子供であるがための多くの制約の中、さまざまな知恵を働かせ、意地悪をする祖母、弟だけを可愛がる母に心挫けそうになりながら、歪んでしまった家族を再生させるためにと、必死に努力する少年の心の動きがよく書けている。さすが、女性脚本家だ。

後半には頭の良い連続少年猟奇殺人犯の心の動き、殺人方法などの記述も多く、不気味なほどの書きっぷりだ。

殺人犯がちょっとした幸運に恵まれる。
エイヴリー(殺人犯)は短絡的ではないから、神は自分の味方だとは思わなかった。むしろ、神は人間のことなどどうでもいいんだなと思った。


訳者あとがきの中で、原著の著者のあとがきを紹介している。
本書で描いたような犯罪によって、大切な人を奪われた遺族が、何年、何十年、ときには世代をまたいで背負うことになる衝撃や痛み、そこに思いを致し、“もし私が、我が子を殺された女性の孫だったなら、そのことは私にどんな影響をあたえるだろう、私はどんな人生を送るだろう”と想像した瞬間、他の何よりも、家族の崩壊という悲しみに圧倒されました。その時点ですでに十二歳の少年のなかに入り込んでいた私が思ったことはただひとつです。すなわち、“どうすればその状況をかえられるか”


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする