hiyamizu's blog

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伊藤計劃『虐殺器官』を読む

2011年05月06日 | 読書
伊藤計劃著『虐殺器官』ハヤカワ文庫JA、2010年2月早川書房発行、を読んだ。

“テロとの戦い”は激化し、サラエボが手製の核爆弾によって消滅する。先進資本主義諸国はこれを機に、個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃する。
一方、後進諸国では内戦や民族虐殺が激増する。その背後には謎の米国人ジョン・ポールがいる。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカに、その影を追う。ジョン・ポールの目的は何か? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは何か?

本書は2007年6月に早川書房より単行本として刊行された作品の文庫化だ。



伊藤計劃(いとう けいかく)1974年10月 - 2009年3月
1974年、東京都生まれ。武蔵野美術大学美術学部映像科卒。
Webディレクターのかたわら、執筆活動を続ける。
2007年本書『虐殺器官』
2008年『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS』(新作ゲームの小説化)
2008年『ハーモニー』で、2010年星雲賞日本長編部門、日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞受賞
2007年に、34歳、作家デビューしてからわずか2年ほどでガンのため早逝。
http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/

本書の著者インタビューで、ペンネームの由来について語っている。
ペンネームのローマ字表記は Project Itohで、伊藤計画(本名は伊藤聡)なのだが、
はてなダイアリーのblogを書き始める前からWEBサイトをやっていたのですが、そのときにつけたハンドルです。自分自身を計画する、というか、若かったので、なんかやってやろう、という野望の反映だったのでしょう。「劃」の字が古いのは、香港映画とかでそう書かれているのが印象的だったからです。ジャッキー・チェンの『A計劃(プロジェクトA)』とか。




私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

欠点は多いが、骨太ですさまじいエネルギーだ。
2005年ガンで入院、抗癌剤の副作用から解放されると、会社勤めのかたわら、『虐殺器官』をわずか10日で書き上げた。転移がみつかり、病院でゲラ刷りを読み、入退院を繰り返す。次作『ハーモニー』は病院で一日30枚書いたというから、生き急いだのだろう。

ただし、大量虐殺死体の描写や子供の兵士を撃ち殺す場面など残酷シーンが続出するので万人向きではない。ただし、記述は、さらりとして漫画的でおどろおどろしいものではない。

平易な言葉で深い内容を書いた小説もあるのだから、雑学ともいえる知識は小説の本質ではないのだろう。しかし、管理社会、言語学、心理学、脳科学、ゲーム理論、グローバリズム等々知識がそこかしこで示される。深みのある知識ではないのだが、小説に深みを増していることは事実だ。漫画によくある手法だ。

戦いに参加する前に兵士はカウンセリングを受け、戦闘に適した感情状態に調整される。個人の選択の余地は残されているので洗脳とは違うと言うのだが、最後にカウンセラーは穏やかに言う。「どうですか、今なら子供を殺せそうですか」
そして、戦場では麻薬で恐怖や痛みを麻痺させられた敵の少年兵と対峙する。双方、ある意味同じ状態での戦いになっている。



欠点を以下、羅列する。
母親の死のセンチメンタルな回顧シーンがやたら出てくるのが、他の場面のクールさとバランスが悪い。

「虐殺器官」が何を指すのかという謎は一応理解できた。言語というのはコミュニケーションのツール、というより「器官」だと彼女は言い、そして最後の方で、謎の男ジョン・ポールにより、「虐殺」の方法、意義が語られる。しかし、これでは、なるほどとは思っても、誰もを完全に納得されることは難しいだろう。

特殊作戦コマンド(SOCOM)、濡れ仕事屋(ウェットワークス)などアルファベットやカタカナのルビがやたら出てきて読みにくくしている。

彼女との哲学的?論争が数ページでてくるが、深みはないし、小説の流れの中で必要とは思えない。
「良心それ自体はな。良心のディテールは社会的産物よ。ミームとして世代から世代に伝えられ、あるディテールは淘汰され、あるディテールは生き残る、それが文化ということよ」「じゃあ、ぼくらはミームに支配されている、っていうこと・・・」


コメント
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