hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

小川洋子『原稿零枚日記』を読む

2010年10月21日 | 読書2
小川洋子著『原稿零枚日記』2010年8月、集英社発行を読んだ。

作家の私は、原稿はほとんど書き進まない。一方で、苔(こけ)料理店に迷い込んだり、編集者に説明のため子供のときに住んでいた家の見取り図を書いているとどんどん拡大、つじつまが合わなったり、ニュースで盗作が話題になると、心配で落ち着かなくなったりする。
平凡な日常の日記風だか、いつのまにか、大げさな表現が誇張となり、日常から不思議な世界へ連れ込まれてしまう。

関係者でもないのに、子泣き相撲や小学校の運動会に潜り込み、傍観者として子どもたちを見て楽しむ。文学新人賞のパーティーでは、同様なパーティー荒らしを見つけて、その危機を同業者のよしみで救ったりする。
著者自身の体験風であるが、どうみても物書きの妄想だ。内気、ビクビクしているようであって、けっこうフットワークが軽い主人公は著者の分身なのだろう。

初出は、「すばる」2009年1月~4月号(全15回)



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

日記というと日常の記録だが、いかにも日記ふうに始まり、いつのまにか非日常の世界に入っている。ただ、その非日常がセコイというか、日常にくっついた非日常で、凄みはない。
苔むす旅館はありそうだが、別邸での苔料理は、「本当?」と疑わしい。さまざまな苔を食べる前に顕微鏡で苔を覗き、苔の中に小さな虫が泳いでいるのを見るなどは、あきらかに妄想だろう。

主人公は、「あらすじ」を作る名人で、「あらすじ教室」を開催している。作品そのものよりあらすじの方が、出来が良くなり、賞の下読みでのあらすじ書きの仕事を首になったくらいだ。
その極意は、「あらすじを書くというより、流れの底に潜む小石を2つ、3つ見つけ、その小石を配置し、とたんに底から湧き上がる模様を写し取れば、あらすじは出来上がる。」という。
確かに、このブログで本の紹介をしていても、筋書きを書いてもその本の内容が伝わるわけではない。幾つか著者の表現のポイントをつまみ出し、引用した方がその本の雰囲気が伝わることが多い。



小川洋子は、1962年岡山県生れ。
早稲田大学第一文学部卒。1984年倉敷市の川崎医大秘書室勤務、1986年結婚、退社。
1988年『揚羽蝶が壊れる時』で海燕新人文学賞
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞
『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、2006年に映画化
2004年『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞
2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞
その他、『カラーひよことコーヒー豆』など。
海外で翻訳された作品も多く、『薬指の標本』はフランスで映画化。
2009年現在、芥川賞、太宰治賞、三島由紀夫賞選考委員。



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