「沖縄密約判決の蔭の功労者は鈴木宗男と佐藤優だ」
天木直人
4月9日東京地裁は沖縄返還時の密約文書を全面開示するよう外務省に命じる判決を下した。
この判決にはさすがに私も驚いた。2008年4月の名古屋高裁における自衛隊イラク派兵違憲判決に並ぶ歴史的判決と言える。
しかし一番衝撃を受けたのは外務省に違いない。
いみじくも日経新聞(4月10日)が指摘しているように、有識者検討委員会の報告書で核密約問題に幕引きしようとした矢先に冷水を浴びせかけられたからだ。
外務省は、2001年はじめの読売新聞のスクープから発覚した松尾事件(機密費横領事件)で、壊滅的な打撃を受けた。
その醜聞を自己反省することなく蓋をして逃げ切った。
しかしこんどは外交機密文書の隠滅という歴史を冒涜する問題に直面している。
司法がここまで判決を下した以上もはや証拠隠滅を命じた責任者の解明なしではこの問題は終わらないだろう。
それは外務省組織にとっては耐えられない苦痛をともなうことに違いない。
しかし長い目で見ればそれが外務省のためなのだ。もちろん国民のためでもある。
私が驚いたのは岡田外相が判決に不快感を示し控訴をほのめかした事だ。
出来るものならやったらいい。
東京高裁に控訴され、そこで一審判決が覆され、原告は最高裁に上告することになる。長い訴訟の間にどんどんと外務省の隠し事が明らかにされていく。
外交問題が山積している今の岡田外務相にそのような訴訟にエネルギーを浪費する余裕はないはずだ。
ただでさえ政権交代の失望感が国民の間にひろがっている中で、岡田民主党が官僚組織のために嘘をついたり、国民に情報開示をしないようなことなどありえない。
岡田外相は、控訴できるものならやったらいい。その時こそ、民主党政権が外務官僚とともに自滅する時だ。
それにしても、と思う。
原告の西山太吉がいみじくも漏らしたように、この判決は、「夢をみているような」判決であり、「革命的な」判決であり、「150%勝利の」判決である。
そのような判決はどうして可能になったのか。
もちろん原告とそれを応援する者たちの執念がある。
杉原則彦裁判長の勇気ある決断がある。
しかし最大の功労者は、鈴木宗男衆院外務委員長とその鈴木氏に助言を続けた佐藤優元外務省分析官である。
彼らこそこの判決を可能にした蔭の主役である。
外務官僚の卑劣な仕打ちに屈することなく正義を貫いた彼らの活躍を私は高く評価している。
<転載終わり>
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4月9日の毎日新聞には以下の記事が掲載されていました。
『裁判所が密約の存在を明確に認めたのは初めて。国側は昨年3月の提訴を受け、密約の存在を否定したが、9月の政権交代後に認否を留保し、文書は「探したが見つからなかった」と主張。判決は、返還交渉を担当した吉野文六・元外務省アメリカ局長の法廷証言や米国立公文書館で発見された資料の存在などを基に、外務、財務両省が文書を保有するようになったと認めた。
さらに「密約文書は存在や内容を秘匿する必要があり、保管先と思われる部署への機械的・事務的な調査では見つからない」と指摘。「廃棄するには組織的意思決定の必要がある」としたうえで「歴代の事務次官や局長らへの聴取をしなければ十分な調査をしたとは言えない」と国の対応を批判した。また、文書の存在の立証責任は請求者にあるとしながらも「過去のある時点で文書があったことを証明できた場合、行政機関が不存在を立証しない限り、文書は保有されていると推認される」と指摘。「既に廃棄されている疑念があるが、国がそれを証明できない以上、文書がないという主張は認められない」と国側の主張を退け不開示決定を違法と結論付けた。』
外務官僚は昨年3月には「沖縄返還時の密約などはない」と強気に主張していましたが、昨年8月に自民党が敗れて、民主党政権が誕生したため、外務官僚も立場は弱くなってしまい、証言をコロッと変えて、「密約の文書は見つからない」と言い出しました。つまり、文書が見つからないんだから、仕方ないよという主張です。(当然、どこかに隠してあるか、外務官僚が廃棄したかのどちらかですが)
外務官僚は「文書は見つからないよ」で押し通すつもりでしたが、裁判所が密約の文書はそもそもあったはずだと外務官僚を批判しました。今までの親米自民党政権のときには、外務官僚はやりたい放題でしたが、民主党政権になったために裁判所に突っ込まれてしまったのでした。
今まで裁判所はアメリカの部下の自民党の配下にありましたが、民主党に変わったために、裁判所自体も少しづつまともになってきているようです。
そもそも三権分立ということになっているはずですが、それは建前で、実際は裁判所は自民党政権の言いなりだったようです。薬害の問題も国が責任を認めることはほとんどありませんので、それだけ見ても裁判所は自民党政権の言いなりだったということが解ります。
しかし面白いもので、政権が変わると裁判所も変わるようです。まるで手のひらを返したようです。
今後は情報公開をどんどんしていき、知られざる真実を国民に知らせる必要があると思います。悪は隠れたところでやるもので、皆が見ているところでは悪はできません。これからは、情報公開をもっと推進すべきだと思います。情報公開こそが、私たち大衆にとって、最も大事なことだと思います。
●天木直人氏ブログ
http://www.amakiblog.com/archives/2010/04/10/#001607
●毎日新聞
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100409k0000e040070000c.html