ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

一期一会

2012-06-21 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
池田「運命に花咲かすも散らすも、この手次第」
茶を点てる前に、主菓子を配った。
「今、お出ししたお菓子は、埋れ木です」
滋賀彦根城銘菓 埋(うも)れ木。
手芒豆(てぼうまめ)と言われる白インゲンを炊き上げ、白餡に栗を混ぜて包み込み、最高級品砂糖の「和三盆糖」に抹茶を加えてまぶしました和菓子で、口に入れた瞬間にほろとくる甘みと、ふわっとほのかに香る抹茶が絶妙で、
柔らかな中に、栗のコロコロとした食感が面白く、
松殿「なかなか美味」
義経「彦根といえば、ひこにゃん。財政難に陥った彦根城主 井伊家を助けたネコが、後世ゆるキャラとなり、現在、彦根城下の経済効果、観光集客に尽力しているとか…にゃんとか…」
松殿「直弼か…」幕末の彦根藩主 井伊直弼。
彦根十一代藩主の十四男でありながら、幕府最大権力者の大老に登りつめた人物で、安政の大獄で弾圧政治を行った人物。しかし、裏の顔は偉大な茶人。
父が没し、当時藩主の井伊直亮(なおすけ)から城外に出され、己の境涯を見つめるのために『埋木舎(うもれぎや)』を作った。青年期そこで、文武両道に励んでいた。(菓子の名の由来)
茶道に入り、結実させたのが『茶湯一会集』…その中に“一期一会”という言葉がある。
出逢いこそ輪廻。
生涯一度の楽しみを共に呑み、宴後は、一人喫茶で回想する。
この『独座観念』が、現代の茶の湯観に繋がっている。
池田「一服、差し上げます」濃茶を点て、松殿に回した。
松殿「この器…」
池田「一樂、二萩、三唐津。長次郎赤樂茶碗、無一物(むいちもつ)です」
底周りを厚く、赤土の上に施された釉薬は薄く、簡素な作りで、
松殿「手触りのいい器だ」口に碗を当てると滑らか。
口当たりも滑らかな抹茶を一口に含み、和田殿に回した。
和田「器の質感が優しい…心地良いな」器を眺め、濃茶を含み、義経の前に置いた。
義経「赤い大地に緑が映えて、日ノ本の縮図だな」
松殿「その縮図で、何をしようというのか?」
義経「義父上は、少しせっかちだな。のんびり生こうぜ。なぁ、池田」

一蓮托生、入道に花

2012-06-20 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
天井から掛軸に視線を移し、亭主(茶会主催者、責任者)の心を見た。
池田「今回、掛軸は絵画に致しました」
掛軸は、心。亭主の心意気を表す。
松殿「で、その心は?」
掛軸の絵画は岸壁にそびえ立つ山寺の水墨画。
画に細くも荒々しい文字で、
“齋藤道三 茲二在り”
と描かれていた。
池田「道三入道の生き様を画賛(絵画に禅語が添えられている物)にしました」
蝮と恐れられた道三入道の仏性、魂を見て取れる掛軸だった。
“さて、問題です”
この世の主役は、誰だ?
俺か?お前か?
天下 日ノ本で、主役を演じ切らず、
生き切らず、朽ちるか?
それとも、俺を足掛かりに、天下を取るか?
お前なら、どうする?
「俺のとは違うなぁ」と『臨場』の倉石検視官の決め台詞を言ったかは定かじゃないが、
“我茲(ここ)に在り、さすれば自在ならん”
地上に輝く漢(おとこ)なら、頂きに昇り、
天照を背負い、戦に臨み、屍を越えて生けと、
うつけの異才を見抜き、13の娘 帰蝶をうつけに託した男だった。
義経「人、そこに心有り」
松殿「お前の心だけは読めん。何を考えているのやら…」
義経「命有って、生き切る事しか考えてない」
その命に添える花は、
和田「菖蒲…」だった。
茶花に選んだのは、花菖蒲…可憐に一輪、凛と成る。
池田「入道(仏の道)に花」
和田「一蓮托生(運命を共にする花)か…」

茶の湯の心

2012-06-19 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
待侘(まちわび)庵の、小さい戸口を開いて中に入り、茶室に案内した。
茶室に入ると、
松殿「香…?」
池田「タニ(インドネシア産)の伽羅(良質の香木)です」
松殿「蘭奢待(らんじゃたい)か?」平安時代に流れ着いた香木で、
1575年、織田信長は相国寺の茶会でこの香木を切り取り、焚きました。
池田「それに、近い香りかと存じます」
静かに香る香木が、雅びやで清楚な趣を醸し出す。
目を閉じれば、異国の寺院を想起させるような薫香で、
松殿「はて、どこかで利いた香りだな。池田…」
池田「よく薬に入れますので、」
生薬に混ぜて精神安定、鎮静剤を作る。香りで覚醒を引き起こし、
松殿「判断力を鈍らせようというのか?」
池田「いえ、そのような…」
義経「難しい判断を下すような話じゃないさ。座ってくれ」
和田「これで、二畳か…思えんな」
土壁を用い、柱を丸くし、視覚効果を利用して空間の圧迫感を緩和した。
武家屋敷の一角に、鄙(ひな)びた空間を作り、
「ここだけ異空間…」娑婆の喧騒から抜け出したような異次元。
すぅ…と香を利いて、天井を見上げた。
二畳という狭い間取りに凛とした佇まい。自然と調和した空間が心の平安をもたらす。
冷静な判断を促すと言うより、茶の花香より気の花香で条件を呑ませると言った所か。
「何を呑まそうとしてるのか…」
ふぅ…と大きく溜息を付き、香に嫌気を混じらせた。
武家の茶の湯(武家茶道)とは選ばれし者のみ許された道で、茶器にも大きな価値があり、茶器をめぐる戦も度々起きるほどで国よりも大事とされた。
それ故に、茶会とは条件を呑むか呑まれるかの賭けでもあり、最大の心理戦略と言われた。
狭い空間内で提示された条件に、主賓(最高位の客)は茶と共に呑むしか無い。しかし、
悪い気に決してならないと言う。
さて、どんな条件を突き付けて来るか…。

待ち侘びたろ

2012-06-18 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
「何やら楽しそうだな」と中庭にやって来た、
珠「足長おじさんッ」
斎藤「足長…おじさん?」を見たら「松殿…」だった。
松殿「斎藤…就職内定、おめでとう」
斎藤「ただ、とっ捕まったんだけだ」
松殿「婚活も順調と見えたが?」チラッと女を見て「そなた、名は?」
斎藤「…」
あやめ「私、妻木(つまき) あやめと申します」
松殿「ふぅ…ん」
土岐「あやめ殿。一体、どうしてここに?」
あやめ「光衡さん…私…」
池田「あやめさん。子供たちを向こうで遊ばせて下さい」
あやめ「あ、は…はい。さ、行きましょう…義隆君」の手を取って、
珠「あやめおばちゃん、私もお手手繋いでぇ」あやめおばちゃんの手を取って、
松殿「珠ちゃん」を呼び掛けて「またね…」ばいばいと手を振った。
珠「うん。足長おじさん、またね」手を振り返して、池の向こう側に行った。
三人の姿を見守りながら、
池田「純粋な子ども、何を、吹き込んだんです?」
松殿「人聞きが悪いな、ただ読み聞かせをしただけだ」
子供に夢を与えるおじさんで、夢を叶えるお金持ちの物語…
土岐「…」
松殿「で…妻木あやめ殿…彼女は?」向こうにいる彼女を品定めして、
斎藤「宮中に持ってけませんよ」
松殿「…。それは、残念だ」
池田「…」
松殿「やはり、幼児教育は常盤殿が適任か」義経を見て「なぁ?」笑った。
義経「さぁ…」首を右に傾けて「そろそろ、お茶にしよう。待ち侘びたろ」
池田「そうですね」
松殿「何の密談やら。なぁ、桐生足利の和田殿」
和田「さぁ」肩をすくめて「皆目見当も付きません」

まるでどこかの吉祥天

2012-06-17 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
珠「あやめおばちゃんッ」
あやめ「珠ちゃんまで誘拐を?…斎藤さん…あなた、誘拐魔の一味!?」ビンゴでしょ?
斎藤「アホか…」
池田「あやめさん…?照さんのお姉さん?」男性恐怖症の…
斎藤「…あぁ」
継「道理で容姿端麗。それに、血筋も申し分ない。適任だな」
あやめ「適任?斎藤さん…一体何のお話ですか?血筋って?」
斎藤「さぁ…」肩をすくめて「佐藤伊達両氏とあんま関わりネェからな。とにかく帰れよ」
継「斎藤と知り合い?なら、好都合だ」
斎藤「そっちの都合だけで話を進めるな。彼女にはちゃんとした仕事があって戻ら…」
あやめ「辞めて来ました」
斎藤「な?にぃ!?あれは、寿が決まってから出せってッ!」
あやめ「また間違えちゃいましたね」にぃ~ぃと笑って、
斎藤「笑ってる場合かッ。今なら間に合う戻って…」
池田「まぁまぁ」二人の間に割って入って「つまりは今、無職…なんですね?」
あやめ「はい」
池田「子供は好きですか?」
あやめ「えぇ…」
池田「男と遊ぶ事に抵抗はあるが、子供と戯れる事に抵抗はない?」
あやめ「あの…質問の意図がよく分かりませんが…」
池田「率直言います。子供と遊んで下さい。ほら、義隆…ご挨拶しろ」ツンと頭を小突いて、
義隆「…。源 木曾 義隆…です。よろしくお願いします」深々と頭を下げた。
池田「という訳で、お願いしますよ。人手が足りなくて…」俺も、ぺこっと頭を下げた。
斎藤「てめッ、池田。ガキをダシにして遊びを強要すんなッ」誘導尋問じゃねぇかッ。
あやめ「まぁ、お困りなのですね。私で宜しければ…」丁寧に頭を下げたら、
斎藤「丁寧に断れよ」
あやめ「折角の内定話、無碍に出来ませんわ」顔を上げて、笑った。その笑顔が、
斎藤「…」お福さん…みてぇで、
義経「まるでどこかの吉祥天だ。その笑顔なら、顔パスだ。子供たちの事、頼んだよ」
あやめ「はい」

乳母募集

2012-06-16 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
向こうの数寄屋 待侘庵から、大きく手を振って
与一「準備OKで~す!」大きな輪っかを作って、OKの合図を出した。
義経「なら、斎藤。お前はここで…」
池田「珠ちゃんと義隆を、」ポンと肩を叩いて「頼んだぞ」
斎藤「あ?」
義隆「え?」
義経「子守だ」
斎藤「ちょ、ちょっと待て、なんで俺がッ」
義経「珠ちゃん、おじさん、好きだよな?」
珠「うんッ」
斎藤「…」
義経「義隆、珠ちゃんを斎藤と二人っきりにしていいのか?」
義隆「…」
義経「はい決定ッ」
斎藤「子守なんて出来るかッ。教育係はお前だろ」池田を指差して、
池田「なら…」斎藤に睨みを利かせて「代わりに茶を点ててもらおうか?」
斎藤「無理ッ」
義経「そう心配すんなって、お前一人には任せられないから…」向こうからやってくる、
継たちを見つけて「ほれ、あそこ…って、アイツら…」
斎藤「あん?」
池田「継さんたち、乳母(保育係)をどこかで探してくるって…」
きゃやぁ~ッ!
佐藤 継信「大丈夫だって。俺たち、怪しいもんじゃないって」
女性を小脇に抱えて、
助けてぇ~誰かぁ!!
佐藤 忠信「悪い事するような顔を見える?」彼女の両足を小脇に抱えて、えっほ、えっほ。
見えるぅ~!!
斎藤「おい、どっかで乳母かっさらって来たぞ。犯罪だろ?」
佐藤「乳母募集の張り紙を張ろうとしたらさッ」と女性を下ろして、顔を見たら、
斎藤「ア…アンタッ」

足長おじさん

2012-06-15 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
“きれいな御べべに、つげ櫛、紅さして…”
そう。きれいな着物を…なら、この足長おじさんに任せなさい。
“足長おじさん?”
君たちの夢を叶える、おじさん(パトロン)だよ。
土岐「…」
松殿「どうかな?」四姉妹の年齢の書いてある折り紙を渡して、
土岐「どう…と言われましても…」折り紙の数字の、とりわけ、
“十”
長女の年齢に目がいった。宮中に上がって申し分ない。しかし、
松殿「宮中に上がるといっても二度と会えない訳ではない。何かのついでに、会えば良い」
土岐「ついで…?」
松殿「もちろん、文のやり取りでも構わん」
土岐「それは…」
スパイ?人質?
松殿「いや参った…。壇ノ浦で皇女、女中らこぞって入水して…」
土岐「…」
松殿「老いぼれ唯一の楽しみを奪いおって、義経め」
土岐「心中…お察し致します」
長女の容姿、知性と教養があれば、
大臣に見初められ、行く行くは…、
松殿「どうかな?宮中立て直しに一役買ってくれれば、いずれ…」
土岐「局(つぼね)…」
松殿「もう答えを聞くまでもないか」
土岐「…」
松殿「こちらで、万事手筈を整えよう」
土岐「はい、…ありがとうございます」
松殿「君のお蔭で、茶会が楽しみになったよ」
土岐「はい」
朝廷と武家のパイプラインであるという事を十分承知の上、
私は、長女を宮中に上げる事にした。

娘の嫁ぎ先

2012-06-14 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
松殿「えらく待たせるな…」
中庭の茶会の席を見て、
ピシャッ、
錦鯉が跳ねた。
土岐「もうしばらく、お待ち下さい」
松殿「“ただの”茶会にしては手が込んでいる」
土岐「手が込むなど…。客人を持て成すには、これくらい…」
松殿「はて、君の…名は何と言ったかな?確か…」
一人…、使えそうなのがいます
「珠ちゃん…だったかな」
土岐「…。土岐 珠子(たまこ)と申します」
松殿「そなたは?」
土岐「は…申し遅れました。私、土岐 光衡(とき みつひら)。以後お見知りおきを…」
あまり御近付きには成りたくはないが、礼儀で挨拶を交わしたら、
松殿「一人…」
土岐「は…」
松殿「宮中に上げないか?」と折り紙を見せた。
珠ちゃんは、いくつかな?
折り紙の裏に、
“五つ、もうすぐ六つで、姉様が七つ。姉上は十で…”
数字を書いた。
三姉妹…なのかな?
“ううぅん、四人。妹が一つ。もうすぐ、増えて…0”
きれいな文字を書くね。
“姉上がね、よぉーくよぉーく練習なさいって。それに、お勉強なさいってうるさいの”
一番の上のお姉さんが?
“うん。お勉強しておけば、お嫁さんになれるって”
お嫁さん?
“うん。広いお屋敷にお嫁に行って”
広いお屋敷?

斎藤の娘を!?

2012-06-13 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
白く色が変わって、ペロ…と舐めてみた。その味は、とても…
義隆「甘い…」驚くほど、美味しくて、
斎藤「どうだ、天の味は?」
義隆「お、美味しい…です」
正直、舌が震えた。
初めて口にした味…「これが、アメの味なんだね」
池田「そうだ」
義隆の頭を、ぐしゃっと掴んで、
「斎藤に、礼を言え」ぐい、頭を押さえた。
義隆「あ、ありがとうございます」
俺は初めて、敵に頭を下げる事を覚えた。
“今は、味方だ”
敵が味方になったり、味方が敵になったり、よく分からないけど、
俺は“そういう事”を勉強しなくちゃいけないんだと思った。
斎藤「珠ちゃんに感謝するこったな」
義隆「珠ちゃん、ありがとう…」
珠「良かったね、隆くん♪」
義隆「ん…」コクンと、
池田「…」返事はいい加減だったが、
頭で理解している事と、理性、行動は異なるという事が分かったはず。
私情を挟めば、敵の力量を見誤り、負けを見る。
常に平常、武士道の礼と節を義で通せるか否か。
味方だとしても油断と過信があれば、謀反の引き金となる。
置かれた立場や状況を理解し、機転が利くように成れば、義隆は、
義経「末は、刀持ちだ」
池田「はい」義経さんが、義隆をいずれは刀持ちにと考えているというのは分かっていた。
敵を目の前に私情を挟めば逆上し、刀を抜きかねない。
どうして、斎藤の娘を!?
しかし、冷静な判断が可能なら、主君が敵の娘を正妻にする事があっても、情を抑えられる。
義隆の成長次第だ。斯波さんのバックを守る刀持ちになれるか否か…これからが楽しみだ。