ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

父の、平家の血

2011-06-22 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
池田「クッ」杯を口に運び、飲む仕草を見せ「昨夜、義経さんと…」と、悪戯っぽく笑った。
能子「兄上と…?」
池田「それじゃ、姉の代わりは、務まりません」
能子「…私じゃ…」と抱えた膝に「ダメ、なの…」また、顔を隠した。
池田「…」
能子「結婚する時、平家だからって言われた。今も平家って、悔しい…。父の、平家の血が蔑まれて、見下されて…私…」
池田「それは…あなたのせいじゃ…」彼女を、なだめるつもりだった。が…、
能子「もし…赤ちゃんが生まれたら…って考えるようになった」
池田「え…?」驚いた。何を言い出すかと思えば、彼女の口から本音が飛び出した。
能子「…私の血が流れた赤ちゃん…生まれたら…」
池田「まさか…」…夜泣き防止の子守班って…「彼とは…」
能子「与一には、正妻を持ってもらう」と、泣き腫らした顔を持ち上げた。
池田「あなたの身分で、側室ですか?それに、そんなこと、彼は望みません」
能子「…養子を貰うの」池田さんの言う事を無視して、ふっと、山吹ちゃんの顔が浮かべた。
池田「ふぅ」呆れた。溜息でそういう幻想をかき消し「男心の分からない人だな」と睨んだ。
能子「私は女よ。女心しか分からない」と睨み返してやった。
池田「では」スッと隣に座り「一つ、男心をお教えしましょう」と彼女の顔を覗き込んだ。
能子「え…?」
池田「平家が、蔑まれたままでは…」と肩に左手を回し「終りません」グイッと力一杯、
能子「!?」左脇に引き寄せて、彼女の泣き腫らした顔を隠し、視界を遮った。
池田「まだ…」前方を睨み「何か、御用ですか?」スッと、懐刀に手を伸ばした。
「良かった。お近くに居られて…」と初老の能楽師ワキの方が現れて、スッと「直会(なおらい)のお裾分けを、と思いまして…」と、紙に包まれた御神酒と神饌の包みを差し出したが、
池田「お持ち帰り下さい」と断った。
スッ…とお裾分けを地面に置き、ワキ「なかなか、気の利いた舞でした」
能子「…」池田さんの着物をギュッと掴み、彼を制していたが…、
池田「…」グッと、逆に力を込められた。懐刀で、切るつもりだ。
ワキ「しかし…」チラッと赤くなった彼女の手首を見て「天女には、優しく接するものです」
池田「わざわざ、説教のために、お越しになったんですか?」

まるで、入道様のようでした

2011-06-21 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
能楽師「ちょ…」呼び止め手を伸ばしたが、呼び止めてどうする?周りの目を見て、止めた。
その後…春日神社を離れて、
能子「私、ここにいるから…」と木陰に身を潜めた。
池田「はい…」
彼の背が小さくなって行くのを確認して、独り…泣いた。
能子「う…うぇ…うっ…うぅう」涙が溢れて…止まらない。
鋭い視線の束が氷柱となって、背中から心臓目掛けて突き刺さっていた。涙で溶かすように、泣いた。割れた心のガラスを踏み締めて、ここまで歩いたから、足が痛い。立ってられない。
ずる…と崩れるようにしゃがんで、ひとり、嗚咽と共に、泣いていたら、
池田「やはり、胸…貸しましょうか?」と馬場から太ちゃんを連れて戻ってきた。
能子「ッるさいッ!!」
池田「キャンセル、して来ました」と、手綱を木の枝に繋いだ。
能子「も…う」何も言わなくても通じてしまう池田さんが…こういう時、疎ましい。
池田「野宿ですよ」
能子「ムヒがあるでしょッ!」強がって、池田さんに八つ当たりする…自分が、とても惨め。
池田「虫刺されの心配ですか…」
能子「蚊なんて、大嫌いッ」蚊にまで、当たっている。
池田「…御方様」
能子「もう…御方様じゃない!父も、兄も、いない…。もう、御方様って呼ばないでッ!」
池田「そう言われても…おッ」と、言いかけ、
能子「黙れッ!!」と、怒鳴られた。
池田「啖呵切って泣かれるくらいなら、こちらが切って」
能子「バカッ!!」
池田「…。先ほどは、ありがとうございました。まるで、(清盛)入道様のようでした」
能子「もう…」余計な事ばかり言う池田さんが、大ッ嫌い「うぇ…えっ…」嗚咽で、呼吸し辛くなって…苦し…し。ヒック、ヒック…肩を上下させ、呼吸が荒くなって、
息が、入らなく…なった。
その様子を見て、
池田「“代わりに”死なせろ…か」と、わざと、言ってやったら、
能子「え?」急に息が入って来て、涙が止まった。顔を上げて「ど、どうして…それを?」

茨の道へ

2011-06-20 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
儚く消える天女と若き漁師の恋物語 羽衣伝説を能にした舞台…だけど、
楽屋に戻った能子「ふぅ」と息を付き、額の汗を拭うフリをして、チラッと池田さんを見た。
池田さんは汗一つ見せず、いつも通り、涼やかだった。
能子「ッ…」痛みを感じて、白龍に握られた手首を見たら…赤くなっていた。
着替えを済ませ、神社拝殿に戻ると直会(なおらい)の準備が始まっていた。
直会とは、神事後の宴会で神饌(しんせん)といわれる神へのお供え物を、参列者に振舞うものである。神道には神人同食という考えがあり、祀り後は神と人が共に食事をする。
能楽師「お疲れ様、助かりました。ぜひ、直会も参加して下さい」と言われたが、
池田「いえ…」そのご厚意を断り、御方様に小さな声で「長居は無用です」と促した。
能子「はい…」ここが、源氏 縁(ゆかり)の地であることを「…分かっています」と頷き、腰をフワッと浮かせ、立ち上がった。
そこへ「その女、平家だぞッ!」と大きな声が響いた。
能子「!?」ピシィッ、一瞬でその場が凍り付いた。
私の心には、ピキッ…、ヒビが入った。
何も言えず…ただ、ただ、立ち尽くす私に、冷たく鋭い視線が無数、突き刺さった。
さらに、追い討ちをかけるように、
「平家がッ!出てけッ!」と罵声の矢が心臓に目掛けて飛んで、背中まで貫いた。
能子「…ッ」ひび割れた心が音を立て崩れ…無数の鋭い破片が、私目掛けて落ちて…来た。
能楽師「あぁ…」ただ…戸惑って、助け舟は、ない。
チラッと池田さんを見たら、眉一つ動かない端整な顔をしていた。
でも、こういう神経を研ぎ澄ました時の彼が一番怖い。だから…、
心の…壊れたガラスの破片をグッと踏みつけ、痛みを堪え、
能子「申し訳ございません」と神聖な直会の場を壊してしまった事を深く詫びた。
そして、罵声を浴びせた男に「平家が、源氏方々に出来る事をしたまでです」と静かに諭し「池田ッ」をたしなめ「行きますよ」と毅然とした態度を取るよう…務めた。
池田「はい」返事と同時にスッと立った。でも、彼の右手は懐刀を握る準備が整いた。
彼を制するためにも、罵声を浴びせた男とすれ違い様…
能子「平家にケンカ売れるのは、兄だけよ」と、睨んでやった。
男「え…」と後ずさりした、その男の前を、
池田「命拾いしたな…」と視線合わせず、すれ違った。

能、男の舞

2011-06-19 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
聞こえていた…彼女の言葉。
でも、聞こえないフリをして、橋掛かりを歩み始めた。
「…帰りたいね、あの頃に…」
何も知らず、過ごしたあの頃に、多くのものを失う前に、
時間が戻せるものなら…戻したい。
そう願っても、もう二度と戻ってくる事はない。
手を伸ばしても、握ってくれる手も、掴んでくれる手も…今は、ない。
俺たちは多くの者たちと同時に、多くの思い出も失ってしまった。
手を放してしまった…と、後悔しても、戻ってくる事は、決して無い。
放した手は、もう二度と握る事は出来ない…そんな男の悲恋 演目『羽衣(はごろも)』
駿河(静岡)の穏やかな春の海、白砂と青松が美しい三保の松原で、
ある朝、若い漁師 白龍(はくりゅう)は、松の枝に掛かる美しい衣を見つけた。
スッと手を伸ばし、シュルッと枝から衣を取り、
白龍「我が家の家宝にしよう…」と持ち帰った。
そこへ、美しい天女が現れ、
天女「どうか、その羽衣をお返し下さい」と懇願した。しかし、
白龍「これは…」と衣を握り「返せない…」と天女の願いを聞き入れようとしない。
天女「お願いです。それがないと、天に帰れません」と、すがって泣いた。
白龍「…帰さない」天女の手首を握って「妻になれ」と放さなかった。
天女「え…」困ってしまった…「わ…私には、帰るべき所があります」
白龍「では、舞を舞ってくれ。舞った後、衣を返す」
天女「舞うには羽衣がいります。どうか、お返し下さい」
白龍「衣を返したら、舞わずに帰ってしまう…」グイッ、天女を強く引き寄せた。
天女「疑わしき人の心…天に偽りございません」
その言葉に胸を打たれた白龍「分かった…」スッと天女の手を放した。
天女「あなたのために、舞いましょう」
白龍は、ふわぁ…と天女に衣をかけた。
天女「ありがと…」羽衣を身にまとった天女は、月読宮の様子を舞で表し、また、私たちが出会ったこの地を賛美し、やがて遠く彼方の富士に舞い上がり、春霞に紛れて消えていった。
白龍は、いつまでも、富士の春霞を、天女の幻を見つめていた…。

誇り高き化粧

2011-06-18 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
「たっぷり聞かせてやるよッ」と門番を投げ飛ばし、さらに、奴を引き回し、これより24年後に起こるだろう和田合戦(1213)の鎌倉 北条攻め 南大門を破った時の『朝比奈の門破り』を語ってやったさ。そして、
朝比奈「さて、俺を極楽まで案内しなッ。それくらいの仕事は出来るだろ?地獄の門番さん」
閻魔大王「あ…(#・・#)」バレてたの…?
結局、地獄の閻魔大王が、24という若さで命散らした朝比奈将軍を親切御丁寧に極楽浄土まで御案内する羽目になった、という話で、強いはずの閻魔が弱々しく、亡者が威風堂々と立ち振舞うという、その逆転劇が滑稽で、ワアッと場内を沸かせていた。
能子「あははっ」と明るい声を出して、笑っていた。
池田「…」声は、高く明るかった…ただ、表情は、暗くて、見えなかった。
狂言は、物まねや道化(ピエロ)が多く写実的、風刺や失敗談などを盛り込み、笑いを誘う笑劇が中心である。笑い…とりわけ、笑顔は、人の心とそこに住まう神の御霊を癒すとされる。
その笑いと対照的なのが、能だ。
能は見えない世界を抽象的に表現し、その演目には悲劇が多い。悲しみや憂いが、神人の御心を震わせ、涙を誘う。その涙が、人を慈しむ心 慈悲を育てるという…ここに鎮守する春日 鹿嶋の神が、慈悲なる神といわれる由縁でもある。常に、人の心に、慈悲を問う。
その時は、気付かなかった。
“俺たちが”春日 鹿嶋の神に、その心問われていた事を…。
能子「さ、私たちの出番よ」クルッとこちらに顔を向けた時”いつもの表情”に戻っていた。
池田「はい…」彼女の表情を確認し、そ…っと手を伸ばし、彼女の能面を手に取った。
15、6の若く美しい少女のような小面(こおもて)には、身分の高さを証明するお歯黒の化粧を施されている。政略結婚の際、名高い武将の息女を示す化粧であり、男子家系、特に、平家貴族では、首をはねられた際、見苦しくないようにと、お歯黒化粧を施す。
誇り高い化粧であり、悲しい化粧でもある。
そっと、思い出を包み隠すように、彼女の顔に、その面を付けた。
ここから、彼女は、自分を隠す癖が付いてしまったのかもしれない。
能子「懐かしいわね」すっと手を伸ばした。しかし、
池田「そうですね」と彼女の手を交わし、自分で面を付け、お囃子の合図を待った。
能子「もう…」と小さく怒って、手を引っ込め、彼の背中に語り掛けた。しかし、
フッと場内暗くなり、お囃子と謡いが始まって、その声はかき消された。

演目『朝比奈(あさいな)』

2011-06-17 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
初老 能楽師「舞えるのか?」
池田「よく、舞っていました…」と、彼女をちらりと見たら、
能子「お願いします!」と頭を下げていた。
ワキの能楽師「では…」シテの着付けを担当する後見を呼び「お願いします」と頭を下げた。
能子「はい」能面 小面(こおもて)を受け取った。
急遽、能と狂言の演目を入れ替え、能装束を着付けてもらい神主から祈祷を受けた。準備が整い、出番まで、こっそり舞台袖から狂言の演目『朝比奈(あさいな)』を見て、待っていた。
能子「クスッ、おっかしぃねっ」と、のん気に笑っているように見えるが、声は震えている
池田「…」相変わらず、震えるんだ、と思った。舞台に立つまでの間、極度の緊張で震える。
昔と変わらない…芯が強いのか弱いのか、硬いのか脆いのか、そんな彼女をほっとけない自分が「困ったもんだ…」と独り言のように呟いたら、
能子「…何か、してないと」舞台から視線を外し、池田さんを見つめ「ダメになりそうで…」
池田「乗りかかった船です。お供します」と肩に手を置いた。
能子「す…」と苦しかった呼吸が楽になった「ありがと…」そして、舞台に視線を戻し、演目『朝比奈(あさいな)』の続きを見ていた。
地獄の番人 閻魔(えんま)大王「最近の人間は賢くなりやがって、みな極楽へ行っちまう」
その頃の地獄では、働き手不足と飢饉で鬼たちが飢えていた。そこで…、
閻魔大王「娑婆(シャバ)から出て来た罪人を地獄へ突き落しちまおう」と亡者を物色した。
威勢のいい若い亡者を見つけて「いいカモが来た…」と目星をつけ「おい、そこの…」と呼び止め「いい話がある。俺に付いて来ないか?」と誘った。
男「ふぅん?うぬは、人を呼び立てるに、名を名乗らぬのか?」
閻魔大王「…」その態度が気に入らないが、こちらから「比良 左衛門※の守(かみ)だ」と名乗った。※左右衛門府で門番のことです。通常、検非違使が行います。
男「俺は、朝比奈(あさいな)…」と名乗って、
閻魔大王「分かった」かくも剛力無双と名高い「朝比奈将軍…」和田義盛の子 朝比奈 三郎義秀だった「ほぉん、松島から黒川まで水路を切り開くのに、七つの山を作ったという…」
朝比奈「…ただの噂だろ」と笑っていたが、
閻魔大王「こりゃ、また…」一筋縄にはいかない奴だった…「面白い話が聞けそうだ。なぁ、あん時の武勇伝、聞かせてくれよ」
朝比奈「あぁん?」と目を細め、門番を睨み「…まぁ、いいだろ」と奴の首根っこ掴んで、

そう切に祈る

2011-06-16 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
大地の守り神 春日の神に、神事舞を始める合図を送り、そして、何事もなく神事が執り行われるよう祈る。無事、何事も無きよう、そう切に祈る…。
子供たちの大地踏を見ながら、遠い昔の記憶を思い起こしていた。
フッと見ると…、
池田「…」舞台裏 楽屋の方で、人が出たり、入ったり…慌ただしくなり、
能子「(なんだろ…?)」と席を立った。
池田「(御方様?)」の後ろに付いて、楽屋をこっそり覗いた。
すると、主役 シテの能装束を身にまとった男性 能楽師が足を抱えて、倒れていた。
能子「足、挫(くじ)いているの?」
池田「の、ようですね」と素っ気無く、無関心に答えたら、
能子「…」スル…と紫の頭巾を解き「失礼致します」と、
池田「あ…」と、止める間もなく、楽屋に入って、しまった…。
能子「足、大丈夫ですか?」と能楽師に傍に付き、スッと座って、彼に手を差し伸べた。
そして、後ろに控える池田さんに頭巾を渡し、目で合図した。
池田「はい…」と頷き、頭巾を受け取って足の治療にあたった「…捻挫です」と軟膏を湿布し、そこに置いてあった割り箸を固定に使い、御方様の頭巾を包帯代わりにテーピングした。
能楽師「なんとか…舞台に…」
池田「無理です。二度と舞台には立てなくなります。代役を立てて下さい」
能子「…」
能楽師「代役はいない…。なんとか、舞台に…イッ」と痛そうに、足を抱えた。
ワキを演じる能楽師が、白い髭をいじりながら事の成り行きを、ただ黙って見つめていた。
池田「…」彼女の袖をクイッと引っ張り、小声で「行きますよ」と促したが、
能子「私に、舞わせて下さい」
能楽師「え?」
池田「はぁ…」と、小さく溜息を付いた。
能子「私、舞えます」
能楽師「し、しかし、しきたりで…」と助言を求めるようにワキを見た。
池田「怪我に、しきたりもありません。すぐ祈祷して下さい。それと…演目は入れ替えです」
能楽師「え?いや、しかし、それでも、ワキとイキを合わせて…」
池田「私に、白龍を舞わせて下さい」とワキを演じる初老 能楽師に申し出た。

巴御前

2011-06-15 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
土岐「巴型薙刀※…」を見て「粟津の合戦の勇姿は、こちらの耳にも届いております」
※巴御前が使用したとされる薙刀で、刃の反りが大きい事が特徴で、祭事用とも言われます。
巴御前「で…、あなた、名前は?聞いておく必要があるでしょ」
土岐「源 土岐 光衡(みつひら)…」スッと鞘に印された桔梗紋を見せた。

巴御前「フッ。あなたの勝利の女神(桔梗)と戦の女神(木曽の花 駒草)…どちらが強いかしら」
土岐「もちろん、しょ…」と言いかけた所で、
すみか「あのぉ!」お煎餅を差し出し「キレイに焼けました」ニコッと可愛い笑顔を見せた。
土岐「…」その笑顔に、次の言葉を失ってしまい…、
巴御前「クスッ」と笑って「すみかちゃん、最強だわ」と煎餅を受け取った。パリッ。
その頃、鶴岡 黒川に着いた池田と能子は、太ちゃんを近くの馬場に預け、温泉宿を取った。
紫の頭巾をほっかぶり、顔を隠しながら、
能子「なんで相部屋なのッ!」と小さく注意した。
池田「夫婦という名目で予約しました」とシャーシャーとぬかしたから、
能子「はぁあ?」と池田さんの顔を覗き込んで、睨んでやったら、
池田「今度は、胸でも貸しましょうか?」と言われた。
能子「ッ…」泣いた事がバレてる…「もうッ!」フン!と、あっちら向いて、前進したら、
クイッと袖を引っ張られ、池田「こちらです」と、連れて行ってもらった。
宿から少し離れた所に春日神社があった。境内は多くの人でごった返し、舞台はすでに満員御礼、多くの人が席を陣取っていた。ごったがえす人にまみれ、空いていた後ろの席に腰掛け、舞台を見ることにした。
舞台を照らす無数の蝋燭が等間隔に並んでいて…まるで、黄泉の国に繋がる黄泉比良坂(よもつひらさか)から多くの魂が並んで下りて来ている様な…不思議な空間が醸し出されていた。
そういう“見えない世界”を舞で表現するのが能というもので、蝋燭の炎は見えないはずの魂の灯を演出するには相応しく、光と闇の対比が死生観を表し、音と舞が幽玄さを醸し出す。
それが、神の御心、亡くなった者たちの御霊をお慰めする…神楽舞の真髄だと、私は思う。
能子「…」チラッと池田さんを見た。真剣な眼差しで能舞台の奥に描かれる大松を見ていた。
この大松が、駿河の三保の松原を思い起こさせた。
池田「…」もちろん、彼女の視線に気付いた。それに、大松の意味も、分かっていた。
そこへ、ワァ…と場内から歓声が上がり、子供たちが舞台に登場した。
“大地踏”が始まりである。大地踏みは相撲の四股(シコ)に通じ、地鎮祭と同じ意味がある。

意思疎通

2011-06-15 | アクセサリー
昨日、ゴムブレスを作っていました。
パワーストーンビーズの穴に、一つずつ透明なゴムを通して、
ブレスレットを作るんですが…、
一つだけ、反抗的な石の集団がありました。

ゴムを結ぶと、

バッチーン、

切れました。しかも、三回結んで…切れました。

ダメだ…

私と石の意思疎通が出来ない…と断念し、紐で編む事にブレスです。


石って、優しいけど、頑固なやっちゃな。
買い主に似るんでしょうか?(自問自答です)
でも、大丈夫!
ご購入された石は、購入された方の心が石に反映されます。
私の心が映し出されるのは、作っている時だけです。


携帯ストラップです

私の夫の従兄弟

2011-06-14 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
船番所[尾花沢 銀山]に到着した銀山温泉招待 御一行様は、というと、
由利さん「土岐ッ」クイッと顔を上げ、終着点[河北村山]紅花の里を顎で指した。
土岐「黒い…狼煙?」が、上がっていた。
由利さん「妙だな。斯波がいない間、紅花の里は休航のはず…」
土岐「…様子、見て来ます」
由利さん「一人で、大丈夫か?」
土岐「たまには、家族サービスして下さいよ」と賀茂女ちゃんをチラッと見た。
賀茂女「あ…」
由利さん「…。気をつけろよ」
土岐「はい」
賀茂女「ありがとう、土岐さん」と由利親子、富樫、サブロク夫婦は銀山温泉へと向かった。
土岐「さて…」と紅花の里に着いたら「すみかちゃん!?何やってんだッ!真っ黒だぞ!」
すみか「あ!また焦げたぁ!」と七輪から取ったお煎餅を「…食べてます?」と渡したが、
土岐「いや…」それは…遠慮した。焦げてるし…。
すみかの隣で煎餅をバリッとかじる女「クスッ。私が、狼煙代わりに、お願いしたの」
土岐「…。今日は、天候不順で、休航です」
クイッと空を見上げ、女「いいお天気ね」
土岐さん「…。どこまで行かれますか?」
女「酒田まで」
土岐「酒田から、どちらへ?」
女「そこまで聴取されるの?」
土岐「女性お一人、物騒かと…」チラッと女を見て「思いまして…」
女「…。酒田に、私の夫の従兄弟(いとこ)が来ているの」
すみか「昨日のオカマさんと旦那さんが従兄弟なんですって」と煎餅をひっくり返して、
土岐「従兄弟…」
すみか「はい!」ときれいに焼けたお煎餅を渡した。
土岐「ッ…」バリッと煎餅をかじって「では、私とその子が、お供します」
女「フン」バリッと煎餅をかじり「お供をつける年齢(とし)じゃないわ」
土岐「和田様の大切なご側室に何かあれば、それこそ、戦…」と女が持つ薙刀を確認した。
女「フゥ」とその視線を辿り「物騒ねぇ…」と自分の薙刀を繁々見つめた。