ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

弔い酒

2011-05-05 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
親父「お、おぉ…上がれ。”あれ以来”…その、久し…ぶり、だな」
斯波「忙しかったんだよ」キッと親父を睨んだ。
池田「…」
義経「…」(あれ以来…か。すみかも、そう言っていたな)
斯波「ここは、俺様の特等席だ」と京風の和風衝立で仕切られた奥座敷に上がり込んだ。
神棚の真下の席が、斯波の定位置らしく、胡坐をかいて「お前らも座れ」と招き入れた。
池田「いいですか?ここ、あなた様と”どなた様か”の特等席、なんでしょう?」
斯波「余計な詮索すンなッ。親父ぃ」を呼んで「酒ッ」と注文したら、
親父「あいよ。鮎のうるか(塩辛)」を三皿と地酒一本と杯を四つ、盆に乗せて持って来た。
斯波「おう…って、これ」たけぇ酒…
親父「おごりだ」と、一人ひとりに杯を手渡し「のんで、やってくれ…」と酒を注いだ。
斯波は、親父の手から山形吟醸酒 出羽桜『雪漫々(ゆきまんまん)』の瓶を引ったくり、杯に酒を注いで「ふ…」と親父に渡した。
斯波「…」親父に軽く頭を下げ…顔を上げたと同時に空をキッと睨み、杯を持ち「献杯」と礼した後、一気に飲み干した。
親父「献杯」と神棚に向かって、礼をした。
義経「献杯…」敬意を表したのが神さんなのか、神さんの所に逝っちまった奴ら…なのか。
池田「献杯」杯を持ち、頭を軽く下げ、目を閉じた。
特別な酒を出された時、故人を偲んで、涙の代わりに酒を呑む。それが、献杯(けんぱい)…俺たち流の弔いだった。人間生きてりゃ、必ず死ぬ。生前関わりを持っちまった奴らに対しての敬意と、供養だ。戦に限らず、俺たちの生は多くの犠牲の上に立つ。その犠牲となった者たちの屍を乗り越え、それを無駄にしないためにも魂にしっかり酒を沁み込ませ、心に刻んで生きていく。それが、生き残った俺たちの宿命(さだめ)…背負っていく痛みだった。
ズキッ…と来て、
義経「ッ」と顔をしかめた。
斯波にも何か忘れちゃいけない記憶と関わり、弔うべき奴がいるだな。
生き残った者たちが背負う苦しみは、乗り越えるべき心の痛みなのだろうが、俺にとっては、あまりにも犠牲が多く、度数の高い酒は、胃と心に染みて、少々…、
斯波「くぅ、効くぅ…」と体をくの字にした。
池田「…」すうっと、ゆっくり目を開けた。