ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

カシミアのブレザー&キャバリーツイルのコート

2010-03-20 04:00:00 | 白井さん




 今回はいきなり前回訂正から(笑)。但し、ご指摘をしてくださるのは白井さんではなく、なんとお客様!信濃屋さんの長年の顧客のお一人で兵庫県宝塚市在住のO様からお電話で(信濃屋の牧島さん経由)、前回ご紹介した、私がネットオークションで落札した信濃屋オリジナル・チャーチのコンビネーションの作製時期(80年代)は第1回目ではなく2回目です、とのご指摘をいただいたとのこと。決め手はラストの違いで、1回目は#73(白井さんのお話では“チェットウィンド”“ディプロマット”などに使っていたラストとのこと)、2回目が#84だったとのことで、なんとO様はこの両方のコンビネーションを所有(もちろん箱付き)されてるので間違いありません(笑)。

 信濃屋顧客列伝中のお一人O様はチャーチに限らず、『Oさんは持って無いモノはないんじゃない(笑)』と、白井さんも思わず笑ってしまわれるほど実に数多くの名品をお持ちで、それ以上に、白井さんが『メディアに一切惑わされること無く、御自身の感性に従って良いと思ったものは迷わずお買いになるその“買い方”が素晴らしい方』と常日頃から賞賛される方。この日のお電話では白井さんと更なる服飾談義に花を咲かせていらっしゃったそうですが、このブログをご愛読してくださっているO様から『もっと古の名品逸品の小物の類を取り上げて!』とのリクエストがあったそうです(笑)。もしかしたらいっそのこと私がO様を訪ねて、O様が所有されている名品の数々について伺った方が良いのかもしれません(O様申し訳ありません。冗談です笑。いつもご愛読ありがとうございます。この場をお借りしてお礼申し上げます。)。

 この日はまだ風邪気味の白井さんでしたが、『そうだな~もっと色々話さないとね・・・よし!じゃあ今日はボタンの話だな。』と張り切っておられました(笑)。という訳ですので、今日はこのままスタートです!

  

 カッコいいですね~!私見ですが“ブレザーといえば白井さん”“白井さんといえばブレザー”というくらいよくお似合いだなぁ~と思います。私は、信濃屋さんのHP(『信濃屋オリジナルブレザー』)で白井さんがブレザーのいろんな着こなしをご披露されているのを、それこそ画像のブレザーが擦り切れるんじゃないかっていうくらいしょっちゅう観ていたので、パブロフの犬なみに“白井さん=ブレザー”というふうに刷り込まれているのかもしれません(汗)。また、いつもお馴染み銀座天神山のIさんもブレザーがお好きでかなりの頻度で着用されていて、そしてまたよくお似合いです。Iさんの説では“好きな服とそれを着る人の関係”には『好き→よく着る→着こなす→よく似合う→更に好きになる』という好循環があるそうです。『白井さんもブレザーは好きで年間を通して10着は持っているよ。』とIさんは御自身のブログ上でも過去に2回(“今日の着こなし”『春のフランネル』『サマーカシミアのブレザー』)、白井さんのブレザーの着こなしをご紹介されています。斯く云う私も“白井流”の影響で当然ブレザー大好き人間となっており、現在は3着も(10着中なのに・汗)所有しています!

 この日確認したところ、白井さんご自身は『夏物で“柄”ってあんまり持ってないんだよね。だからこれからの季節は自然とブレザーばっかりになるんだよ。』と仰っていました。ということは、これからは白井さんのブレザーの着こなしを数多く拝見できるということ。私としては俄然胸が躍ります。暖かくなるにつれ身につけるアイテム数が減り、その分着こなし術の差が如実に顕れてくるこれからの季節、“永遠の定番中の定番”“紳士の必需品”“着こなしの基本アイテム”であるブレザーの着こなしは“白井流”を志す私としては絶対に押えなければいけない“必須科目”です。因みに今日のブレザーは20年程前のルチアーノ・バルベラ(伊)のカシミア。白井さんも絶賛の打ち込みのしっかりとした分厚いカシミア生地を使用した逸品です。

 濃いめのブルーのストライプシャツ、紺とイエローゴールド、2色使いの幅広めのレジメンタルストライプのレップタイ、それに近い色のポケット・カチーフ。紐靴ではない靴は初登場ですね、スウェードのモンクストラップ・シューズもルチアーノ・バルベラ。白井さん曰く『昔はうちでもやってたんだよ。』とのこと。

       

 写真のボタンはThe London Budge & Button Companyのシルバー925。

 白井さん、『純銀のボタン付けたブレザー着ている人なんて滅多にいないもの。服なんてどうでも良くて、こういう小物使いで違いが出てくるんだよ。昔はそういう本当のお洒落ができる人がいっぱいいたなぁ。純銀のプレーンなボタンにモノグラム(2ないし3、稀にそれ以上の文字や書記素を、単に並べただではなく、組み合わせた記号。個人や団体の頭文字で作られ、ロゴタイプとして使われることが多い。ニューヨーク・ヤンキースや読売ジャイアンツなどの野球帽に付いてるマークがその一例)を彫らせてたお洒落なお客様がいたりしたものだよ。そうそう、昔、元町に“刀彫り(とうぼり)”の細工職人がいてね。その技術を持っている職人は日本で、横浜、長崎、神戸に一人ずつの計3人しかいなかったんだよ。元々は代々山手の外国人相手に商ってたと思うんだけど、小さな鋼の刀を使って銀食器やなんか模様を彫るから手が硬くなっちゃっててさ。うちでも何度かお願いしたことがあって時間は掛かるんだけどそれはそれは見事な腕前でね、彫りの角がキッと起っていて・・・昔の元町は色んな職人がいて色んな店があって面白い街だったよね。』

 私、   『なるほど、でも白井さん、どうして小物が大事なのですか?』
 
 白井さん、『小物が大事というのもそうだけど“どういう組み合わせにしているか”ということが凄く大事。本当にお洒落な人は擦り切れたコートを着ていようが国産のヨレヨレのコットンスーツを着ていようが、長年の経験で磨きをかけた着こなしでそれなりにさまになるものなんだよ。なんと云うかそういう人はもうそういう風に人間ができちゃっているんだよね。基礎がしっかりしている。』

 私、   『では白井さん、基礎をしっかりさせるためにはどうすれば良いのですか?』

 ここで少し話が逸れますが、このブログのカテゴリー“白井さん”は白井さんの着こなしに兎に角多く接したいという私の個人的な希望から始めましたが、今は少し使命感のようなものも伴い始めました。それは、私のような服飾経験が浅い人や、私よりももっともっと若い人にこのブログを読んで欲しいというものです。もちろん服飾関係の方や、名うての洒落者の方々、服飾愛好家の皆さんに読んでいただいていることも嬉しいことではあるのですが、そういう方でしたら写真を見れば一発で白井さんの着こなし術の巧みさは伝わると思います。もちろん白井さんが常日頃仰っているように、やれ何処そこのメーカーだとかなんだとかといった、そんなことはどうでもいいような文字情報中心のカタログのようなブログにするつもりは更々ありません。私のような素人のブログなればこそ、むしろその目線を活かして文章を書きたいと思っています。

 以前、作家の故司馬遼太郎氏のエッセーで読んだ事があるのですが、氏は小説執筆にあたり未知の知識を勉強する必要があるときは、まずその分野で小中学生用に出版されているごくごく初級レベルの本を読むところから始めるそうです。何故そうするかというと、そういう本ほどその分野の当代髄一の学者さんが知恵を絞って誰にでも解るように書かれてあるので内容に間違いが無く、入門編としてこれほど確実な方法は他に無いからなのだそうです。私如きが歴史小説の巨人・司馬遼太郎氏を引き合いに出すなど驚天動地の厚顔ぶりですが、このブログもまた当代随一の洒落物である白井さんに登場していただいているのですから、私も“司馬流”を見習って出来るだけ多くの人の、それも願わくばより若い方の役に立てるようこのブログの作製に臨みたいと思っています。

 今回は私のそんな思いを白井さんにお伝えした上で、白井さんのお話の中で度々登場する“基礎の大切さ”をどう学べば良いのか?という上記の質問をぶつけてみたところ、

 『セパレートを着ることだね。これは晴生(この方も当代きっての洒落者といって間違いないと思います、白井さんも認める着こなしの達人・シップスの鈴木晴生さんのことです)も同じこと言ってたよ。』

 と、白井さんは即答されました。

 『スーツはネクタイさえ間違えなければそれなりに見えるものだけど、セパレート、今で言うジャケット&パンツは組み合わせの良い練習になるよね。組み合わせの変化を学ぶためには服ばっかりとか、靴ばっかりとか、何か一つにばかり凝ってそればかり揃えるんじゃなくて、色んな小物も含めて万遍無く投資することが大切。そうして徐々に揃えていって毎日組み合わせを変化させる練習を繰り返せば、まあ生まれ持った感性の差はある程度は仕方ないけれども、着こなしの基礎が自然と養われていくものだよ。』

  

 

 コート無しで帽子姿を撮影することは白井流では“ご法度”なのですが、余りに後姿の景色が良かったので一枚掲載させていただきました。今日もお帰りは『この時期は専らコレ』と仰るキャバリーツイルのコート。帽子は分厚いフェルトが今では希少な40年以上前の白井さん特注ボルサリーノ(伊)。

 本当はこの日はもっともっとご紹介したいお話、少年時代の白井さんのお洒落心に影響を与えた叔母様やシアーズ・ローバックのカタログのお話、ボブ・ホープや“バッテン棒”や『底抜け落下傘部隊』について、ラジオ番組“グランド・オール・オープリー”、ハンク・ウィリアムス、ジョニー・キャッシュ、ジュン・カーター、エルビス・プレスリー、映画『ウォーク・ザ・ライン』、カントリー&ウェスタンやロックンロール草創期の巨星たちについてのお話、などなどたくさんのお話を白井さんから伺いました。そういう服飾とは関係ないお話も、白井さんの着こなしを語る上では実はすごく大切で是非是非ご紹介したいのですが、残念ながら今日は私に許された時間に限りがあるので、それらについてはまたの機会に必ず書きたいと思います。今日はその中から、白井さんが最も好きなミュージシャンの一人“ハンク・ウィリアムス”の動画をリンクさせておきます。

 『当時のアメリカのカントリーミュージシャンは本当にカッコ良くて憧れの存在。現代のカントリーミュージシャンは全然ダメだけどね。』

 これを観れば、一昨年のクリスマスパーティーでの白井さんの着こなしが極めてクラシックな装いだったことが頷けるはずです。



グレンチェックのスーツ&キャバリーツイルのコート

2010-03-16 04:00:00 | 白井さん




 “荒れる春場所”とは大相撲の世界での慣用句。番付下位の力士が上位の力士を破る所謂“番狂わせ”が多いのが、この3月に行われる大阪場所の傾向なんだそうですが、その原因の一つが、三寒四温、花粉症といったこの時期特有の自然現象群による体調不良。春は如何な屈強な力士達でも自己管理が難しい、故に“荒れる春場所”となるのだとか。今期からロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムに移籍した松井秀喜選手も確か花粉症で、例年この時期はあまり調子が良くなかったような記憶があります。因みに私も花粉症持ちですが、昨年から職場の先輩に教えていただいた“フルナーゼ”という点鼻薬を愛用しているお陰でかなりストレスが軽減されています。まだご存じない方はお近くの耳鼻科で処方されてみてはいかがでしょうか。お薦めです(笑)。

  

 服飾好きの我らが“大横綱にして不動の4番バッター”白井さんも、先日の出張で体調を崩されたそうで、この日は風邪気味。『2件くらい寒い所があってね・・・ゴホッゴホッ』と、この撮影中もみるみるうちに声が変わっていってしまいお辛そうでした。こうして改めて写真を見てもいつもよりお顔の色が優れません。白井さんは一旦お風邪を召されると長引くことが多いそうなので心配です。次回の“白井さんチェック”の負担が増えないように今回は努めてテンポ良く手短に参りたいと思います。

 まずは前回の訂正ですが、Solt&Pepperはスペル間違いでSalt。それから前回お召しのスーツについて白井さんから『あれは“ツイード調の”軽い生地でダニガルツイードじゃないよ。本物のダニガルはもっと分厚くてゴリゴリしてるからね。』とご指摘をいただきました。我ながらとんでもない間違いをしたものだと今回も反省しきりです。この場をお借りして訂正とお詫びにかえさせていただきます。

 

 またこの日の信濃屋馬車道店では“マエストロ”こと赤峰幸生氏が主宰されている『AKAMINE ROYAL COLLECTION』のオーダー会が催されていました。赤峰さん、撮影にご協力いただきありがとうございました。翌日、早速スカモルツァとパルミジャーノ・リゾットを美味しくいただきました(←これは赤峰さんと私の秘密の会話です笑)。

 下の写真は真面目にお仕事中の白井さんを隠し撮りした写真と、隠し撮りに気づいて驚くふり(怒ってません)をしておどける白井さんです。

 



   

 久しぶりの登場となったグレンチェックのスーツは白黒に赤いペインが入ったカルロ・バルベラ(伊)の生地を使用した信濃屋オリジナル(天神山)製。2本の赤いピンストライプが入ったシャツはFRAY(伊)。赤とシャンパンゴールドの細かいチェック柄ネクタイはルチアーノ・バルベラ(伊)で、かなり古いものらしく“お気に入りの一本”という感じでしたが、いかんせん体調不良のため白井さんの主張もやや弱め(汗)。

   

 ですが、この日一番のお顔をされたのはこの靴について触れられた時でした。『だいぶ古くなって革も切れてきちゃったけど、何しろ形が大好き!』(白井さん談)とこれまででも最上級のお気に入りっぷりの靴は、漸くにして初登場!ジョンストン&マーフィー(米)の黒いキャップトウです。6アイレッツ、小さめのトウキャップ、角度のあるベベルトウェスト、白井流靴哲学の源流を成すと云えそうな非常にクラシックなアメリカ靴については、私もいつもお馴染み銀座・天神山のIさんからよく聞かせていただいていました。そんな伝説の銘靴をこの度やっと拝見できたことには私も感慨深く、また、よく見ると靴の表情が何だかちょっと不思議と白井さんに似ているような気がしてくるから不思議です(笑)。

 

 

 今日はお早めに帰宅なさって下さい! この時期一番活躍するやや軽めのコート、キャバリーツイルのラグランコート(ビエラ・コレッツォー二伊)です。襟の形、ゆったりした身頃とがっしり太めの袖幅は白井さんも殊にお気に入りのご様子です。こういうカジュアルな表情のコートは肩にゆとりがあって全体もゆったりとしたシルエットの方が良いですね。先日、私もお気に入りの天神山製のポッサムのポロコートを、購入から2年目にして初めてニットの上から直接着てみたところ、ジャケットの上から着たときよりも肩線がナチュラルになって柔らかい表情を見せてくれたのは新たな発見でした。

 今日の合わせは、フランコ・バッシ(伊)の赤白ストライプ柄のシルクマフラー、毛足の長いライトグレーのファーラビットはボルサリーノ(伊)、ラバリーニ(伊)のステッキ。ストライプのマフラーもこれくらいの細い縞だと上品な感じになるんですね。白井さん曰く『小物は凄く大切。なるべく色んな種類のものを多く揃えて組み合わせの妙を味わうのが着こなしの醍醐味。』なのだそうです。

 風邪気味でも普段と全く変らない白井さんの素晴らしい着こなしには驚嘆を禁じえませんでした。また律儀な白井さんは赤峰さんを最後まできちっと見送られ、その際『帽子被らないの?』と“マエストロ”と呼ばれる赤峰さんにも私や他のお客様に仰るのと変らない調子で“ご提案”されていたのが可笑しかったです(笑)。今日は手短になりましたが、白井さんが早く全癒されることを心から願います。

 余談・・・先日アップしたチャーチのコンビネーションを早速白井さんにも見ていただいたところ、80年代に都合2回作製したコンビネーションの一回目だろうということでした。今から約30年前にご自身が製作に携われた靴がほぼ完璧なコンディションで、廻りまわって私の足元に収まっている不思議さには白井さんもちょっぴり驚かれていました。『普段の心がけかね(笑)。』と思いがけずお褒めの言葉も頂き、私も喜び一入でした。元来、ネットオークションには余り関心をお持ちでは無い白井さんですが、『良いものならいいんだよ。』とこの靴にはお墨付きを頂けました。これで晴れてこの靴が私にとっては正真正銘掛け値なしの“宝もの”となり感慨無量です。






 

ツイード調のスーツ&Burberry のトレンチコート

2010-03-09 04:00:00 | 白井さん




 ♪~心で編んだセーター渡すこともできず一人部屋で解く糸に思い出を辿りながら~♪(村下孝蔵『春雨』より)

 ここ数日は暑くなったり寒くなったり、降ったり止んだり、天空逆巻き不安定な天気が続き“春まだ遠からじ”といった雰囲気で、私の気分も何だかちょっと停滞気味。鬱陶しい雨空を見上げると何故か懐かしのフォークソングが口を吐いて出てきました。昨日も真冬並みの寒さが戻ったということでしたが、ただ、大洋の湿り気を多く含んだ空気には、冬のあの肌を刺すような厳しい冷たさはもう既にありませんでした。やはり春はもうすぐそこまでやって来ているのです。我慢我慢!

 さて!今日の白井さんの装いは、“Salt&Pepper!”白黒グレーのホームスパン調のスリーピーススーツに、出ました!泣く子も黙る“トレンチコートスタイル”です。



     

 今日の白井さんはスーツスタイル。白黒のみのグレーホームスパン調の軽めの生地を使用した洒落た大人の男専用スーツ。こうして白井さんがさらっと着こなす姿を拝見すると、専らカジュアルなイメージが強いツイード調の服も、着こなし方次第で充分ビジネスシーンにだって通用することがわかります。もし会社にこんなお洒落な上司がいたらきっと“一生ついて行きます!”と後先考えず誓ってしまいかねない大変危険なスーツ(伊ルチアーノ・バルベラ製)です(笑)。

 私が今秋冬、銀座天神山でツイードのジャケットを初めて作製した際、いつもお馴染みのIさんからは『スーツで作ったら?』とお薦めしていただいたのですが、元々私はスーツを着用する機会が殆ど無いのと、“ツイードなのにスーツ?”と昨今のツイードに対する先入観からジャケットのみでのオーダーに留めてしまいました。また更に白井さんからも『スーツで作れば良かったのに。』と言われたことも。正に“後悔先に立たず”とはこのこと。今回の撮影で粗忽な私にもお二人が仰ったことの意味がやっと理解できました。

 コーディネートは白のオックスフォードBDシャツに赤とベージュのレジメンタルストライプのレップタイ(タイはルチアーノ・バルベラ、恐らくシャツも)。信濃屋の牧島さん曰く『あのスーツに白のBDとレジメンタルを合わせるところが“白井流”ですよ。』とのこと。私如きではその意味するところの深遠さは未だよく解りませんが、そう言われると確かにそうかもしれません。オフホワイト地に黒いペイズリー柄のシルク・ポケットカチーフ(Pocket Kerchiefが正確な表記。この度、信濃屋さんで皆さんと海外の古いブックを見ていて発見、白井さんからも“コレが正解”と教えていただきました。)は、白井さん曰く『これは大昔に100円で買ったやつ。横浜は昔はシルクの問屋がたくさんあったからね、何かで(問屋さんが店閉め?)ダンボールいっぱいあった中から20枚くらいまとめて買ったなあ。』とのこと。

 

 黒い靴はこれで3度目の登場ですが、全てキャップトウ。白井さんも“所有している黒靴は殆どキャップトウ”と仰っていました。今回は“EG”エドワード・グリーン(英)。巷では高名な靴屋さんですが、白井さんは『コバが張り出してないから女の靴みたいであまり好きじゃない。』そうです。このブログは白井さん別注のクロケット&ジョーンズから始まり、フローシャイム、サクソン、ヘンリーマックスウェル、ラッタンツィ、ペロンペロン、オールデン、ナンブッシュ、信濃屋オリジナルが登場していますが、それらと比べるとやはり大人しい印象ですね。この日は雨だったので“嫌いな靴を履いちゃう作戦”だったのかなと思いきや、牧島さん曰く『白井さんは雨だからどうこうっていうのは基本的に無いみたいだよ。“その日履きたいものを履き、着たいものを着る”が一番じゃないかな。』とのこと。それと“ワードローブの品は満遍なく使う”が白井流の基本ですから、ごま塩グレーのスーツ→黒靴→EG、という流れで選ばれたのかもしれません。因みに、天神山のIさんから以前伺ったお話によると、白井さんはご自宅のワードローブの靴を、『黒靴コーナー』『茶靴コーナー』『スウェード靴コーナー(因みにスウェードは埃が被らないように特に下駄箱の中に保管)』とに大別されているそうです。こういうちょっとした工夫が毎朝の品選びをスムースに進行させ、結果的に洗練された着こなしの一助になるのでしょうね。ソックスは久しぶりの赤。これまで見てきた限りですが、白井さんの靴下選びは“ネクタイの色に合わせる”ことが一番多いと思います。



   

 出ました!バーベリー社(英)の代名詞・トレンチコート。45番色“グリーンの玉虫色”です。裏地はグリーン&オレンジのチェックで白井さん曰く『45番の裏地はこれ!』とのことで、今は“バーばリー”といえばブランドアイコンになっているあの“バーばリーチェック”一辺倒ですが、かつては色んな裏地があったようですね。

 傘はブリッグ。メイプルのシルク張りで、前回のヒッコリーは26インチサイズでしたが今回は25インチ。純銀のカラー(ブリッグのカタログにはSilver Collarと表記されていました)には“TS(白井俊夫)”のイニシャル入り。帽子は信濃屋別注のボルサリーノ。画像が少しわかり難いですが“SHINANOYA”のロゴが入っています。普段は茶の帽子が多い白井さんですが、セカンドチョイスは恐らくこのグレー色でしょう。私ももし2つ目の中折れ帽子を買うならこの色にしたいと思っています。年季の証の焼けたグレーが今日のコートにぴったり合っています。

  

   

 白井さんから伺ってちょっと俄かには信じられませんでしたが、今日のこのトレンチコートは三陽商会(日)さんのライセンス品だそうです。所々が擦り切れた分厚いコットンギャバの撚れた感じ、焼けた玉虫のオリーブドラブ色、白井さんと共に歳を重ねてきたこのコートが放つ圧倒的な存在感はまさに“常在戦場”と言わんばかり(汗)。その前では輸入品だとかライセンスだとか、なんだかもうそんな細かいことはどうでもいいことに思えてきます。

 そして、もう何と言ったら良いのか、いえいえ、余計な言葉は要りませんね(笑)。トレンチコートを着てこれほどさまになる方を私は他に知りません。元軍服故か男心を擽る歴史とそれにまつわる薀蓄盛りだくさんのこのコートですが、街でたまに見かけても自然と着こなしている方はまず見たことがありません。それどころか前をだらしなく開けていたり(いえいえそれはまだ良いでしょう)、ベルトを後ろで蝶々結びしていたり(いえいえここまではなんとか目は瞑れましょう)、ベルトを引き摺っていたり(いえいえそれも許しましょう)、最後は面倒になってベルトを付けてない人がなんと多いことか!ループはもちろん残ったまま!ベルトを付けるか!ループを外すか!いっそのことトレンチコートそのものを着ないか!○※△×▲~#!!!・・・あまり人の服装をとやかく言うのは良くありませんが、要するに着こなす以前にちゃんと着れてない方々が余りにも多すぎて“トレンチコート=残念なコート”というのが私も含め、多少なりとも着こなしに気を遣かっている方々の大方の印象ではないでしょうか。私はこの場をお借りして声を大にしてこう申し上げたい。『こういう風に着て下さい!!!』と。

 

 数年前、私が初めてお会いした銀座天神山のIさんに猛反対され(笑)購入を見送ったのがこのバーベリーのトレンチコートで、その代わりに天神山さんで購入したのがローデンコートでした。振り返って考えてみるとこのトレンチコートは、今ある天神山さんや信濃屋さんとのご縁を作ってくれた陰の立役者かもしれませんね。その経緯については白井さんもご存知で『これはこれでなかなか良いもんだよ(笑)。』と仰って笑っていました。いつか、もう少し、私が成熟したら、その時はもう一度、購入を検討してみてもいいのかもしれませんね。その時もIさん、猛反対するかな?(笑)



ダイヤゴナルのカシミアジャケット&キャバリーツイルのコート

2010-03-06 04:00:00 | 白井さん




 “三寒四温”~日替わりで上下する気温と近づきつつある春を端的に捉えた写実的且つ詩的な素晴らしい日本語です。

 今日の白井さんは“洗練された大人のカントリースタイル”。ダイヤゴナルのカシミアジャケット&キャバリーツイルのコートです。



   

 今日はA・カラチェニ(伊)で90年代半頃に誂えられたというジャケット。うっすらとした橙(茶?)のペインが入ったダイヤゴナル柄のカシミア生地はカルロ・バルベラ(伊)製。素人の私ではちょっと言葉で表現するのが困難なほどの微妙な色合い、質感はしっとりと柔らかく、『(イタリーでの何かの席上で)隣に座ってたアントニオ・パニコが“良いなぁ~”と言って触ってたっけ(笑)。』(白井さん談)と同国の同業者も唸らせる、英国的カントリーテイストを得意とする同社の真骨頂といえる逸品。『生地なんてどうでもいいんだよ。』と白井さんにまた怒られそうですが(汗)。

 『生地なんてどうでもいいんだよ。』というのは白井さんの口癖。生地に限らず服や靴、小物に至るまで全ての品についても同様にそう仰います。一番大事なことは、その品を最初に見た時に感じる、色、触感、着てみたときの全体の雰囲気など、それら感覚に訴えてくる“一次情報”を通して自分がその品を気に入るかどうか。生産国、メーカーやブランド、価格、付随する薀蓄などは飽くまでも“二次的な文字情報”に過ぎず、それのみで物の良し悪しを判断してはいけないよ・・・私はそう教えていただいていると思っています。

 また今日のジャケットは私にとって個人的に曰くつきの品(その想いは先日アップしたこちらの記事に認めましたのでお暇があればご覧下さい)。昨年末、今日のジャケットを白井さんがお召しになっている写真を拝見し、私は銀座・天神山のIさんがお薦めしてくださっていたダイヤゴナルのジャケット購入を直感で決めました。今日こうして“本物”を拝見し、私は“ああ~やはりあのジャケットを買ってよかった!”と確信することができました。

   

 コーディネートは白のオックスフォードBDシャツに、白井さんには珍しい無地のネクタイは『“チャコールブルー”勝手にそう呼んでるんだよ、ふふ(笑)』と仰るイザイア(伊)のもの。今日の着こなしのアクセントになっているのはトラッドの必需品・タッターソールのベスト、と思いきや『今日は選んだパンツがサスペンダーくっついたままだったから着てきただけで他意はないよ。ちょっと(合わせの部分が)波打っちゃってるけど(苦笑)、ベストは向こうの映画なんか観てても皆ピタッと着ているよね。』とのこと。これは私見ですが、今日の白井さんの装いは、後で登場するコートもそうなんですが、ある程度年齢を重ねた方でないとなかなかさまにならない、という品ばかり取り揃えているという感じです。それらを“ひょい”っと選んで着こなされてしまうのですから“ぅ~ん”と驚くばかりです。

   

 この日の天気は雨模様だったので雨靴“シルヴァーノ・ラッタンツィ(伊)”のス・ミズーラ。ノルベジェーゼ・フレックスのタコキューゾです。タコキューゾとは“タコ(踵)がキューゾ(お休み)”つまり“ステッチが踵までは入っていません(お休み)よ”という意味だそうです。ここでいきなり前回訂正(というか前々回・汗)ですが、白井さんは私が“昔の靴はよくタンニンなめしがされていたので丈夫だった”といったことを書いていたのを思い出されて、『タンニンなめしは“底革”だけだよ。全部じゃないからね。』と仰っていました。それから“雨でも革底の靴が良い”と仰っていた白井さんにもう少し詳しくその理由を伺ったところ、ゴム底に比べると革のほうが“水分を発散して蒸れない”から、ということでした。

 また、この日同席させていただいた信濃屋さんの顧客のお一人、ラヴァツォーロ(伊、もちろん信濃屋別注の品)の茶の千鳥格子のスーツをスマートに着こなされた穏やかな紳士で、以前このブログにもコメントを下さったことがある“Lechner”さんは『コバをよく磨くと雨水が滲みにくくなりますね。』と仰っていて、白井さんも同感といったかんじで頷かれていました。ふむふむ、“Lechner”さん貴重な情報をありがとうございました!



   

 お帰りのコートはビエラ・コレッツォー二(伊)。オーナーのジャンニ・バスタ氏からの贈り物だそうです。襟の形が今まで登場したコートとはちょっと違っていてややカジュアルな印象です。これまた『生地の名前なんてどうでもいいんだよ。』と白井さんに窘められそうですが、編集の都合上“コート”だけでは締まらないので、信濃屋さんのY木さんにフォローしていただき“キャバリーツイル”とい織りの生地を使ったコートだということが判りました。元々乗馬用のパンツに使われたりする丈夫な生地だそうですから、今日のコートの雰囲気にもマッチした素材ですね。マフラーはエトロ(伊)のシルク&ウール。軽く柔らかな素材は今の季節や秋口などの“間”の時期に重宝しそうですね。

 帽子は前回と同じですが、今日のコートに一番色が合っているので敢えてこちらにしたそうです。ここでまたもや突然の前回訂正です。今回はアップの画像をご用意しましたのでご覧下さい。帽子のリボンの辺りに巻きついている紐、この紐について前回“顎紐”などと書いてしまいましたが違います!この紐は“風が吹いても帽子が飛ばないように服のボタンなんかに引っ掛けておくための紐”。クラウンに巻きついている紐を外し、画像にある黒い丸い部分を中心に輪っかを小さく絞ると自動的に紐の長さが延びてきて服まで届き、例えばシャツのボタンなどに小さくなった輪っかを引っ掛けておく→風が吹いても安心、という手の込んだ便利機能付きの帽子なのでした。

 繰り返しになりますがこの日は雨模様。ですが基本手ぶら主義の白井さんは『少々の雨なら傘は差さないよ。』とこの日はノーアンブレラ!ちょっと残念でしたが、前回のシルク張りのブリッグの傘についてもう一つ貴重な追加情報をいただきました。『確かにシルク張りはナイロン張りに比べて見た目も良いのだけれど、それ以上に良いのは“音”。雨が当たったときの音がまるで違うんだよ。』とのこと。私は、流石ブリッグ、ナイロン張りでも充分良い音だと思っていたのですが、更にその上の“音”とは・・・恐るべし紳士服飾の世界!

 さて、以下は余談ですが、いつも白井さんとの撮影では服飾のお話がだんだん逸れて行って最後には全く関係の無い話題で盛り上がることがしばしばあります(笑)。この日も『赤いギンガムチェックのスーツを着こなすには』、『ウールギャバディンと日本そば』、『“西部の男”と“西部の王者”』とだんだん逸れていき(これらの話題も追々ご紹介できると思います)、最後は白井さんの子供時代の遊びについての話題に(笑)。

 白井さん『においガラスって知ってる?』 

 私   『え!?何ですかそれ?』 

 白井さん『え、知らないの?だめだなぁ~(笑)。厚いガラスの破片をさ、こ~うやって教室でこするんだよ。で匂いを嗅ぐとすごくいいニオイがするんだよ!』

 私   『え!?それって何のためにするんですか??』

 白井さん『知らない。でさ、そのガラス何のガラスだと思う?戦闘機のコックピット
のフロントガラスなんだよ(笑)。子供ってどっかから変なもの拾ってくるよな~(笑)。じゃあさ、ホンチ知ってる?』

 私   『え!?何ですかそれ?』

 白井さん『ええ~!?知らないの!?横浜来ちゃだめだよ~(笑)。クモだよ蜘蛛、オスは“ホンチ”で雌は“ババ”、ハチマキ締めたのが“カンタ”。カンタまで知っている奴はそうはいないぞ!!(笑)。で、そいつらをマッチ箱でもなんでもいいから中に入れて、教室で戦わせるんだよ。』

 私   『え!?それって何のためにするんですか??』

 白井  『知らない。箱の下から“ほれ!ほれ!”って突っつくとこ~うやって戦うんだよ。』

 と蜘蛛が戦う様子を身振り手振りで真似をする白井さんの真剣な表情は、こんなに笑っては腸捻転になるのではと本気で我が身を案じたくらい可笑しかったです。普段から些かリアクションが大きい私ですが、それにしてもあんなに大笑いしたのはもう何年ぶりか!というくらいの大笑いでした。

 そんな白井さんのパフォーマンスに応える為にネットでホンチが戦う動画を見つけました。白井さん懐かしいだろうな・・・(笑)





 

 

チョークストライプのフランネルスーツ&Burberry の“Rider”

2010-03-02 04:00:00 | 白井さん




 ♪摩天楼蒼く煙らせる雨は おまえの流した涙のようだね
  
  見えない絆を確かめるように 何度も振り向く背中がつらいよ
  
  サヨナラが最後の優しさだなんて 二人とも生まれる時代を間違えたのさ
  
  Blue rain my soul♪

 この日は雨。信濃屋さんへ向かう道すがら、お気に入りの雨歌を口ずさみながら私は、『今日は間違いなく“アレ”をお召しになって来られている。』そう考えていました。

 今日の白井さんは茶のチョークストライプのフランネルスーツ、そして私の予測は見事的中しました、英国バーべリー(白井さんは“バーバリー”ではなく“バーベリー”と発音されていたので私もそれに倣います。)社のライディングコート“Rider(ライダー)”を身に纏われた“Spring rainy day style ”です。

   

 ニューヨークやシカゴのギャングスターを髣髴とさせる茶色のフランネルスーツは“信濃屋オリジナル”(天神山)製。チョークストライプは白ではなく少し捻って同系色の茶系を使い、地味になりそうなところを襟の縞の線を襟のラインに沿わせず外側に抜けるようにして変化を出されたのか。靴は昨年発売された最新の信濃屋オリジナルシューズ“Douglas MacArthur”Uチップ・バルモラルです。『雨で革が変になっちゃった。』と仰っていたのでアップでの撮影はご遠慮させていただきました。実は私も同じものを購入していて、2009年11月16日にこのブログ上にてご紹介しているので詳細はそちらをご覧下さい。よくよく考えると白井さんと同じ靴を同じ時代に購入できたなんて実に嬉しい出来事です!新しい靴ですが、もちろん白井さんはKIWIを使い熟練の技でピカピカに磨き済み。私も見習わなければ(汗)。ただ、以前白井さんからは“あまりいっぺんに急いで光らせようとするとワックスが剥がれちゃうよ”と教わっているので、焦らず磨きこんでいこうと思っています。白井さんは色が赤っぽくならないように元々の革の色(くすんだブラウン)を保ってそのまま濃くなるように気をつけて磨かれたとのこと。どうやら現在日本で入手できない色のKIWIをお使いになられた模様です。私の怪しい記憶では、確か昨年の11月に信濃屋の牧島さんが兵庫にお住まいの信濃屋顧客列伝中のお一人“O様”とお電話でお話されていたときに、白井さんがこの靴を磨かれた際の話題になり、確か“白井さんはミッド(もしくはライトだったか?)タンで磨いていた”と仰っていたような記憶があります(怪しい記憶ですけど・汗)。因みに、このブログではもう何度も書いていますが、白井さんは靴磨きにKIWIしか使いません。もう50年以上そうされているそうです。私はこの“白井流”の技の一つを“KIWISM”と勝手に名付けて悦に入っています。

 昨年私がこの靴を購入した頃、いつもお馴染み銀座天神山のIさんに『白井さんも同じ靴を購入されたんですよ。』と言ったら『え~白井さんまた買ったの!?靴いっぱい持ってるのに~!?』と笑っていましたが、気に入ったら即購入!そこがまた白井さん流なんだそうです(笑)。白井さんはこう仰っていました、『靴は今までそれこそいっぱい買って履いてきたけど、“履き心地”なんて未だによく判らないしあんまり気にしてないよ(笑)。なんたって毎日満遍なく履いてるんだから。』

 細いブルーのストライプシャツはアンナ・マトッツォ(伊)。FRY、リガッティなどイタリアのシャツ屋さんは女性経営者が多いそうですが、アンナ・マトッツォ女史もそのお一人。ハンドメイドシャツ屋さんとして知られていますが、白井さん曰く、『シャツのハンドメイドはあまり意味が無いね。ボタン付けや穴かがりくらいならまだ理解できる部分はあるけれど、シャツは本来は下着。頻繁に洗濯して丈夫さが求められるものを敢えて手で甘く縫うなんて。“否、着心地が違う”なんて云うけどそんなの全然解らないよ。本人(マトッツォ女史)にも言ったんだけど、あれは全然改心していない顔だったな(苦笑)。そんなことより今日はこれこれ・・・。』

 

 そう仰って白井さんが私を導かれた先は入り口近くのコートラック。今日の“白井シェフ”の“メインディッシュ”はやはりこちらのようです(笑)。おっとその前に好例の前回訂正を忘れないうちに!

 まず“前回の訂正”の訂正。カントリーウェスタン奏者がフランネルのスーツにテンガロンハット、ウェスタンブーツを合わせるのは『カントリーウェスタンの世界ではよくある着こなしだよ。』(白井さん談)と書きましたが、『あれは昔の話。’50年代頃かな・・・スーツのデザインもディティールがウェスタン調でね。機会があったら今度見せてあげるよ。』とのこと。洋服と共にカントリーウェスタンをこよなく愛する白井さん。一昨年の信濃屋さんのクリスマスパーティーでご披露された白井さんの美声はまさに玄人はだし。もしあのような機会がまたあったらなぁ~その時は是非白井さんの歌声を収録してデジタル写真集のBGMに使わせていただこうかなぁ~そんな不届きなことを考えてしまいました(笑)。

 それから前回訂正をもう1点。藤井さんがお召しになっていたタッターソールのシャツ。私はそのシャツを“白井さんからのプレゼント”かと勘違いしていたのですが、これはある件で藤井さんにお世話になった“信濃屋さんからのプレゼント”だそうです。よくよく思い出せば白井さんは“自分から”とは一言も仰っていなかったのでこれは完全に私の早とちりでした。白井さん、藤井さん、皆様にはこの場をお借りして訂正させていただきお詫びいたします。

 
 
 白井さんがまず取り出したのは傘。何本か所有されている傘の中から白井さんがこの日携えてこられたのはブリッグ(英国)の傘。クラシックな着こなしを信条とする紳士必携の品・ブリッグの傘については天神山Iさんのブログ(2006年9月19日掲載『こだわりの名品“ブリッグの傘”』)に詳しいのでまずはそちらをご覧下さい。

   

 上の写真一枚目は牧島さん所有の同じくブリッグ。持ち手はメイプルで張りはナイロンの黒。2枚目の左の無垢木の方は、生意気ながら私所有のブリッグ。持ち手はアッシュで張りはナイロンの黒。白井さんも『凄いね~ブリッグ持ってるの!』とちょっと驚かれていました(苦笑)。私のブリッグは銀座天神山さんで購入したのですが、昨年の秋のある日、それまで使っていた国産の傘を天神山さんにうっかりわすれて帰ってしまったのが運の尽き、Iさんから『あれ?ブリッグ持ってないの!?』とまるで“そりゃまずいです!”と仰らんばかりに驚かれやむなく購入したのがブリッグとのご縁の始まりでした。英国が誇る紳士必携の名品・誉れ高きブリッグの傘については私も以前から知ってはいましたが、ちょっと私如きには早すぎるのではないかと遠慮する部分があり、購入当初は携えるのに些か気恥ずかしさを覚えていました。ただまあ、これも紳士修行の一環と思い定めて、この半年間は雨の日には必ず持って歩き続けました。

 それまで使っていた国産の傘も“皇室御用達”として有名で日本橋三越で購入したもの。なかなか使い勝手の良いものと記憶していたのですが、先日、たまたま近所のTSUTAYAに行くだけだからと、何の気無しにその“皇室御用達”を半年振りに携えたところ、そちらには申し訳無いのですが、まるで“子供用の傘”のように軽いのでビックリ!開いても、力強い張り感から来る新雪に足を踏み入れたときのような“ブブブ”というブリッグ特有の音も無くて寂しく感じ、差していても何となく頼りなく感じられました。使い勝手の良さには定評のある国内メーカーですからもちろん傘としての機能にはなんら問題は無いのですし、こと雨に対する強度という点では日本と英国の雨の性質の違いからか、国産の方が優っているそうなのですが、こればっかりは気分の問題。やっぱり何でも経験してみないと判らないものですね。

 牧島さんにはスウェイン・エドニー&ブリッグのカタログも見せて頂きました。さすがは日本と並ぶ雨の国・英国の老舗、実に多くの種類の傘が扱われていますね。

 

 余談が長くなりました(汗)。お話を白井さんに戻します。白井さんのブリッグの持ち手はヒッコリーで張りはシルクの黒。シルク張りは私のナイロン張りと見比べましたが、表面の織りの肌理細やかさは比べるべくもありませんでした(もちろんシルクが上)。

 そして何と云っても今日最大のポイントは持ち手にあります。アップの画像でお判りいただけるでしょうか。

 『今は変な銀のプレートがくっついてるけど、昔のは“BRIGG-MAID IN ENGLAND”って刻印があるだけ。この刻印が無いと“本物”とは云えないね(笑)。』

 以前から白井さんにそう伺っていた“本物”のブリッグの傘を遂に今日この目で見ることができました。因みに牧島さんのメイプルも刻印だけのタイプ。私の新参のブリッグを見て白井さんがすかさず『銀のプレートかぁ~だめだな~(笑)』と仰ったのは言うまでもありませんね(苦笑)。確かに、やはり持つと素晴らしいブリッグですが、携えるときに感じる気恥ずかしさ、その原因の大部分はその銀のプレートの仰々しさから来るものかもしれません。本物が持つ佇まいって“ナチュラル”で意外と“控えめ”だったりするものです。

 

 さて、本日の“メインディッシュ”は間違いなくこれでしょう。このカテゴリー“白井さん”も早いもので今日から3月。初春を迎え初の綿素材のコートスタイルです。これから桜が咲くまでの一ヶ月間は暑くなったり寒くなったり、また突然の雨に遭遇したりと、行きつ戻りつする春には着るもので悩むもの。そんな時に断然重宝するのは綿のコート。寒暖差を補い、傘を忘れたって少々の雨にはびくともしない、この時期の主役です。

 白井さんが今日お召しになられているのは、かつて信濃屋さんで扱われていた幻の名品。雨の国英国が世界に誇る(最近は?ですが・汗)老舗“Burberry”のレインコート“Rider(ライダー)”です。信濃屋さんが数年前からこのライダーを信濃屋オリジナルとして復刻させたレインコート、その名もズバリ“Rider”は私も所有しております。

  

 『ここよく見て。襟裏のタグの下辺が縫ってないんだよ。サイズ表記はここに隠れててめくると見えるんだ。“本物”はこうでなきゃ(笑)』そう仰る白井さんのお顔はなんだか嬉しそう(笑)。また、元々は乗馬用のコートとして作られたこのコート。両裾の裏側には乗馬した際に裾が翻らないように裾を足に固定するためのベルトが付いています。これもまた“本物”のライディングコートの証。

 バーベリー社のレインコートには他にも“コマンダーⅡ”“ラドゥナー”“GWBⅡ”(GWはジェントルマンズウォーキング、Bはバーベリー、Ⅱは恐ら二枚袖の略ではないかというお話でした。ちなみにライダーは一枚袖。)といった名品の数々があった(今もあるのかな?)そうです。今日のライダーに使用されているコットン素材はベルギーの“DK”ドラッカーズ社のもの。色番は“53”。バーベリーの色見本はもちろん他にももっとあるそうですが、信濃屋さんでは“45”“46(グリーンっぽい玉虫色)”“53”を使っていたそうです。他にも“ST”ストッフェル社のポリエステル100%素材は軽くて年配の方にはなかなか好評だったそうです。

 今日の帽子は今までよりもやや鍔幅の広いボルサリーノ、顎紐つきのタイプです。この帽子はスーツスタイルの時に被ると決められているそうです。白井さんは他の帽子も“こういう時にはこの帽子”と全体の雰囲気の感じでだいたいお決めになっているそうです。

 因みに先日、天神山のIさんが愛用されているアクアスキュータムの綿コートを見せていただく機会がありました。Iさんはあまりお洒落っぽくないなんて自嘲されていましたが、決してそんなことはありませんでした。Iさんは『袖が擦り切れてきたから直さなきゃ(照)』とも仰っていましたが、それこそ飽きずに長く付き合える“本物”の証ですね。綿素材が経年変化を遂げ雰囲気があり、実にシンプルで飽きの来ないデザイン、大人の男にふさわしい“本物”のレインコートとは斯くあるべし、そんなカッコいいコートでした。今日の白井さんのライダーももちろん言わずもがなです。

     

 最後に、今日は敢えてたくさん登場させた“本物”という台詞は白井さんがよくお使いになる口癖(笑)。ただこれは他のものが“偽者”という意味でお使いになられているのではないでしょう。白井さんがこの台詞に込めている意味は、上っ面の華美は排し見えないところにも手を抜かないクラフトマンシップ、後々になっても使え長く付き合うほどに判ってくる本来的な良さ、私はそういう意味だと思っています。白井さんはこうも仰っていました、『今までいろんなものを買ってきて、そりゃちょっとくらいは“これは失敗だったかな”って思うものはあったけど、深く後悔したなんてことは、それは性格的なこともあるんだろうけど、一度も無いよ。新しいうちはなかなか判らないものだし、それが“良いもの”かどうかは長く使ってみないと判らないけど、自分で“これは良い!”と思って買ったものはやはり今も全て手元に残っている。そういう“本物”ほど“ナチュラル”で“中庸”で“シンプル”で後々まで使える。そしてもしその時に買っておかなかったとしたらその後は絶対に手に入らないものばかりなんだよ。不思議とね。』

 

 今日は皆様に白井さんにしか言い得ない“本物の言葉”をお伝えできたと自負しています。また白井さんは今日と全く変らないご発言を信濃屋さんのHP上でなさっていますので、そちらも併せてお読みいただきたいと思います。信濃屋HP『白井俊夫のお洒落談義』はこちら



 

青いブレザー&カシミアのダッフルコート

2010-02-27 04:00:00 | 白井さん




 一昨日は5月上旬並の気温を記録し春一番が関東地方を席捲。もうこのまま春になるのかな?・・・コートを着ようか着まいか・・・もう少し冬の装いを楽しみたいのになぁ~・・・でも柔らかな日差しに合うような明るい色のネクタイを新調しようかなぁ~・・・etc. この時期になるとあれこれ心惑い浮き立ちます。

 今日の白井さんは“春を意識した”着こなし。色鮮やかな青いブレザー&薄手のカシミア・ダッフルコートです。

   

 毎回思うことですが、言葉で色を表現するのはとても難しいことだと今日も改めて痛感しています。青い、といっても正確にはややネイビー寄りの青、もしくは濃いめの青、またはもう少し詩的に“春の海の色”と云うべきでしょうか、ダブルブレストのブレザーはちょっと凸凹感のある(織り方の名前が解らなくて恐縮です・汗)ウール素材を使ったダリオ・ザファーニ(伊)製。薄水色BDシャツにレジメンタルストライプ(フランコ・バッシ伊)、少し織り柄のある白地に大きめの青いドットが入ったシルクチーフ、パンツは今までで一番明るいグレーフランネル。白井さんは『強いて云うなら、ブレザーとネクタイの色の合わせを意識した。』と仰っていました。

 一つ一つは取り立てて特異な点など何も無い至って“普通”の品ばかりですが、これらが白井さんの感覚を通して纏められると、素材同士が共鳴し合い全体で“春”を表現し始めます。“どうしてそうなるのか?”これもまた言葉で表わすのは極めて困難な作業で、こればかりは“感じる”以外仕方が無いと思っていますし、私としては今のところは“ブレザーはこういう風に着こなすものなんだな”という基本的な部分をより重視して自分の糧にしたいと思っています。

 因みに、前回白井さんにお薦めしていただいた『炎のランナー』、1924年に行われたパリ五輪に出場した実在の2人の陸上ランナーを描いたこの作品を今日観たところ、英国代表選手が着用していた遠征用のユニフォームが、今日の白井さんのブレザースタイルによく似ていて、色んな意味でタイムリーだったのでちょっと可笑しかったです。その他の衣装についても、さすが白井さんお薦めの映画、目を見張るシーンの連続で、前回の『コットンクラブ』がアメリカ合衆国、今回が英国、ともに1920年代を描いた作品ということで両国の違いも比べることができ、大変有意義な映画鑑賞2本立てとなりました。

   

 この日の白井さんは、服よりもどちらかというとこの靴についての方が比較的多くの言葉数を費やされていたかもしれません(といってもベラベラたくさんという訳ではありません笑)。

 『ナンブッシュ(米)の確か“エドガートン”だったかな、だいたい40年位前だね。上野のアメ横で買ったやつで、当時で1,350円・・・じゃなくて13,500円(笑)だったなぁ。革はあんまり良くはないんだけどね。といっても昔の革はちゃんと時間を掛けてタンニンなめしをするから丈夫だよ。今みたいに薬品を使って短時間でなめした革は、きっと組織が荒いんだろうなぁ、底革なんか昔よりも今の方が減りが早い気がする。』

 専門家の皆さんの間では、なかなか良い革が手に入らなくなってきた、と言われている昨今のようですが、私のような素人はそういう時代に生きていることを素直に享受するしかないと思っています。もちろん専門の方々にはより良い品を生み出して欲しいとは強く願いますが、私には白井さんが40年かけてこの靴を愛用してきた事実の方が重要に感じられます。『エイジングは自分でするもの。』白井さんはそう仰っていました。

  

 今日のお帰りはダッフルコート。2007年の秋冬に信濃屋オリジナルとして発売されたダッフルコートの試作品として軽めのカシミア生地を使って作製したもの。暖かかったこの日は軽めのコートに合わせて帽子、マフラー、手袋、ステッキも無し。“ああ~そろそろ冬の終わりが近づいているんだなぁ~”と実感してちょっと寂しい気持ちになってしまいました(涙)。

※前回訂正・・・と言うよりは、補足とでも言いましょうか、一昨年のクリスマスパーティーの時の白井さんの装い、チョークストライプのフランネルスーツにテンガロンハット、ウェスタンブーツという着こなしについて、私は『余人では真似のできない着こなし』と書かせていただきました。ところがこれは私の知識不足による大袈裟な表現だったようで、白井さんから『昔のカントリーウェスタンの世界ではよく見られた着こなしだよ。』とご説明を頂きました。白井さんはあくまでそれに倣って装われたとのことですので、もし私の表現で“白井さんが奇を衒っていた”といった印象を与えていたようでしたら、この場をお借りして補足させて頂き誤解を招いてしまったことをお詫びいたします。

※おまけ・・・“今回は短いな!”そう思われた方のために、先日、白井さんと、白井さんのお散歩お友達のKさん(Kさんも服飾には大変造詣が深い方で、書きたいエピソードがたくさんあるのですがいづれ機会をみて。因みにこちらはKさんのブログです。)と、私の3人で鞄職人・藤井 幸弘さんの個展を見学に行ったときの白井さんの画像です。



  

 といっても藤井さんの個展会場は撮影禁止。と言う訳で上の写真は、この日藤井さんの個展に行く前に寄らせていただいたいつもお馴染み銀座天神山さんの店内での撮影です。

 この日一番の収穫は、以前から見てみたい!と思っていた白井さんのエルメスのシルクマフラーを初めて拝見できたことです。天神山Iさんから『春先にジャケットの襟元にふわりと巻いた姿は惚れ惚れするほど』と伺っていた噂のマフラーだったので感激!でした。



 最後に、私が『折角ですから!』と言ってちょっと強引に撮影させていただいた白井さんと藤井さんのツーショットです。私と藤井さんとのご縁は白井さんから頂いたものでしたが、藤井さんと白井さんのご縁は、かつて白井さんのご近所にお住まいだった白井さんを敬愛して已まないSさんという方が、藤井さんの古くからのご友人でもあったというご縁が始まりで、かれこれもう10何年になるお付き合いなのだそうです。藤井さんがこの日お召しになっていたのは信濃屋オリジナルのタッターソールシャツ。藤井さんはそんなことは一言も仰ってはいませんでしたがこの日訪ねて来られる白井さんを意識されていたことは間違いありません。画廊からの帰り道、白井さんが『藤井さんあのシャツ着てたな。昔信濃屋からプレゼントしたシャツなんだよ。』と仰っていましたから。

 私が目指すべき大人の男達。お二人のツーショット写真は私の貴重な宝となりました。



 
 

チョークストライプのフランネルスーツ&カシミアのポロコート

2010-02-23 04:00:00 | 白井さん




 ときはなる 松の緑も 春くれば 今ひとしほの 色まさりけり

 朝晩の冷え込みの厳しさは続いていますが、日中、空気の密度が微かに緩んでその隙間を初春の陽射しが少しずつ暖め始めているように感じる今日この頃。皆様大変お待たせいたしました。一週間ぶりの“白井さん”更新、2週間ぶりの“お仕事スタイル”、テンポ良く参りたいと思います。

 今日の白井さんの装いは冬の定番、チョークストライプのフランネルスーツとカシミアのポロコートを使いながらも、合わせた小物で春の風物詩“霞”を連想させる、そんな着こなしです。

  
     

 この日の横浜は冬らしい西高東低の気圧配置ながら、最高気温が10日振りに2桁を記録し、澄み切った青空から明るい日差しが降り注ぐ爽やかな、もし春と冬の境目が何時かと問われればこの日がそうだと答えたくなる、そんな陽気でした。

 微妙な季節の変わり目、きっと何か捻ってこられるに違いない、そう予測していた私でしたが、この日白井さんにお会いして、まず目に最初に飛び込んできたのはこの鮮やかなシャツの色。著名な紳士服飾評論家の影響か、近年つとに巷でもてはやされているサックス無地のシャツですが、このブログでは初登場。“フリャア(白井さん談、伊FRAYですね・笑・・・でももしかしたらFRYAというバッタもん!?ありえませんね・汗)”のピンホール。ネクタイは写真ではグレーにも見えますが、極々淡いブルーに同系色のグレンチェック柄を配したもの。ポケットチーフはやはり同系色、ブルーのドットがあしらわれた白いシルクを柔らかくパフで挿して。

 胸から上を全てブルー系統の色で、柄と色調を変えながら纏めるというちょっと余人では真似のできない超々高度な合わせ。白井さんは鏡をご覧になりながら『今日はボケちゃってるなぁ~。』と仰っていましたが間違いなく“敢えて”だと思います。無難に纏め過ぎても破綻を来たしても、有言不言問わず人の謗りを免れぬVゾーンのコーディネート。第一印象を左右すると云われるこの魔のトライアングルに、白井さんは日々挑戦し続けているのですね。

 おっと、主役を後回しにしてはいけませんね。チョークストライプのフランネルスーツはミディアムグレー。ガエターノ・アロイジオ氏の手によるス・ミズーラです。『最初はゴージがこ~んなに高くってさ、ダメだよこんなのって作り直させたら今度はこんなに低くなっちゃった。』と些かお嘆きのご様子でしたが、実はこのスーツは一昨年暮れの信濃屋さんのクリスマスパーティーでお召しになっていたもの。その時のテンガロンハットにウェスタンブーツという型破りなコーディネートには度肝を抜かれましたが、カントリーウェスタンをこよなく愛する白井さんならではのお茶目な着こなしでした。



 

 今日のシャツはフレンチカフ。カフリンクはクレメンツ(kremetz)製。クレメンツは1866年創業で『うち(信濃屋)と同い年』(白井さん談)のアメリカ合衆国のカフリンク専門メーカーで、タイバーや、タキシードスタイルの時に用いるスタッズなんかも作っているそうです。展示用のロゴマークも見せて頂きました。“14KT. GOLD OVERLAY”との表記を見て、『あ、これが住所ですか?』と言ってしまった粗忽な私に、白井さんすかさず『違う違う!“14金の張り”って意味だよ。メッキとはまた違うやつね。』と教えて下さいました。化学変化を応用した金属装飾技術である“鍍金(メッキ・plating)とは一味違う“張り”という技術や言葉があることを教わりました。この時のお話で“藤田商店さん”という輸入元のお名前が登場しましたが、こちらの初代の社長さんが、日本マクドナルドの創業者としてあまりに有名な藤田 田さん。白井さんが50年前にフローシャイムのロングウィングティップをご購入したされた時のお話でも藤田さんのお名前が出てきましたので、白井さんにとっても特別な方のようです。

 このブログでは初登場のフレンチカフ&カフリンクですが、実は白井さんはこれまでにも数回程スーツスタイルの時にはお召しになっていました。私がフレンチカフのシャツを全く着用しないのでこれまではスルーしていたのが原因です。カフリンクフリークの皆様申し訳ありませんでした(汗)。これからは気をつけて意識するよう心掛けます! 私、『フレンチカフの時は時計は腕に直接巻かれるんですね~。』白井さん、『そうそう、シャツの上からじゃ巻きにくいからね。』そんな余りに初歩的な私の疑問を遠くで聞いていた牧島さんは呆れて笑っていました(笑)。

 

 靴は今年最初の更新以来2度目の登場、白井さんが『何にでも合わせ易く履き心地がとても気に入っていて、新橋の大塚製靴でオールソールリペアしてもらったくらい。』と仰っていたシルヴァーノ・ラッタンツィ(伊)の一文字スウェード。『これもスウェードが剥げてきて良い感じになってきた。』とのこと。

 余談ですが、今日のネクタイはスイスの“a.mouley(ムーレイ)”のもの。私も同社のレジメンタルタイを一本所有していて、タグに確か“Paris”と表記されていたのを思い出したので、白井さんからこの名を伺ったときに『あ、フランスの!』と唱えたのですが、白井さん曰く『元々はスイスなんだよ。』とのこと。因みに、私が所有しているa.mouleyのネクタイは、数年前に初めて白井さんにお会いした時に“記念に”と見立てていただいた、実は思い出深い品です。このブログをお読みいただいている諸兄の中にもきっと同じようなご経験をなさっていて共感される方もいらっしゃるのでは?(笑)。

 今を去ること数年前、数多の洒落者が通った威厳漂う門扉を抜け、一階婦人服フロアに居並ぶ信濃屋撫子の皆さんの視線を掻い潜り、やっとの思いで辿り着いたエレベーターの中でほっとしたのも束の間。地階に降りた私を、『いらっしゃいませ。』と最初に迎えてくださったのは、紳士服飾会にその名を轟かせる白井さんでした。いきなりの邂逅に私の緊張がピークに達したのは言うまでもありません。兎に角白井さんから逃げなければ!と思った私が最初に向かったのはネクタイが陳列されたコーナー。ですが、この時は運悪くお客様は私一人。白井さんはお仕事柄私を背後から追いかけてきます(汗)。白井さんの気配を背中に感じ背筋が凍る私。

 『この辺が縞です。』と白井さん。

 “ストライプじゃなくて“縞”って言うんだぁ~かっこいい~!”と心の中で呟く私。

 思い切って『すみません、チャコールグレイのスーツ(当時の私の一張羅)に合わせるネクタイを探しているのですが選んでいただけますでしょうか?』とお願いすると、白井さんは『これとこれなんかどうでしょう。あとはお好みでよろしいと思います。』と仰って2本のネクタイを並べてくださいました。私は“こんな小僧にもきちっとした丁寧な接客をなさるんだなぁ”と驚きつつ、ちょっと悩んでからボルドー地にネイビーの両脇に細いシルバーが入った縞のほうのネクタイを選びました。今考えると藪から棒なお願いをしたもんだと恥ずかしいのですが、それがa.mouleyのネクタイで、私が信濃屋さんで買った最初の品でした。白井さんは勿論覚えていらっしゃらないでしょうけど、私には一生忘れられない思い出の詰まった一本です。

  
   

 お帰りはルチアーノ・バルベラのポロコート。今では到底お目にかかれない分厚い織りのしっかりとしたカシミアを使用した極上の逸品。手袋はエルメスのペッカリー。チェック柄のマフラーはフランコ・バッシのカシミア。ステッキはお馴染みの銀の握りの一本で、この度確認したところやはりスネークウッド使用のこれまた極上の逸品です。因みに、前回記憶が曖昧だった“魔法の”ステッキについては『ルートブライアーだよ。パイプによく使われるやつだね。』と再び教えていただきました。『腕に引っ掛けるところが無いからちょっと使いにくいんだけど、古美術商をしていたおじが亡くなって形見分けにいとこから“俊ちゃん使う?”“おう!使う使う!”って譲り受けたんだよ。生涯洋服を着たことが無かったおじでね。テレビはおろか電話も家に置かなかった人でね、相手の都合構わずいきなり呼び出すなんて失礼だってね。』とエピソードも交えていただきました。

 私見ですが、今日のコートスタイルのポイントは擦れたグレンチェック柄が印象的だったボルサリーノ(伊)の八枚剥ぎのハンチング。これまでポロコートには必ずソフト帽を合わせてきた白井さんでしたが、帽子一つ変るだけでガラッと雰囲気が違ってきますね。重厚なポロコートスタイルがほんの少し軽やかな印象に変ります。牧島さん曰く『白井さんは一枚天井より八枚剥ぎがお好きだね。“皆んな一枚天井が好きだよな~。八枚剥ぎのほうがクラシックで良いんだけどな”ってよく言ってるよ。』とのこと。

 白井さんからは『昔の映画なんかにはスーツにハンチングを被った男達がいっぱい出てくるよ。“コットンクラブ”とか“炎のランナー”とか観てごらんよ。衣装は“ミレーネ・カノネロ”が担当だから素晴らしいよ。時代考証がしっかりしてるから。ラストシーンでリチャード・ギアが着ているヘリンボーンのコートなんて俺が持ってるバルベラとそっくりだから。』とも教えていただいたので、今日早速“コットンクラブ”のDVDを借りて観てみました。“コットンクラブ”は1920年代の禁酒法時代のニューヨークハーレム地区に実在した高級ナイトクラブを舞台にした映画。監督はフランシス・F・コッポラ、主演リチャード・ギア。もちろん映画の内容話はここでは控えますが、昨年末からこうして白井さんを見続けていたからこそ“なるほどなぁ~”と目から鱗なシーンのオンパレード!という映画でした。

 そろそろ冬の終わりが近づいてきています。コートを脱ぐ季節になる前に、白井さんから帽子の所作について、ステッキの使い方、など冬の着こなしについて、余人では決して語れない奥深いお話をもっともっと伺わねばなりません。白井さんの美的センスに影響を与えたルーツについて、白井さんが見てきた内外の洒落者列伝などについてもまた然り、まだまだ知りたいことは山ほどあります。私はこのブログ上での“フランシス・F・コッポラ”にならねばならないのだと(コッポラ監督が知ったらさぞ不愉快でしょうが・汗)、そんなことばかり考えながら映画を観ていました。もちろん主演と衣装担当は不世出の洒落者・白井俊夫さんです。次は“炎のランナー”にも挑戦してみたいと思います。

 ※前回訂正・・・バランタインについて『(伊)』と表記していましたがこれはとんでもない誤りで、正しくは『(蘇格蘭)』つまりスコットランドが正解でした。この場をお借りして訂正とお詫びに替えさせていただきます。

 ※更新のタイミング変更について・・・毎週月・金曜日に更新してきたこのカテゴリー“白井さん”ですが、これまでは私の都合上更新時間にバラツキがあったため、“もう更新されたかな。あれ、まだだ。”と、折角ご愛読頂いている皆様の貴重なお時間を無駄にし“がっかり”されたことが多々あったと思います。もちろん撮影については白井さんのご都合を最優先としますが、更新時間については今回から、基本的にですが、火・土曜日の深夜4:00に固定したいと思っています。 
 

 

 

手編みのカシミアスウェーター&粗羅紗のダッフルコート

2010-02-15 18:57:01 | 白井さん




 一週間ぶりの更新となりました。これには理由がありまして、実はこの時期、信濃屋の皆さんは来るべき春夏シーズンに向け大変お忙しく、白井さんも出張などでお店を留守にされるため、このブログ撮影も今週末までお休みを頂いています。しかし先日、そんなご多忙の最中にもかかわらず、白井さんのご好意で特別にお時間をいただき、大変貴重な“白井さんの休日スタイル”の撮影をさせていただくという僥倖を得ることができました!!以下いきなりですが、事の顛末についての余談からスタートです(長いです笑)。

 毎週、白井さんが出勤される木・土曜日に撮影し、私のお休みに合わせて月・金曜日に更新してきたこのカテゴリー“白井さん”でしたが、上述の理由で先週金曜日の更新はお休み。ならば替わってと、今シーズン銀座天神山さんで新しく作ったジャケットについてのアップを予定していたのですが、ここ数週間、実は結構動きが多い白井さんの撮影に慣れてしまっていたからなのか、前もって天神山さんの店内で撮影していた写真の殆どが、トルソーに固定されたジャケットの撮影にもかかわらず何故か殆どがピンボケ(汗)。“目にも止まらないパンチを紙一重で見切るボクサーがゆっくり投げられたピンポン球は避けられないと謂われるが、これがそれか!”と一人合点しつつ、さてどうしたものかと悩んでいました。

 そんな折、このブログで何度かご紹介した西麻布にある私のお気に入りのバーのオーナーバーテンダーSさんから『次の金曜日にランチをご一緒しません?』とお誘いを受けたので、“これは一旦ブログからは離れて気晴らしをしなさいとの神の啓示か?”とこれまた一人合点し、この日、先週の金曜日は新宿にある“パークハイアット東京”の52階にあるレストラン『ニューヨーク・グリル』に向かいました。

 パークハイアット東京は1994年オープン。当時はフォーシーズンズホテル椿山荘東京、ウェスティンホテル東京と並んで“東京外資系ホテル御三家”などと呼ばれていてたスモール・ラグジュアリホテル。客室を178室に限定し実にきめ細かなサービスを受けられることでつとに有名です。海外での評価も大変高いそうで、世界のトップ500の企業のCEOにアンケートしたところ、このパークハイアット東京は堂々の世界第2位に輝いたことがあるほどだそうです。丹下健三設計による『新宿パークタワー』の39階から52階に入居していて、ホテル正面玄関から専用エレベーターでまずはフロントレセプションのある41階に直行。さらに上層階に位置する客室やレストランへは、同フロアでも最も奥まった場所にあるフロント・デスク付近から別のエレベーターに乗り継ぐ必要があります。利用客が各セクションやフロアを通過するごとに少しずつ日常から離れていくように緻密に計算され、客室階のプライバシーが完璧に保たれた設計はまさに“大都会の喧噪を離れた大人の隠れ家”というこのホテルのコンセプトのため。

 ですが上述の薀蓄をSさんから伺うまでは、そんな素晴らしいコンセプトのホテルだとは露知らなかった私は、52階にあるレストランまで行き着くのにやたら迷ってしまい、クロークの方に『ここまで来るのにもの凄く時間が掛かりました笑。』と軽く嫌味を言う始末。無粋ここに極まれりという有様で、パークハイアットの皆さんごめんなさい(汗)。高い天井の店内は居心地が良く、窓からの眺めは素晴らしく、その日は夕食が食べれなかったほどお腹一杯になるまで美味しい食事をゆっくりと楽しみました。Sさんとは先日、西麻布のお店で美容師のW君、天神山仲間のT君と共に白井さんの話題で盛り上がったばかりだったので、ここでの話題ももっぱら白井さんについてでした(笑)。

 因みにSさんは実に独特なライフスタイルをお持ちの方なのですが、都内のラグジュアリホテルはほぼ完全制覇されていて、このパークハイアット東京もSさんお気に入りの“常宿”。この日もハイアットグループが世界中で営む多くのホテルの中でも数人しか存在しないという特別なバッジを付けたマネージャーが、『いらっしゃいませ、お待ちしておりましたS様。』とイの一番に挨拶に出向いてきたり、ここには書けませんが、ちょっと普通ではあり得ない特別なサービスも受けることができたりと束の間のセレブ気分も味わうことができました。私も憚りながら張り切って白井さん流の着こなしを実践していたお陰さまで、なんとかSさんに恥を欠かせないという最低限の振る舞いはできたと思います。

 さて無茶苦茶余談が長くなりましたがここからが本題。食事を終えた私が携帯電話を見るとなんとそこに白井さんの携帯から直々に着信&留守録のメッセージが(もちろん白井さんの貴重な肉声は永久保存済み)!!聞くとご丁寧にも撮影お休みについて白井さんから再度確認していただくという内容でしたが、兎に角取り急ぎ折り返しの電話をさせていただきました。この時の時刻は16時30分。

 私、『こんにちは。わざわざお電話ありがとうございます。今新宿にいるのですが、さっきまで友人と食事をしていましてお電話に気が付かずに申し訳ありませんでした。』

 白井さん、『そう、今日はお休みなんだけど、今ね、お店に居るんだよ。』

 私、『ええ!そうなんですか!ああ~残念!もう少しお電話に気が付くのが早ければ良かったんですが、今から自宅に戻ってカメラを取ってきて横浜に向かっても、白井さんがお帰りになる時間(18時)には間に合わないと思うんです。』

 白井さん、『そう、それは残念。今日はちょっと面白い恰好してるんだよ。』

 私、『ええ~!そうなんですか!ああ~本当に残念です(涙)』

 白井さん、『ちょっとくらいなら待っててもいいんだけどね。』

 私、『本当ですか!?わかりました!直ぐ伺います!』

 白井さんにそこまで仰っていただいて『行かない』と言うのは大逆の徒の所業。あんなに走ったのは学生時代の部活動以来。私は、秀吉の中国大返し並の大急ぎで、まず自宅に戻ってカメラをピックアップ。一旦自宅の最寄り駅で白井さんに電話をして『18時10分にはそちらに着けます。なんとかなるもんですね(笑)』と息も絶え絶えにお伝えすると、電話の向こうで白井さんは、静かに声を出して笑っていらっしゃいました(笑)。JR桜木町駅で電車を降り、馬車道を駆け抜け、転がるように信濃屋さんに入った私を待ってくれていたのは本当に貴重な、ご自身もまずお店ではあり得ないと仰っていたスウェーター姿の白井さんでした。
 
 白井さん、『早かったね~!いや、本当だ、18時10分ピッタリだ(笑)』

 私、『“なせばなる”ですね(笑)』

 白井さん、『“なせばなる、なさねばならぬ何事も・・・”』

 そして二人で『“ナセルはアラブの大統領”!』と唱和して、余談が異常に長くなって申し訳ありませんでしたが、今回の撮影開始となりました。



    

 日頃お店で、頭の天辺から爪先まで、完璧なスーツもしくはジャケットスタイルでお客様をお迎えする白井さんが“まず滅多に無いね”と仰っていたスウェーター姿だった訳は、この後プライベートで日頃親しくされている方々との集まりがあるため。分厚くしっかりとした織りの真っ赤なカシミアのスウェーターは、白井さんが『これは4着くらいしかなかったね。』と仰るかつて信濃屋さんで扱ったマーロ(伊)のカシミアで、驚くことになんと手編み!その下、オフホワイトのタートルネックのスウェーターはバランタイン(蘇格蘭)で当然カシミア。グレンチェック柄のパンツはアットリーニ(伊)。私が『カラチェニですか?』と伺うと、『違う違う、この色はアットリーニだね。』と仰っていましたが、何故かツープリーツが鉄則の“白井流”では珍しいワンプリーツ。『ダブルのスーツを作った時にアットリーニが間違えたんだよ。直ぐにツープリーツでもう一本作り直させたけどね、まったく!』と怒ってました(笑)。

 靴はオールデンのコードヴァン。『これは“雨靴”。買ったのはフィレンツェだったかな?アメリカの靴を何もイタリアで買うことも無いんだけどね。』と仰っていましたが、この日の天気は朝から厳しい寒さの中、小雪交じりの雨が断続的に降るというものだったのでこの靴をお選びになったのでしょう。因みに以前、白井さんはお客様との会話の中で『雨でも靴は革底が一番良いよ。』と仰っていました。それから銀座天神山のIさん曰く『わざわざ雨用に新しい靴を揃えるよりは、お気に入りの靴を新たに購入して、今使っている靴の中で一番お気に入り度が低い靴を雨用に転化した方が良いよね。』と仰っていました。Iさんのお師匠である白井さんですから、確認はしていませんが、もしかしたらこのオールデンもそういう経緯で“雨靴”になったのかもしれませんね。

 折角の機会なので、白井さんにニットの着こなしで特に気をつけていらっしゃることはありますか?とお伺いしたところ、『柄物は着ないな~昔は持っていたけど、みんな人にあげちゃったよ。』とのこと。『お腹が出てきちゃって・・・』と気にされていた白井さんですが、変な柄物の悪趣味なニットで体型を誤魔化すよりは、今日の白井さんのように綺麗な色のシンプルなスウェーターをあっさりと着こなす方がよっぽどカッコいい大人の“休日スタイル”だと私は思います。



     

 『 映画「ナバロンの要塞」(1961米国映画)のグレゴリー・ペック、デヴィッド・ニーブンの二人が甲板上で着用している。「第三の男」(1949英国映画)では少佐役のトレバー・ハワードが、その他にも色々な戦争映画でジェネラル モンゴメリーに扮した役者がしばしば着用。因みにイタリーではモンゴメリーコートと呼んでいる。
 
 そもそも元はノルウェーの漁師が着ていたものをイギリスのモンゴメリー将軍が貰い、後に海軍の制服に採用したと云う説がある。本物はCASEYと呼ばれる粗羅紗を使用。重量があって小柄な日本人にはやや不向き。まるで厚手の毛布を纏っているようで、暖かい事この上ないのではあるが。1945年大戦後放出品として世に出回った。

 40年後の1985年、倉庫に眠っていた当時の生地でグローバーオール社が復刻版を作製。750着が世に出た。 勿論エディショナル・ナンバー入り。それ以前には60年代のアイビーブームの折り多少の改良が加えられ若者達の人気を集めた。当時、銀座のメンズウエアーでは店の奥に断ち台を置きオリジナルを製作していた。私も学生時代に購入している。

 現在は85年の復刻版を持っているが何しろ重くてめったに着る機会もない。何年か前に一時ブームが再燃し、その時に流行ったものは、革だかビニールだか分からないループと水牛の角だかプラスティックだかわからない、なにやら猪の入れ歯の様なトッグル?との組み合わせ、大の大人が着るには少々はづかしい代物であった。』(信濃屋HP“信濃屋オリジナル・ダッフルコート”より)

 上述は2007年8月21日に信濃屋さんのHPに寄せた白井さんの一文。そこにはこのコートについての全てが綴られていますので私の説明など不要です。文字だけで知っていた白井さん所有の粗羅紗を使ったダッフルコートを遂にこの日この目で見ることが叶いました。“CASEY(カージー)”と呼ばれる粗羅紗を使った、これぞ大人の男のための“本物の”ダッフルコート。『ほら、持ってごらん。もの凄く重いから年に一回、雪の日に着るか着ないかだけどこれは良いよ~(笑)』と仰っていましたが、確かにど~んと重かったです(汗)。コートの内側に刻まれたエディショナルナンバーは“476”。

 ターコイズ、もしくはスカイブルーのカシミアマフラー。形の呼び名はわかりませんが、古の海軍士官風のネイビーの帽子は英国の“JamesLock(ジェームス・ロック)”。一瞬“白井さんが軍手!?”と我が目を疑い、どこのものか伺い忘れてしまった暖かそうな手袋も手編みのもの。更に“魔法の杖か!?”とハリー・ポッターもびっくりのステッキは薔薇の根っこを使った一本。白井さんからは『○ート・ブライ○○だよ。』と教えていただいたのですが、私の記憶力の低さとメモした字の汚さが原因で○の部分が不明です(汗)。次回、チャンスがあれば今日の小物についてもう少し伺ってみますが、今日はそれぞれが実に“個性的”なアイテムばかりで、白井さんをご存じ無い、服飾についての興味が一般的な方が、今日の帰り道の白井さんの装いを見たら“一体何をしている人で、これから何処へ行くのか??”ときっと驚かれたことでしょうね(それは今回に限ったことではありませんが笑)。

 前回訂正分については、白井さんから『訂正はほぼ無かったね。』とお褒めの言葉をいただきました。本当は細かい部分で気になることはたくさんあると思いますが、白井さんのさりげないお心遣いに感謝しつつホッとしています。ただ白井さんと、前回登場した“グランド・ホテル”についてもう少し調べてみる約束をしましたので、横浜の近代建築に詳しい以下のURLをリンクさせていただきます→横浜近代建築アーカイブクラブ

 しかし、それにしてもあの白井さんが私の携帯に気軽にお電話をしてくださり、普通に会話をされているのが不思議で、更に、私の来着を待ってくださるなんて今でもちょっと信じられないようなシチュエーションで、その日ランチタイムに過ごした贅沢な時間も重なり、なんだか夢を見ているみたいな休日でした。               

                  

 

 さて、最後に、私などが余計なお節介ながら、ご紹介をさせてください。白井さんがその手縫いの技術と作りの確かさを『今のエルメスよりずっと良い。』と褒め称えつつご愛用し、世の数多の拘りある紳士諸兄をも唸らせる『Fugee』の鞄職人・藤井 幸弘さん の個展が、『Fugeeのしごと 16点の鞄展』と題し、過去25年に渡って、藤井さんが製作し、それぞれがお客様の手によって経年変化を遂げた16点の鞄を展示するという趣向で、明日、2月16日から28日までの2週間、近年恵比寿にオープンした『ギャラリープラーナ』にて開催されます。以下詳細は、

 場所       ギャラリープラーナ(恵比寿)

 期間       2月16日~2月28日(22日・月曜日はお休み)

 開廊時間     11時~19時(最終日は11時~18時)

 藤井さん在廊日  16日(火)18日(木)20日(土)21日(日)

           23日(火)25日(木)27日(土)28日(日)

 となっています。不肖、私もその芸術的な美しさに一瞬で魅了され、“奇貨おくべし”と清水の舞台から飛び降りるつもりで購入したスウェードの抱え鞄は、愛着を抱くのはもちろん、今では所有することそのものが誇りにもなっています。長年その美しき鞄を手にする者にそんな喜びを感じさせ続けてきた『Fugee鞄』16点が一堂に会する。私も白井さんにお誘いいただいて(嬉しい!)珠玉の名品を鑑賞させていただく予定になっており、今からとても楽しみです! 



チョークストライプのフランネルスーツ&カシミアのチェスターフィールドコート

2010-02-08 20:51:57 | 白井さん




 冒頭からいきなり余談で恐縮ですが、先日、このブログで何度かご紹介したこともある美容師のW君と、一年ほど前から親しくさせていただいている銀座天神山さんのお仲間T君、それから私と男三人連れ立って、これまた以前このブログでご紹介した西麻布にある私のお気に入りのバーで楽しいひと時を過ごす機会がありました。有難いことでお二人にはこのブログをいつもご覧いただいており、“白井さん流”に憧れる私はそれにふさわしい新たな髪形に挑戦すべくW君と打ち合わせをしたり、その横で“白井さんが所有しているようなお宝コート(T君命名)が欲しい!”と鼻息荒いT君をなだめたり、とここでも話題の中心は“白井さん”について。我々の会話を聞いていたオーナーバーテンダーのSさんも『機会があれば是非お会いしてみたいですね。』と白井さんに興味津々といった様子で、いつしかT君が、職業柄多くの紳士を見てきているSさんから『やはり帽子を被られた方が良いですよ。折角素敵な服をお召しになられているのですから。』と白井さんばりに強く勧められて困惑するという場面もありました(笑)。因みに私がT君と知り合ったのは一昨年の冬、このブログでご紹介したローデンコートの記事をネット上で発見してくれたT君が銀座天神山さんを訪れるようになったことでいただいた御縁でした。そんな行動力溢れるT君は『僕もミラノのA・カラチェニに行って服を作った方が良いかなぁ』と半ば本気の(でも些か無謀な)悩みを抱く若き大望溢れる紳士です。

 また、その日の夕方、3人で東京メトロ恵比寿駅のホームで電車を待っていた時、件のローデンコートにボルサリーノを被り、白井さんに見立てていただいたシルクマフラーを巻いていた私に通りすがりの外国の方が『スゴイオシャレネ~』と声を掛けてくれました。そんな経験は人生初だったので本当にびっくり!でも、外国の方にとっては日常的な振る舞い(白井さん談)ですし、もしかしたら単に普段から100m歩く毎に出会った通りすがりの人に『スゴイオシャレネ~』と声を掛けるという奇癖をお持ちの方だったのかもしれませんが、真相はどうであれやはり褒められれば嬉しくなるのが人情というもの。慣れないことに戸惑いながらもいつもよりちょっぴり美味くお酒をいただきつつ、善き友人達と時の経つのも忘れて服飾談義に花を咲かせた夜でした。それもこれもここ数週間こうして白井さんを追っかけ続けてきたことへのちょっとした“ご褒美”なのかもしれません。

 今日の白井さんの着こなしは、ライトグレーのチョークストライプ、“白井さん流”にベストを加えたダブルブレストのスリーピース。そしてこのブログ初登場、チェスターフィールドコートは濃紺のダブルブレストという装いです。

  
     

 明るめのグレーに幅広のチョークストライプのフランネルスーツはルチアーノ・バルベラ(伊)で前々回のネイビーから少し後の頃のもの。初登場のタブカラーシャツとポケットチーフは白、ネクタイは写真ではネイビーにも見えますがブルー。

 この日は白井さんから『靴の写真が少ないね。服なんてどうでもいいんだから。』とお叱りを受けてしまいましたので、今回は靴の写真を多めに(笑)。因みに“服なんてどうでもいいんだから”というのは白井さんが日頃よく仰る言葉で、これは字面通りに受けとると“エエ~!!どうでもいいんですか??”と驚いてしまう台詞ですが、私が思うに恐らく“服は勿論着こなしの重要な部分を占めているけれども、如何せん時代ごとの流行や体型の変化の影響が大きいのが難点。服より一見目立たない靴や小物の類はつい忘れがちだが息の長いアイテムだからもっと刮目して見なさい”という意味だと理解しています。本当はもっと深~い意味があるのだと思うのですが、私のレベルではこれ位の解釈が精一杯で、今はひたすら行間を読み、ニュアンスを掴み取るしかありません(でも単に“靴の写真が少ない!”と強調して仰りたかっただけなのかも・・・汗)。

 いつものようにピッカピカに磨きこまれた中茶のパンチドキャップトウはシルヴァーノ・ラッタンツィ(伊)。セブンアイレッツ、アッパーの革の切り返し部分は手間の掛かるリボルターテ(革の切り目を薄く梳いて内側に織り込んで縫う)仕様。『リボルターテなんてどうでもいいんだよ。ここ、ここ、この角度がポイント。わからないだろうな~。』と仰って指差していらっしゃったのが、コバ内側の土踏まずに向けて角度が切り替わる部分。どうやら余程重要なディティールのようでしたのでなんとか接写を試みたのですが、残念ながらピンボケになってしまってお見せできる写真が残せず忸怩たる思いです。毎回お馴染みラッタンツィ氏直筆の文字は、以前ご紹介したときと若干異なり“Shiray”です(汗)。

 この日の私はポカが多く、“今日の着こなしのポイント”もうっかり伺い忘れてしまいました。ただ、これはあくまで私見ですが、白井さんが教えてくださる“ポイント”と私が白井さんにお会いした瞬間に受ける第一印象は、表現する言葉に違いはあれど、実は毎回かなりの確立で重なります。因みにこの日の第一印象は“今日の白井さんは軽やかな着こなしだなぁ”というものでした。そういえば、昨年発売された紳士服飾雑誌の巻頭でルチアーノ・バルベラ氏が今日の白井さんのスーツと色が近いグレーフランネル・チョークストライプのダブルブレストスーツを着ていて、『ダブルはスリムに見える』という言葉を残していましたね。白井さんは『今日のは渡りがちょっと狭いんだよね。』とパンツについてちょっと気にされていましたが、そんなこんなを思い合わせて今日の写真をじっくり拝見すると、ライトグレーという色やストライプという柄、ブルーのネクタイや明るく輝く靴から受けるイメージも重なり、“清々しさ”や“若々しさ”も表現されているような気がして、この日受けた第一印象についても成る程あながち間違ってはいなかったのかなと思います。私如きがこんなことを言うのは生意気ながら、もしかしたら白井さんの着こなしのポイントの“ポイント”は“第一印象”と深い関係があるのかもしれません。

  

 さて、普段は手ぶら主義の白井さんですが、この日はわざわざこのブログのために私蔵の古い名品をご自宅からお持ちくださって、『今日はいっぱい持ってきたよ~。』とご愛用の鞄の中から取り出して披露してくださいました。

 まず上掲1枚目の写真は古いバンチサンプル。上から『Fox & Bros Co』、中央は『John Cooper & Son Ltd』、下『HUNT & WINTERBOTHAM』、いづれも英国製の、白井さん曰く“これが本当のフランネル” という分厚くしっかりとした織りの生地。素人の私でもはっきりと判るほど現代のフランネルとは明らかに違う極上品で、昔の生地職人はいったいどれほどの手間と時間を掛けていたのか、写真と私の拙い文章ではその違いっぷりは到底お伝えできず大変残念でなりません。

 2~3枚目の写真は予てお約束いただいていた『コックスムーア』のアーガイルソックス。左から約40年前、20年前、15年前と並んでいますが、時代を遡るごとにどんどん分厚く織り目の詰まったしっかりとした生地になっていきます。こちらも先のフランネル同様写真と文字では表現しきれませんが、40年前と20年前では織り目の隙間の大きさが違うのが拡大写真でなんとかご確認いただけたら幸いです。それから足裏部分には“HAND EMBROIDERED”と表記されていました。これは“アーガイル模様の点線部分は手仕事で仕上げていますよ”という意味だそうで、今ではちょっとあまり聞かれないディティールだそうです。またこちらも古くなるほどステッチのピッチが細かくなっていて、まさに“これが本当のアーガイルソックス”という逸品でした。他にも同じコックスムーアでかつてルチアーノ・バルベラ氏が“俺も同じもの持ってる”と白井さんと張り合ったという懐かしのミッドカーフレングス(ソックスとロングホーズの中間で、ふくらはぎまでの長さ)や、ヘンリーのホワイトソックス、ニナ・リッチのソックスなども見せていただきました。いづれの品も現代では何処へ行って探しても絶対に見つからない逸品ばかりで、眼福に与るとは斯くの如しという貴重な経験でした。

  
       

 お帰りのコートはこのブログでは初登場となるチェスターフィールドコート。『ゼニアでね、珍しくちゃんと注文したやつ。』と白井さんはさらっと仰っていましたが、あまり意味が良く分からず、後で牧島さんとYさんに確認したところ『ス・ミズーラだよ。』と説明していただきました。こっそり触らせていただいた濃紺のカシミア生地は滑らかでしっとりとしていて、控えめで上品な艶感には“正装”という言葉がぴったり当てはまります。帽子はボルサリーノの毛足の長いグレーのファーフェルト、以前登場した白井さんお気に入りの黄色いカシミアマフラーはメイドインジャパンの逸品、銀の握りのステッキ、マフラーの色に合わせたイエローの手袋はデンツ(英)のディアスキン(鹿革)、でしたがお帰りは、3つの手袋が写っている写真の一番右にある、今ではあり得ないほど極厚のペッカリー革を使ったガンペラン(仏)で気分を変えて。因みにディアスキンは一般的には正装用にグレーが使われるのだそうで、白井さんから『今度見せてあげるよ。』と言っていただきました。銀座天神山Iさんのブログで教えていただいていたグレーのディアスキン、今から楽しみです(笑)。

 それから、デンツのディアスキンの写真でちらっと写っている黒い小冊子は、信濃屋さんの120周年記念の際に発行された『CORRECT FORMAL ATTIRE』。こちらも以前天神山さんにてIさんに見せていただいたことがあって、内容は白井さん直筆の文字とイラストや、解り易い一覧表で正装時の着こなしについてのアドヴァイスてんこ盛りといったもの。私は密かに“フォーマルの着こなし虎の巻”と名付けていましたが、今回白井さんにお願いして一部譲っていただきました。この虎の巻が活躍することはあまり無いかもしれませんが、もしもの場合に備えてこれほど心強い一冊もありますまい(笑)。因みに以下白井さんからの余談・・・『120周年はニューグランド(ホテル)でやったんだけど、あれ何で“ニュー”って付くか知ってる?今は無いけど昔はちゃんと“グランドホテル”もあったんだよ、だからニューって付いてるんだ。確か16番地だったかなぁ。昔の住所は英何番とか米何番っていう呼び方で通ってて、英一番は今のシルクセンターがある場所でかつて“ジャーデン・マセソン”があった所。今の人はそういうこと全然知らないからな~ちゃんと教えていかないと。』・・・服飾のみならず歴史の勉強までできるとは・・・奥が深すぎます信濃屋さん&白井さん(汗)。

 今日は最後になりましたが恒例の前回訂正です。

 1.『アルパカのアルスターコート』と表記していましたが、これは『アルパカのポロコート』の誤りでした。

 2. 帽子のハーバート・ジョンソンについて『白井さんのロンドンのお土産か?』と書きましたが、こちらも誤りで、ハーバート・ジョンソンは暦とした信濃屋さん取り扱いの品でした。

 3. 手袋についての記述で『恐らくディアスキンでチェスター・ジェフリーズ(英)のもの』と書きましたが、ディアスキンではなくスウェードでした。

 4. アイケルバーガー中将との思い出の件で、当時の本牧の描写で誤りがありました。『海側は“エリア1”と言って兵卒の住まいがあったところ。“エリア2”と呼ばれていた山側は将校の住まいがあったところ。それから朝鮮戦争でなくなったもう一人の中将の名は“ウォーカー中将”です。』と白井さんから改めてご説明いただきました。

 そして更にもう1点。白井さんが『これは強調してくれて構わないよ。』と仰っていた重大な誤りがありました。それはシャツについて。前回のブログ作成中に私は画像から何となく判断して白井さんがお召しになられていたシャツを“ダイヤゴナル柄”などと書いてしまったのですが、これを白井さんは強く否定されて『白いシャツで変な織り柄が入ったものなんて“生理的に”嫌い。白いシャツはオックスフォードかブロード以外は絶対に着ません。だから前回のシャツはオックスフォードのBDが正解。』とたいへん丁寧に詳しくご説明いただきました。瓢箪から駒とはこのことか、有難いことに白井流鉄の掟をまた一つ新たに知ることができましたが、ご自分の着こなしやそのこだわりについて多くの言葉数を白井さんに費やさせてしまい慙愧に耐えません。不確実な情報や思い込みで下手なことを書いてはいけないぞ、私の不注意で白井さんのお名前に傷が付きかねないんだぞ、と今回は深く反省しています。また、こう訂正が多すぎてはせっかく読んでくださる方々にも負担になってしまいますね。白井さん、皆様、たいへん申し訳ありませんでした。



ウィンドウペインのツイードジャケット&アルパカのポロコート

2010-02-05 10:01:10 | 白井さん




 昨日2月4日は立春。暦の上では春ですが例年日本列島はこれからの一ヶ月間が真冬の厳しい寒さを迎える時期となります。この日の横浜は曇り空。空気はより乾燥の度合いを増し、これまでとは寒さの種類が違うように感じました。毎回私は信濃屋さんを訪れると最初に前回撮影分の写真を数枚白井さんにお渡しするのですが、この日は受け取られた写真の冷たさに白井さんも思わずびっくり(笑)。屋外と屋内との気温差が最も大きいのもこの季節ならではですね。

 今日の白井さんの装いは、不思議な、そしてちょっと神秘的ともいえるような深みのある色合いのブルーグレー色のウィンドウペインのツイードジャケットを主役にしてググッと“色調を抑えた”着こなし。そして肌寒い朝晩の行き帰り路には心強い見方となるアルパカのポロコートに綺麗な黄緑色のカシミアマフラーをしっかと巻いた完全防寒“SHIRAI STYLE” です。  

 さて本題に入る前に好例の前回訂正です(笑)。白井さんのスーツに関する記述の中で・・・『次の年に信濃屋さんのスタッフのお一人Yさんに奨めて同じものをバルベラで作らせたそうですが、同じ紺ストでもやはり微妙に違いがあったそうです。』・・・という一文がありましたが、“次の年”ではなくて“7~8年後”の誤りでした。『いきなり次の年でガラッと変ることはあまりないね。』とのこと(白井さん談)。ただし“同じ紺ストでもやはり微妙に違いがあったそうです”というセンテンスについて白井さんは『7~8年後の違いは“微妙に”ではなくて“はっきりと”厚さと密度が違っていた。どちらの方がしっかりした作りの生地であったかは・・・(笑)』と仰っていました。今回は私の記憶力の低さが招いた誤記でした。この場を借りて訂正させて頂きます。では本題へ・・・(笑)

   

 ’90年前後のルチアーノ・バルベラ(伊)のジャケットは2度目の登場となるツイードで、今日は寒いのでインナーにニットを合わせていますが、元々はべステッドジャケットとして作製されたそうですよ。ツイードのべステッドジャケット・・・なんて洒落てるのでしょう!茶のペインが入ったブルーグレー色の実に深みのある色合いが、ツイードのカサカサに乾いたような見た目の質感と見事に相まって、まさに大人のためのカントリージャケットといえる一着。私は個人的に青色が一番好きな色なので、今回のジャケットは(というか毎回そうなんですが汗)パーマネントコレクションとして深く記憶に留めて、いずれ同じような生地との出会いが叶えば是非自分のワードローブに加えたいと思う一着です!

 因みにジャケットの製作元は前々回登場したダリオ・ザファーニ氏のセントアンドリュース製のようです。ちょっと余談ですが、白井さんはその日お召しになっている服についていきなりべらべらと薀蓄を語ることはまずありません。そうした行為は“白井流ダンディズム”に反したこと。ですから私はまず最初にその日の服がどこのものかクイズ形式で当ててみるのが最初の関門になっています。私は必至になって穴が開くほどその日の一着をじっと睨みますが、当たったことは今まで一度も無く白井さんから正解を伺うばかり。しかし今回、控えめで上品な“感じ”がする襟の雰囲気をヒントに『セントアンドリュースですか?』と回答すると、白井さんは『まあほぼそんなところだね。』と仰って内側のバルベラのタグをそっと見せてくれました。恐らくルチアーノ・バルベラがセントアンドリュースに製作させたジャケットと解釈して良いのでしょう。記念すべき初の及第点!うれしい!(完全に自己満足)
 
 オックスフォードBDのホワイトシャツに、マニファットゥーレ・クラバッテ(伊)のシルクタイは山吹色の小紋柄。巷ではポピュラーな存在の小さな小紋柄のネクタイですが実は今回が初登場。『白井さんは小さな小紋柄のタイはお嫌いなのかな?』と密かに思っていた私の推測も見事に覆されました(汗)。信濃屋さんのセールでワゴンの中から“これいいじゃん、ひょいっ”と選んだ一本だそうです。白井さんがよく仰ることのようですが(銀座天神山Iさん談)、ネクタイを買うときに服との合わせ方を考えてあれこれ悩むよりも、色や柄などを見て“あっこれいいな”と思ったら直感で“さっと”選んで、その後合わせ方をあれこれ試してみる方が意外な発見もあってコーディネートのセンスを磨くには一番、とのことです。ところがこの“さっと”選ぶというのが実に難しい! このお話を聞いて以来私も『よし!俺も“さっと”選ぶぞ!』と心に決めてネクタイ売り場の前に立つのですが、たくさんのネクタイを前にすると次第にあれこれ考え始め、最後の方は“で?結局俺はどの色柄がいいなって思うんだ?”と自分自身の好みが判らなくなり、ぐったりと疲れ果てた挙句に結局何も買わず仕舞いというパターンが殆どです。Iさんには『まぁ、そんな高度な買い方ができるのは白井さんだけだから。』と慰めていただいています(涙)。写真ではグレーに見えますが、インナーのニット(恐らくカシミア)はダークオリーブ。ペイズリーのチーフの色はタイとニットの中間色を選ばれてのことでしょうか今日は黄土色。パンツは白井さんのジャケットスタイルの大定番グレーフランネルです。
 
 実は以前、銀座天神山のIさんから『白井さんにはまず“今日の着こなしのポイント”を伺ったほうが良いよ。』とアドヴァイスをいただいた私は、最近必ず白井さんにこの質問をするようにしています。今回のポイントは“トーン(色調)を抑えたような・・・?”着こなしだそうですが、そう改まって聞かれると白井さんも答えに窮されていつもちょっとお困りのご様子です(笑)。きっと白井さんは今日もワードローブの前であれこれ考えたりせずに、どのアイテムもささっと直感で選ばれたのでしょう。それでもまるで緻密に計算し尽くされたような白井さんの着こなしを拝見するたびに、やはり“毎日の積み重ね”が大事なのだな~と思います。

   

 お帰りのコートはアニョーナ(伊)の濃茶のアルパカ・ポロコート。前回は同色系のチェック柄のマフラーを合わせていらっしゃいましたが、今回は色鮮やかなライトグリーンのカシミアマフラー。フェルトの毛足が短く細めのリボンが巻かれた“巻き”の帽子は初登場のハーバート・ジョンソン(英)。ライナー無しのソフト帽はくるくる巻いて収納できるので信濃屋さんの先代の社長さんはこういう呼び方をされていたそうです。かつて信濃屋さんで取り扱いがあった帽子メーカーだそうでネットで調べてみると、映画“インディー・ジョーンズ”でジョーンズ博士が被っていた帽子を作ったメーカーとしても知られているみたいですね。手袋も初登場、スウェード革でチェスター・ジェフリーズ(英)のものだそうですが『よく知らない』とのこと。お手元のステッキは久しぶりの登場、スポーティーな装いではこれ!ラヴァリーニ(伊)。寒い冬の夜もこれで安心の完全防寒&エレガントなコートスタイル5点セットでのお帰りでした。

   

 『あれ?靴の紹介は?』と思われた方!ご安心下さい(笑)。今回は余談を絡めつつご紹介したいために最後にもってきました。“最後に控えしは~”(服部 晋さん風)フローシャイム(米)スコッチグレイン(揉み革)のロングウィングティップ。『これは正真正銘の50年選手。銀座のフタバヤで当時2万5千円だったなあ。“うわっ、かっこいい~、でも高ぇ~!”って思ったよ。初任給が1万6千円の時代だったからね。』と白井さんが懐かしむまさに珠玉の逸品の登場です。私もこの日この靴を白井さんが履かれているのを発見した時は“うお!遂にフローシャイムの登場だ!”と胴が震えました。白井さんの私物の名品コレクションが収められているキャビネットに常時陳列されているこの靴が放つ存在感は、この信濃屋さんが、そして所有者である白井さんが他とは懸絶した存在であることの、まさに無言の証明ともいえるのですが、その美術品のような静かな佇まいから一転、白井さんの足元に納まると生命を甦らせたかの如く活き活きとし、輝きは一層増し、出番を与えられた喜びを謳歌しているように感じられ、やはり靴は履くものなのだ!そう一人合点してしまいました。

 さて、いつもよりやや興奮ぎみで靴の撮影をしていた私の頭をよぎったのは、このブログを応援してくださっている皆様のお一人で、昔のアメリカ靴を筆頭に銘靴をこよなく愛する『おじおじさん』のお名前でした。すると『ああ~きっとこの靴の写真には喜んでくださるだろうな~。』と考えていた私の背後になんとご来店されたおじおじさんが姿を現されたのです!お足元には思い出のボストニアンを履かれて(笑)これには本当にびっくりしました。白井さんも最初は状況が掴めないご様子でしたが、おじおじさんとは銀座天神山さんで面識があった私が不調法ながら間に入らせていただき、お名刺の交換も無事済まされると、やはりお二人が大好きな往年のアメリカ靴談義に花が咲いて、初心者の私などには全くついていけないお話ながら、初対面に近いはずのお二人が実に楽しげにお話されている様子を肴に私も至福の時間を共有することができました。白井さんも乗ってこられたのか、白井さんが若かりし頃、古いアメリカ靴の絵や写真をスクラップした“ネタ帳”や、シルヴァーノ・ラッタンツィ氏にオリジナルシューズの発注をする際に渡した白井さん直筆の靴のイラスト集などを『普段はなかなか見せないんだよ。』と仰って見せてくれたり、横浜出身のお二人が出身高校のお話をされる段になった時に『そうだ!Today’s episode!』と仰って、今日は私が大好きな戦後のお話をご披露してくださいました。

 『高校生当時、本牧の海側の兵卒が住むエリア1から山側の将校が住むエリア2至る道は日本人は通れなくて、ハウジングの門番には日本人の嫌なオヤジが二人いたりしたんだけど我々の高校の生徒は特別に通学路として通行できたんだ。ある日雨が酷くて友達3~4人とバスストップで雨宿りしていると“ビック”(ビュイック。当時は皆“ビック”と呼んでいたのだそうです笑)に乗った将校が通りがかって乗ってけてってくれたんだよ。ナンバープレートがキャンバス地で覆われていたのを不思議に思っていたんだけど、まいっかってな感じでそんなことが2回か3回くらいあったのかなぁ。そしたら後日オフィシャルでその車が行進するのを見たときはびっくりしたよ。ば~っと6台くらいのバイクに先導されてさ、後ろにもば~っと。で、キャンバス地が取り払われたナンバープレートを見るとバ~ンと星が3つ!そうジェネラル、中将の車だったんだよ。当時のオクタゴン(第8軍)は中将が最高位で確か二人居たんだけど、そのうちの一人、ウォーカー中将は朝鮮戦争で戦死しちゃったから、残ってたのはもう一人の“アイケルバーガー”。恐らく間違いないと思うよ。かの有名な、マッカーサーが1945年8月30日に専用機「バターン号」で神奈川県の厚木海軍飛行場に到着した時の、写真でマッカーサーの隣に立っていたのがアイケルバーガー。そんな偉い人だなんて知らなかったからさ、すっかり友達になっちゃって。“ハロ~”なんて言ってさ(笑)。』

 白井さんらしい微笑ましいエピソードですね(笑)。至福の時間はあっという間に過ぎるもの。おじおじさんはご自身のブログ『本格靴コレクター・おじおじの日記』でこの体験を忘れないように早速その日の晩にこの日の出来事を綴ったそうです。おじおじさんは心血を注がれた靴コレクションに合わせる為に数年前から服選びにも力を入れ始められたそうです。きっと珠玉の銘靴たちとの素晴らしいコラボレイションを積み重ねていかれるのでしょうね。

 最後に、おじおじさんはブログで『hitoさん、本当に横入りすみませんでした。何卒ご容赦ください。』と綴られていましたが、何を仰いますか、決してそのようなことはありません。実は、私は白井さんと二人きりになると、白井さんは基本的に無駄口は少ない方ですし、何を喋って良いのやら未だに見当がつかず、阿呆のようにぼ~っと白井さんを眺めている時間ばかりで、今日などは肝心の服の話は何処へやら、何故か落語の話を白井さんに振る始末。お隣におじおじさんのような見識の深い方が居てくださればこれほど心強いことはありません(シャッターチャンスも増えますし笑)。先日、信濃屋顧客列伝中のお一人で、このブログでもご紹介した“N様”が私に『あなたのブログが触媒になって、白井さん中心に信濃屋さんに服好きの紳士諸兄が集う“サロン”のような場ができると良いね。』と仰ってくださったことがありました。私の拙いブログなど何程のこともありませんが、もし自然と今日のような場面がもっともっと増えたなら私にとってこれほど心楽しくわくわくすることはありません。


 

 

 

チョークストライプのフランネルスーツ&キャメルのポロコート

2010-02-01 19:19:43 | 白井さん




 “着て更に着る”・・・“如月”の呼び名の由来だそうです。その名が示すとおりか今日から寒さもいよいよ本格的に厳しさを増し、東京近郊は今夜にも初雪が観測されそうな勢いです。さてこの日、私がいつものように横浜のJR桜木町駅から馬車道へと歩いていましたところ、キャメルのポロコートに鮮やかなグリーンのマフラー、頭上にボルサリーノ姿の紳士がこちらに向かって歩いて来られました。手には信濃屋さんの紙包みを携えて(笑)。弊ブログ1月18日アップの白井さんと瓜二つだったその着こなしは横浜の街の風景によく映えておられました。私はコートの襟を立て直し、少し心弾ませて信濃屋さんへと向かいました。

 今日の白井さんの装いはこのブログいよいよ初登場の“紺”。チョークストライプのフランネルスーツに、これまた白井さんもキャメルのポロコートという着こなしです。もしかしたら来秋冬シーズンはキャメルのポロコートブームが巷を席捲するかもしれませんね(笑)!
 
 今回も冒頭より白井さんからご指摘を戴いた前回更新分についての訂正があります。

 まず、“ガンクラブチェックのスパンカシミアジャケット”と表記していましたが、前回のジャケットの柄については白井さんも名前はよく分からないとのことでした。それからスパンカシミアという表記も誤りで『普通に“カシミア”と表記しなさい』とのこと。
 
 次にペッカリーグローブのくだりで、革の色を“コルク色”と表記しましたがこれも『ジャロ、否、デンツは英語圏だから“イエロー”としなさい』とご指導いただきました。更に『現行品よりも“肉厚”と書かないと。肝心なこと!』とお叱りを(涙)。白井さんは小さなことはお気になさらない方ですが、不正確なことはお嫌いです。これらの誤りは全て私の勝手な解釈が原因ですので、皆様にはこの場を借りてお詫び申し上げます。

 でも、この日は信濃屋さんのセール最終日ということで店内は大いに賑わい、白井さんもお客様との服飾談義にお忙しかったにもかかわらず、手製のメモ用紙にちゃんと指摘事項を書いて私の来着をお待ちいただいていたことが、お叱りを受けた身で不謹慎とは思いつつも、本当にありがたく嬉しいことでした。また翻ってポジティブに考えれば、天下の白井さんが厳しくチェックしてくださるのですから(白井さんにとっては迷惑千万な話ですが汗)、これほど安心してのびのび書ける贅沢な紳士服飾ブログも他に無いのではないでしょうか(笑)。では、今日も張り切ってスタートです!

  

 “紺地のストライプ柄、いわゆる「紺スト」は現代ではビジネススーツの定番になりつつある。それだけに着る人の個性がキラリと光る着こなしを楽しみたい。”・・・信濃屋HP『Shirai Textbook』より

 “紺スト”と一口に言っても、生地の種類、色の明暗・色味、ストライプの種類・幅、これらの違いで様々なバリエーションがあり、最も無難であるが実は着る人の個性がもろに表れ、最も着こなしが難しい服地の一つなのかもしれませんね。信濃屋の牧島さんが以前仰っていましたが、『白井さんも同じようなことを言ってたけど、お客様に“紺のスーツに合うネクタイを選んでください”と言われた時は実は結構大変なんです(汗)。』とのこと。白井さんは特にその色味を、“赤み”のある紺、“青み”のある紺、という表現をされていましたが、紺を選ぶ時の重要な基準にされているようで、白井さんは青みがかった紺を好まれているそうです。これは私の勝手な解釈ですが、別の言い方をすれば他の色を混ぜないで青色をそのまま濃くした“濁りの無い紺”という意味なのかな、と思っています。また日本人の、欧米人と比べ若干くすんだ肌色に明るめの紺を合わせるのは、着る人それぞれの肌色、好み、着こなしの違いという諸前提はあれど、少し難しいのでは、とも以前仰っていたことがありました。これらのことは着こなしを語る上で必要不可欠でありながら非常に高度な、ややもすると色彩学、果ては芸術の領域に触れるような極めて難しい命題で、私の拙い筆ではこれ以上上手くお伝えできません。また、白井さんは服選びにしても着こなしにしても“感覚”をとても重んじる方ですので、それらのあれこれについて無駄な言葉数を弄して説明するといった愚をおかすことは一切ありませんので、これ以上のことは自分で経験し学んでいく以外にありません。

  
  『ファッションに関する情報も、昔とは違いとても豊富になっていますから、最近のお客様は、スーツなどを選ぶとき、ブランド名や、値段をその基準にされる方が多いのは当然のことでしょう。しかし私はまず、その商品そのものを純粋な気持ちで見ていただきたいと思っています。デザイナーの名前や値段にとらわれるのではなく、自分の気持ちに触れるものをぜひ手にとって欲しい。仕立てのよさ、素材の良さも含めて、本当にいいものには人を惹きつける輝きがあります。その魅力があなたの心に共鳴するような、そんな出会いをしていただきたいと思います。』・・・信濃屋HP『白井俊夫のおしゃれ談義』より

 
    

 さて、お話が少し難しくなってしまいましたが、今日の白井さん。貫禄の“紺スト”は23~24年前のルチアーノ・バルベラ(伊)。第一印象で溜息が出るほど美しい青みがかった紺地に、文字通り白墨でひいた様な消え入りそうな擦れ具合が上品な幅広のチョークストライプのしっかりとしたフランネル生地。7~8年後に信濃屋さんのスタッフのお一人Yさんに奨めて同じものをバルベラで作らせたそうですが、同じ紺ストでも両者の間には厚さと密度にはっきりとした違いがあったそうです。『なんだか見せびらかしてるみたいで嫌なんだよね。』と仰りつつ内側のタグも見せていただきました。今では扱われていない懐かしいものだそうですよ。数十年の時を経たスーツに『最近きつくなってきちゃって。』とお嘆きの白井さん。『小さくなったんですね。』と応えた私に『服が小さくなったんじゃなくて僕が大きくなったの。』とおどけた白井さんでしたが、そこは去年のクリスマスのトークイベントで『服は洒落た人ほど“タイトめ”に着るもの。細身の服を着るって意味じゃなくてね。』と仰っていた白井さんですので、今日はスリーピースのベストは外してさらりと着こなしていらっしゃいました。

 クレリックシャツは以前このブログでご紹介した、白井さんが『フライよりずっと良い』と仰っていたロッカーループの施されたシャツと同じく、今はなき横浜のシャツ屋さんで誂えたもの。光沢控えめの臙脂に可愛らしくもクラシカルなオーバル模様のタイはフランコ・バッシ(伊)、チーフは潔く白。『だいぶスウェードが剥げてきたね。ルチアーノも全く同じものを持っているよ。』と仰っていた“ベンティ・ヴェーニア仕様”フルブローグのスウェード靴は前回のノルベジェーゼと同時期のラッタンツィ。信濃屋さんでの別注が始まる以前のものですので前回に引き続きこちらも5アイレッツですね。私は以前“スウェードは剥げてきたくらいの頃が味が出て良い”と銀座天神山のIさんから伺っていたことがありました。でも、この“スウェードが剥げる”という意味があまりよくわからずイメージもできずにいたのですが、今回こうして具体的に理解することができました(笑)。


 
 少し閑話休題。白井さんの後ろでおどけたお姿で写っているのは信濃屋さんの女性スタッフのお一人で確かお名前はOさん(間違っていたらごめんなさい汗)。私が3年前信濃屋さんに初めて訪れた時、最初に受けた衝撃はまずその立派な門構え!。小心者の私はこれだけで脱兎の如く逃げ出しそうになりましたが、何度か前を行き来した後、意を決して入った私を待ち受けていた衝撃の第二波は、紳士フロアが地階にあって、そこへ辿り着くためには一階の婦人フロアを女性スタッフの皆さんに迎えていただきながら通らねばならない事実!(これ信濃屋さんをご存知の皆さんの中には結構共感される方も多いのでは笑)。初めの頃はこれが実に恥ずかしくて(今でもちょっと恥ずかしい)右手と右足が一緒に出てしまわないか確認しながら歩かねばならないほど。でも今ではいつも温かい笑顔で出迎えてくださる皆さんにお会いする度、私はそのいつも変らぬもてなしの姿勢にとても上質な癒しを感じます。ただし皆さん長年に渡って、来店するつわものの紳士諸兄を最初にチェックされてきた撫子方ですので油断は禁物。でもそんな心地好い緊張感を持たせてくれるのも信濃屋さんの老舗たるゆえんで、私の大いに好むところです。

 
 
 スーツ同様貫禄のポロコート姿はお馴染みのキャメル。3回目の登場ルチアーノ・バルベラですね。ソフト帽はジェームズ・ロック(英)のターンダウン(鍔の後ろが跳ね上がっていない型)、ステッキはヒッコリー、手袋は左のポケットにさりげなく差し込まれた手で隠れて見えませんが恐らくエルメスのペッカリーではなかったでしょうか。因みに白井さんはいつも左のポケットに手袋を入れています(右の時もあるかもですが汗)。今日のコートスタイルのポイントは、私の勝手な所見ですが、白井さんが『これはグログラン織りのようなものだね。』と仰るフランコ・バッシの臙脂の地に黄(特にこの黄色が素晴らしい色合いです)と紺であしらわれたクラシックなペイズリー柄がまことに素晴らしいシルクストール。以前ご紹介したチェスター・バリーのキャメルのアルスターコートが、紳士服雑誌上のインタビューで掲載されていた時に白井さんが巻いていたのがこのストール。つわもの紳士諸兄のお一人で、このブログにもお名前を出させていただいたW様が『僕も同じものが是非欲しい。』と羨ましがっていて、私もいつか現物を見たいと思っていた逸品を今日やっと拝見することができました。以前白井さんは『ポロコートの大本命はキャメル。合わせるマフラーはシルクがより良いね。』と仰っていましたが、今日はまさにポロコートスタイルの王道といえる着こなしではないでしょうか。

 また余談ですが、今日のシルクストールや、以前、天神山Iさんのお話で聞かせていただいていた白井さん所有のエルメスの大判シルクマフラーには、私も以前からずっと憧れていて、是非購入したい旨を白井さんにもお伝えしていました。ただ製作が難しい大判のシルクマフラーについては現在扱いが無く、私もならば仕方が無いと諦めていたのですが、後日、なんと幸運なことに白井さんが元町店で在庫があった中盤(といっても首に掛ければ膝まで届かんばかりで普通なら充分に“大判”です汗)のシルクマフラーを取り寄せ、『これはなかなか良い色だよ。これくらいの大きさの方が扱い易いよ。』と見立ててくださったのです。濃茶の地に赤と黄のペイズリー柄でこれもフランコ・バッシ。ただ最初見せていただいた時は、長いこと私の頭の中にあった白井さん所有のマフラー達のイメージとは若干違ったせいか正直『おお~まさにこれ!!』という感じにはならなかったのですが、白井さんがわざわざお取り寄せしてくれた品ですし、そこは迷わず購入を決めました。ところがこれが首にふわりと巻いてみると実に、本当に良い色で、広げて置いてある時とは印象ががらりと変りました!つまりなんだかんだで唯々白井さんの慧眼に恐れ入るばかりという結果になったのです。起毛系のマフラーと違い、巻いたとき少し冷やりとして柔らかい肌触りや、暖冬傾向の昨今には丁度良い暖かさ、そして着る人のお洒落度をぐんと上げる上品な佇まい。それら全ては巻いてみて初めて判るものでした。



カシミアのジャケット&ローデンコート

2010-01-29 10:27:17 | 白井さん




 この日の横浜は朝から真冬らしからぬ生暖かい風が吹き、鉛色の空からは時折小雨がぱらつくというお天気で、服選びに頭を悩ませる方も多かったのではないでしょうか。かくいう私は、現在セール真っ最中の信濃屋さんをこの撮影の前々日に訪れて“奇貨おくべし”とばかりに購入した、ペイズリー柄の大判シルクマフラー、真っ赤なロイヤルスチュアート・タータンチェックのウールタイ、カルロ・バルベラのカシミア生地を使った八枚剥ぎハンチング、以上3点を早速身に着けたいという欲求とこの空模様が重なり、かなり無理をした強引なコーディネートで、でも嬉々として馬車道を駆け抜けていました(汗)。

 今日の白井さんの装いはそんな空模様を反映してか“色を使わない”と仰る装い。鈍い色合いのカシミアジャケットと、晴れの日雨の日どちらでも使える“オールマイティーコート”ローデンコートという着こなしです。

 

 今日は趣向を変えて靴からご紹介。これは私の勝手な想像ですが、恐らくこの日はこの靴からコーディネートをお決めになられたのではないでしょうか。80年代後半の伊シルヴァーノ・ラッタンツィ初期の頃のセミブローグで“ノルベジェーゼ・フレックス”製法の逸品。白井さんが以前雑誌のインタビューで『ラッタンツィなんてのは雨靴ですよ。そういえば以前、大雪の日に元町から本牧まで歩きましたけど水が一切滲みなかったなぁ。』と仰っていたことがありましたが、恐らくこの靴のことではないでしょうか。色はインカス・ジャロ(ジャロはイタリア語で黄色の意味)が元の色でしたが、白井さんがご自身で黒の靴墨を塗って、しばし置いてからニュートラル(恐らくどちらもキウィでしょう)を重ねてこのような微妙な色にしたとのこと。一度ラッタンツィ氏ご本人にオールソールさせたと仰っていたので、この靴は長年に渡って悪天候の中、白井さんの足元を支え続けてきたのですね。『あいつは字が書けないんだよ』と白井さんが軽いジョークを飛ばしていらっしゃいましたが、中敷にはラッタンツィ氏の手で“Schiray”と書いてありました(笑)。

 ソックスはこのブログ初登場のアーガイル柄。アーガイル柄については信濃屋の牧島さんが、やはり舶来ものの方が配色のセンスにおいて一日の長があると仰っていましたが、この日の色を使わないコーディネート中唯一この配色鮮やかな靴下で遊びを加えていらっしゃいました。因みに白井さんはこれまで全て無地のソックスをお履きになられていたので、私はてっきり柄物のソックスはお嫌いなのかと勝手に思い込んで“よし!俺も柄物は履かないぞ!”と一人心密かに決めていましたが、今回であっさり撤回となりました。たかだか10回程度のブログ更新で白井さんの好みをわかったつもりでいた自分にしばし反省。でもよせばいいのに『白井さんもアーガイルソックスをお履きになるのですね!』とうっかり口を滑らせてしまい、すわ大目玉か!と背筋が凍りつきましたが、この日の白井さんはなんだか穏やかな(はたまた呆れ返りすぎて達観されたのか?)ご様子。『いっぱいもってるよ。今度コックスムーアのとか持ってきてあげるよ。』と新たなご提案までしていただけました!かつてイタリア随一の洒落者ルチアーノ・バルベラ氏が『俺も持ってる』と白井さんと張り合ったという曰くつきの靴下・コックスムーアですので今からとても楽しみです(笑)。



 さて、足元からパンナップして次は・・・『今日はパンツのことは聞かないの?』と仰って白井さん自ら教えてくださった(これは稀なことです!なんだかこの日の白井さんはとっても優しいです!あまりに幸運すぎて帰り道事故に遇わないか心配になりました汗)伊ジャンニ・カンパーニャ製フランネルのパンツです。ツープリーツは当然のディティールとして、この日はなんとボタン留めのフロント部分までご披露くださいましたが、やはり撮影だけはご遠慮いたしました(汗)。ボタン留めフロントはクラシックな装いに拘る諸兄にとって必須のディティールですが、私はまだ一本も持っていないのでいつの日か足を通してみたいと思っています。やはり最初の一本目は、牧島さんが一二を争う履き心地と仰っていた信濃屋さんのルチアーノ・バルベラか、銀座・天神山さんでと決めています。

   

 『なんだか口を開けている写真ばかりだよ?』と、この日は白井さんから前回までの写真選びについて苦言をいただきました。古の武士に言う『男子は人前でむやみに歯を見せるものではない』との教えを白井さんも気にされてのことでしょうか、ですから今日は謹んで、きりりと口元が締まった写真ばかり取り揃えました! 

 くすんだ色の茶と緑が混じった微妙な色合いのジャケットは“ダリオ・ザファーニ”ネームの伊セントアンドリュース製。ポケットチーフはジャケットの色を拾ってオリーブグリーンのペイズリー柄、ボタンダウンシャツはこれも初登場のエクルー(生成り色)の無地、カシミアのタイはこちらも初登場の無地の淡いベージュ、という色柄使いをぐっと控えつつも着る人の個性がきらりと光る極めて高度な着こなし。

 さて本日の着こなしの主役カシミアのジャケットについてもう少し。イタリーのハンドメイドメーカー“セントアンドリュース”とそのオーナー“ダリオ・ザファーニ氏”(こちらの詳細については次のリンクをご覧下さい)については銀座天神山Iさんのブログにも紹介されていたので私も以前から存じ上げてはいたのですが、この日は白井さんにもお話を伺うことができました。この、イタリアに在るメーカーながら古き良き英国へのオマージュを忍ばせた名を持つ小さな工場セントアンドリュースは、オーナーのダリオ・ザファーニ氏の大変真面目で几帳面な性格を反映してか、いつ伺っても作業場が整理整頓され隅々まで掃除が行き届き、トイレにも塵一つ落ちていないという素晴らしい環境で物作りをしていて大変好感が持てたそうです。和服のめくら縞ならぬ“めくらグレンチェック(白井さんの造語です)”の控えめなウーステッドスーツを好む物静かな紳士だったザファーニ氏は、物作りに関してはまさにぴか一の、ルチアーノ・バルベラ氏が持つような感性の部分は別としても、見えないところまで手を抜かずしっかりした本物を作り出す本当の職人だったそうです。でもそんなザファーニ氏が、氏の右腕として辣腕を振るっていたチェッカーロ氏が亡くなられてから後を追うようにして逝かれたことを、白井さんはとても残念そうに思い出していました。お話を聞いていた私も少ししんみりしてしまいました。そのように伺って今日のジャケットの写真を見返してみると、これまでに登場したカラチェニの上着が肩や襟元に大人の男の色気を強く感じさせるのに対して、今日のこのジャケットには大人の男の知性が控えめに表現されているようで、今日の着こなしのテーマに合わせて白井さんがこのジャケットを選んだことも、私などが言うのも生意気ながら、何故か頷けるような気がします。



 
 
 お帰りのコートは、以前から白井さんのお話の中にしばしば登場していた“ローデンコート”がようやくこのブログ初登場!白井さんのローデンコート(伊ヴァルスター製)はローデングリーンが現行品より少し明るめで、生地(モエスマー製)も厚いような気がしました。上の写真は冒頭の大きな画像よりカメラの色彩感度を上げての撮影です。実際の色は両者の中間といったところでしょか。撮影技術が拙く正確にお伝えできないのが残念ですが、私はようやくこの両目でばっちりと本物を見れることができて大変満足です(笑)。実は私もこのローデンコートは所有しているので、このトラディショナルなコートについてもしご存じない方がいらっしゃいましたら、私の過去のブログに掲載した記事をリンクさせましたのでそちらをご覧いただければ幸いです。

   

 いつも気になりつつ、白井さんはお帰り際にぐずぐずされる方ではないので、詳細についてはなかなか伺う暇が無い小物については駆け足でのご紹介になってしまいます。帽子はローデンコートの時はこの帽子がセットですね、チロリアンハットです。こちらも現行品とは若干差異があるそうですが詳しくは伺えませんでした、残念。

 今日お使いだった手袋は長年愛用されているイエローのペッカリー(英デンツ)。更に今回は3つ愛用の手袋を見せていただきました。左から英デンツのペッカリー、真ん中がディンゴ(山犬の革)、右が仏ガンペランのペッカリー、とどれもが長年使い込まれ見事な経年変化を遂げた逸品ぞろい。因みに右上の白い小箱の中身はガンペランのグローブ専用石鹸です。因みに、今日お使いになられていたデンツのペッカリーは、革の黄色も現行品よりもう少し上品な印象の色合いでしたし、人差し指の継ぎ目も無く(これは革の歩留まりが多く出る贅沢な作りなので現行品では継ぎ目が有る仕様になっています。)、手の差込口の革の切れ目が入っている位置もサイド(現行品は手のひら側の中央)でした。またペッカリー革も非常に肉厚で現行品とは似て非なるものです。

 

 今日もとても多くのことを教えていただいた一日でした。





 

ダークグレーのウーステッドフランネルスーツ&カシミアのポロコート

2010-01-25 19:02:13 | 白井さん




 この日、信濃屋さんの馬車道店ではセール期間中ということもあり店内は多くのお客様で賑わっていましたが、白井さんは先日親しかった方にご不幸があり、この後お通夜に赴かれるためダークグレーのフランネルスーツに身を包んでいました。

   

 シングルブレスト、ピークトラペルのフランネルスーツは伊ルチアーノ・バルベラのもの。白いシャツはポプリン織のレギュラーカラー、細かい織り柄が入った黒いシルク地のタイ。写真では少し判り難いですが、白井さんが“4色のモノトーンを使い分けができて便利だよ”と仰って広げて見せてくださったポケットチーフは極々薄いグレー色のシルク。よく磨きこまれた黒靴は英クロケット&ジョーンズの特注品。

 ポロコートは2回目の登場となるルチアーノ・バルベラのカシミア。今回は後姿の写真を。ポケットチーフと同じく薄いグレーのシルクマフラーを巻いて白井さんはお店を後にされました。

  

 お忙しい中、今回も楽しいお話やためになるお話ををたくさん聞かせていただきましたが、やはり今日は少し憚られるのでその中から一つだけ、白井さんの言葉をご紹介して終わりたいと思います。
 
 『今日は置き場所に困るから帽子もステッキも無し。今は仕事中だからチーフは挿しているけど、斎場ではポケットにぐいっと深く入れて隠しちゃう。僕はこういう時も黒は着ないな。父の葬儀の時に一度着ただけ。冠婚葬祭ではどんな服装が良いかと色々言うけど、何色のスーツだろうがストライプが入っていようが知らん顔して堂々としていること。“俺が着てるんだからこれでいいんだよ”って顔でね。でもさすがに白はまずいけど(笑)。』





キャメル色のカシミアブレザー

2010-01-22 20:16:08 | 白井さん


 この日の横浜は最低14℃、最高19℃と4月上旬並の気温で、“梅雨の晴れ間”ならぬ“冬の春間”という暖かさの中、朝コートを着ようか着まいかとお悩みになった方も多かったのではないでしょうか。

 季節を先取りとばかりにコートを脱ぎ捨てた白井さん。今日のポイントは“春を意識した明るい色使い”と仰るキャメル色のカシミアブレザーの着こなしです。冒頭でいつもの白井さんのコート姿が無いとなんだか寂しく感じたので、画質が粗いのが気に入りませんが、今日は大きな写真をアップしてみました笑。また、今回からページの一番最後にある“デジタル写真集『白井さん』”をクリックしていただくと大きな画像で写真を楽しんでいただけます。

   

 伊カルロ・バルベラのキャメル色のカシミア生地を使ったブレザーは信濃屋オリジナル製。ダブルブレスト、7㎜ステッチ、スリーパッチポケット、サイドベンツ、ナットボタンといったディティールで、今日のような白井さんならではの遊び心を表現するのにピッタリの上級者向きといえる一着。白のボタンダウンシャツに濃いめの赤と山吹色の幅広レジメンタルストライプのレップタイ、インナーに極々淡いミントグリーンのカシミアニット、パフドクラッシュで挿したチーフはオレンジ色、と連載9回目の今回はこれまででもっとも色数が多いまさに“春”を感じさせる色使い。

 今回のパンツはご本人も出番は少なめと仰っていた千鳥格子のフランネル(伊ビエラ・コレッツォーニ)。ここで今更改めて言うのもなんですが、白井さんがこれまでお履きになられているパンツは全てツープリーツ(これ白井流の基本です笑)です。明るい茶のスウェード靴は伊ボローニャのシューメーカー“ペロンペロン”のパンチドキャップトゥ。6アイレッツ、小さめのキャップトゥ、細かいステッチワーク、コバ外側からべべルドウェストにかかる鋭角的なエッジの形状、とラッタンツィ同様白井さんが細かく指示して作らせた信濃屋オリジナルの逸品です。

 キャメル色のブレザーは、紳士のワードローブには必須のネイビーブレザーの次の一着として巷間捉えられる向きがありますが、街中ではまず見かけることは稀ですし、まして白井さんのハイブロウな着こなしという訳で今回は永久保存版!(といっても、これまでも全てそうなんですけど笑)として非常に価値があります。

 お帰りに柔らかいガーゼ織のシャーベットオレンジのカシミアマフラー(伊アニョーナ)をふわりと巻いて、今日のテーマ“春を感じさせる色遣い”の完成! て馴れた手つきでさりげなく、でも今日の着こなしを意識した巻き方にもご注目ください。 

   

 さて、実はこの日・・・

 『ぐっちゃぐちゃになってたんだけど最近少しずつ整理し始めているんだよ。もっとおどけた写真とか他にもたくさんあるんだけど今日は主だったところをね。失くさないでね。』

 白井さんはそう仰って、貴重な懐かしの写真をたくさん持ってきてくださいました。先日、さりげなく『今度持ってくるよ』と一言仰っていただけだったのですが、ちゃんと約束を憶えていてくださり私の感激も一入でした。更に光栄なことに、この貴重なアーカイブを一日だけお借りして私の自宅で撮影させていただきました。以下順不同でご紹介させていただきます。


 シャロン・ストーンのビキューナのコートを自慢する“でぶっちょ”カンパーニャ氏と。


 気鋭のサルト、ガエターノ・アロイジオ氏と。


 シルヴァーノ・ラッタンツィ氏(右)、パオロ・ラッタンツィ氏と。


 フライの女性社長パシーン女史と。因みにラッタンツィもフライも日本で最初に扱ったのは信濃屋の白井さんです。


 アットリーニの若社長・次男マキシミリアン“マッシモ”(右)、三男ジュゼッペ“べぺ”と


 シルヴァーノ・ラバァッツォーロ氏と。


 ルチアーノ・バルベラ氏の長女カローラさんと



 
 マリオ・カラチェーニ氏と。ミラノのア・カラチェーニにて。


 ア・カラチェーニ“伝説のマスターテーラー”マリオ・ポッツィ氏。


 マリオ・カラチェーニ氏の娘婿、カルロ・アンドレ・アッキォ氏(右)と。


 “イタリー代表、アメリカ合衆国代表、日本代表”揃い踏み。


 アメリカ合衆国の高級洋品店・ニーマンマーカスのデリル・オズボーン氏(当時副社長、上掲の写真真ん中と同一人物)と。白井さんは『ピッティではデリルは一日に3回も着替えてたよ! 今はピッティにもこういう“名物おじさん”が顔を出さなくなり、見るべき洒落者もいくなった。』と嘆いておられました。

 
 最後は白井さんの盟友、ルチアーノ・バルベラ氏との写真を中心に。

 
 
 


  


 カルロ・バルベラ氏と。


 1997年、伊ヴィエラのバルベラ氏私邸にて。『北側の大きな窓からみえるアルプスの山々が見事だったなぁ』と白井さんは懐かしんでいました。


 2007年1月イタリーにて。


 若き日の白井さんとルチアーノ・バルベラ氏。


 
 以上です。

 綺羅星の如き面々と積み重ねた幾歳月。その価値は計り知れず、白井さんへの感謝の気持ちで胸がいっぱいになり言葉になりません。白井さん、ありがとうございました!!



ツイードのジャケット&キャメルのポロコート

2010-01-18 19:51:36 | 白井さん
 今回は冒頭より訂正があります。前回の記述で白井さんがお召しになっていたコートを“ポロコート”としていまいたが、白井さんからのご指摘で“アルスターコート”とさせていただきました。お詫びとともに訂正させていただきます。

  

 今日の白井さんの着こなしは、このブログでは初登場となるツイードのジャケット。そして色鮮やかなグリーンのマフラーを巻いてキャメルのポロコートです。

     

 今夜はこの後、気心の知れた方々と横浜みなとみらいのリストランテで食事会という白井さんの装いはリラックスしたジャケットスタイル。

 『向こうのはわざわざ生地メーカーのタグを裏地に貼り付けたりしないからはっきりとは判らないけど、まぁこれは間違いなくハリスツイードでしょう。』と白井さんが仰る茶のピンチェック・ツイード地のジャケットは伊アットリーニのセカンドラインだった頃のサルトリオ(Sartorio)製。赤いチェックのタイは横浜元町の老舗ポピーさんで“昔々に”購入されたもの。インナーには真っ赤なカシミアニット。『どこのものだかよくわからないけど恐らく英国製。厚くてしっかりとしたカシミア生地だし、袖口がちゃんとターンナップしてるし“お、これいいじゃん”と思って』と信濃屋さんでつい最近購入されたのだそう。オレンジのシルクチーフを柔らかくパフで挿して。靴は2度目の登場、ヘンリーマックスウェルのUチップフルブローグ。今回は内側からの撮影。白井さんが前回『今度真っ赤な靴下履いてくるからね。』と仰っていた伊プリンチペのソックスの色にもご注目を笑。

 

 とりわけ寒さが厳しかったこの夜、白井さんはキャメルのポロコート(伊ルチアーノ・バルベラ)に色鮮やかなグリーンのカシミアマフラーを合わせていました。私が以前、白井さんや天神山のIさんから伺っていた“86年1月にミラノの空港で見た、皆がオーバーコートにレッド、グリーン、ブルーなどの色鮮やかなマフラーを合わせていた光景が印象に残っている”というお話の中に登場したそのグリーンのマフラー。店頭で陳列されているものを目にすることはあっても、街中で見かけることは稀。実際は着こなしのイメージがなかなか湧かないアイテムでしたが、こうやって白井さんが苦もなく着こなす姿を拝見して“ああ~こうやって使うのか!”と目から鱗の心持です。

  

 帽子は第1回目に登場した、白井さんが40年以上前に裏地など細かく指定して作らせた、分厚いファーフェルトに羽飾り付きのボルサリーノ。コートの左のフレームドパッチポケットに無造作に入れてある手袋は未確認ですが恐らくペッカリー? 今日のステッキは以前白井さんが『滑ってちょっと使いにくいから』と仰っていてやや出番は少ないようですがヒッコリー材のもの。白井さんは以前雑誌のインタビューで『ワードローブは全て見えるようにしておくもの』と仰っていますが、それは小物も含めて全ての品々を“満遍なく”お使いになる白井さん一流の至言でしょう。



 以下余談。

 上の写真は今夕、白井さんからリストランテでの食事会にご招待を受けていた信濃屋さんの顧客のお一人“W様”が履いていらした“シルヴァーノ・ラッタンツィ”。勿論信濃屋さんでオーダーした、白井さんが『ラッタンツィはこの頃が一番良かったね。』と仰る’96~’97年頃の逸品。革はジャロ(黄色)のスコッチグレイン、パンチドキャップトウでキャップと甲の部分の縫い目が手間のかかるリボルターテ(革の切り目を薄く梳いて内側に織り込んで縫う)仕様、7アイレッツ、コバのステッチは信濃屋さんならではの白。

 このブログを始めて、白井さんの装いを直に拝見できるだけでも大変有り難いことですが、長年“白井流”に接してこられた顧客の皆様の着こなしを垣間見ることもできるのは初心者の私にはとても勉強になります。さらに今回、W様とは親しくお話までさせていただき、さらに上掲の貴重なラッタンツィの撮影も! 20代の頃から白井流の“薫陶”を受けてこられたW様はまさに着こなしの大先輩。この日、ルチアーノ・バルベラのグレイがかった茶のダブルのスリーピースに白いシャツの襟元はサックスとベージュのレジメンタルストライプのタイを合わせ足元は手入れの行き届いたジャロのラッタンツィ、ライトグレイのソフトを被り伊セントアンドリュース製の茶のコート(恐らく白井さんが薦められたものでしょう)、靴と同色の革手袋、ボルドー地にゴールドのペイズリー柄があしらわれたシルクマフラー、以上をビシッと着こなして来店されたW様は、その姿をご覧になった白井さんが『来た来た。ちゃんと“本物”を着てるよ彼は。』と思わず目を細められたほどの洒落者。かつては白井さんから奨められるままに凄まじいばかりの“買い方”をされていたそうで、折角誂えたスーツを美しく着こなしたいからと、ジムでの10キロのランニングと70キロのベンチプレスを欠かさないというW様は、私より少し年長で、立っても座っても端正な佇まいを決して崩ないまことに控えめで寡黙な紳士です。

 ありがたいことにW様もこのブログをご覧になっていて、『とんでもないことを始められましたね笑。私も初めて白井さんにお会いした時の衝撃は忘れられません。今思うと若い頃の私は酷い恰好をしていたもので、白井さんはきっとかなり我慢しながらお付き合いしてくださったのだと思います苦笑。hitoさん(←私のことです)よりも私の方が恐らく白井さんとのお付き合いは長いと思いますが、あなたのブログには私も知らなかったことが書かれていてましたよ。これからも頑張って下さいね。』と、大変優しい言葉をかけていただきました。

 実は信濃屋の皆さんや天神山Iさんからは、今後も続けることを第一義に、白井さん・読んでいただく方々・私の3者の体力の消耗を親身になってご心配していただき『ブログの内容をもっと軽くした方が良いよ。』とアドヴァイスを頂いていましたが、W様のことだけはやはりどうしても書きたくて、今回も若干長くなってしましました。皆様の心遣い、感謝の念に堪えないとは斯くの如きかという思いです。もう一度初心に戻って頑張ろうと心に誓った夕でした。