29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

エグ味を期待するも案外あっさり味

2009-07-06 16:08:42 | 読書ノート
ハロルド・ウィンター『人でなしの経済理論:トレードオフの経済学』山形浩生訳, バジリコ, 2009.

  あらゆる社会問題の解決にはトレードオフがつきものだということを指摘する啓蒙書。PL法、喫煙、臓器売買などが例に扱われている。ただし、著者はトレードオフの挙証に熱心だが、それぞれの問題を解決しようという情熱は薄い。そのため、論証に迫力が無いというか、あっさりした印象を与える。タイトルからW.ブロック著『不道徳教育』(橘玲訳, 講談社, 2006) 並のインパクトを期待したが、肩透かしだった。それとも僕がこういうのに慣れてしまったせいだろうか?
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現代音楽というけれどもプログレ+Sonic Youth

2009-07-03 20:03:36 | 音盤ノート
Glenn Branca "The Ascension" 99 Records, 1981.

  エレクトリックギターのための交響曲で知られる作曲家Glenn Brancaの、"Lesson No.1"(99 Records/1980)に続く二作目の録音。2003にAcute RecordsからCD化されている。

  交響曲作品を連発する以前、Brancaはロックバンド"Theoretical Girls"と"The Static"に参加している。前者はNew York1970年代後半の"No Wave"シーンに属したバンドとして再評価されている。現在聴ける音源を聞く限りでは、Brian Enoがなぜ名コンピレーション"No New York"(Antilles/1978)からこのバンドを外したのがよくわかる。ノイジーで性急なのだが、どこか整理されたところがあり、破綻というか爆発力が無く、小さくまとまった感がある。"No New York"に収録された4バンドの八方破れの凄さに及ぶべくもないという印象だ。

  作曲家としてのキャリアを追求し始めた頃の作品ということになるこの"The Ascension"は、ドラムとベースと4台のギターによる5曲を収録している。いずれも分厚く重ねられたギターの音をプログレ的な曲展開で力強くうねらせるものだ。ギターも変則チューニングのため気色悪い音色でかき鳴らされている。

  バンド時代より圧倒的にこちらのほうが面白い。きちんと構成された長尺曲を志向するBrancaは、そもそも3分程度の短い曲に滅茶苦茶さを詰め込もうとするNo Wave系のミュージシャンと異なっている。この録音でのアンサンブルはロックバンド的な要素を残しているが、パンク的ではなくプログレ的である。Allmusic Guideで"Classical"にカテゴライズにされてしまうのもさもありなんと言えるだろう。
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図書館のカルチュラル・スタディーズ序説

2009-07-01 13:37:33 | 読書ノート
マイケル・H・ハリス『図書館の社会理論』根本彰編訳, 青弓社, 1991.

  米国の図書館史研究家による図書館学の専門書籍。1970年代までの米国図書館学を批判する雑誌論文二編を東大の根本彰が訳し、長い解説を付したものである。著者によれば、米国の図書館は中流階級向けの施設となっており、また図書館における資料選択が彼らの階級的価値を補強しているという。

  ただし、資料選択に対する考えが相対主義的すぎるのは問題である。確かに文学作品の価値については様々な議論があるだろう。だが、科学的手続きを採っている書籍についても同様の相対主義があてはまるかどうかは怪しい。著者はT.クーンを挙げて、科学的発見についてもパラダイム次第とみなしているようだ。科学的発見の“内部”ではそのような認識も成り立つかもしれない。けれども、単なるフィクションと科学書籍を比較するとき、それらの価値を同列には考えられない。

  そのようなわけで、図書館の偏りに関する著者の議論がそもそも偏っている。階級的視点は、芸術作品の中でどれが聖典かという議論に対しては有効かもしれない。だが、書籍には別の価値評価軸もあるわけで、階級的視点だけで資料選択の是非を論じられない。

  もう一つの問題は、はっきりとは述べられていないが、前提に各階級は平等に情報へのアクセス機会が与えられるべきという考え方があるようだ。こうした考えは図書館関係者の間では珍しくないが、それ以外の人々を説得できるかどうか疑問だ。ややこしい議論になるので詳細は省くが、利用の平等こそ図書館が優先すべき事項だというコンセンサスが社会においてあるわけではない。教育成果を求める伝統的な議論もあるわけで、それは資源配分の効率性を求め、アクセスの平等性に価値をおかない可能性もある。

  上のような意味でやや偏った書籍だが、重要な議論を提供していることは評価してよいだろう。
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