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爽やかなブラジル音楽と泥臭い米国南部ブルースとの邂逅

2016-02-15 11:42:29 | 音盤ノート
Seu Jorge "America Brasil O Disco" EMI, 2007.

  MPB。セウ・ジョルジはリオ出身のシンガーソングライター。汚れた太い声が特徴である。俳優でもあるらしい。デビュー作はサンバを採り入れたファンクだったが、その後はヴィオラン(クラシックギター)伴奏を中心に据えたシンプルな編成のアルバムを作っていた。近年の"Musicas Para Churrasco"(「焼肉のための音楽」。2011年にVol.1が、2015年にVol.2が発行)のシリーズは、1970年代から1980年代にかけての米国ブラックコンテンポラリーを思い起こさせる洗練されたサウンドとなっていて、かなり変化している。

  このアルバムはブラコンに移行する直前の録音。都会に出て洗練される前に泥にまみれとくかと、と思ったわけではないだろうが、米国南部スワンプブルースの味がある。しかし、ヴィオランもけっこう活躍していて、それがもたらす爽やかさも多分に残しているため、スワンプ的なねちっこさは抑えられている。デビュー作や"Churrasco"シリーズにはあるホーン隊が参加していないので、演奏はどちらかと言えば派手ではなくシンプルな印象だ。ただし曲に出来不出来があって、アルバム全体としては少々長いと感じられるかもしれない。ベストトラックは、track 3の'Burguesinha'(ブルジョワ娘)と9の'Seu Olhar'(君のまなざし)。前者は、アントニオ・カルロス・ジョビンから続くMPBの良質な伝統を感じさせる、軽いサウダージ感のあるミドルテンポの曲。後者はスローバラードだが、起伏の少ない乾いたメロディラインから突然重力に反して上昇しようとする後半のスキャットがスリリングである。この二曲は聴いてみる価値がある。

  なお、2010年にボーナストラック2曲を加えた盤が発行されており、同年に出た日本盤はさらにもう1曲加えている。その日本盤ボートラ曲'Pessoal Particular'は2009年のシングルで、この時にはもう1980年代前半風のブラコンになっている。悪くはないのだが、この人がわざわざやらなくても、とも思ってしまう。次作「焼肉のための音楽」の"Vol.1"には'Japonesa'という下品な曲が収録されていて、終盤に「焼きそば、鉄火巻、醤油」とアホながらかっこいいコーラスが入るので、ネタとして知っておこう。
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