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編集者の企画力でベストセラーとなるかどうかが決まった時代があった

2021-09-14 13:11:55 | 読書ノート
新海均『カッパ・ブックスの時代』 (河出ブックス), 河出書房, 2013.

  編集者側の視点から新書シリーズ「カッパ・ブックス」の歴史を綴る内容。カッパ・ブックスは1954-2005年まで続いた光文社のシリーズで、1950年代後半から70年代前半にかけて多くのミリオンセラーを生み出した。著者はその衰退期にシリーズに関わった編集者で、内容的には光文社史という趣きもある(ただし雑誌の話は薄い)。

  光文社は、講談社の社員らによって1945年10月に創業された。戦争に協力的だった講談社はGHQに睨まれていた。当時の紙は配給制で、親会社の講談社が不利益を被る可能性を見据えて作られたトンネル会社だったという。その講談社から光文社に移籍してきた編集者・神吉晴夫には才気があって、辣腕をふるってカッパブックスのシリーズを創刊し、軌道にのせることができた。そのコンセプトは、岩波新書が表す「教養」に対抗する、大衆向けの新書である。

  カッパブックスは、編集者の企画立案優先で、その決定後に著者を探して書かせるという順序だったという。1960年代にその全盛期を迎えた後は、1970年代に数年に及ぶ労働争議の時代を迎える。始まりは、社長の神吉が才能ある編集者を特別扱いしたせいで、他の社員の反発を買ったためだ。労働争議によって神吉は社長の座を降り、またカッパブックスの編集者の何人かは会社を離れて、祥伝社やごま書房などを立ち上げた。シリーズはその後も続くが、出版不況を経て2005年に廃刊する。代わりとして、教養新書シリーズの「光文社新書」が社の主力となった。

  以上。まあまあ面白い。カッパブックスにはまったく思い入れがなかったが、古本で手に入ったので読んでみた。編集者が頑張ればミリオンセラーが出るという、出版の古き良き時代を垣間見ることができる。
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