29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

移民とは富の再分配政策であり勝者と敗者を作る

2018-01-17 09:52:40 | 読書ノート
ジョージ・ボージャス 『移民の政治経済学』岩本正明訳, 白水社, 2018

  移民の経済効果およびそれをめぐる言説について考察する一般向け書籍。著者はキューバ生まれの移民で、キューバ危機の直前にフロリダに移住してきたという経済学者である。その経歴から移民積極派かと見紛うが、移民受入れに対して慎重な議論を展開しているのが特徴。原書はWe wanted workers : Unraveling the immigration narrative (Norton, 2016)である。

  移民についての正統派言説というものがあって、それは「移民は受入国に経済成長をもたらす」「移民受入による財政悪化もあるがそれは一時的であり最終的にはプラスになる」「移民は長期的には受入国に同化する」などなどによって構成される。しかしその根拠は薄弱で、移民受け入れを促す方向性をもつ言説が単に「ポリティカリーコレクト」だとされているだけだ、というのが著者の考えである。

  正統派移民言説の元となった論文の試算をやり直し、著者の知見を加えてゆくことで次のことを主張している。移民の経済効果は不明で、前提条件次第でプラスにもマイナスにもなりうる。福祉支出にとっては確実にマイナス。経済的にプラスもあるが、その利益は移民を雇用する側が手にするだけで、代替される国内労働者にとっては移民はマイナスである。国内に同一国出身者の移民コミュニティがあれば(例えばメキシコ)、その国の移民の同化は遅れる。などなど。

  すなわち、移民受入には社会的なコストがかかり、また不利益を被る社会層もあれば利益を得る層もいる、ということだ。利益を得るのはたいていは資本家で、不利益を被るのは「移民と同等のスキルしかもたない労働者層」だ。それ以上のことは不明であって、「長期的には~」という予想などまったくあてにならない。多文化主義は同化を遅らせるだけでそのメリットは怪しいとも。

  どうだろう、面白かったけれどもすごい衝撃的という印象はない。それは、一般の人は直観的にそうだと思っていたが、インテリ層はそうではないと考えてきたことだからだろう。移民言説にもポリコレによる歪みがあるとはなんとなく感じていたことだが、客観的に見える経済の試算にも侵入しているというのが驚くべきところなのかもしれない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イタリアとブラジル共同制作... | トップ | ガンダムスタンプラリー参戦... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事