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教育論だけは読む価値ありだが、重要な情報が欠けている

2014-01-27 10:06:45 | 読書ノート
芦田宏直『努力する人間になってはいけない:学校と仕事と社会の新人論』ロゼッタストーン, 2013.

  副題に「新人論」とあるが、一貫したテーマがあるわけではなく、雑文集である。著者がブログやツイッターなどに書き散らしたものをまとめたものらしい。著者は哲学研究者でかつ、専門学校の校長も経験したという人物とのこと、本書でも二つの顔を見せるが…。僕は本書で初めて知った名前だが、ネットの世界では有名なのか?

  内容は玉石混交、というかその落差が激しい。フロイトやハイデガーを使った女性論やツイッター社会論は、哲学的思惟だけで物事を把握しようとすることの限界を強く感じてしまう。「ヘーゲルによれば~」という言い換えの連続は今どき衒学趣味にしか見えない。こういうのが大半で読むのを投げ出してしまいたくなる。

  一方、7-8章やあとがきの教育論は、専門学校経営者の視点からみた日本の教育制度全体の優れた考察となっている。大学が専門教育に失敗しているから、企業は学生にコミュニケーション能力のようなポテンシャルだけを求めることになる。ニーズはあるのだから、日本でも東大に行くような層が受けることのできる高度な職業教育が必要だ、とのこと。ここ10年ぐらいの文科省設置の委員会が出す報告書も踏まえており、「キャリア教育~職業教育」行政の変遷も把握できる。

  以上のように、教育論の箇所だけ読めば十分な本だろう。トータルではそんなに良いとはいえない本書が目につくようになったのはネット・マーケティングの上手さのゆえ。あと、とても重要なことが書かれていないことが気になった。いったいどうやって著者のような哲学研究者が学校経営者になったのか。食うや食わずの哲学徒が知りたい最重要情報ではないだろうか。
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