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定価販売の世界で「価格と需要の変動」を想像する

2021-11-12 14:18:39 | 読書ノート
浅井澄子『書籍市場の経済分析』日本評論社, 2019.

  日本の新刊書籍の動向について分析した研究書籍。各章で統計分析が施されているのだが、時系列分析や多変量解析のなかでもややこしい手法やらが用いられており、難解である。しかも税込み8800円で高価だ。気軽に読むのをすすめられる本ではないけれども、大都市の中央図書館ならば所蔵しておいてもいいかもしれない。

  書籍が定価販売されていない諸外国の書籍市場や電子書籍市場を参照し、図書館が与える影響や雑誌の電子化についても考察する。焦点は価格である。明示されてはいないものの、「もし日本の新刊流通システムを買切りの変動価格システムにしたらどうなるか」というのが本書の背景にある関心のようだ。日本の場合、単行本から文庫本への版の変更によって需要の落ちた書籍の価格を調整している。米国の場合、書籍は個人向けのフィクション・一般向け書籍と図書館向けの専門書とに大別できて、前者は安価に、後者はかなり高価に値が付けられる。そして日が経つにつれて両者とも小売価格が下がってゆく。日本においても変動価格にすれば出版社はもっと利益が見込めるのではないか、というわけだがはてさて。

  データが充実していて有難い本ではあるのだが、統計分析の説明があっさりしていて手法の持つ意味が僕には理解できないことがしばしばだった。勉強しろと言われればそれまでなのだが、出版関係者や図書館関係者にも関心を呼ぶ領域なので、分析手法についてかみ砕いた説明があったらなお良かっただろう。本書の内容を基にした新書版が出てくれるとうれしい。
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