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図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

フランスの読書イベント

2008-07-24 17:58:26 | 読書ノート
辻由美『読書教育:フランスの活気ある現場から』みすず書房, 2008.

 フランスにおける小中高生の読書イベントについて報告する本。なんでもフランスには「ゴンクール賞」という権威ある文学賞がある(芥川賞みたいなものらしい)のだが、それにあやかって「高校生ゴンクール賞」なるものが20年前から行われているという。このイベントは、近年ではマスメディアにも注目されるようになり、受賞は作品の売上げに影響するほどだという。

「高校生ゴンクール賞」は、本家「ゴンクール賞」がノミネートしている十数作品なかから、高校生を審査員として、最も優れた作品を選ぶ賞である。結果は、本家の受賞作を発表する前に伝えられる。ただし、参加は個人単位ではなく、学校単位でかつそのうち一クラスが討議し審査する。最終的にはクラス、地方、国内全体と各段階で議論をしてゆき、受賞作を決定するそうだ。

 参加者の前向きな姿勢は本書からよく伝わってくる。だが。読書教育として普遍的な効果があるのかはやや疑問が残る。審査を担当するクラスでは、生徒の読書量は増えるだろう。だが、他のクラスや参加しなかった学校を巻き込むような勢いがあるかどうかは不明である。参加校も50校程度だ。

 しかし、審査に関わることのできた高校生を触発する契機となっていることは確かなようだ。参加者は、日本の読書教育の定番である「読書感想文」よりは、ずっと積極的に見える。審査されるのではなく、審査する立場だからね。

 面白いのは、生徒が注ぐべきエネルギーの方向が決まっていること。書籍の選択肢の数は限られ、最低限それらだけを比較すればいい。したがって、生徒たちは読書内容を共有でき、議論を容易にしている。また、参加するかどうかは、生徒ではなく教師が決定する。参加するかどうかをいちいちクラスで議論していたら、かなりの負担になったらだろう。生徒の役割を受賞作の決定だけ限定し、その点だけに主体性の発揮を期待しているわけだ。周りの大人が上手く方向付けているなという印象である。
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