ショート・ショート

会社で衛生管理を担当しているＨに産業医から電話が掛かってきた。

実は産業医の企画で五月に健康管理のための講演会を予定しているのだが、その内容についての事前相談らしい。

医：「いつも僕の話しばかりじゃつまらないと思って、今回は実技を取り入れたいんですよ」
Ｈ：「実技って、身体を動かすアレですか？」
医：「そうなんです。昨年のテーマのメタボリックシンドロームの続きで今度はその対策として体操を取り入れたいんです」
Ｈ：「ほー、面白そうですね。でも積極的に参加してくれますかねー」

Ｈの表情からは、先生の講演もつまらないが、実技はもっと下らないんじゃないかと考ているふしが読み取れた。

医：「講師は専門家で、航空会社の客室乗務員のインストラクターもしているんです」
Ｈ：「ほー、それは凄い」

確かに「凄い」とは言ったが、しかしＨの表情に驚きも関心も読み取れはしなかった。

医：「その先生はとても美人でしてねー」
Ｈ：「はあ・・・」

言葉は少なかったが、ここで初めてＨは受話器を持ち替えて誰もいない方向に向かって姿勢を直していた。

医：「それで講師料をすみませんが、私の顔を立てていただいてお願いできないでしょうか・・」

しかしＨは産業医の言葉を遮るように自分が知りたいことだけを質問で返していた。

Ｈ：「先生！　やはり、インストラクターの服装はレオタードでしょうか？」


彼はどうやら、この講演会が成功することに確信を得たようだった。