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恐竜博2019 THE DINOSAUR EXPO 2019 レポート Part1.5 「恐竜が教えてくれる、恐竜ルネサンス以前の恐竜像」

2019-09-07 14:35:51 | 特別展

 前回はデイノニクスが引き起こした「恐竜ルネサンス」が何故ルネサンス Renaissance(再生)と呼ばれるのか?という所で筆を置きました。

 今回は、恐竜ルネサンスが始まるまでの恐竜全体に対するイメージ像の変化を複数の恐竜と共に探っていきましょう。



 「1842年に、イギリスの解剖学者・古生物学者 リチャード・オーウェン卿 Sir Richard Owen(1804-1892)が、当時国内で知られていたメガロサウルス Megalosaurus、イグアノドン Iguanodon、ヒラエオサウルス Hylaeosaurusの絶滅した爬虫類3種に対して、"物凄く崇高なトカゲ(fearfully great lizard)"を意味する【恐竜 Dinosauria】というグループ名を設立した。」という情報は多くの恐竜図鑑や恐竜本で紹介されています。

 しかしその時オーウェンがこの3種の不完全な化石資料に基づいて恐竜をどの様な動物として認識していたか、を紹介している恐竜本となると、その数は少なくなります。

 オーウェンは恐竜というグループ名を設立する際に、「陸地に生息するワニに似たような巨大なトカゲで、骨学的な特徴の独自性において、明らかに現生の陸生や水陸両生の爬虫類とは区別されるグループである。」とし、イグアノドンとイグアナの大腿骨の構造を比較した上で「イグアノドンの大腿骨はイグアナのそれとは形態的に大きく異なり、ちょうど厚皮類[当時使用されていた哺乳類の分類群: ゾウ、サイ、カバ等が含まれた]に似たような方法で体重を支えていたに違いない。」としました(Owen, 1842)。

 つまりオーウェンは不完全な化石資料に基づいていたにも関わらず、この時点で恐竜が現生の爬虫類よりも活動的な爬虫類であったと推測していたのです。


「恐竜は活動的な爬虫類であった」という考えは1861年の始祖鳥 Archaeopteryxの発見も相まって20世紀の初頭まで続く事になり、1905年にニューヨークのアメリカ自然史博物館の古生物学者であったヘンリー・フェアフィールド・オズボーン博士 Dr. Henry Fairfield Osborn(1857-1935)は、その考えを体現するような獣脚類を命名しました(Osborn, 1905)。

 この恐竜のホロタイプ標本 [AMNH FARB〔*1〕 973] → [CM〔*2〕 9380]は、アメリカ自然史博物館に所属した伝説の化石ハンターのバーナム・ブラウンさん Mr. Barnum Brown(1872-1963)と後に角竜類の研究で名が知られる事となった古生物学者のリチャード・スワン・ルル博士 Dr. Richard Swann Lull(1867-1957)による、1902年のアメリカ・モンタナ州のジョーダン付近における調査によって発掘されました(Larson, 2008)。

 その化石が肉食動物の物としてあまりにも巨大だったので、その巨大さに驚嘆したオズボーン博士は、発掘された化石全体のクリーニングが終わっていなかった1905年に「これまでに記述されたどの陸生肉食動物のサイズを大いに凌ぐその巨体に関して、この属にティラノサウルス Tyrannosaurusという属名を提案する。」と記述し、
こうしてこの巨大な獣脚類に、ティラノサウルス・レックス Tyrannosaurus rex(暴君爬虫類の王)という学名が名付けられました(Osborn, 1905)。

(初のティラノサウルス・レックス骨格図:
(当時クリーニングが完了していた部位を濃いグレーで描写し,それ以外の部位はアロサウルス Allosaurusをベースに作成.前肢の指の数が3本指である事に注意.) 
After Osborn, 1905)

 ティラノサウルスの大きさはオズボーン達研究者のみならず当時のメディアも大いに興奮させました。
 例えば、1906年12月30日のニューヨーク・タイムズ紙はアメリカ自然史博物館で骨盤と後肢のみが展示される事となったT. rexの展示を取材し、『太古の見事なファイター、発見・復元される』というタイトルの記事で大々的に報道しました(Horner and Lessem, 1993)。

 ところが、このホロタイプ標本や当時知られていた他のティラノサウルスの標本では完全な頭骨が発見されていませんでした。そしてティラノサウルス・レックス初の完全な頭骨は1907年にバーナム・ブラウンがこれまたモンタナ州で発掘しました(e.g., Larson, 2008)。
(T. rex初の完全な頭骨 AMNH FARB 5027の頭骨レプリカ.ブラックヒルズ地質学研究所にて筆者撮影)

 このAMNH FARB 5027が発見された事でティラノサウルスの正確な頭骨の形態が明らかになり、この個体は現在もなおT. rexの頭部に関する様々な情報を提供すると共に、ジュラシック・パーク&ジュラシック・ワールドシリーズに登場するティラノサウルスのモデルにもなりました。

 オズボーンは1905年~1916年にかけてホロタイプ標本やこの個体等から得られた情報を元にティラノサウルス・レックスに関する論文を5本出版する事となり、1916年のオルニトレステス Ornitholestes・ストルティオミムス Struthiomimus・ティラノサウルスの骨格の適応について述べた論文において、こんな一文を記しています。
"Tyrannosaurus is the most superb carnivorous mechanism among the
terrestrial Vertebrata, in which raptorial destructive power and speed are
combined.
「ティラノサウルスは破壊的なパワーとスピードを併せ持つ、陸上脊椎動物の中で最も素晴らしい肉食動物である(Osborn, 1916)。」”
 また同時に「この動物は、比較的小さくてスレンダーな三畳紀の肉食恐竜から始まった肉食動物の進化のクライマックスを表している。(Osborn, 1916)」とも書き加えています。

(アメリカ自然史博物館のT. rexのコンポジット全身骨格: 
それぞれのサイズがほぼ同じであるホロタイプ標本とAMNH FARB 5027を合体させた全身骨格,
前肢の指の数が3本である事と多すぎる尾椎の数,アークトメタターサル構造が反映されていない中足骨(足の甲の骨)に注意. 
After Osborn, 1916)

 ティラノサウルス・レックスを活動的な肉食動物として捉えていたのはオズボーン博士だけではなく、化石を発掘したバーナム・ブラウンさんも同じでした。

 アメリカの一般向け科学雑誌"サイエンティフィック・アメリカン"の1915年の記事で、ブラウンさんは「ティラノサウルスはパワフルで活動的かつ必要に応じて迅速に動ける生き物であり、解剖学的な特徴はトカゲとワニ、そして鳥類の遠縁である事を示している。骨は鳥類の様に中空で、後肢の輪郭と構造は鳥類の物とよく似ている。
同時期・同地域に生息したどんな生き物をも破壊することが可能で、その時代の王座に就くのも容易かった。」と、自身の発掘に纏わる話を交えながら記述しています(Brown, 1915)。


 しかしながら世の中が第二次世界大戦に突入するに連れて、世界中で恐竜に関する研究は停滞し、恐竜大国である北アメリカでは、その代わりに哺乳類の進化をやたらと重要視する動きがありました。
 当時哺乳類の進化が重要視された理由としては、「原始的な脊椎動物から高等な哺乳類への進化の過程こそが生物進化の主流」と考えられていた為であり、哺乳類へと進化した古脊椎動物もその流れで重要な古生物とされていました。
 恐竜はというと、多くの古生物学者から見ても、博物館の展示ホールに恐竜が展示されるのは「一般大衆をあっと言わせる事の出来る良い展示」でしたが、一般的には「恐竜は現生の子孫を残せなかった、生物進化の中でも劣ったなれの果て」と見なされたのです(Colbert et al., 2012)。

 Part1に登場したオストロム博士の元で指導を受け、彼と共に恐竜ルネサンスを推し進め、現ヒューストン自然科学博物館の古生物学者であるロバート・トーマス・バッカー博士 Dr. Robert Thomas Bakker(1945-)は、著書『恐竜異説』で当時の博物館や書籍における恐竜に関する説明書きについてこう記しています。
「恐竜の生活については否定的なことばかりがならべてある。 (中略) これらの「できない」ことがらの列挙が、恐竜を欠陥動物とみなす正統派の考えをよくしめしている。絶滅したために、彼らは成功した動物だとは思われていないのである。」(Bakker, 1986)

 また、20世紀の初頭まで支持されていた「恐竜は鳥類の祖先」という学説も、「鳥類にあるはずの叉骨が恐竜にはない」とされ、この時代では否定される様になっていました(e.g., Bakker, 1986)。


 そのような当時の正統派の考えを打破するきっかけを作った出来事こそが、恐竜博2019の目玉の1つであるデイノニクス Deinonychusの発見でした。

 この発見がどの様な影響をもたらしたかはPart1に記述しましたが、
デイノニクスの発見と研究は、
19世紀から20世紀前半に支持されていた「恐竜は鳥類の祖先であり、活動的な爬虫類であった」という学説を「再生 →フランス語でルネサンス Renaissance」させる糸口となりました。

 これこそ、デイノニクスの発見に端を発する、活発な恐竜像を世に広める活動が「恐竜ルネサンス The Dinosaur Renaissance」と呼ばれる理由です。

 余談になりますが、オストロム博士にデイノニクスの研究をする様に勧めたのは、ティラノサウルス・レックス等を発掘した伝説の化石ハンターであり、亡くなる直前であったあのバーナム・ブラウンさんでした(Dingus and Norell, 2011)。


 今回は恐竜博2019のレポートから少し外れて、恐竜研究がスタートしてから恐竜ルネサンスが始まるまでの恐竜に対する認識やイメージの変遷について書きましたが、如何でしたでしょうか。
恐竜研究の背景の話は、世界史で学ぶ歴史の話も絡んでくるところが魅力の一つであると考えています。

 次回は恐竜博2019のレポートに戻って、恐竜ルネサンス以降の恐竜研究の話も交えながらレポートをしていきますので、お楽しみに!

 

参考文献 References

・Owen, R., 1842. Report on British fossil reptiles: partⅡ. Report of British Association for the Advancement of Science, 60-204.

・Osborn, H.F., 1905. Tyrannosaurus and other Cretaceous carnivorous dinosaurs. Bulletin of the American Museum of Natural History, 21: 259-265.

・Horner, J.R., and Lessem, D., 1993. The Complete T. rex. New York: Simon & Schuster, 『大恐竜〈T・レックス新発見〉』 加藤 珪 訳 株式会社二見書房

・Larson, N.L., 2008. One Hundred Years of Tyrannosaurus rex: The Skeletons. In: Larson, P.L., and Carpenter, K.,(eds.), Tyrannosaurus rex, the Tyrant King. Bloomington, Indiana: Indiana University Press, 1-55.

・Osborn, H.F., 1916. Skeletal Adaptations of Ornitholestes, Struthiomimus, and Tyrannosaurus. Bulletin of the American Museum of Natural History, 35: 733-771.

・Brown, B., 1915. Tyrannosaurus, a Cretaceous Carnivorous Dinosaur The Largest Flesh-Eater That Ever Lived. Scientific American, 63(15): 322-323

・Colbert, E.H., Gillette, D.D., and Molnar, R.E., 2012. North American Dinosaur Hunters. In: Brett-Surman, M.K., Holtz, T.R.,Jr. and Farlow, J.O.,(eds.), The Complete Dinosaur, Second Edition. Bloomington, Indiana: Indiana University Press, 61-72.

・Bakker, R.T., 1986. The Dinosaur Heresies. New York: William Morrow and Company, Inc., 『恐竜異説』 1989. 瀬戸口 烈司 訳 平凡社

・Dingus, L., and Norell, M., 2011. Barnum Brown The Man Who Discovered Tyrannosaurus rex. Oakland, California: University of California Press,


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