旅と酒とバッグに文庫本

人生3分の2が過ぎた。気持ちだけは若い...

足摺岬から愛南町へ

2011年09月01日 | 



この岩間の川原でもやはり朝のチャイムとラジオ体操が放送される。
ただ、朝のチャイムは無機的なチャイムではなく、松田聖子のスウィートメモリーに変わる。
学校の校内放送のようなチャイムから曲に変わっただけでも何だか嬉しくなる。
しかし、深い山間の村に鳴り響くスウィートメモリーはとても奇妙な感じを受ける。
どうせなら「グリーンスリーブス」か「七つの水仙」あたりのほうが似合いそうだ。

今朝の天気はまたまた雨。
まあ、ほとんど降ってないような天気ではあるが、雲行きは怪しく
山間の家々の周りには霧状の雲が纏わり付いている。
時折陽も差す。

この時点で、私は四万十川を離れる決心をした。
今年は本当に天気に関してはついてない。



簡単な朝食を済ませ、学芸大の連中にここを離れることを告げ
早速、テントの撤収に掛かる。
蒸し暑く、すぐに全身に汗をかく。
こんな天気に毎日川を眺め、奥深い山を見つめていると
何だか、雄大で開放的な海が見たくて仕方なくなる。
彼らと記念に集合写真を撮り、別れを告げて旅立つ。
女の子たちとも写真を撮り、そして彼女らは荷物を満載した私のカブをカメラに収める。

「こんなバイクを撮っても仕方ないでしょ?」
「いえ、私も卒業するときはバイクで一人旅に出たいと思ってるんです」
「大きなバイクじゃなくて?」
「ええ、こんな小さなバイクにたくさん荷物を積み込んで、なんだか旅してるって感じだし
格好いいです」
「そんなもんかな~」

まあ、悪い気はしない。

彼らは私の姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。
今日で旅に出てから5日目である。

岩間のキャンプ場から10キロ以上走ったところでサングラスを落としたことに気づく。
たぶん、岩間のすぐ近くで、雨が降り出したためにレインコートを着たのだが
そのときの事に違いない。
一瞬、どうしようかと思ったが、この先サングラスがないとかなり困るし
結構高い物だったので、仕方なく引き返す。
それでも後続の車に弾かれて、潰れていれば、骨折り損である。
しかし、思ったとおりのところにサングラスはあった。しかも無傷のままである。
喜びの反面、往復20キロ以上の距離を無駄に走ったことへの後悔も大きい。

「いかんいかん、もっと気を引き締めて走らねば…」

今一度、バイクを停め荷の点検をする。
走っている最中に荷崩れでも起こせば、重大な事故に繋がる危険がある。



中村市に出るころには、すっかり天気も良くなり、雨具を着けたまま走っていることへの恥ずかしさの方が大きくなった。
それでも、そこそこの値段のレインコートを買ったので、通気性もよく、あまり暑苦しさは感じない。
空を見ると行く先には雨雲が垂れ込めているが、一旦コートを脱ぐ。
中村市街で美味そうな川魚料理の店を見つける。
昨日はもっとよく探してここで食えば良かったかなと思うが後の祭りである。
まだ昼時からは程遠い時間帯なので、今度来たときの楽しみに取っておくことにする。

赤いお洒落な四万十川橋を渡り、56号線を宿毛方面に走る。
足摺岬との分岐点でまたも強烈な雨に遭う。
このまま、宿毛まで行ってしまうか、それともせっかくなので足摺岬まで行ってみるか
大いに悩んだが、いずれにしても天気次第。
このまま雨が降るのであれば、岬になんか行っても仕方ないし、結構岬まで遠い。
しかし、ええーいっ、ままよと強引に岬方面へ進む。
雨が降るなら降れば良いし、夏なので風邪を引くこともあるまい。
海が近いので、日が暮れればどこでもテントを張れば済む。
そう思えば気も楽になり、通行量の少ない田舎道を延々と走る。
雨は止み、陽が射してくる。
天気が良くなればなったで暑い。

この足摺岬に向かう321号線は、お遍路さんの遍路道でも有り、結構その姿を見かける。
歩きの一人旅は、圧倒的に私と同じ年代の男性である。
みなさん、少し怖い顔をして寡黙に歩いている。
陽に焼け、顔は真っ黒。汗みどろになって歩いている。
それでも

「こんにちは!」

と、バイクに乗ったまま声を掛けると、例外なくにこやかな顔つきで

「こんにちは、暑いですね」

と返事が返ってくる。とても優しい顔付きである。
そんな中、娘さんらしき二人と、父親らしき男性の3人で歩いている遍路さんを見かける。
なんとなく、気になるお遍路さんではあったが、そのまま通り過ぎる。



321号線はとても快適な道である。
時折雄大な太平洋が垣間見える。
とくに高台から眺める大岐の浜は雄大な景色で、それはそれはスケールがでかい。
昨日までの風景とは全く違うものである。
風は海の湿気を含んだ重い感じだが、なんとなく爽やかに感じるのは気のせいだろうか。
気持ちが鬱々とならないのがいい。

土佐清水の町に着く。
ここから西回り、東回り、そして中央を走る通称「つばきロード」がある。
この岬の中央を走る384号線が一番近そうなのでここを走る。
しかし、この道は山間のアップダウンが激しい道で、排気量の少ないカブには一番苦手の道だった。
オーバーヒートしそうになりながらも、なんとか足摺岬まで辿り着く。昼少し前である。
8時半に岩間の沈下橋を出て3時間と少し、やっと着いたのだ。



足摺は見渡す限りの青空でしかも水平線が果てしない。
久しぶりにこういった風景に遭った様な気がする。
岬の先端まで歩き、しばしその景色に見とれる。
私はあまり、名所旧跡などには興味がないのだが、この風景はいい。
ただじっと見とれて、暑いのも時間が経つのも忘れる。
駐車場周辺には土産物屋、旅館、ホテル、などが立ち並ぶ。
そろそろ昼食の時間なので、美味い魚でも食うかと店を探すが、どれもいまいち。
38番札所の金剛寺の前にある土産物屋の主としばらく立ち話。
あまり景気が良くなさそう。こういったところは大型の観光バスが来ないと商売にならないらしい。
やはり春秋なのである。
観光案内所の親父にどこか美味い食べ物屋はないかと尋ねて見れば
土佐清水に出たほうが良いとのこと。このあたりは観光客相手なのであまり勧めないとのこと。
こんなんで観光案内所の仕事が勤まるのかしらんと思うが、正直でよろしい。
となれば、土佐清水までしばらく走り、親父推薦の「お川」という小さな店を目指す。
今度は、「つばきロード」ではなく、海沿いの道を走る。

土佐清水には「黒潮市場」という大きな漁港の施設もあったが、ここは美味いが高いという。
こういった施設もやはり、観光客相手なのだ。
小回りの利くカブで街中を探すことしばし、日曜日なので休みかもしれないという「お川」は開店していた。
表から見るとまるで喫茶店のような作りで、中に入るとやはり喫茶店の作りだった。
たぶん、喫茶店を居抜きで買って商売を始めたののだろう。
喫茶店と違うのは、店内に焼き魚の匂いが充満していた。
案内所の親父推薦の日替わり定食を注文する。
同年代のママさんが運んできた定食は、海老の天麩羅、メジカの刺身、鯖の塩焼き、味噌汁、サラダなどがついて840円。
しかも味がよく、鮮度もよく美味い。
これはラッキーとばかりに貪り食う。
私の悪い癖で、美味いものに出会うと、写真を撮るのも忘れて食ってしまう。
よくブログで丁寧に写真を撮っている方を拝見するが
美味いものを前にすると、つい食い意地が張ってしまうのだ。写真のことを思い出すが後の祭りである。
私は鯖は苦手なのだが、ここの鯖は塩加減も絶妙で、まったく臭わない。
ちなみにメジカとはソーダ鰹のことである。
食い終わった後、今度はコーヒーとシフォンケーキまで出てきた。

「頼んでませんけど…」
「これも付いてますから…」とママさん。

なんという安さであろうか、勘定の時思わず

「北九州なら、コーヒーとシフォンケーキだけで840円はします」と言ってしまった。

この先、宿毛から宇和島までの間にキャンプ場を知らないかとマスターに尋ねると
「ツーリングマップル四国」を持ってきてキャンプ場を教えてくれた。

「バイク乗られるんですか?」
「ええ、なかなか暇はありませんが…。表のカブで旅を?」
「ええ、北九州からあれで走ってきました」
「ええですね、私も早くそういう旅がしたい」

店内にかかる音楽が、井上陽水や高橋万梨子などだったので、歳を尋ねると、私の一つ下。
なんだかすっかり寛いでしまって、高知出身の漫画家、青柳雄介の話などで盛り上がってしまった。

「じゃ、ごちそうさん、また来たときには寄らせて頂きます。それまでお店やってください」
「ええ、もうしばらく頑張ります。じゃ、気をつけて」

腹もいっぱいになり、安くて美味い食い物にすっかり気を良くして快適にカブで飛ばす。
321号線、「足摺サニーロード」である。その名の通り、夕陽を見るには最適の海岸線の連続である。



愛南町に向かう途中、竜串あたりの海中公園などをぶらぶらするが、客は少ない。
四国の西海岸沿いはすっかり寂れてしまった町だ。
この日は風が強く、波が高いので海中公園には入らなかった。
たぶん海中は濁っているだろう。
このころになると、四万十の天気が嘘のようで、青空に白い波しぶき、やはりこちらに来て良かったと痛感する。

宿毛まで321号線を走る。宿毛は四国ではそこそこ大きな街である。
およそ北九州に有るような店やコンビニ、チェーン店などすべてが有る。
そしてここからまた56号線に入る。
四万十市から足摺に行かなければ、この56号線で直接宿毛まで来ることになる。



今日は良く走る。
もうどれくらい走ったのだろうか?
カブにはオドメーターが無いので、いちいち積算計の距離をメモしてなければ走った距離がわからない。
サイクルメーターを利用して、カブに取り付けてみようと思う。
そうすれば、最高速や平均速度などもすべてわかるので便利だ。
一本松と言う56号線沿いの町まで来ると、大きく近代的な建物があって
遍路宿&温泉とあるので、思わずここに泊まろうかと思ったが、まだ夕暮れまでには時間もあるし
もうしばらく走ることにする。

宿毛までは高知県だが、もうすでに愛媛県に入っている。
愛南町のはずれに、南レク大森山キャンプ場というのがある。
街道から少し入った山中にキャンプ場はあり、管理棟に行ってみたが
その日は子ども会らしきキャンプ客で一杯だった。
一人くらいなら何とかしようと管理人は言ってくれたが、鬱蒼とした林の中であり
テントを張ろうにも隣のテントに近いので、例によって人混みの嫌いな私はそこをお断りして
また56号線を宇和島方面に向かい走った。
今度だけは開放的な所でキャンプしたかったが、夜までに適当なところが見つからなければ
またここに戻ってくれば済むと思って安心していた。

それから30以上走っただろうか、もう宇和島市に近い「須の川」という
「お川」のマスターが教えてくれたキャンプ場に着いた。
56号線沿いにある広い芝生公園のキャンプ場で、何組かのファミリーキャンパーのテントが見られた。
管理棟に行って見ると、もうあと少しで閉まる時間であったので
今日はここに泊まることにして、公園清掃協力費という名目でゴミ袋を貰い300円を払った。
すぐ近くに高い山があるのでそこに雲がかかり、時折小雨がぱらつくときもあったが
川沿いとは違って、開放的で、風が吹きぬけ、快適な芝生の柔らかさで今夜は熟睡できそうだった。
近くにレストランも風呂もあるしという「お川」のマスターの言葉通り、
56号線を挟んで、歩いて3分と言うくらいの距離に、立派な「ゆらり内海」という施設があり
ここで、美味い魚も食えるし、風呂にゆったり入ることもできるのだ。
おまけにキャンプ場裏の海には珊瑚が見られると言うではないか。

いそいそとテントを張る。
風が気持ちいいし、虫も少ないので、汗もかかずに張り終わる。
途中のコンビニで、助六弁当を買っていたので、今晩はこれとカップヌードルで手早く食事を済ませ
早速「ゆらり内海」の風呂に行く。

「400円です。ごゆっくりどうぞ、いいお風呂ですよ」

私は、受付嬢の顔も見ずに財布の中からお金を出し、支払った。
そして思わず目が合った受付の女性はスパニッシュ系の外国人であった。

「えっ、日本語お上手ですね、全然わからなかった…」
「ありがとうございます、ごゆっくりどうぞ」

風呂は温泉ではなかったものの、塩水風呂であり、サウナも、水風呂もあり
江川崎の山村ヘルスセンターと比べれば、遥かに快適で広く、清潔で
風呂上りにはマッサージ器もあるので、どうも病みつきになりそうな予感。
9時近くまでここでのんびりし、館内備え付けの本を読み
テントに戻ると、お酒で寛ぎ、長距離を走った身体を労わるように眠りに就いた。


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2 コメント

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Unknown (はじめまして!)
2012-08-04 17:26:53
この記事の最初辺りにあった、岩間のチャイムとラジオ体操ですが、朝からスイートメモリーが流れたのでしょうか?
ラジオ体操なども是非聞いてみたいのですが、何が流れていたのか教えてください!!
Re.unknownさん (いしやん)
2012-08-04 23:56:43
はじめまして。
去年のことですから、記憶は少し霞んで来ましたが
朝から、スウィートメモリーのオルゴールバージョンでした。
そのあと、ラジオ体操第1が流れてきましたが
川原のキャンプ場では誰も体操はしていませんでしたね。
キャンプ中は、割と朝早く起きるから良いのですが
日常生活だったら、ちょっと迷惑ですね。
田舎に行くとこういったことが平然と行われていて
みんな何も言わないみたいですね。

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