はれっとの旅路具

(はれっとのたびろぐ)田舎暮らしと旅日記
金沢・能登発 きまぐれ便

梅雨の那谷寺

2006-07-06 21:44:56 | 旅日記
今日、加賀方面で会議でしたので、その合間に那谷寺(なたでら)に行ってきました。

那谷寺の奇岩遊仙境ギネスブックにも世界最古の名宿として登録されているという法師さん(若い女性にもかなり人気があると聞きました)がある粟津温泉に程近い那谷寺は、奇岩遊仙境(右写真)と紅葉で有名な観光名所です。

学生時代に訪れた後、両親を連れて訪ねたことがありますが、かなり前のことです。


お昼時を利用しての訪問ですので、山門前のみやげ物店兼食堂でお昼を頂きます。

さすがに梅雨時、時折小雨もぱらつく天候の平日。訪れる方はごく僅か。静かな観光名所にはどこか、うら寂しい雰囲気が漂っています。

最近の旅は、綿密に計画を立てて食事処も精査することが多いので、鄙びたお店ののんびりとした感じは、何も考えずに旅をしていた学生時代に一気にタイムスリップしたようで、どこか懐かしく思えました。

この那谷寺は、奈良時代の初めに泰澄法師が岩屋寺として開いたと云われ、第65代天皇だった花山法皇によって平安時代中期に那谷寺と命名されたそうです。
後に荒廃しますが第3代加賀藩主・前田利常公によって再興。
現在では、高野山真言宗別格本山とのことですから、弘法大師の法系なのですね…知りませんでした。

梅雨の那谷寺本堂朱色が鮮やかな金堂の十一面千手観音立像は、綺麗なお顔立ちをされていました。

写真右手のお堂は、本堂。
こちらには、十一面千手観音坐像が安置されていました。岩窟の入り口にお堂が建てられ、岩窟内にご本尊が安置されています。その周りを廊下のように巡ることができ、これを周ることを胎内巡りというそうです。巡ると厄が払われ新しく生まれ変われるのだとか。


15年ほど前、行く末に迷っていた頃、慣れない単身赴任宿で一人読んだ「観音経入門」(ノン・ブックス35、松原泰道著)。
観音経は、妙法蓮華経の一部で、観世音菩薩が人間だった頃の説話が含まれていたと記憶しています。

兄弟二人。
幼くして両親に先立たれ、親戚をたらい回しにされた挙句、騙されて無人島に捨てられます。
「何故こんな目に遭うのか、世間を恨む」と泣き叫ぶ弟。兄は静かに諭します。
「弟よ。恨むでない。私たちのような目に遭う人を救える菩薩として、今度は生まれ変わろう」と。

二人は固く抱き合って息絶えたといいます。
そして、兄は、慈悲の観世音菩薩に。弟は、知恵の勢至菩薩になられた…

何故か、このお話に号泣して止まらず、隣室に嗚咽が漏れぬよう、枕を噛んで堪えたのを思い出していました。


那谷寺の石段「奥の細道」の道中、山中温泉を訪ねた折に、松尾芭蕉が詠んだと云われる
「石山の 石より白し 秋の風」
は、諸説あるもののこの那谷寺での句とされているそうです。


今日は、暑くも無く、寒くも無く。
日が差すでもなく、本降りとなるでもなく。風も僅かにそよぐほど。
奇岩遊仙境の石段を上がって奥の岩窟を訪ねると、ひんやりした空気が頬を撫でてくれました。

梅雨の那谷寺境内はどこも、しっとりと、それでいて爽やかな冷気に満ち、まるで私を包んでくれているかのようです。


時が止まっているかのようなひと時…


五月雨に 苔むす石の 寂かさや


引いたおみくじは、末吉。
「慌てるな」とありました。

忙しなく過ぎる日々は、自らの気の落ち着きの無さを現しているようです。

悠久の時を刻んで、流れ往くもの…、動かぬもの…
淵に佇んで、眺め観ている

そんな心持を想い出させていただきました。


有り難いことです。



明日は、七夕ですね…