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カウンター

書机にて


午後三時
冬の西日が液晶画面を
鋭角に照らしている
色味の褪せる心配よりも
日暮れの訪れを案じている

マップをひらくと
群馬八幡駅まで徒歩二十一分
新入り電動車椅子の操作は
秋のうちに習ったので
もうどこへでも行けそうだ
信越本線に乗っていよいよ都会へ

そう画策していると
デイサービスから母が帰ってきた
一度目はすぐに逃げてきたが
甘柿を袋ごと抱えていった
若作りケアマネが気に入ったらしい
片手に押し花カレンダー

壁には自作の絵画二点
魚が二匹游いでいるような
クレー風な画と
緑と青のV字のあいだに
真っ赤にこぼれる溶き油
木枠には埃らしき白粉

溜まった日記と
催促のない原稿
読みさし詩集の礼状
イイね履歴
膝掛け用ブランケット
年賀状はミッキーマウス
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あこがれ三景


台風一過の雲は
主をなくして散り散りになる
心には
まだら模様がながれ
晴れては翳り
翳っては晴れ
そのような中でこそ
想いはいっそう深く

 *

スズラン通りのお堀端には
静かに水がながれ
紙飛行機の残骸が浮いている
空はどこまでも空で
木々や建物が
のんびりと歪んでいる
わたしの姿はどんなふうに映るのだろう
往きすぎる人たちの
会話ははずんでいる

 *

フランソワーズ
大好きなフランソワーズ
君はフランソワーズだよね
そうだよね
交叉する脛
ゆれる肩
からむ髪
きっとフランソワーズだ
声をかけるよ
驚かないで
フランソワーズ
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詩集を作りました

もう昨年のことですが詩集を作りました。

100ページほどで25編が収められています。

ほとんど当ブログに掲載されている作品なので、

改めて読むまでもありませんが、 紙媒体として眺めてみるのも、

また趣があって良いのではと思っています。

「Amazon」でも買えますが、

当ブログをご覧になった方は、無料で差し上げます。

お名前と送り先、ひと言メッセージなどを書いて、

メールで送って頂ければと思います。 → bell@po.wind.ne.jp

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純情恋話


小学生もしまいのころ
ブラウン管の女性にあこがれて
授業中に夢想していた
髪のながい女性は みなみさおり
アイドル歌手の先駆け
いつも彼女は雲の上

中学生もしまいのころ
転校してきた女子は
なんと髪のながいよく似た子
ただほんのり
彼女の横顔を眺めているだけで
心まどろむ気持ちになった

けれど私は会うと
彼女をからかい
意地悪をして泣かした
ませた女子はどこにでも居るもので
好きなくせにと耳打ちされ
自らの天の邪鬼に気づく

もし同窓会なんかで
初恋披露でもはじまったら
この辺りを話そう

それにしても
女子にはからきし駄目で
出会いはあっても
いつだって
「またね」
と手をふる押しのなさ

こんな調子だから
未だ独り身
たぶんこれからも
ずっと…
かわらず弱虫ね?
ませた女子がまた尋ねてきた
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歳をとると


出前が遅くて
ピザ屋の電話をリダイヤル
太っちょヘルパーは追い返し
操作が難しすぎて
受付嬢に返品を詰めよる
我慢 我慢

歳をとると
怒りっぽくなる噂は本当のようだ
その行く先が
自由なのか孤独なのか
嫌悪と心配が置き忘れられた
通行人が笑顔でのぞき込む
ならば私はまだ未熟

ある寝静まった夜に
チャップリンのマイムを
ひざを抱えて見入っている
こちらのもろさは
独りでならば
隠しとおせると思うのだけど

…と上手く書けたとつい浸る
オチもずいぶんと洒落てきた
詩や死も
いちいち気になってきた
じつは小心者じゃないか
あれは勘違いだったと
いくつかふり返るようになった 
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結末


再起をかけたシナリオの結末は
悲劇にするつもりだった
日々の暮らしに頭をかかえ
あちこちに 紆余曲折の生涯
それゆえ 哀しみや不幸は
きっと共感を呼ぶだろう
涙するだろう
さらにわたしは…

世の中を見てください!
争いに犯罪 災害や自殺
傷だらけですよ
そのうえまだ悲劇で
追い打ちをかけるのですか?
たとえ… 嘆きがあったとしても
結末は ハッピーエンドにするべきです
感動は 限られた人だけのものです
幸福こそが 万人の喝采を浴びるのです

いいえ
悲劇でもロマンスでもないの
喜劇なのよ
失恋は ユーモアで華やぐの
死んだ人も 生き返るわ
どんでん返しは 必要よね
ユーモアは何でもありの ユメなの
観衆はその夜 安心して眠りにつけるの
現実なんて だれも期待してないのよ

無言ですな コホ
語らないことです
この近代文明では
皆が進歩にあやかっております
幸不幸は もはや流行おくれです
我々は 舞台のみを用意するのです
観衆には のぞむような結末を
自由に想像してもらうのです
つまり白紙 ということですな

――明け方まで議論は迷走し
そのどれもがヒットするようにも
そのどれもが失敗するようにも思われた
このぶんだと 大傑作の結末は
おもいどおりにいきそうもない
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森の中へ


アトリエのかえり
道をまちがえて
森へ迷いこんでしまった
手さぐりで暗がりをかき
道をさがした

腐葉土を一歩踏むたびに
心音は速まった
ほんとうの闇は
まだ見たことがなかった
はやく一枚の絵を仕上げなければ

とおくに月明かりが見える
生き物の寝息が
どこからか漏れてくる
言葉すくない
あなたを疑っていた

樹木のざわめきに
フッと足もとが浮いた
真実のない不安
ほんとうの姿の怖さ
ゆえに色彩をまとった

もし千年がつづくのなら
なにも描きはしないだろう
くねった道があらわれたとき
精霊が
やさしく
語りかけてくれるだろうか
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ハルミ


「榛名山がよく見えるからさ
ハルミってつけたんさ」
雑貨屋の女性店主は
椅子をクルリと回転させて
窓を見やった

てっきり苗字につづく
名前だとばかり思っていた

「蹴っとばされて
ホネ折ってさ
ひでえ目にあったもんだよ」
なんでも請地町のあたりで
行商をしていたらしい

気になるのは
つり銭をのせた掌

昨秋 九十九歳で
旅だったのを
おくやみ欄で知った

店名の文字は色あせている
道路沿いには五階建ての病院
高齢者用住宅
コンビニエンスストア

ふたたびの春
買いものがえり
切れぎれの榛名山を
眺めている女性がいる
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素描


(室内)
 花器 薄型液晶テレビ ガラパゴス携帯
 赤外線ストーブ 書架 リクライニング椅子
 犬のぬいぐるみ 屎尿器 首のかしいだ扇風機
 ペットボトル 修正液 四色ボールペン

(カルトン)
 うたたねしとやかさやけきかろやかさする
 くしけずるめくるなめるたかぶるあふれる
 ふくよかのたうつもんどりうつそりかえる
 すくうあびせるひろげくっるくつはるなれ

(輪郭)
 さあ窓をあけよう 日一日と生まれかわる
 細胞はよみがえり 風が吹きぬける
 衣を脱ぎすて 賑わいの丘をのぼる
 雫のきらめき 太陽の輝き

(陰影)
 闇の寝息は子守歌
 湿潤な窪地のうねり 花びらの影
 芳香をはなつ黒毛 半開きの唇
 前腕の肉塊をかじる

(背景)
 挫折―目的や続けてきたことなどが中途でくじけて
 だめになること。「―感を味わう」
 旺文社国語辞典第十版より引用
 自己分析―熱しやすく冷めやすい 飽きっぽい

(提出)
 モノトーンからの創世がはじまる
 合歓のささやき
 休憩を 溺愛を
 束縛を 破滅を
 過剰な期待は禁物だ
 たびたびの作業をくり返すだけの
 それでもまだ信じられぬと云うのなら
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達磨寺の鐘


少林山達磨寺のだるま市には
寒風を村人たちがてんでに出かける
幾重にも着込んだ姿は
福を願う気持ちで溢れている

女は狭い石段を踏みしめた
ぼくは背に負ぶわれて
肩と毛糸帽のすき間から覗いた
朱色に照らされた
だるまや風車が回っている
女が立ち止まり躰をかがめると
ぼくはトンと背を叩いた

広い境内の腰かけに降りると
軒先の電球が無数にまぶしく
人だかりはシルエットだけだった
女は甘酒の椀にフーッと息を吹き
ぼくの口元にあてた
水滴が白霧となってすべてを包んだ
それからぼくの両手に椀を持たせ
待っててと言った

冬は何度もくり返した
ぼくは待ちくたびれて独り
家に帰るしかなかった
嘘だったのだろうか
ある日 玄関の開く音がして
ひょっこり現れるのではないだろうか

小学三年生のときに見た
墓石に刻まれた姉の名前
白い夢から醒めると
脱け殻の分身とベッドに横たわった
達磨寺の鐘が深い闇に
変わらずに鳴り響いている  
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