ケセランパサラン読書記 ー私の本棚ー

◆『ドローセルマイアーの人形劇場』 斎藤洋 作 森田みちよ 絵 あかね書房



昨日に続けて、斎藤洋の作品。
『ドローセルマイアーの人形劇場』が先行の作品で、『アルフレートの統計台』では、ドローセルマイアーの人形劇団を継いだエルンストと、『アルフレートの統計台』の主人公クラウスがふと交錯するシーンが描かれている。
斎藤洋によると、『ドローセルマイアーの人形劇場』は、デビュー作の『ルドルフトといっぱいあってな』(講談社)よりも、先に構想しており、ずっと暖めていたとのこと。
作品は、これが、なによりも斎藤洋の描きたかった物語だったのではないかと思える。
『ドローセルマイアーの人形劇場』の不思議は、読み手の心を、妙に惹きつけてしまう、妙な魅力があるのだ。

ファンタジーというくくりで読むこともできるが、その妖艶であり、摩訶不思議の世界観は、他のファンタジーに類をみない。
あるいは、芸術観ともいえるかもしれない。
作家に、よく「ペンが勝手に動き始める」と言う人がいる。
もっと言えば、「神がおりてきて」という人もいる。
つまり、それは、虚言でもなんでもない。
書き手と原稿用紙が、「壁を越えて」しまい一体化してしまった現象だろう。
これが『ドローセルマイヤアーの人形劇場』のテーマでもある。
人形遣いと、人形が、「壁を越えたとき」のお話しである。
『K町の奇妙なおとなたち』(偕成社)にも、この文学観が踏襲されている。

画家の森田みちよが、当作でも、素晴らしい仕事をしている。
この表紙の美しさ、妖艶さに見入ってしまう。
『アルフレートの時計台』の表紙にも綴られているが、ゴシック体というのか、フラクトゥーア体というのか、ドイツ語表記のタイトルが記されている装丁も、すばらしい。

この物語には、謎解きのような面白さもある作品だ。
まず、斎藤洋のドイツ文学研究者として多くの論文を書いているホフマンの作品やホフマン自身に関わり合いのある人物を投影されていたり、名前が使われている。
それを知ると、更に、『ドローセルマイアーの人形劇』を楽しめる。

児童文学ともいえるし、一般文学とも言える、ボーダーレスな作品である。

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