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連携で生み出す一貫生産 ~(株)高林製作所・高林社長を訪ねて~

2014年08月23日 | 経営に学ぶ

北陸新幹線の金沢開業を今年度末に控え、加賀百万石の伝統文化を前面に出そうと、石川県内は「おもてなし」の準備に沸き返っています。しかし、一方で加賀百万石は「百工比照」という言葉で知られるように、全国にも名高い工芸の情報集積地でもあったのです。そして21世紀を迎えた今、新たな先端技術の集積が始まっています。「炭素繊維素材」「航空機部品」という、2つの柱に代表される石川県の次世代産業への挑戦。今回は、他の企業との連携で航空機部品の一貫生産を構築した(株)高林製作所を訪ね、高林健一社長にお話を伺ってきました。

 


江戸時代。日本最大の大名であり百万石を誇った加賀藩は、全国有数の工芸王国でもありました。その加賀藩の五代藩主である前田綱紀は、さまざまな工芸分野の技術や技法を比較検討するために全国から製品や標本を集め、それを整理分類させて「百工比照(ひゃっこうひしょう)」と名づけたことでも有名です。


                       金沢城

 

「百工比照」は、さまざまな工芸資料の集大成として加賀藩における伝統工芸の進歩に大きな役割を果たしましたが、その進取の気風は現代にも受け継がれています。すなわち、加賀友禅や金箔工芸、輪島塗や九谷焼などの伝統工芸に加えて、新たに石川県が積極的に支援を行っている「炭素繊維素材」「航空機部品」とという2つの柱です。そして「特殊加工技術」を持った企業がお互いに連携を深め、この21世紀の新たな事業分野への挑戦が始まっているのです。


 

今回は、このうち「航空機部品」事業への挑戦を続けている県内の革新的事例として、金沢市にある(株)高林製作所を訪ね、「航空機市場への参入が夢でした」という高林健一社長にお話を伺いました。


さて、今回訪問させていただいた(株)高林製作所は昭和11(1936)年の創業。2年後には創業80年を迎える、金沢市内でも有数の歴史と伝統を持つモノづくり企業です。代表取締役社長である高林健一氏は北陸鉄工協同組合の前理事長であり、石川県団体中央会の理事も務められた方。その功績によって平成21(2009)年には藍綬褒章を受章され、県内でも指導的な役割を果たしてこられたベテラン経営者です。
 

     同社の航空機部品(モックアップ)を前にした高林社長

 

航空機産業は大きな成長が見込まれる魅力的な市場と言われていますが、高度な技術厳格な品質管理が求められ、参入へのハードルが高いことでも知られています。また、参入後もそれらの維持やレベルアップのために、より一層の努力を必要とします。しかし、懸命に努力してその高いハードルを乗り越えることができれば、今度は逆にそれが新たな参入障壁となって自社の優位を守ってくれることになるのです。高林製作所はその金属の超精密加工という特殊技術が評価され、5年ほど前から大手航空機装備品メーカーに、航空機降着装置の油圧アクチュエーター用部品を納入してきました。

             赤く囲った部分がアクチュエーター

石川県内には、高林製作所をはじめとして、航空機部品の製造に必要な「特殊工程認証」を持った中小企業が3社もあります。これまでは、航空機装備品メーカーが県内・県外のこうした企業と個別に外注契約を結び、それぞれの企業が得意分野の技術を生かして部品の加工を担当してきました。しかし、それではメーカーと外注各社の間を何度も仕掛品が行き来することになり、納期の面でも輸送コストの面でもどうしても不利にならざるを得ません。

 
               従来の一般的な部品調達システム

 

そこで現在、同社が取り組んでいるのは、特殊工程認証を持つ他の中小企業と連携した、航空機用油圧アクチュエーター(制御用の駆動装置)の一貫共同生産です。

 
         高林製作所が構築した一貫共同生産体制

 

訪問当日、まずは同社の事業概要の説明をいただいた後、高林社長にいろいろとお話を伺わせていただきました。

 
          インタビューに答えてくださる高林社長(左)

石川県では「次世代ファンド」と呼ばれる基金を活用した新しい産業の育成が進められています。高林製作所も、石川県産業創出支援機構(ISICO)が支援している「石川県内航空機部品モノづくり中小企業の海外展開支援プロジェクト」に参加。積極的に航空機部品事業への参入を進めています。

しかし、航空機産業に参入するには高度な技術や厳格な品質管理を求められます。そのため、同社は特殊工程認証を持つ深田熱処理工業(株)浅下鍍金(株)という県内の2社と連携し、その高いハードルを乗り越え一貫生産システムを構築することで、受注の拡大に成功しました。また、同社は大阪に本社を置く由良産商(株)も含めた4社で新会社「ジャパン・エアロ・ネットワーク」(JAN)を設立。連携する4社の技術コンサルタントとしての機能を持たせながら、数年前には航空機部品事業分野への本格的な参入を果たしたのです。


 

 

けれども、ただでさえ難しい航空機部品を複数の企業の連携体(コンソーシアム)で一貫生産し、供給するシステムを維持していこうとする場合、どうしても参加している企業相互の関係をうまく調整していくことが必要になります。
高林社長は、このシステムを作り上げていくうえでのポイントとして、次の2つの役割を果たす人物の存在が不可欠だと話してくださいました。その2つの役割とは、

  ①コンソーシアムを引っ張っていくリーダー(船頭)
  ②地域(都道府県)レベルでのコーディネーター(まとめ役)

高林社長によれば、JANの最高執行責任者(COO)であるI氏がリーダー役、県内ではISICOの事務局参事H氏がコーディネーター役をうまく果たしておられるため、連携体がうまく動いているそうです。そして実際の一貫生産においては、高林製作所が中核企業として受注の受け皿となり、他の2社と連携しながら一貫共同生産体制を作り上げているのです。

   
         「連携は自然体が肝要」と語る高林社長

 
  「信頼できる人間関係づくりが不可欠」と語るのは豊岡取締役

 

さて、航空機部品事業分野への挑戦の概要を伺った後は、高林社長、豊岡取締役にご案内いただき、いよいよ同社の工場を見学させていただきます。同社には本社工場をはじめ、6つの工場がありますが、今回は特に航空機事業分野の生産現場を案内していただきました。

まずは高性能のマシニングセンタで、アルミブロック材から部品を切削加工している現場へ。同社は金属の切削加工に長い歴史と伝統を誇り、高度な技術が評価されています。

 

こちらは5軸マシニングセンタ。同社が誇る新鋭の設備です。
 

次にやってきたのは、何やら黒いカーテンで覆われた設備がある不思議な部屋。実は、この設備こそが航空機部品の一貫共同生産システムには欠かすことのできない「非破壊検査」の設備なのです。
 

下の機械は浸透探傷検査装置。浸透液を浸み込ませて目には見えない傷を見つける設備です。
 

こちらは磁粉探傷検査装置。蛍光磁粉を吸着させて傷を見つける設備だそうです。なんだか、写真の現像室のようですね。
 

 

切削加工で細かい加工表面の刃具の軌跡(ツールマーク)がついた部品(左)を手仕上げ(研磨など)で修正したもの(右)。やはり、最終的には熟練した職人さんの技が決め手なのですね。
 

 
       研磨には熟練した職人さんの技が不可欠です。

 

次に案内していただいたのは、ショットピーニングと呼ばれる表面改質の部門。無数の鋼鉄あるいは非鉄金属の小さな球体を高速で金属表面に衝突させることで、表面を強化する装置だそうです。

 
          ショットピーニングで表面改質をする装置
 

   ショットピーニングで表面改質(強化)を施した部品(サンプル)

 

この部屋では、若手の社員さんたちが何やら熱心に勉強しています。聞けば、毎週2回、有資格者が中心となって勉強会を実施しているとのこと。
実は、航空機部品の一貫共同生産に欠かせないのが航空宇宙分野の品質マネジメントシステム「JISQ9100」や特殊工程管理の国際規格である「Nadcap」。同社はこうした取得認証を維持し続けるための人材育成にも力を注いでいます。こうした長期にわたる人材育成も、将来は大きな財産となるのですね。

 
     NadcapやJISQ9100の監査経験者が、後輩を指導中

 
         高林社長も若い人材を温かく見守っています

 

そして、豊岡取締役とともに高林社長を支えるもう一人の存在は、社長の甥でもある高林専務。大学卒業後、県外に本社を持つ大手非鉄金属メーカーの技術者として勤めていた経験を持つ専務は、同じく県内の大手産業機械メーカー出身の豊岡取締役とともに、広い視野と経験を高林製作所で生かしておられる社長の右腕です。

 
    機能試験用テスト装置の設計・製作に取り組む高林専務

 

こうして、主に航空機部品の生産現場をご案内していただき、実際にお話を伺ったことで、石川県がその育成に力を注いでいる航空機部品の一貫共同生産体制の構築に取り組んでおられる高林製作所の皆さんの、熱い思いを強く感じることができました。
そして高林社長のおっしゃった「企業は常にチャレンジするもの。コストに挑戦、技術に挑戦です。会社を強くすることが命なのです。」というお言葉は、県内のモノづくりに携わっておられる中小企業の力強さを、端的に表現した一言ではないでしょうか。

 

今回、お忙しい中、半日にわたって貴重なお時間をおとり頂いた高林社長。そして技術には素人同様の私にも、わかりやすく事業を説明してくださった豊岡取締役に、心から感謝申し上げます。

最後になりましたが、高林製作所の皆さんが、21世紀の新しい事業分野で、大きく飛躍されることを、心からお祈りしております。皆さん、本当にありがとうございました。

 
              豊岡取締役(左)と高林社長(右)

 

高林製作所のホームページ : http://www.takabayashi-mfg.co.jp/

 


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